StudyMed医師国家試験

感覚障害の「地図」を読む―宙吊り型と手袋・靴下型が示す病変の場所

第102回医師国家試験 I問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第19問

組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.脊髄癆 ―― 全感覚鈍麻
  2. b.脊髄空洞症 ―― 宙吊り型感覚障害
  3. c.前脊髄動脈症候群 ―― 深部感覚障害
  4. d.筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉 ―― 触覚障害
  5. e.糖尿病性ニューロパチー ―― 手袋・靴下型感覚障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脊髄や末梢神経の病気と、特徴的な感覚障害のパターンを結びつける問題だ。感覚障害の分布は「どの伝導路が、どの高さで、どちら側で障害されたか」を映す地図のようなもの。だからまず脊髄の感覚伝導路を整理しておこう。主な2本の伝導路を言えるかな。
医学生医学生
後索と脊髄視床路です。後索が深部感覚で、脊髄視床路が温痛覚でしたよね。
ドクタードクター
その通り。後索は位置覚・振動覚と識別性の触覚を伝え、同側を上行して延髄で交叉する。脊髄視床路は温痛覚と粗大な触覚を伝え、後角でニューロンを替えたあと、中心管のすぐ前の前白交連で交叉して反対側を上行する。この「中心管の前で交叉する」という点が、今回の問題の大きなヒントになるよ。
医学生医学生
神経解剖の講義で、交叉の位置を何度も図に描かされました。
ドクタードクター
その図がそのまま武器になる。では脊髄空洞症から考えよう。脊髄の中心部に空洞ができると、何が最初に障害されると思う?
医学生医学生
中心管の近くで交叉している温痛覚の線維ですね。左右から交叉してくるので両側性になりそうです。
ドクタードクター
完璧だ。一方、後索は保たれるので触覚や深部感覚は比較的残る。これを解離性感覚障害という。空洞は下部頸髄から上部胸髄にできやすく、障害は空洞のある髄節だけに一致するから、両上肢から胸の上部だけ温痛覚が低下し、その上下は正常になる。上半身に宙吊りにしたような分布、つまり宙吊り型感覚障害だ。この組合せは正しい。
医学生医学生
Chiari奇形I型に合併しやすいと習いました。空洞が前角に及ぶと手の筋萎縮も出るんでしたっけ。
ドクタードクター
よく知っているね。次に糖尿病性ニューロパチー。最も多いのは左右対称で遠位優位の多発ニューロパチーだ。なぜ遠位から症状が出るか分かるかな。
医学生医学生
長い神経ほど障害されやすいから、一番長い下肢の末端からですか。
ドクタードクター
その通り。足趾や足底のしびれ、振動覚低下、アキレス腱反射の低下から始まり、進行すると手指にも及ぶ。手袋や靴下を着けた範囲に一致するので手袋・靴下型感覚障害だ。これも正しい組合せだね。障害部と健常部の境界がはっきりせず、中枢に向かって徐々に正常へ移行するのも特徴だよ。
医学生医学生
内科の実習で、糖尿病の患者さんに音叉を当てて振動覚を調べました。足首のほうが明らかに短かったです。
ドクタードクター
いい経験をしたね。では誤りの選択肢を見よう。脊髄癆はどうかな。
医学生医学生
神経梅毒で、後索が障害されるんでしたよね。それなら全感覚ではなく深部感覚が中心のはずです。
ドクタードクター
そう。脊髄後根と後索が主に障害されるので、深部感覚障害が中心となり、閉眼で立つとふらつくRomberg徴候陽性や感覚性運動失調がみられる。電撃痛、Argyll Robertson瞳孔、Charcot関節も特徴だ。全感覚が一様に鈍るわけではないので誤りだね。
医学生医学生
前脊髄動脈症候群の深部感覚障害は、なんとなく合っていそうに見えてしまいました。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけだ。前脊髄動脈は脊髄の前方約2/3、つまり前角、錐体路、脊髄視床路を栄養する。後索は後脊髄動脈の領域だから、閉塞しても深部感覚は保たれる。症状は障害レベル以下の両側性運動麻痺、温痛覚障害、膀胱直腸障害で、「深部感覚が保たれる」ことこそが特徴なんだ。原因として大動脈解離や大動脈手術が重要だよ。
医学生医学生
ALSは運動ニューロンの病気なので、感覚障害は出ないですよね。
ドクタードクター
その通り。ALSは上位・下位運動ニューロンが選択的に変性する疾患で、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡がみられにくいことが陰性徴候として知られている。だから触覚障害との組合せは誤りだ。ただし人工呼吸器で長期生存した例では、これらが出現しうることも知られているよ。
医学生医学生
伝導路と血管支配を頭に描けば、感覚障害の分布から病変の場所を逆算できるんですね。
ドクタードクター
まさにその考え方が神経診察の基本だ。ほかのパターンも押さえておこう。脊髄の半側障害であるBrown-Séquard症候群では、障害側の運動麻痺と深部感覚障害、反対側の温痛覚障害が起こる。脊髄の横断性障害では障害レベル以下の全感覚が失われ、円錐部や馬尾の障害では会陰部のサドル型感覚障害となる。後索障害型には脊髄癆のほか、ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症もある。
医学生医学生
OSCEの神経診察で、感覚の境界を上下からなぞって確かめる理由がやっと腑に落ちました。
ドクタードクター
臨床では、患者さんが「しびれる」と訴えたとき、どの感覚が、どの範囲で、左右対称かを丁寧に確かめることが診断の第一歩になる。手袋・靴下型なら多発ニューロパチーを、明瞭な感覚レベルがあれば脊髄病変を、と病変部位を絞り込んでいこう。

