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血流・骨膜・剪断力―三重苦の大腿骨頸部骨折はなぜ治りにくいのか

第102回医師国家試験 I問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第18問

骨癒合が得られにくいのはどれか。

  1. a.上腕骨外科頸骨折
  2. b.橈骨遠位端骨折
  3. c.中手骨骨折
  4. d.大腿骨頸部骨折
  5. e.大腿骨骨幹部骨折

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨折の部位ごとに「骨がくっつきやすいか、くっつきにくいか」を見分ける問題だ。鍵になるのは、骨癒合に何が必要かという基本原理。そこから逆算すれば、暗記に頼らなくても答えにたどり着けるよ。まず、骨が治るために必要な条件を挙げてみてくれるかな。
医学生医学生
血流が大事なのは分かります。あとは、ギプスでしっかり固定することでしょうか。
ドクタードクター
いいね、その2つは大正解。もう1つ加えたいのが骨膜だ。骨の表面を覆う骨膜には骨をつくる細胞の供給源があって、骨折部の周りに外仮骨をつくる。つまり「十分な血流」「骨膜による仮骨形成」「骨折部の安定性」の3つがそろうと骨はくっつきやすい。逆に、これらが欠けやすい部位ほど偽関節になりやすいんだ。
医学生医学生
偽関節って、骨がくっつかずに折れたところが関節みたいに動いてしまう状態ですよね。整形外科の講義でX線写真を見ました。
ドクタードクター
その通り。では選択肢を見渡して、3条件がそろって欠けていそうなのはどれだと思う?
医学生医学生
大腿骨頸部骨折でしょうか。高齢者の転倒で多くて、手術になるイメージがあります。
ドクタードクター
正解だ。ただ「手術が多いから」ではなく、理由を押さえておこう。大腿骨頸部は関節包の内側にある。骨頭を養う主な血管である内側大腿回旋動脈の枝は頸部の表面を走っていて、骨折するとこれが断たれやすい。さらに関節内なので骨膜の外層がほとんどなく、外仮骨ができにくい。加えて、骨折線が垂直に近いほど体重で骨片をずらす剪断力がかかる。血流・骨膜・安定性の3つすべてで不利なんだ。
医学生医学生
まさに三重苦ですね。血流が途絶えるなら、偽関節だけじゃなく骨頭壊死も起こりそうです。
ドクタードクター
鋭いね。大腿骨頭壊死も重要な合併症だ。だから転位のある骨折、Garden分類のstage IIIやIVでは、高齢者を中心に人工骨頭置換術が選ばれることが多い。転位のないstage IやIIなら骨接合術が行われることが多いよ。では他の選択肢も確認しよう。上腕骨外科頸骨折はどうかな。名前に「頸」が付くから紛らわしいけれど。
医学生医学生
肩の頸部ということで、大腿骨と同じく治りにくいのかと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。外科頸は大結節・小結節の直下で、関節包の外にある。周囲の筋や骨膜からの血流が豊富な海綿骨の部位で、多くは三角巾やバストバンドの保存療法でも癒合する。骨頭壊死が問題になるのは、関節包内の解剖頸骨折のほうだ。「関節包の内か外か」が分かれ目なんだ。
医学生医学生
橈骨遠位端骨折は、高齢女性が手をついて転ぶとなる骨折ですよね。Colles骨折とSmith骨折がありました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ここも海綿骨が豊富で血流が良く、骨癒合は得られやすい。問題は癒合しないことより、ずれたままくっつく変形治癒のほうだ。整復位が保てない例では掌側ロッキングプレートで固定する。中手骨骨折も同じで、ボクサー骨折に代表されるように血流は良好。注意すべきは回旋変形で、指を曲げたときに指同士が交差しないよう整復・固定するのがポイントだ。
医学生医学生
大腿骨骨幹部骨折は、大きな骨なので治るのに時間がかかりそうですが。
ドクタードクター
時間はかかるけれど、骨幹部は厚い筋肉に囲まれていて骨膜や筋からの血流が豊富だ。髄内釘で適切に固定すれば癒合は比較的良好なんだ。むしろ急性期に気をつけたいのは、1000 mLを超えることもある大量出血と脂肪塞栓症候群だね。
医学生医学生
なるほど、骨が大きいかどうかではなく、血流と骨膜と安定性で考えるわけですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。発展として、他の「治りにくい骨折」もセットで覚えよう。手の舟状骨骨折は血管が遠位から入るため、腰部で折れると近位骨片の血流が途絶えて偽関節や壊死を起こしやすい。初診のX線で骨折線がはっきりしないことがあり、見逃しに注意が必要だ。脛骨骨幹部の遠位1/3は前内側が皮膚の直下で筋肉の被覆が乏しく、距骨頸部骨折は距骨体部の壊死を起こしやすい。
医学生医学生
救急外来の実習で、手首を捻った若い人に嗅ぎタバコ窩の圧痛を確認していた先生がいました。舟状骨骨折を見逃さないためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだ。最後に臨床の注意点。大腿骨近位部骨折でも、関節包外の転子部骨折は血流が良く癒合しやすいので、主に骨接合術で治療する。頸部と転子部の区別は治療方針に直結するよ。どちらも骨粗鬆症を背景にした高齢者の転倒で多く、寝たきりの原因になるから、早期手術・早期離床が原則だ。全身因子として糖尿病、喫煙、ステロイド使用、低栄養も癒合を妨げることを覚えておこう。

