StudyMed医師国家試験

「ごくん」で動けば甲状腺―嚥下が教えてくれる腫瘤の正体

第102回医師国家試験 H問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第102回 H問題 第8問

甲状腺腫瘍の触診の際に患者に行わせるのはどれか。

  1. a.嚥下
  2. b.発声
  3. c.深呼吸
  4. d.頸部の回旋
  5. e.頸部の前屈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は甲状腺の触診で患者さんにどんな動作をしてもらうか、という身体診察の問題だ。ポイントは甲状腺の解剖、特に「何にくっついているか」を思い出すこと。そこから答えが自然に導けるよ。甲状腺はどこにあって、どんな構造だったかな。
医学生医学生
前頸部で気管の前にあって、左右の葉と、それをつなぐ峡部からなる臓器です。解剖実習で蝶のような形だと思った記憶があります。
ドクタードクター
いいね。峡部は輪状軟骨のすぐ下にあって、触診の目印になる。そして大事なのは、甲状腺が気管前葉やBerry靱帯によって喉頭・気管に固定されていることだ。では、喉頭が大きく動く動作といえば?
医学生医学生
飲み込むときですね。嚥下で喉頭が挙上するので、甲状腺も一緒に上下に動くということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。だから正解は嚥下だ。触診中に唾液や少量の水を飲み込んでもらうと、甲状腺が指の下を滑るように動く。これで分かることが大きく3つある。
医学生医学生
1つは、その腫瘤が甲状腺由来かどうか、ですか。
ドクタードクター
そう。甲状腺の腫瘤は嚥下で一緒に動くけれど、頸部リンパ節や他の軟部組織の腫瘤は基本的に動かない。2つ目は、甲状腺が指の下を移動するので、辺縁や大きさ、硬さ、表面の性状、結節の有無を評価しやすくなること。3つ目は、周囲への固定の有無だ。
医学生医学生
動きが悪ければ、周りに浸潤しているかもしれない、ということですね。
ドクタードクター
その通りで、悪性を疑う所見になる。では他の選択肢も見ていこう。発声はどうかな。甲状腺癌と声の関係は覚えている?
医学生医学生
甲状腺の背面を反回神経が走っているので、癌が浸潤すると嗄声が出ると習いました。だから声を出させるのかと少し迷いました。
ドクタードクター
迷うポイントだね。声の変化に注意するのは問診や会話の段階では大切だ。でも発声しても甲状腺が触れやすくなるわけではない。声帯麻痺の有無は喉頭ファイバースコープで声帯の動きを見て確認するんだ。
医学生医学生
深呼吸は、腹部診察で肝臓や脾臓を触るときにやってもらう動作ですよね。
ドクタードクター
よく区別できているね。肝臓・脾臓・腎臓は横隔膜と一緒に動くから深呼吸が役立つけれど、甲状腺は呼吸ではほとんど位置が変わらない。だから甲状腺の触診では使わない。
医学生医学生
頸部の回旋や前屈はどうでしょう。OSCEの練習で、あごを少し動かしてもらった気がします。
ドクタードクター
そこは丁寧に整理しておこう。胸鎖乳突筋の緊張をとるために、あごを触診する側へ軽く向けたり、首を軽く曲げてもらったりすることはある。ただ、大きく回旋させるとかえって胸鎖乳突筋が緊張するし、強く前屈すると甲状腺があごの下に隠れて触れにくくなる。あくまで補助的な姿勢の調整で、腫瘍を評価するための動作ではないんだ。逆に視診のときは、首を軽く後屈させて前頸部を伸ばすと腫大が見やすくなるよ。
医学生医学生
姿勢は触りやすくする工夫で、評価のための動作は嚥下、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧。発展として、触診所見から疾患を考える視点も押さえておこう。Basedow病はびまん性で比較的軟らかく、血管雑音を聴くことがある。橋本病はびまん性で弾性硬。亜急性甲状腺炎は圧痛を伴う硬い腫大で、痛む部位が移動することがある。乳頭癌などの甲状腺癌は硬く、表面不整で可動性の悪い結節になりやすい。
医学生医学生
正中の頸部腫瘤で、甲状舌管嚢胞というのもありましたよね。あれも嚥下で動くんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。甲状舌管嚢胞は舌骨と連続しているので嚥下でも動くけれど、舌を突き出したときにも上に動く。これが甲状腺腫瘤との鑑別点になる。臨床では、嚥下での可動性と頸部リンパ節の腫大をセットで確認する習慣をつけておこう。

まとめ

甲状腺は気管前葉やBerry靱帯で喉頭・気管に固定されているため、嚥下で喉頭が挙上すると一緒に上下に動きます。触診中に嚥下させることで、腫瘤が甲状腺由来か(リンパ節は動かない)、大きさや硬さ・表面の性状はどうか、周囲に固定されていないか(固定は悪性の浸潤を示唆)を評価できます。発声は反回神経麻痺の問診上の手がかりにはなりますが触診には役立たず、深呼吸は横隔膜とともに動く腹部臓器の触診で用いる動作です。頸部の軽い回旋や屈曲は胸鎖乳突筋を緩める補助的な工夫にとどまり、強い前屈はかえって触診を妨げます。甲状舌管嚢胞が舌の突出で動くことも含め、解剖から身体所見を理解することが頸部腫瘤の鑑別の基本になります。

