血圧は「座って測る」が世界標準―体位が数値を変える理由
第102回医師国家試験 H問題 第7問
国試問題にチャレンジ
世界保健機関〈WHO〉が標準とした血圧測定時の体位はどれか。
- a.立位
- b.坐位
- c.仰臥位
- d.右側臥位
- e.左側臥位
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
血圧は体位や腕の高さ、精神状態などで容易に変動するため、比較可能な値を得るには測定条件をそろえる必要があり、WHOや各国のガイドラインは坐位を標準体位としています。背もたれのある椅子で数分間安静にした後、適切なサイズのカフを心臓の高さに合わせて測定し、カフが心臓より高いと低く、低いと高く測定される静水圧の影響に注意します。仰臥位は臥床中の患者に、立位は起立性低血圧の評価(立位後3分以内に収縮期20 mmHg以上または拡張期10 mmHg以上の低下)に用いますが、いずれも目的に応じた測定です。側臥位は左右の腕の高さが心臓とずれるため標準になりません。正しい測定手技を身につけることは、高血圧の診断や家庭血圧の指導など日常診療の土台となります。
解答・解説
正解はbです
血圧は自律神経を介して刻々と変動し、体位、測定する腕の高さ、精神状態、直前の運動や飲食・喫煙などで値が変わる。値を比べたり、高血圧の診断基準に当てはめたりするには、測定条件をそろえる必要がある。 WHO(世界保健機関)をはじめ、各国の高血圧治療ガイドラインは、背もたれのある椅子に座った坐位を標準の測定体位としている。坐位で数分間安静にしたあと、上腕にカフ(圧迫帯)を巻き、その高さを心臓(右心房)の高さに合わせて測定する。高血圧の診断基準(診察室血圧140/90 mmHg以上など)も、坐位で測った値を前提に作られている。 臥位や立位で測ることが誤りというわけではない。臥床している患者では仰臥位で測るし、起立性低血圧を調べるときは臥位または坐位から立位へ体位を変えて測る。ただし、これらは目的に応じた補助的な測定であり、標準の体位は坐位である。
選択肢考察
- ×a. 立位
立ち上がると重力で下肢に血液がたまり、静脈還流と心拍出量が一時的に減る。通常は圧受容器反射で血圧が保たれるが、値は安定しにくい。そのため、立位は標準の測定体位ではない。立位での測定は、起立性低血圧を評価するときに行う。対象は高齢者、糖尿病患者(自律神経障害)、降圧薬の服用者、ふらつきや失神を訴える患者などである。臥位や坐位から立ち上がって1~3分後などに測り、立位後3分以内に収縮期血圧が20 mmHg以上、または拡張期血圧が10 mmHg以上低下すれば起立性低血圧と判断する。
- ○b. 坐位
WHOや各国のガイドラインが標準とする測定体位は坐位である。背もたれのある椅子に座り、足を組まずに床につけ、数分間安静にしてから測る。上腕に適切な幅のカフを巻き、腕を台に乗せてカフの高さを心臓の高さに合わせる。坐位は外来で再現しやすく、体位による静水圧の影響も管理しやすいため、診療でも疫学研究でも比べやすい値が得られる。高血圧の診断基準も坐位での値をもとに定められている。
- ×c. 仰臥位
入院中や在宅で臥床している患者、坐位をとれない患者では仰臥位で測る。この場合は腕を体幹の横に置き、カフが心臓とほぼ同じ高さになるようにする。ただし、仰臥位での値は坐位での値と必ずしも一致しない。臥位になった直後は上昇し、長く臥床していると低下するなど、体位の変化に伴って変動する。そのため、標準の体位としては用いない。起立性低血圧の評価では、仰臥位で安静にした後の値を基準値として使う。
- ×d. 右側臥位
側臥位では、上になった腕は心臓より高く、下になった腕は心臓より低くなる。カフの位置が心臓より高いと、その高さの差に相当する静水圧の分だけ血圧は低く測定され、心臓より低いと高く測定される。このように、どちらの腕で測るかで値がずれるため、右側臥位は標準の測定体位ではない。この体位しかとれない患者を測るときは、カフと心臓の高さの差を意識して値を解釈する必要がある。
- ×e. 左側臥位
右側臥位と同じく、左側臥位でも上側と下側の腕の高さが心臓とずれ、静水圧の影響で値が変わる。そのため、標準の測定体位ではない。なお、左側臥位は心尖部の聴診(僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルなど)で使う体位であり、血圧測定の標準体位と混同しないようにする。
診察室での正しい血圧測定のポイント
・環境: 静かで適温の部屋で、背もたれのある椅子に座り、足を組まない。会話は控える。 ・事前の条件: 測定前の30分程度はカフェインの摂取、喫煙、運動を避ける。排尿・排便を我慢していたり、痛みや不安があったりすると、交感神経が刺激されて血圧が上がる。 ・安静: 坐位で数分間安静にしてから測る。 ・カフ: 上腕周囲長に合ったサイズを使う。カフが細すぎると高く、太すぎると低く測定される。カフの下端は肘窩の2~3 cm上に置き、カフの高さを心臓に合わせる。 ・測定回数: 1~2分の間隔をあけて複数回測り、安定した値(2回の平均など)を記録する。 ・初診時は左右両腕で測る。左右差が大きい場合は、鎖骨下動脈の狭窄や大動脈解離などを疑う。
腕の高さと測定値
心臓とカフの高さの差が約1.3~1.4 cm あるごとに、静水圧で約1 mmHg の差が生じる(10 cmでおよそ7~8 mmHg)。腕を下げると高く、腕を上げると低く測定される。
体位・状況による血圧の変動
・高齢者では、食後に血圧が下がる食後低血圧がみられることがある。 ・起立性低血圧: 立位後3分以内に、収縮期血圧が20 mmHg以上、または拡張期血圧が10 mmHg以上低下する。原因として、自律神経障害(糖尿病、Parkinson病、多系統萎縮症など)、循環血液量の減少、降圧薬・利尿薬などがある。
診察室外の血圧
家庭血圧(朝・晩に坐位で測る)や24時間自由行動下血圧測定を使うと、白衣高血圧(診察室でだけ高い)や仮面高血圧(診察室以外で高い)を見つけられる。家庭血圧は診察室血圧よりも予後との関連が強いとされる。
POINT
・血圧測定の標準体位は坐位である(WHO・各国のガイドライン)。 ・坐位で数分間安静にしてから、上腕のカフを心臓の高さに合わせて測る。 ・カフが心臓より高いと低く、低いと高く測定される(静水圧の影響)。 ・立位での測定は起立性低血圧の評価に用いる(収縮期20 mmHg以上、または拡張期10 mmHg以上の低下)。 ・臥床中の患者は仰臥位で測るが、その値は坐位の値と一致するとは限らない。