まとめ

骨癒合には、骨折部への十分な血流、骨膜による仮骨形成、骨折部の安定性の3条件が必要で、これらが欠けやすい部位ほど偽関節や骨壊死を起こしやすくなります。大腿骨頸部骨折は関節包内にあり、骨頭への血流途絶、骨膜外層の欠如、体重による剪断力という不利な条件が重なるため、骨癒合が得られにくい骨折の代表です。一方、上腕骨外科頸骨折、橈骨遠位端骨折、中手骨骨折、大腿骨骨幹部骨折は血流や骨膜に恵まれ、適切な整復・固定で通常は癒合し、むしろ変形治癒や出血などが問題となります。舟状骨骨折、脛骨遠位1/3骨折、距骨頸部骨折も癒合しにくい骨折として併せて押さえておきましょう。暗記に頼らず「血流・骨膜・安定性」という原理から考える姿勢は、骨折の治療方針を理解する土台になります。

解答・解説

正解はdです

骨折のうち、骨癒合が得られにくく偽関節(骨折部が癒合せず、関節のように動いてしまう状態)になりやすいものを選ぶ問題である。

骨癒合に必要な条件

骨が治るには、①骨折部への十分な血流、②骨膜(骨の表面を覆い、骨を作る細胞を供給する膜)による仮骨形成、③骨折部の適切な安定性(ずれや剪断力が加わらないこと)が必要である。これらが欠けやすい部位ほど癒合不全や偽関節を起こしやすい。

考え方

大腿骨頸部は関節包の内側にあり、①骨頭へ向かう血管が骨折によって断たれやすい、②関節内のため骨膜の外層(線維層)がほとんどなく、外仮骨ができにくい、③骨折線が垂直に近いほど体重による剪断力(ずらす力)が加わりやすい、という三つの不利な条件がそろう。このため骨癒合が得られにくい骨折の代表である。他の選択肢はいずれも、血流や骨膜に恵まれた部位であり、適切な整復・固定を行えば通常は骨癒合が得られる。

選択肢考察

  1. ×a.  上腕骨外科頸骨折

    上腕骨外科頸は大結節・小結節の直下で、関節包の外にある部位である。高齢者が転倒して肩や手をついたときに生じやすく、骨粗鬆症を背景とすることが多い。周囲の筋や骨膜からの血流が豊富な海綿骨の部位であり、多くは三角巾やバストバンドなどによる保存療法でも骨癒合が得られる。転位が大きい例や粉砕例では手術が選択されるが、癒合しにくい骨折の代表ではない。なお、解剖頸骨折では骨頭壊死が問題となる点と区別しておく。