解答・解説

正解はaです

甲状腺は、前頸部で喉頭の下部から気管の上部にまたがる臓器で、左右の葉とそれをつなぐ峡部からなる。峡部は輪状軟骨のすぐ下にある。甲状腺は気管前葉(頸部の筋膜の一部)や、気管・輪状軟骨に付着する靱帯(Berry靱帯)によって喉頭・気管に固定されている。そのため、嚥下で喉頭が挙上すると、甲状腺も一緒に上下に動く。 触診のときに患者に唾液や少量の水を飲み込ませると、次のことがわかる。 (1) 動く腫瘤が甲状腺由来であることを確認できる。頸部のリンパ節や他の軟部組織の腫瘤は嚥下で動かない。 (2) 甲状腺が指の下を滑るように移動するため、辺縁、大きさ、硬さ、表面の性状、結節の有無を評価しやすくなる。 (3) 腫瘍が周囲に浸潤して固定されていると、嚥下しても動きが悪い。これは悪性を疑う所見になる。 したがって、甲状腺腫瘍の触診で患者に行わせる動作は嚥下である。

選択肢考察

  1. ○a.  嚥下

    甲状腺は喉頭・気管に固定されているため、嚥下に伴って上下に動く。触診中に唾液や水を飲み込ませると、次の3点を評価できる。腫瘤が甲状腺由来かどうか(甲状腺の腫瘤は動き、リンパ節は動かない)、腫瘤の境界・大きさ・硬さ、周囲組織への固定の有無(固定されていれば悪性の浸潤を疑う)である。甲状腺の触診で標準的に行う操作である。

  2. ×b.  発声

    甲状腺の背面には反回神経が走っており、甲状腺癌がこの神経に浸潤すると声帯麻痺による嗄声が生じる。そのため、問診や会話で声の変化に注意することは大切である。しかし、発声しても甲状腺は触れやすくならないため、触診のときに行わせる動作ではない。声帯麻痺の有無は喉頭鏡(喉頭ファイバースコープ)で確認する。

  3. ×c.  深呼吸

    深呼吸は、肺の聴診や、肝臓・脾臓・腎臓など横隔膜に合わせて動く腹部臓器の触診で行わせる動作である。甲状腺の位置は呼吸ではほとんど変わらないため、甲状腺の触診では用いない。

  4. ×d.  頸部の回旋

    甲状腺の触診では、胸鎖乳突筋の緊張をとるために、あごを触診する側へ軽く向けさせることはある。しかし、頸部を大きく回旋させると胸鎖乳突筋が緊張し、かえって甲状腺に触れにくくなる。回旋自体は甲状腺の性状を評価する動作ではない。

  5. ×e.  頸部の前屈

    頸部を強く前屈させると、甲状腺があごの下に隠れて前頸部のスペースが狭くなり、触診しにくくなる。胸鎖乳突筋を緩めるために頸部を軽く曲げてもらうことはあるが、それは補助的な姿勢の調整である。甲状腺腫瘍を評価するために患者に行わせる動作ではない。なお、視診では頸部を軽く後屈させて前頸部を伸ばすと、甲状腺の腫大が見やすくなる。

甲状腺の視診

頸部を軽く後屈させて前頸部を伸ばし、正面から観察する。唾液や水を飲み込ませると、腫大した甲状腺が上下に動く様子が見やすい。

甲状腺の触診法

・後方から触診する方法: 検者は患者の背後に立ち、両手の示指・中指を前頸部に当てる。まず正中で輪状軟骨の下にある峡部を確認し、次に峡部と胸鎖乳突筋の間で左右の葉を上下に触れる。片方の指で喉頭を反対側へ軽く押すと、押された側の葉が前に出て触れやすくなる。 ・前方から触診する方法: 検者は患者と向かい合い、母指で峡部を確認し、峡部と胸鎖乳突筋の間で側葉を触れる。反対の母指で喉頭を軽く押しやると触れやすい。 ・どちらの方法でも、胸鎖乳突筋の緊張をとるため、頸部の力を抜かせ、あごを触診する側へ軽く向けさせるとよい。 ・触診中に嚥下させて、腫瘤が上下に動くか、周囲に固定されていないかを確認する。

触診で評価する項目

大きさ(びまん性か結節性か)、硬さ(軟、弾性硬、硬)、表面の性状(平滑か凹凸か)、圧痛の有無、可動性、頸部リンパ節の腫大。 ・Basedow病: びまん性で弾性があり、比較的軟らかい腫大。血流が多いと血管雑音を聴取することがある。 ・慢性甲状腺炎(橋本病): びまん性で弾性硬の腫大。表面がやや凹凸になることがある。 ・亜急性甲状腺炎: 圧痛を伴う硬い腫大で、痛む部位が移動することがある。 ・甲状腺癌(乳頭癌など): 硬く、表面不整で、可動性が悪い結節。頸部リンパ節の腫大を伴うことがある。未分化癌は急速に増大し、周囲へ浸潤して固定される。

嚥下以外で動く頸部の腫瘤

甲状舌管嚢胞は舌骨と連続しているため、嚥下だけでなく舌を突き出したときにも上に動く。この点が甲状腺腫瘤との鑑別になる。

反回神経麻痺

甲状腺癌が反回神経に浸潤したり、手術で神経を損傷したりすると、声帯麻痺による嗄声が生じる。喉頭鏡で声帯の動きを確認する。

POINT

・甲状腺は喉頭・気管に固定されているため、嚥下とともに上下に動く。 ・触診時に嚥下させると、腫瘤が甲状腺由来か(リンパ節は動かない)、周囲に固定されていないか(固定されていれば悪性の浸潤を疑う)を評価できる。 ・峡部は輪状軟骨のすぐ下にあり、触診の目印になる。 ・胸鎖乳突筋の緊張をとると触れやすくなる。 ・甲状舌管嚢胞は舌を突き出すと上に動く。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。