まとめ

感覚障害の分布は、障害された伝導路と高さ・左右を反映します。脊髄空洞症では中心管の前で交叉する温痛覚線維が両側性に障害され、後索は保たれるため、解離性で宙吊り型の感覚障害となります。糖尿病性ニューロパチーでは長い神経線維の末端から障害されるため、左右対称・遠位優位の手袋・靴下型感覚障害を示します。一方、脊髄癆は後索障害による深部感覚障害、前脊髄動脈症候群は後索が保たれるため深部感覚が正常、ALSは感覚障害を原則欠くことが特徴です。後索と脊髄視床路の走行、脊髄の血管支配を理解しておけば、感覚障害のパターンから病変部位を論理的に推定でき、神経診察の基礎となります。

解答・解説

正解はb, eです

脊髄や末梢神経の疾患と、それぞれに特徴的な感覚障害のパターンを結びつける問題である。感覚障害の分布は「どの伝導路が、どの高さで、どちら側で障害されたか」を反映するため、まず脊髄の感覚伝導路を整理しておくと解きやすい。

脊髄の主な感覚伝導路

・後索(後索-内側毛帯路): 深部感覚(位置覚・振動覚)と識別性の触覚を伝える。後根から入った線維は同側の後索を上行し、延髄で交叉する。 ・脊髄視床路(外側・前脊髄視床路): 温度覚・痛覚(温痛覚)と粗大な触覚を伝える。後角でニューロンを替えたのち、脊髄の中心管の前(前白交連)で交叉して反対側を上行する。

脊髄の血流支配

前脊髄動脈は脊髄の前方約2/3(前角、側索の錐体路、脊髄視床路)を、左右の後脊髄動脈は後方約1/3(後索、後角の一部)を栄養する。

考え方

・中心灰白質の障害(脊髄空洞症)では、そこで交叉する温痛覚線維が両側性に障害され、後索は保たれる(解離性感覚障害)。 ・後索の障害(脊髄癆など)では深部感覚が選択的に障害される。 ・前脊髄動脈の閉塞では、後索以外が障害されるため深部感覚は保たれる。 ・多発ニューロパチーでは、長い神経線維の末端から障害されるため四肢末梢優位の対称性分布となる。 これらを当てはめれば、正しい組合せは脊髄空洞症と宙吊り型感覚障害、糖尿病性ニューロパチーと手袋・靴下型感覚障害である。

選択肢考察

  1. ×a.  脊髄癆 ―― 全感覚鈍麻

    脊髄癆は神経梅毒(梅毒の第4期)の一病型で、脊髄後根と後索が主に障害される。このため深部感覚(位置覚・振動覚)と識別性の触覚が障害され、閉眼で立位がふらつくRomberg徴候陽性、感覚性運動失調(踵を打ちつけるような歩行)、腱反射消失などがみられる。ほかに電撃痛、Argyll Robertson瞳孔(対光反射は消失するが輻輳反射は保たれる縮瞳)、Charcot関節が特徴である。温痛覚を伝える脊髄視床路は主病変ではなく、全感覚が一様に鈍麻するわけではないため、組合せとして誤りである。

