倒れる心臓、倒れない心臓―「出口の狭さ」で見分ける失神の原因
第103回医師国家試験 C問題 第14問
国試問題にチャレンジ
失神発作を起こしにくいのはどれか。
- a.起立性低血圧
- b.大動脈弁狭窄症
- c.僧帽弁閉鎖不全症
- d.洞機能不全症候群
- e.肥大型閉塞性心筋症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
失神は脳全体の一過性低灌流による短時間の意識消失で、反射性、起立性低血圧、心原性の3群に分けて考えます。大動脈弁狭窄症と肥大型閉塞性心筋症は左室流出路の狭窄により運動時に拍出量を増やせず労作時失神をきたし、洞機能不全症候群では長い心停止によるAdams-Stokes発作が起こります。一方、僧帽弁閉鎖不全症は左房への逆流による肺うっ血と容量負荷が主体で、症状は労作時呼吸困難などの心不全症状や心房細動が中心であり、失神は起こしにくい疾患です。心原性失神は突然死につながりうるため、労作時や前駆症状のない失神では心電図・心エコーによる精査が欠かせません。「失神を起こす機序があるか」を軸に疾患を整理することが、救急外来での的確なリスク評価につながります。
解答・解説
正解はcです
失神とは、脳全体への血流が一過性に低下することによって起こる、短時間の意識消失発作である。発症は急速で、姿勢を保てなくなり倒れるが、治療をしなくても数十秒〜数分で自然に完全回復する点が特徴である。脳血流は主に「心拍出量×末梢血管抵抗=血圧」に依存するため、失神の原因は大きく次の3群に整理できる。 1. 反射性(神経調節性)失神:血管迷走神経反射などにより、急な徐脈や血管拡張が起こって血圧が下がる。 2. 起立性低血圧による失神:立ち上がったときの血圧維持機構がうまく働かない。 3. 心原性失神:不整脈(高度の徐脈・頻脈)や、心臓・大血管の構造異常によって心拍出量が急に保てなくなる。 心原性のうち構造異常によるものでは、「左室から大動脈への出口が狭く、運動などで需要が増えても拍出量を増やせない」病態が代表的であり、大動脈弁狭窄症と閉塞性肥大型心筋症がその典型である。これに対し、僧帽弁閉鎖不全症は左室から左房へ血液が逆流する疾患で、主な問題は左房・肺静脈側へのうっ血と左室の容量負荷であり、症状は労作時息切れなどの心不全症状が中心となる。出口の閉塞や急激な拍出量低下を起こす機序を持たないため、失神は起こしにくい。 本問は「起こしにくいもの」を選ぶ問題なので、各疾患について失神を生じる機序があるかどうかを考えればよい。
選択肢考察
- ×a. 起立性低血圧
失神を起こしやすいので、本問の正解にはあたらない。立位になると重力で約500〜800mLの血液が下肢や腹部の静脈にたまり、心臓へ戻る血液(静脈還流)が減って心拍出量と血圧が下がる。健常者では圧受容器反射によって交感神経が働き、心拍数増加と血管収縮で血圧が保たれる。自律神経障害(糖尿病性ニューロパチー、パーキンソン病、多系統萎縮症など)、降圧薬や利尿薬などの薬剤、脱水や出血による循環血液量の減少があると、この代償がうまく働かず脳血流が低下して失神する。診断基準としては、起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下することが用いられる。
- ×b. 大動脈弁狭窄症
失神を起こしやすいので、本問の正解にはあたらない。大動脈弁の開口面積が狭いため、心拍出量がほぼ固定される。運動時には筋肉の血管が拡張して末梢血管抵抗が下がるが、それに見合うだけ拍出量を増やせないため血圧が低下し、労作時失神が起こる。狭心痛、失神、心不全は大動脈弁狭窄症の三大症状であり、これらの症状が出現すると予後が急速に悪化する。そのため、重症大動脈弁狭窄症で失神などの症状がある場合は、弁置換術(外科的大動脈弁置換術、または経カテーテル大動脈弁留置術〔TAVI〕)の適応となる。
- ○c. 僧帽弁閉鎖不全症
