反射の「消える場所」と「強まる場所」―腱反射で脊髄の高さを言い当てる
第103回医師国家試験 C問題 第13問
国試問題にチャレンジ
脊髄病変の高位診断で髄節障害を判定する指標として重要なのはどれか。
- a.腱反射
- b.筋緊張
- c.運動失調
- d.深部感覚
- e.足底反射
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脊髄病変の高位診断では、病変の高さに限局して出る髄節症状と、病変以下に広く出る索路症状を区別して考えます。腱反射は反射ごとに反射中枢の髄節が決まっている単シナプス反射であり、障害髄節の反射は低下・消失、それより下位の反射は亢進、上位は正常というパターンから病変の高さを髄節単位で推定できます。筋緊張の亢進、バビンスキー徴候、後索障害による深部感覚低下は索路症状、運動失調は脊髄外の病変でも生じるため、いずれも髄節の特定には向きません。上腕二頭筋反射C5〜6、上腕三頭筋反射C7、膝蓋腱反射L2〜4、アキレス腱反射S1といった反射中枢や、逆転橈骨反射、体幹の感覚レベルを押さえておくことは、頸椎症性脊髄症や脊髄損傷の診療で病変を正確に絞り込む基礎となります。
解答・解説
正解はaです
脊髄病変の診断では、「脊髄のどの高さ(高位)に病変があるか」を神経所見から推定する。これを高位診断という。脊髄の障害は、大きく二つの成分に分けて考えると整理しやすい。 1. 髄節障害(セグメント障害):病変のある高さそのもの(その髄節の灰白質・前根・後根)が壊れることで生じる症状。その髄節に対応する筋の筋力低下・筋萎縮、その髄節の反射弓が途切れることによる腱反射の低下・消失、その髄節の皮膚分節(デルマトーム)に一致した感覚障害や根性疼痛がこれにあたる。 2. 索路障害(長索路障害):脊髄の白質を上下に走る伝導路(皮質脊髄路、脊髄視床路、後索など)が病変部で断たれることにより、病変より下の領域全体に生じる症状。痙性麻痺、腱反射亢進、バビンスキー徴候、病変以下の感覚障害などがこれにあたる。 腱反射は、筋が伸ばされたことを感知した情報が後根から特定の髄節に入り、同じ髄節の前角細胞(下位運動ニューロン)に直接つながって筋を収縮させる単シナプス反射である。つまり、それぞれの腱反射は決まった髄節を反射中枢として持っている。そのため、ある髄節に病変があると、その髄節を中枢とする反射は反射弓が途切れて低下・消失し、病変より下の髄節を中枢とする反射は上位からの抑制が外れて亢進し、病変より上の髄節の反射は正常のまま保たれる。この「低下・消失」と「亢進」の境目を探すことで、病変の高さを髄節単位で絞り込むことができる。 一方、筋緊張、運動失調、深部感覚、足底反射(バビンスキー徴候)は、主に伝導路の障害や脊髄以外の病変でも生じる所見であり、特定の髄節を指し示す力は弱い。したがって、髄節障害の判定に最も重要な指標は腱反射である。
選択肢考察
- ○a. 腱反射
正しい。腱反射はそれぞれ反射中枢となる髄節が決まっている(上腕二頭筋反射・腕橈骨筋反射はC5〜6、上腕三頭筋反射はC6〜8〔主にC7〕、膝蓋腱反射はL2〜4、アキレス腱反射はS1〔L5〜S2〕)。ある髄節が障害されると、その髄節の反射は低下・消失し、それより下位の髄節の反射は亢進し、上位の反射は正常に保たれる。例えばC5〜6髄節の障害では、上腕二頭筋反射・腕橈骨筋反射が低下する一方、上腕三頭筋反射や下肢の反射は亢進する。腱反射のこの分布パターンから病変の高さを直接推定できるため、髄節障害の判定に最も有用である。
- ×b. 筋緊張