  2. ○b.  脊髄空洞症 ―― 宙吊り型感覚障害

    脊髄空洞症は脊髄の中心部に空洞(液体のたまった腔)ができる疾患で、Chiari奇形I型に合併することが多い。空洞は下部頸髄〜上部胸髄に生じやすく、中心管の前で交叉する温痛覚線維がまず両側性に障害される。一方、後索は保たれるため触覚や深部感覚は比較的保たれる(解離性感覚障害)。障害は空洞のある髄節に一致するため、両上肢から胸の上部にかけてのみ温痛覚が低下し、その上下は正常という、上半身に宙吊りにしたような分布(宙吊り型感覚障害)となる。空洞が前角に及ぶと手の小さな筋の萎縮もみられる。

  3. ×c.  前脊髄動脈症候群 ―― 深部感覚障害

    前脊髄動脈の閉塞では脊髄の前方約2/3が梗塞に陥り、両側の錐体路・前角・脊髄視床路が障害される。その結果、障害レベル以下の両側性の運動麻痺(急性期は弛緩性、のち痙性の対麻痺・四肢麻痺)、両側性の温痛覚障害、膀胱直腸障害を生じる。一方、後索は後脊髄動脈に栄養されるため保たれ、深部感覚(位置覚・振動覚)は正常である。この「深部感覚が保たれる」点が本症候群の特徴であり、組合せとして誤りである。原因としては大動脈解離や大動脈手術が重要である。

  4. ×d.  筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉 ―― 触覚障害

    ALSは上位運動ニューロン(大脳皮質運動野から錐体路)と下位運動ニューロン(脳幹運動核・脊髄前角)が選択的に変性する疾患で、筋萎縮・筋力低下・線維束性収縮と、腱反射亢進などの錐体路徴候が混在する。感覚系は原則として侵されず、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡がみられにくいことは「陰性徴候」として知られる。したがって触覚障害は特徴的な症候ではなく、誤りである。

  5. ○e.  糖尿病性ニューロパチー ―― 手袋・靴下型感覚障害

    糖尿病性ニューロパチーで最も多い病型は、左右対称性の遠位優位の多発ニューロパチー(感覚運動性)である。神経線維は長いものほど障害を受けやすいため、最も長い下肢の末端(足趾・足底)から症状が始まり、しびれ、痛み、感覚鈍麻、振動覚低下、アキレス腱反射の低下・消失がみられる。進行すると手指にも及び、手袋や靴下を着けた範囲に一致する分布となる(手袋・靴下型感覚障害)。自律神経障害(起立性低血圧、胃腸運動障害、勃起障害など)を伴うことも多い。

感覚障害のパターンと障害部位

・手袋・靴下型: 多発ニューロパチー(糖尿病、アルコール、ビタミンB1欠乏、薬剤、尿毒症など)。四肢末梢ほど強く、中枢に向かって徐々に正常へ移行するため、障害部と健常部の境界ははっきりしない。下肢から始まり、下肢のほうが強い。 ・宙吊り型(解離性): 脊髄空洞症、髄内腫瘍など脊髄中心部の病変。 ・Brown-Séquard型: 脊髄の半側障害。障害側の運動麻痺と深部感覚障害、反対側の温痛覚障害。 ・横断性(障害レベル以下の全感覚障害): 脊髄の横断性障害(外傷、横断性脊髄炎など)。 ・後索障害型(深部感覚障害、Romberg徴候陽性): 脊髄癆、亜急性連合性脊髄変性症(ビタミンB12欠乏)、Friedreich失調症など。 ・前脊髄動脈症候群: 障害レベル以下の運動麻痺と温痛覚障害、深部感覚は保たれる。 ・サドル型(会陰部・肛門周囲): 円錐部・馬尾の障害。

解離性感覚障害

温痛覚と触覚・深部感覚のどちらか一方だけが障害される状態を指す。脊髄空洞症(温痛覚のみ障害)、前脊髄動脈症候群(温痛覚障害、深部感覚保持)、Wallenberg症候群(顔面と対側の身体の温痛覚障害)などで生じる。

ALSの陰性徴候

感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡は原則としてみられない。ただし近年は、人工呼吸器による長期生存例などでこれらが出現しうることも知られている。

POINT

・脊髄空洞症: 中心灰白質の障害 → 両側性の温痛覚障害(宙吊り型、解離性感覚障害) ・糖尿病性ニューロパチー: 遠位優位・左右対称の手袋・靴下型感覚障害 ・脊髄癆: 後索障害 → 深部感覚障害、Romberg徴候陽性、Argyll Robertson瞳孔 ・前脊髄動脈症候群: 深部感覚(後索)は保たれる ・ALS: 感覚障害は原則なし(陰性徴候)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。