肺に穴が開く病気はどれ?―「嚢胞をつくるか」で見抜く続発性気胸とリンパ脈管筋腫症
第103回医師国家試験 D問題 第10問
国試問題にチャレンジ
気胸を合併しやすいのはどれか。
- a.肺分画症
- b.肺胞蛋白症
- c.過敏性肺炎
- d.肺リンパ脈管筋腫症
- e.アレルギー性肉芽腫性血管炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
気胸は胸膜腔に空気が入り肺が虚脱した状態で、基礎疾患のない若年男性に多い原発性自然気胸と、肺の病変を背景に起こる続発性自然気胸に分けられます。続発性気胸を起こしやすいのは、肺に嚢胞を多数つくる疾患で、COPD、肺リンパ脈管筋腫症、肺Langerhans細胞組織球症、Birt-Hogg-Dubé症候群、Marfan症候群、ニューモシスチス肺炎、胸腔内子宮内膜症などが代表です。肺リンパ脈管筋腫症は妊娠可能年齢の女性に起こり、TSC遺伝子異常によるmTOR経路の活性化を背景に全肺野に薄壁嚢胞をつくり、反復する気胸、乳び胸水、腎血管筋脂肪腫を伴い、シロリムスで治療します。肺分画症は反復する肺炎、肺胞蛋白症はcrazy-pavingと抗GM-CSF抗体、過敏性肺炎は抗原曝露との関連、EGPAは喘息と好酸球増多が特徴で、いずれも嚢胞形成は主体ではありません。「肺に袋をつくるか」という病態の視点で整理すると、女性の再発性気胸に潜む基礎疾患を見逃さない臨床判断にもつながります。
解答・解説
正解はdです
テーマの要点
気胸は、胸膜腔(臓側胸膜と壁側胸膜の間)に空気が入り、肺が虚脱した状態である。肺に明らかな基礎疾患がない若年者に起こる原発性自然気胸は、肺尖部の小さなブラ・ブレブ(胸膜直下の気腔)の破裂が原因であり、背が高くやせ型の若年男性に多い。一方、肺の基礎疾患を背景に起こるものを続発性自然気胸といい、その多くは病変によってできた嚢胞や空洞が破れることで生じる。
正解を導く考え方
したがって「気胸を合併しやすい疾患」は、肺に嚢胞(気腔)や胸膜直下の脆弱な病変を多数つくる疾患と考えればよい。代表は慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺リンパ脈管筋腫症(LAM)、肺Langerhans細胞組織球症、Birt-Hogg-Dubé症候群、Marfan症候群、ニューモシスチス肺炎、月経随伴性気胸を起こす胸腔内子宮内膜症などである。選択肢の中で、全肺野に薄壁の嚢胞を多数生じる疾患は肺リンパ脈管筋腫症であり、これが正解となる。ほかの選択肢はいずれも嚢胞形成を主体とする疾患ではなく、気胸は特徴的な合併症ではない。
選択肢考察
- ×a. 肺分画症
肺分画症は、正常な気管支とつながらない肺組織の一部が、大動脈(多くは下行大動脈)から直接分岐する異常動脈によって栄養される先天奇形である。正常肺と同じ胸膜に包まれる肺葉内分画症(多くは左下葉、静脈還流は肺静脈)と、独自の胸膜をもつ肺葉外分画症(静脈還流は体静脈系が多い)に分けられる。肺葉内分画症では感染を繰り返し、同じ部位の反復する肺炎や膿瘍として見つかることが多い。診断は造影CTなどで異常動脈を確認する。気胸を起こしやすい疾患ではない。
- ×b. 肺胞蛋白症
肺胞蛋白症は、肺胞腔内にサーファクタント由来のリポ蛋白様物質が過剰に貯留する疾患である。約9割は抗GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)自己抗体により肺胞マクロファージのサーファクタント処理能が低下する自己免疫性である。徐々に進む労作時呼吸困難と乾性咳を示し、CTではすりガラス影に小葉間隔壁の肥厚が重なる「crazy-paving(メロンの皮様)」パターンが特徴で、気管支肺胞洗浄液は白濁する。治療は全肺洗浄やGM-CSF吸入療法である。病変は肺胞腔の充填であって嚢胞を作らないため、気胸は特徴的な合併症ではない。
