「新生血管」が分かれ道―増殖糖尿病網膜症の所見を見抜く
第103回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
増殖糖尿病網膜症の眼所見はどれか。2つ選べ。
- a.結膜下出血
- b.強膜炎
- c.虹彩ルベオーシス
- d.白内障
- e.硝子体出血
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
増殖糖尿病網膜症の本質は、網膜虚血によりVEGFが産生され、新生血管が生じることにあります。そのため増殖期の所見は、網膜・乳頭新生血管、もろい新生血管の破綻による硝子体出血、線維血管増殖膜による牽引性網膜剝離、VEGFが前眼部に及んで生じる虹彩ルベオーシスと血管新生緑内障など、新生血管に関連するものです。白内障は糖尿病で多い合併症ですが網膜症の病期とは無関係であり、結膜下出血や強膜炎は網膜症の病態とは関係しません。治療は汎網膜光凝固や抗VEGF薬、必要に応じた硝子体手術が柱で、全身管理では急激な血糖改善による一時的な悪化にも注意が必要です。病期ごとの所見を病態の流れで理解しておくと、眼底所見の解釈や眼科への紹介のタイミング判断に役立ちます。
解答・解説
正解はc, eです
増殖糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症は、高血糖が続くことで網膜の毛細血管が障害され、血管透過性の亢進と血管閉塞(網膜虚血)が進行していく疾患である。病期は大きく単純網膜症→増殖前網膜症→増殖網膜症と進む(改変Davis分類)。増殖網膜症は、虚血に陥った網膜から血管内皮増殖因子(VEGF)が大量に放出され、本来は存在しない新生血管が生じた段階を指す。
問われていることの考え方
本問は「増殖期に特徴的な所見」を選ぶ問題である。増殖期の本質は「新生血管の出現」なので、 ・新生血管そのもの(網膜・視神経乳頭・虹彩・隅角の新生血管) ・新生血管がもろく破れて起こる出血(硝子体出血、網膜前出血) ・新生血管に伴う線維血管増殖膜とその収縮による変化(牽引性網膜剝離) ・隅角の新生血管が房水の流出を妨げて起こる血管新生緑内障 が該当する。一方、糖尿病の有無や網膜症の病期と関係なく起こりうる所見は、増殖糖尿病網膜症の所見とはいえない。この観点で選択肢を絞ると、虹彩ルベオーシスと硝子体出血の2つが残る。
選択肢考察
- ×a. 結膜下出血
結膜下出血は、眼球結膜の下の小血管が破れて白目が鮮紅色に染まる状態である。いきみ・咳・くしゃみ、軽い外傷、高血圧、抗凝固薬の内服などで起こり、多くは原因不明で健常者にもしばしばみられる。痛みや視力低下はなく、1〜2週間で自然に吸収される。結膜は網膜とは別の組織であり、網膜虚血による新生血管とは無関係なので、増殖糖尿病網膜症の所見ではない。
- ×b. 強膜炎
強膜炎は眼球の外壁である強膜の炎症で、強い眼痛と深部の充血を特徴とする。関節リウマチ、多発血管炎性肉芽腫症などの膠原病・血管炎に合併することが多い。糖尿病網膜症の病態(網膜の微小血管障害と虚血)とは関係がなく、増殖糖尿病網膜症の所見ではない。
- ○c. 虹彩ルベオーシス
虹彩ルベオーシス(虹彩新生血管)は、虹彩の表面、特に瞳孔縁に新生血管が生じた状態である。網膜の広い範囲が虚血になると、網膜で産生されたVEGFが硝子体や前房に拡散し、網膜だけでなく虹彩や隅角にも新生血管を生じさせる。したがって重い網膜虚血を示す増殖期の所見である(増殖期で必ずみられるわけではない)。隅角に新生血管と線維血管膜が広がると房水の流出路が閉ざされ、眼圧が著しく上がる血管新生緑内障に進展し、失明の原因となる。治療は汎網膜光凝固による虚血網膜の処理と抗VEGF薬の硝子体内注射である。
- ×d. 白内障
白内障は水晶体の混濁である。糖尿病では水晶体内でソルビトールが蓄積するポリオール代謝異常などにより、白内障が若年から起こりやすく進行も早い。しかし白内障は網膜症の病期に関係なく、また糖尿病がなくても加齢などで生じる。網膜の新生血管に由来する所見ではないため、増殖糖尿病網膜症の所見としては適切でない。
- ○e. 硝子体出血
網膜や視神経乳頭から生じた新生血管は壁がもろく、網膜表面から硝子体内へ向かって伸びる。硝子体の牽引や後部硝子体剝離が起こると新生血管が引っ張られて破綻し、硝子体腔に出血する。これが硝子体出血であり、患者は突然の飛蚊症や視力低下(大量の場合は急激な視力喪失)を自覚する。増殖糖尿病網膜症の代表的な所見であり、出血が自然に吸収されない場合や牽引性網膜剝離を伴う場合は硝子体手術の適応となる。
糖尿病網膜症の病期と主な所見(改変Davis分類)
単純網膜症:毛細血管瘤、点状・斑状出血、硬性白斑(血漿成分の漏出によって沈着する脂質)、網膜浮腫。 増殖前網膜症:軟性白斑(毛細血管閉塞による神経線維層の虚血)、静脈の数珠状拡張、網膜内細小血管異常(IRMA)、蛍光眼底造影での無灌流領域。 増殖網膜症:網膜・乳頭上の新生血管、硝子体出血、網膜前出血、線維血管増殖膜、牽引性網膜剝離、虹彩・隅角の新生血管(ルベオーシス)、血管新生緑内障。
糖尿病黄斑浮腫
黄斑部の浮腫は病期にかかわらず生じうる視力低下の重要な原因であり、抗VEGF薬の硝子体内注射、局所光凝固、ステロイドなどで治療する。
治療の原則
・全身:血糖・血圧・脂質の管理。急激な血糖改善で網膜症が一時的に悪化すること(early worsening)がある。 ・増殖前〜増殖期:汎網膜光凝固で虚血網膜を凝固し、VEGFの産生を減らして新生血管を退縮させる。 ・硝子体出血が吸収されない、牽引性網膜剝離がある場合:硝子体手術。 ・血管新生緑内障:汎網膜光凝固、抗VEGF薬、眼圧下降薬、緑内障手術。
糖尿病でみられるその他の眼合併症
白内障、外眼筋麻痺(動眼・滑車・外転神経の単神経障害)、屈折の変動(血糖変化による水晶体の膨化)、角膜上皮障害など。これらは網膜症の病期分類とは別の合併症である。
POINT
・増殖糖尿病網膜症の本質は、網膜虚血→VEGF産生→新生血管の出現である。 ・新生血管に関連する所見が増殖期の所見:網膜・乳頭新生血管、硝子体出血、牽引性網膜剝離、虹彩ルベオーシス、血管新生緑内障。 ・白内障は糖尿病で多いが、網膜症の病期とは無関係の合併症である。 ・結膜下出血、強膜炎は糖尿病網膜症の所見ではない。
