立ち上がると戻らない血圧、走り続ける脈―起立試験は「1分後」を読め
第102回医師国家試験 G問題 第47問
国試問題にチャレンジ
24歳の女性。立ちくらみを主訴に来院した。2年前から臥位から急に起立すると立ちくらみを起こすことがしばしばあった。3か月前から起立時に眼前が暗くなって倒れることが3回あった。意識は清明。身長155 cm,体重47 kg。脈拍80/分,整。血圧124/76 mmHg。胸部所見に異常はない。神経学的所見に異常はない。起立試験の結果を別に示す。 異常と考えられるのはどれか。2つ選べ。

- a.起立前の脈圧
- b.起立前の血圧
- c.起立前の心拍数
- d.起立1分以降の血圧
- e.起立1分以降の心拍数
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
起立試験(Schellong試験)では、起立前の安静時の値と起立後の推移を分けて評価し、血圧と心拍数を必ず組み合わせて読むことが重要です。健常者では起立直後に一過性の血圧低下が起きても、圧受容体反射により心拍数が10〜20/分程度増えて1分以内に血圧が回復しますが、起立後3分以内に収縮期20 mmHg以上または拡張期10 mmHg以上の持続的低下があれば起立性低血圧と判定します。本例は起立前の血圧・脈圧・心拍数は正常で、起立1分以降の持続する血圧低下と著明な頻脈が異常所見です。頻脈を伴う場合は反射経路が保たれた非神経原性(循環血液量減少、薬剤、副腎不全など)、心拍数が増えない場合は自律神経障害による神経原性を考え、血圧低下を伴わない頻脈ならPOTSを鑑別します。この「血圧と脈のセット読み」は、失神やめまいの原因検索を進めるうえでの基本的な考え方になります。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・24歳女性。2年前から、臥位から急に立ち上がると立ちくらみが起こる。3か月前からは起立時に眼の前が暗くなって倒れること(失神またはその前段階)が3回あった。 ・身長155 cm、体重47 kg(BMI≒19.6)で体格は標準。安静時の脈拍80/分・整、血圧124/76 mmHgは正常範囲。胸部所見・神経学的所見に異常はない。 ・症状が「起立」という体位変換に一致して起こっていることから、起立時の循環調節の障害(起立性低血圧など)を疑い、起立試験が行われている。
起立試験の読み方
起立試験(Schellong試験)は、臥位で数分間安静にして血圧・心拍数が安定したのを確認してから立位をとらせ、起立直後から数分間(可能なら10分間)、血圧と心拍数の推移を観察する検査である。本問の図は、1拍ごとに連続記録した心拍数(上段)と血圧(下段)の推移を示している。 ・起立前:心拍数はおよそ80~90/分、血圧は収縮期110~120 mmHg前後で安定しており、いずれも正常である。 ・起立直後:血圧は急激に大きく落ち込み、その後いくらか戻るものの、起立1分以降も起立前より明らかに低い値(収縮期でおよそ30~40 mmHg低い水準)が持続している。 ・心拍数:起立とともに上昇し、1分以降は120~130/分前後の頻脈が持続している。 健常者では起立に伴い一過性に血圧が下がっても、圧受容体反射によって交感神経が働き、心拍数の軽度増加(10~20/分程度)と末梢血管収縮により、血圧は速やかに元の水準に回復する。本例では、起立後に血圧低下が持続し、同時に心拍数が著しく増加し続けている。すなわち「起立1分以降の血圧」と「起立1分以降の心拍数」が異常である。
病態の推定
起立後に反射性の頻脈が十分に生じているので、圧受容体反射の経路(自律神経)自体は機能していると考えられる。頻脈で代償しても血圧が保てないことから、循環血液量の減少、静脈還流の低下、血管作動薬の影響、副腎不全などの内分泌異常といった、自律神経障害以外の原因(非神経原性)による起立性低血圧が考えやすい。神経学的所見に異常がない点もこれに合う。一方、自律神経障害による神経原性起立性低血圧では、血圧が下がっても心拍数がほとんど増えないのが特徴である。