  2. ×b.  橈骨遠位端骨折

    高齢者、特に骨粗鬆症の女性が手をついて転倒したときに生じやすい代表的な骨折である(背側転位するものをColles骨折、掌側転位するものをSmith骨折とよぶ)。海綿骨が豊富で血流も良好なため骨癒合は得られやすい。問題となるのは癒合不全よりも変形治癒であり、整復位の保持が難しい例では掌側ロッキングプレートなどによる観血的整復固定術が行われる。

  3. ×c.  中手骨骨折

    拳で物を殴ったときに生じる第5中手骨頸部骨折(ボクサー骨折)などがある。周囲の軟部組織からの血流が良く、骨癒合は比較的得られやすい。むしろ注意すべきは回旋変形であり、指を屈曲したときに指が重なり合う(交差する)ことがないよう整復・固定する必要がある。

  4. ○d.  大腿骨頸部骨折

    大腿骨頸部骨折(関節包内骨折)は骨癒合が得られにくい骨折の代表である。理由は、①骨頭への主な栄養血管(内側大腿回旋動脈の枝)が頸部の表面を走行しており、骨折で断たれて骨頭への血流が途絶えやすい、②関節内であるため骨膜の外層を欠き、外仮骨の形成が期待できない、③骨折線に体重による剪断力がかかりやすい、の3点である。その結果、偽関節や大腿骨頭壊死を起こしやすい。このため、転位のある骨折(Garden分類のstage III・IV)では、高齢者を中心に人工骨頭置換術などの人工物置換が選択されることが多く、転位のない骨折(stage I・II)では骨接合術が行われることが多い。

  5. ×e.  大腿骨骨幹部骨折

    強い外力(交通外傷など)による若年者の骨折が多い。骨幹部は周囲を厚い筋肉に囲まれ、骨膜や筋からの血流が豊富なため、髄内釘などで適切に整復固定すれば骨癒合は比較的良好である。むしろ急性期には大量出血(1000 mL以上に及ぶこともある)や脂肪塞栓症候群に注意が必要である。

骨癒合が得られにくい(偽関節・骨壊死を起こしやすい)代表的な骨折

・大腿骨頸部骨折(関節包内骨折): 大腿骨頭壊死、偽関節 ・手の舟状骨骨折: 血管が遠位から入るため、腰部(中央部)の骨折では近位骨片への血流が途絶えやすく、偽関節・近位骨片の壊死を起こしやすい。初診時のX線で骨折線がはっきりしないことがあり、見逃しに注意する。 ・脛骨骨幹部遠位1/3の骨折: 前内側は皮膚の直下で筋肉の被覆が乏しく、血流が少ない。開放骨折になりやすいことも一因。 ・距骨頸部骨折: 距骨体部への血流が途絶え、無腐性壊死を起こしやすい。 ・上腕骨解剖頸骨折: 骨頭壊死を起こしやすい。

大腿骨近位部骨折の分類

・頸部骨折(関節包内): 血流・骨膜の条件が悪く、癒合しにくい。Garden分類で転位の程度を評価する。 ・転子部骨折(関節包外): 海綿骨が豊富で血流も良く、骨癒合は得られやすい。治療は主に骨接合術(γ型髄内釘やスライディングヒップスクリューなど)である。 いずれも骨粗鬆症を背景とする高齢者の転倒で多く、寝たきりの原因となるため、早期手術・早期離床が原則である。

骨癒合を妨げる一般的な要因

局所因子として、血流不良、骨折部の不安定性、骨片間の離開や軟部組織の介在、感染、開放骨折がある。全身因子として、高齢、糖尿病、喫煙、ステロイド使用、低栄養などがある。

POINT

・骨癒合しにくい骨折の代表: 大腿骨頸部骨折、手の舟状骨骨折、脛骨遠位1/3骨折(距骨頸部骨折も) ・大腿骨頸部骨折が癒合しにくい理由: 骨頭への血流途絶、関節内で骨膜が乏しい、剪断力 ・転位のある大腿骨頸部骨折の高齢者 → 人工骨頭置換術が多い。転子部骨折は癒合しやすく骨接合術

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。