誤り。筋緊張の亢進(痙縮)は皮質脊髄路などの上位運動ニューロン障害で、病変より下の広い範囲に生じる索路症状である。筋緊張の低下は、下位運動ニューロン障害、小脳障害、筋疾患、脊髄損傷直後の脊髄ショックなど多様な原因で起こる。いずれも特定の髄節との対応がはっきりしないため、高位診断の指標としては役に立ちにくい。
- ×c. 運動失調
誤り。運動失調は、小脳およびその出入力路(脊髄小脳路など)の障害による小脳性失調、後索障害による深部感覚障害に起因する感覚性(脊髄性)失調、前庭障害による前庭性失調などに分けられる。脳血管障害や変性疾患など脊髄以外の病変でも頻繁に生じ、脊髄病変であっても障害の高さを髄節単位で示すものではないため、高位診断の指標にはならない。
- ×d. 深部感覚
誤り。振動覚や位置覚などの深部感覚は、後根から入ったのち同側の後索を上行する。後索が障害されると病変より下の広い範囲で深部感覚が低下するが、これは索路症状であり、境界がはっきりしないことが多い。また末梢神経障害(ポリニューロパチー)でも四肢遠位部で低下する。脊髄の横断面上のどの部分が障害されているか(横断面での局在)を知る手がかりにはなるが、髄節レベルの判定には適さない。なお、感覚で高位を推定する場合は、デルマトームに沿って境界が明瞭に出やすい温痛覚などの表在感覚のレベルが用いられる。
- ×e. 足底反射
誤り。足底をこすると母趾が背屈するバビンスキー徴候(足底反射の異常)は、皮質脊髄路の障害を示す病的反射であり、病変が脳から脊髄のどの高さにあっても(腰髄より上であれば)陽性になりうる。上位運動ニューロン障害の存在を示すが、どの髄節が障害されているかは分からない。なお、正常の足底反射(足趾の底屈)は表在反射でS1付近が中枢とされるが、高位診断の指標として重視されるものではない。
主な反射と反射中枢(髄節)
・下顎反射:橋(三叉神経) ・上腕二頭筋反射:C5〜6 ・腕橈骨筋反射:C5〜6 ・上腕三頭筋反射:C6〜8(主にC7) ・腹壁反射(表在反射):T7〜12 ・挙睾筋反射(表在反射):L1〜2 ・膝蓋腱反射:L2〜4 ・アキレス腱反射:S1(L5〜S2) ・肛門反射:S3〜5
髄節症状と索路症状
・髄節症状:病変の高さに限局して出る。筋萎縮・筋力低下(下位運動ニューロン徴候)、腱反射低下・消失、デルマトームに沿った感覚障害や根性疼痛。 ・索路症状:病変より下の全体に出る。痙性麻痺、腱反射亢進、病的反射(バビンスキー徴候など)、病変以下の感覚障害、膀胱直腸障害。 高位診断では「髄節症状が出ている高さ」と「索路症状が始まる高さ」を組み合わせて病変を特定する。
逆転反射の例
C5〜6髄節の障害では、腕橈骨筋反射を誘発しようとして橈骨を叩くと、本来の肘屈曲が起こらず、下位髄節の手指屈筋が亢進した反射で収縮し指が曲がる(逆転橈骨反射)。これは「その髄節の反射は消失、下位の反射は亢進」という原理を典型的に示す所見で、頸椎症性脊髄症などの高位診断に役立つ。
感覚による高位診断
温痛覚は脊髄に入ってから1〜2髄節上行したのち反対側の脊髄視床路へ交叉するため、横断性障害では体幹にはっきりした感覚レベル(例:臍=T10、乳頭=T4)が現れやすい。これも腱反射と並んで高位診断に用いられる。
POINT
・腱反射はそれぞれ決まった髄節に反射中枢を持つため、髄節障害の判定に最も有用である。 ・障害髄節の反射は低下・消失、それより下位の反射は亢進、上位の反射は正常。 ・筋緊張亢進、バビンスキー徴候、後索障害による深部感覚低下は索路症状であり、髄節の特定には向かない。 ・主要な反射中枢(C5〜6、C7、L2〜4、S1)は必ず覚える。