選択肢考察
- ×a. 起立前の脈圧
脈圧は収縮期血圧と拡張期血圧の差で、成人ではおおむね40~60 mmHgが標準的である。本例の安静時血圧124/76 mmHgから求めると脈圧は48 mmHgで、図の起立前の記録でも安定した値を示しており、正常である。
- ×b. 起立前の血圧
安静時の血圧は124/76 mmHgで、高血圧(140/90 mmHg以上)にも低血圧(収縮期血圧がおおむね100 mmHg未満)にも該当しない。図の起立前の血圧も安定して推移しており、異常とはいえない。
- ×c. 起立前の心拍数
起立前の心拍数は80~90/分程度で、成人の正常範囲(おおむね60~100/分)に入っている。変動も小さく安定しており、異常はない。安静時に極端な徐脈や頻脈、不整脈がないことから、不整脈による失神も考えにくい。
- ○d. 起立1分以降の血圧
起立直後に血圧が大きく落ち込み、その後の回復は不十分で、1分以降も起立前より収縮期・拡張期ともに明らかに低い値が続いている。健常者なら反射により速やかに回復するはずの血圧が戻らないことは、起立時の血圧維持機構が破綻していることを意味し、異常である。起立後3分以内に収縮期血圧20 mmHg以上または拡張期血圧10 mmHg以上の持続的低下を認めれば起立性低血圧と判定され、本例はこれを満たす。
- ○e. 起立1分以降の心拍数
起立とともに心拍数が上昇し、1分以降は120~130/分前後の頻脈が持続している。健常者の起立時の心拍数増加は10~20/分程度で、本例のような40/分を超える増加が続くのは異常である。血圧低下を反射性頻脈で代償しようとしている状態であり、自律神経の反射経路は保たれていることを示す(非神経原性の病態を示唆する所見でもある)。
起立時の正常な循環反応
立位になると重力によって約500~800 mLの血液が下肢や腹部の静脈に貯留し、静脈還流と心拍出量が一時的に減る。これを頸動脈洞・大動脈弓の圧受容体が感知し、延髄の血管運動中枢を介して交感神経が亢進、副交感神経が抑制される。その結果、心拍数増加・心収縮力増強・末梢血管収縮が起こり、血圧は1分以内にほぼ元に戻る。
起立性低血圧の判定基準(代表的なもの)
起立後3分以内に、収縮期血圧が20 mmHg以上、または拡張期血圧が10 mmHg以上、持続的に低下するもの。
起立性低血圧の分類
・神経原性:自律神経の障害で、圧受容体反射による交感神経の反応が起こらない。起立時に血圧が下がっても心拍数がほとんど増えないのが特徴。原因として多系統萎縮症、Parkinson病、純粋自律神経不全症、糖尿病性・アミロイド・アルコール性などの自律神経ニューロパチーがある。 ・非神経原性:反射経路は保たれているため頻脈を伴う。原因として脱水・出血などの循環血液量減少、長期臥床、降圧薬・利尿薬・α遮断薬・硝酸薬などの薬剤、副腎皮質機能低下症、心拍出量低下を来す心疾患などがある。
関連する病態
・体位性頻脈症候群(POTS):起立後10分以内に心拍数が30/分以上(12~19歳では40/分以上)増加し、起立性低血圧を伴わずに起立不耐症状が続くもの。若年女性に多い。 ・血管迷走神経反射性失神:長時間の立位などを誘因に、突然の血圧低下と徐脈を来して失神する。起立直後ではなく、しばらく立っていた後に起こりやすい。
起立試験の方法(Schellong試験)
臥位で5~10分安静にした後、立位をとらせ、直後から1分ごとに数分間(可能なら10分間)血圧と脈拍を測定する。さらに詳しくは、傾斜台を用いるヘッドアップティルト試験が行われる。
POINT
・起立性低血圧:起立後3分以内に収縮期血圧20 mmHg以上または拡張期血圧10 mmHg以上の持続的低下。 ・起立時に頻脈を伴えば非神経原性(循環血液量減少・薬剤・内分泌異常など)、頻脈を伴わなければ神経原性(自律神経障害)を考える。 ・健常者でも起立直後に一過性の血圧低下はあるが、1分以内に回復し、心拍数の増加は10~20/分程度にとどまる。 ・本例の異常は、起立1分以降の持続する血圧低下と著明な頻脈である。