- ×c. 過敏性肺炎
過敏性肺炎は、有機物の抗原(夏型過敏性肺炎のトリコスポロン、鳥関連抗原、農夫肺の好熱性放線菌など)を繰り返し吸入することで、III型およびIV型アレルギーを介して起こる間質性肺炎である。抗原に曝露するたびに発熱・咳・呼吸困難を繰り返し、抗原から離れると改善する(環境誘発試験や帰宅誘発試験が診断に役立つ)。CTでは小葉中心性の粒状影とすりガラス影がみられる。慢性化すると線維化をきたすが、気胸を合併しやすい疾患としては挙げられない。
- ○d. 肺リンパ脈管筋腫症
肺リンパ脈管筋腫症(LAM)は、平滑筋に似た異常細胞(LAM細胞)が肺やリンパ系で増殖し、両側の全肺野にびまん性に薄壁の嚢胞を多数形成する疾患である。ほぼ妊娠可能年齢の女性に発症し、結節性硬化症に合併するものと単独で起こる孤発性がある。いずれもTSC遺伝子(主にTSC2)の異常によりmTOR経路が過剰に活性化している。胸膜直下の嚢胞が破れることで気胸を繰り返しやすく、初発症状が気胸であることも多い。そのほか、労作時呼吸困難、乳び胸水(リンパ管の障害による)、腎血管筋脂肪腫の合併がみられる。治療にはmTOR阻害薬のシロリムスが用いられる。
- ×e. アレルギー性肉芽腫性血管炎
アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群、現在の名称は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症:EGPA)は、先行する気管支喘息やアレルギー性鼻炎・副鼻腔炎に続いて、著明な好酸球増多と小〜中型血管の壊死性血管炎が生じる疾患である。多発単神経炎、紫斑、消化管病変、心病変などを呈し、MPO-ANCAが約4割で陽性となる。肺では移動する浸潤影(好酸球性肺炎様)を示すことがあるが、嚢胞を形成する疾患ではなく、気胸を合併しやすい疾患ではない。
気胸の分類
・自然気胸:原発性(基礎疾患なし。ブラ・ブレブの破裂)、続発性(肺の基礎疾患あり)。 ・外傷性気胸:胸部外傷による。 ・医原性気胸:中心静脈カテーテル挿入、経気管支肺生検、陽圧換気などによる。
続発性気胸をきたしやすい主な疾患
・COPD(肺気腫):続発性気胸の原因として最も多い。 ・肺リンパ脈管筋腫症:若年〜中年女性、びまん性の薄壁嚢胞、乳び胸水。 ・肺Langerhans細胞組織球症:喫煙者の若年成人、上中肺野優位の結節と奇妙な形の嚢胞。 ・Birt-Hogg-Dubé症候群:FLCN遺伝子異常、下肺野・縦隔側の嚢胞、皮膚線維毛包腫、腎腫瘍。 ・Marfan症候群:結合組織の脆弱性による。 ・月経随伴性気胸:胸腔内子宮内膜症で、月経開始前後に右側に多く起こる。 ・感染症:ニューモシスチス肺炎(HIV感染者で嚢胞形成)、壊死性肺炎、肺結核。
肺リンパ脈管筋腫症の要点
・対象:ほぼ女性のみ(妊娠可能年齢)。エストロゲンが病状に影響し、妊娠で増悪することがある。 ・病型:結節性硬化症に伴う型と孤発性。 ・症状:反復する気胸、労作時呼吸困難、乳び胸水・乳び腹水、血痰。 ・検査:CTで全肺野にびまん性・均一な薄壁嚢胞、閉塞性換気障害と拡散能低下。血清VEGF-Dの上昇が診断の参考になる。 ・治療:シロリムス(mTOR阻害薬)。進行例では肺移植も選択肢となる。
POINT
・続発性気胸は、肺に嚢胞を多数つくる疾患で起こりやすい。 ・肺リンパ脈管筋腫症(LAM):妊娠可能年齢の女性、全肺野の薄壁嚢胞、反復する気胸、乳び胸水、腎血管筋脂肪腫、治療はシロリムス。 ・ほかに気胸を起こしやすい疾患:COPD、肺Langerhans細胞組織球症、Birt-Hogg-Dubé症候群、Marfan症候群、胸腔内子宮内膜症、ニューモシスチス肺炎。 ・肺分画症=反復する肺炎、肺胞蛋白症=crazy-paving・抗GM-CSF抗体、過敏性肺炎=抗原曝露で反復、EGPA=喘息+好酸球増多+血管炎。
