学校検尿の尿糖が語るもの―肥満の17歳と黒色表皮腫が示す2型糖尿病
第102回医師国家試験 G問題 第48問
国試問題にチャレンジ
17歳の男子。学校検尿で2回とも尿糖陽性であったために精査を勧められて来院した。これまで口渇,多飲および体重減少は認めなかった。身長174 cm,体重96 kg。血圧118/78 mmHg。腋窩に黒色表皮腫を認める。血液生化学所見:随時血糖201 mg/dL,HbA1c 6.6%(基準4.3~5.8)。 最も考えられるのはどれか。
- a.腎性糖尿
- b.1型糖尿病
- c.2型糖尿病
- d.Cushing症候群
- e.境界型糖代謝異常
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
糖尿病の診断では、空腹時血糖126 mg/dL以上、OGTT2時間値200 mg/dL以上、随時血糖200 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上(NGSP値)のいずれかを糖尿病型とし、同じ採血で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型なら1回で糖尿病と診断できます。病型の判断では、高度肥満、高血糖症状のない緩徐な経過、インスリン抵抗性の皮膚徴候である黒色表皮腫がそろえば2型糖尿病が強く示唆され、近年は学校検尿で見つかる若年者の糖尿病でも肥満を伴う2型が多くなっています。腎性糖尿では血糖値・HbA1cが正常であり、境界型は糖尿病型に満たない段階、Cushing症候群は中心性肥満や赤色皮膚線条などを伴う点で区別されます。若年でも1型と決めつけず、必要に応じて膵島関連自己抗体で確認する姿勢が大切です。「診断の確定」と「病型の推定」を分けて考える手順は、糖尿病診療の基本であり、思春期の2型糖尿病の早期発見と長期支援にもつながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・17歳男子。学校検尿で2回続けて尿糖陽性を指摘された。 ・口渇、多飲、体重減少といった高血糖症状はこれまでない。つまり急激に発症した経過ではない。 ・身長174 cm、体重96 kgで、BMI≒96÷1.74÷1.74≒31.7 kg/m²と高度の肥満である。 ・腋窩に黒色表皮腫がある。黒色表皮腫は頸部・腋窩などの間擦部に生じる、ビロード状に肥厚した黒褐色の色素沈着で、肥満に伴うインスリン抵抗性と高インスリン血症の代表的な皮膚所見である。 ・随時血糖201 mg/dL、HbA1c 6.6%(基準4.3~5.8%)。
糖尿病の診断
日本糖尿病学会の診断基準では、次のいずれかを「糖尿病型」とする。 ・空腹時血糖126 mg/dL以上 ・75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200 mg/dL以上 ・随時血糖200 mg/dL以上 ・HbA1c 6.5%以上(NGSP値) 同じ採血で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型であれば、1回の検査で糖尿病と診断できる。本例は随時血糖201 mg/dLで血糖値が糖尿病型であり、HbA1c 6.6%も基準を大きく超えて糖尿病型の範囲にある(本問の基準値4.3~5.8%は当時用いられていたJDS値の基準で、JDS値6.6%はNGSP値でおよそ7.0%に相当する)。したがって糖尿病と確定できる。
病型の判断
糖尿病と診断したら次に病型を考える。本例は、高度肥満があり、高血糖症状のないまま健診の尿糖で見つかった緩徐な経過で、しかもインスリン抵抗性を示す黒色表皮腫を伴っている。これらはいずれもインスリン抵抗性を基盤とする2型糖尿病に典型的な特徴である。小児・思春期の糖尿病は1型が多いという印象があるが、近年の日本では学校検尿で見つかる糖尿病の多くが肥満を伴う2型糖尿病である。肥満と高血糖をきたす二次性の原因としてCushing症候群も考えるが、それを示唆する所見は記載されていない。以上から、最も考えられるのは2型糖尿病である。
選択肢考察
- ×a. 腎性糖尿
腎性糖尿は、近位尿細管でのブドウ糖再吸収能が低下する(SGLT2遺伝子の異常などによる)ため、血糖値が正常でも尿糖が陽性となる状態である。血糖値とHbA1cは正常範囲にとどまる。本例は随時血糖201 mg/dL、HbA1c 6.6%と明らかな高血糖があるため、尿糖は高血糖によるものであり、腎性糖尿ではない。