失神を起こしにくいため、これが正解である。僧帽弁閉鎖不全症では、収縮期に左室の血液の一部が大動脈だけでなく左房へ逆流する。その結果、左房と肺静脈・肺毛細血管の圧が上がり(肺うっ血)、左室は逆流分を含む大量の血液を受け取るため容量負荷がかかる。慢性の経過では左房・左室が拡大して代償し、症状は労作時呼吸困難、易疲労感、起座呼吸などの心不全症状や、左房拡大に伴う心房細動(動悸、塞栓症)が中心となる。大動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症のように左室の出口が狭くなるわけではなく、失神は典型的な症状ではない。なお、乳頭筋断裂などによる急性の高度逆流では急性肺水腫や心原性ショックをきたすことがあるが、これは一過性の失神とは異なる病態である。
- ×d. 洞機能不全症候群
失神を起こしやすいので、本問の正解にはあたらない。洞機能不全症候群(洞不全症候群、SSS)は、心臓のペースメーカーである洞結節の働きが低下する病態で、Rubenstein分類ではI型:持続する洞性徐脈、II型:洞停止または洞房ブロック、III型:徐脈頻脈症候群に分けられる。III型では、心房細動などの頻拍が止まった直後に、頻拍によって抑えられていた洞結節の自動能がすぐに回復せず(オーバードライブサプレッション)、長い心停止が生じやすい。数秒以上の心停止で脳血流が途絶えると、めまいや失神、けいれんを伴う意識消失(Adams-Stokes発作)が起こる。症状を伴う場合は恒久的ペースメーカー植込みの適応となる。
- ×e. 肥大型閉塞性心筋症
失神を起こしやすいので、本問の正解にはあたらない。閉塞性肥大型心筋症(HOCM)では、肥厚した心室中隔と、収縮期に前方へ引き寄せられる僧帽弁前尖(収縮期前方運動〔SAM〕)によって左室流出路が狭くなる。この狭窄は、心収縮力が強まるとき(運動、カテコラミン)や、左室の容積が小さくなるとき(脱水、急な起立、バルサルバ手技、硝酸薬などの血管拡張薬)に悪化し、流出路圧較差が増大して心拍出量が低下する。その結果、労作時の失神、呼吸困難、胸痛が生じる。さらに心室頻拍・心室細動による失神や突然死の危険もあり、原因不明の失神は突然死の危険因子の一つとされる。
失神の分類(現在の一般的な整理)
1. 反射性(神経調節性)失神 ・血管迷走神経性失神:長時間の立位、痛み、恐怖などが誘因。前駆症状として気分不良、冷汗、あくびなどを伴いやすい。 ・状況失神:排尿、排便、咳嗽、嚥下などに伴う。 ・頸動脈洞症候群:ネクタイを締める、首を回すなどの頸動脈洞刺激で起こる。 2. 起立性低血圧 ・自律神経障害(一次性:パーキンソン病、多系統萎縮症など/二次性:糖尿病、アミロイドーシスなど) ・薬剤性(降圧薬、利尿薬、α遮断薬、抗うつ薬など) ・循環血液量減少(脱水、出血) 3. 心原性失神 ・不整脈:洞機能不全症候群、高度房室ブロック、心室頻拍、QT延長症候群、Brugada症候群など ・器質的心疾患:大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、左房粘液腫、急性心筋梗塞、心タンポナーデ、肺塞栓症、急性大動脈解離など 心原性失神は突然死に至る危険があり、予後が最も悪い群である。臥位や労作中の発症、前駆症状のない失神、動悸の先行、心疾患の既往や突然死の家族歴があるときは、心原性を強く疑って精査する。
失神と区別すべきもの
てんかん発作、低血糖、椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作などは意識障害をきたしうるが、全脳の一過性低灌流による「失神」とは機序が異なるため、鑑別疾患として扱われる。
左心系弁膜症の主な症状の比較
・大動脈弁狭窄症:狭心痛、失神、心不全(三大症状)。 ・大動脈弁閉鎖不全症:長く無症状で経過し、進行すると労作時呼吸困難などの心不全症状。 ・僧帽弁狭窄症:労作時呼吸困難、心房細動、塞栓症、喀血。 ・僧帽弁閉鎖不全症:労作時呼吸困難などの心不全症状、心房細動。
POINT
・失神は脳全体の一過性低灌流による短時間の意識消失で、自然に完全回復する。 ・左室流出路の閉塞(大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症)は労作時失神の代表的原因。 ・洞機能不全症候群などの徐脈性不整脈ではAdams-Stokes発作による失神が起こる。 ・僧帽弁閉鎖不全症の主症状は肺うっ血による労作時呼吸困難などの心不全症状で、失神は起こしにくい。 ・大動脈弁狭窄症の三大症状は狭心痛・失神・心不全。