- ×b. 1型糖尿病
1型糖尿病は、主に自己免疫機序で膵β細胞が破壊され、インスリン分泌が枯渇して発症する。典型例では口渇・多飲・多尿・体重減少などの症状が急に現れ、ケトアシドーシスで発見されることもある。やせ型のことが多く、肥満やインスリン抵抗性とは結びつかない。無症状で高度肥満と黒色表皮腫を伴う本例には合わない。ただし学校検尿で見つかる緩徐進行型もあるため、実際の診療では抗GAD抗体などの膵島関連自己抗体を測定して確認する。
- ○c. 2型糖尿病
随時血糖201 mg/dLとHbA1c 6.6%がともに糖尿病型であり、糖尿病と診断できる。そのうえで、BMI約31.7の高度肥満、高血糖症状を欠く緩徐な経過、インスリン抵抗性・高インスリン血症の皮膚徴候である黒色表皮腫がそろっており、インスリン抵抗性を基盤とする2型糖尿病の特徴に合致する。思春期の2型糖尿病は肥満の増加とともに増えており、学校検尿の尿糖で発見される典型例である。
- ×d. Cushing症候群
Cushing症候群では、コルチゾール過剰によって肥満と耐糖能異常(二次性糖尿病)が生じることがある。しかしその肥満は満月様顔貌や野牛肩を伴う中心性肥満で、幅の広い赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化、筋力低下、高血圧、低K血症などを伴うのが特徴である。本例ではこれらの所見がなく、血圧も118/78 mmHgと正常である。単純性肥満に伴う2型糖尿病の方がはるかに考えやすい。
- ×e. 境界型糖代謝異常
境界型は、血糖値が正常型にも糖尿病型にも当てはまらない状態をいう(空腹時血糖110~125 mg/dL、またはOGTT 2時間値140~199 mg/dLなど)。本例は随時血糖・HbA1cとも糖尿病型で、同じ採血で両者がそろっているため糖尿病と診断される。境界型の段階は越えている。
糖尿病の診断手順(日本糖尿病学会)
1. 糖尿病型の判定:空腹時血糖126 mg/dL以上、OGTT 2時間値200 mg/dL以上、随時血糖200 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上のいずれか。 2. 以下のいずれかで糖尿病と診断する。 ・血糖値とHbA1cがともに糖尿病型(同じ日の採血でもよい)。 ・血糖値が糖尿病型で、口渇・多飲・多尿・体重減少などの典型的症状がある、または確実な糖尿病網膜症がある。 ・別の日に行った検査で糖尿病型が再度確認される(ただしHbA1cのみの反復では診断できない)。
OGTTによる判定区分
・正常型:空腹時血糖110 mg/dL未満かつ2時間値140 mg/dL未満 ・糖尿病型:空腹時血糖126 mg/dL以上または2時間値200 mg/dL以上 ・境界型:正常型にも糖尿病型にも属さないもの
HbA1cの表記
2012年まで日本ではJDS値が用いられ、現在は国際標準のNGSP値に統一されている。NGSP値はJDS値よりおよそ0.4%高い。
1型と2型の比較
・1型:自己免疫によるβ細胞破壊→インスリン欠乏。若年でやせ型が多く、急激な発症、ケトアシドーシスを起こしやすい。膵島関連自己抗体(抗GAD抗体など)が陽性。治療はインスリンが必須。 ・2型:インスリン抵抗性とインスリン分泌低下の組み合わせ。肥満、家族歴、生活習慣が関与し、緩徐に発症して無症状のことが多い。食事・運動療法が基本。
黒色表皮腫
頸部、腋窩、鼠径部などの皮膚が黒褐色でビロード状に厚くなる。肥満・2型糖尿病・多囊胞性卵巣症候群などインスリン抵抗性を伴う病態でみられ、高濃度のインスリンがインスリン様成長因子-1(IGF-1)受容体などを介して表皮角化細胞や線維芽細胞の増殖を促すことが原因と考えられている。中高年で急速に出現する場合は胃癌などの内臓悪性腫瘍に伴う悪性型を疑う。
POINT
・随時血糖200 mg/dL以上とHbA1c 6.5%以上(NGSP)が同じ採血でそろえば、1回で糖尿病と診断できる。 ・肥満、無症状で緩徐な経過、黒色表皮腫(インスリン抵抗性の徴候)は2型糖尿病を示唆する。 ・学校検尿で見つかる若年者の糖尿病は、肥満を伴う2型糖尿病が多い。 ・腎性糖尿では血糖値・HbA1cは正常である。
