StudyMed医師国家試験

赤い血清はウソをつく―溶血で跳ね上がる検査値の見抜き方

第102回医師国家試験 G問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第13問

検体が溶血を起こしたとき,検査値が大きく変化するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.総蛋白
  2. b.カリウム
  3. c.クレアチニン
  4. d.クレアチンキナーゼ〈CK〉
  5. e.乳酸デヒドロゲナーゼ〈LD〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、採血した検体が溶血してしまったとき、どの検査値が見かけ上大きく動くかという問題だ。病気そのものではなく「検体の扱い」が結果をゆがめるという、臨床検査の基本中の基本だね。考えるカギは一つだけ、「その成分は赤血球の中にどれくらい多く含まれているか」だよ。
医学生医学生
溶血というと、赤血球が壊れて中身が外に出るということですよね。だから赤血球の中にたくさんある物質が増える、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その通り。もう少し正確に言うと、「赤血球内の濃度が血清中の濃度よりはるかに高い成分」ほど、溶血の影響を大きく受ける。逆に、血清中にもともと同じくらい、あるいはそれ以上ある成分は、少し赤血球の中身が混ざっても値はほとんど変わらないんだ。
医学生医学生
なるほど、絶対量よりも「赤血球内と血清の濃度比」が大事なんですね。生理学の講義で、細胞内液はカリウムが多くて細胞外液はナトリウムが多いと習いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。体内のカリウムの90%以上はNa+,K+-ATPase、いわゆるナトリウムポンプの働きで細胞内に保たれている。赤血球内のカリウム濃度は血清の数十倍、おおよそ20〜40倍とされる。だから少し溶血しただけで血清カリウムは見かけ上大きく上がる。これを偽性高カリウム血症と呼ぶんだ。
医学生医学生
もう一つの正解は乳酸デヒドロゲナーゼでしょうか。溶血性貧血でLDが上がると血液内科の講義で聞いた覚えがあります。
ドクタードクター
正解。LDは解糖系の最後、ピルビン酸と乳酸の変換を担う酵素で、ミトコンドリアをもたない赤血球はエネルギーを解糖系に頼っているから、LDを豊富に含んでいる。赤血球内のLD活性は血漿の約160倍とも言われ、溶血の影響はトップクラスだ。上がるのは主に赤血球や心筋に多いアイソザイムのLD1・LD2だね。生体内で起こる溶血性貧血でも同じ理屈でLDが上がる。
医学生医学生
クレアチンキナーゼも酵素なので、同じように上がりそうな気がしてしまいました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。CKは骨格筋、心筋、脳に多い酵素で、赤血球にはほとんど含まれていない。だから溶血しても大きくは変わらない。赤血球のアデニル酸キナーゼが測定に干渉して少し高く出る可能性は指摘されているけれど、通常の測定法では阻害剤が入っていて影響は小さいんだ。「酵素だから上がる」ではなく、「赤血球に多いかどうか」で判断しよう。
医学生医学生
クレアチニンはどうですか。筋肉の代謝産物なので、赤血球とは関係なさそうですが。
ドクタードクター
その推論でいい。クレアチニンは赤血球内と血漿中の濃度比が約1.6倍程度と差が小さく、溶血しても測定値は大きく変わらない。腎機能の指標として、脱水や腎不全で上がる項目として押さえておけば十分だ。
医学生医学生
総蛋白は、ヘモグロビンも蛋白質だから少し上がりそうに思えます。
ドクタードクター
鋭いね。実際、遊離したヘモグロビンが蛋白として一部測り込まれて、わずかに高めに出ることはありうる。ただ、総蛋白はもともと血清中に6.5〜8.0 g/dLと大量にあるから、多少のヘモグロビンが混じっても値が大きく動くことはない。分母が大きいので影響が埋もれてしまうイメージだね。
医学生医学生
つまり、赤血球の中に濃縮されているカリウムとLDが大きく動き、CK・クレアチニン・総蛋白はほとんど動かない、ということですね。
ドクタードクター
そう。整理のために、溶血で上がりやすい項目を他にも挙げておこう。ASTも赤血球内に多く、溶血で上がる。ALTは影響が比較的小さいから、ASTだけが不釣り合いに高いときは溶血を疑うヒントになる。そのほか酸性ホスファターゼや、ヘモグロビン由来の鉄も上がる。ヘモグロビンの赤い色が比色法に干渉して、ビリルビンなどの測定に影響することもあるよ。
医学生医学生
臨床実習で採血をさせてもらったとき、細い針で強く吸ったら看護師さんに「溶血するよ」と注意されました。
ドクタードクター
まさにそれが典型的な原因だ。細い針での強い陰圧、採血管への勢いよい注入、強い振盪、長い駆血時間などで溶血しやすい。さらに、全血のまま長時間放置したり冷蔵したりすると、ナトリウムポンプが働かずにカリウムが漏れ出してくる。だから速やかな血清分離が大切なんだ。
医学生医学生
血清が赤っぽかったら、その結果は信用しないほうがいいということですね。
ドクタードクター
その通り。溶血検体の結果は解釈せず、再採血を検討する。もう一つ覚えておきたいのが、溶血以外の偽性高カリウム血症だ。著明な血小板増多症や白血球増多症では、血液が固まる過程で細胞からカリウムが出てきて血清カリウムが高く出る。この場合はヘパリン採血の血漿で測れば正常値になる。
医学生医学生
救急外来でカリウムがすごく高いのに心電図が全然変わっていなかったら、まず偽性を疑えばいいんでしょうか。
ドクタードクター
そう、それは大事な臨床感覚だ。もちろん真の高カリウム血症を見逃してはいけないから、心電図や患者の状態と照らし合わせつつ、再検で確認する。検査値は「どう採られたか」まで含めて読む、という姿勢を身につけてほしいね。

まとめ

検体が溶血すると赤血球の内容物が血清中に漏れ出すため、赤血球内濃度が血清濃度より著しく高い成分ほど測定値が見かけ上大きく上昇します。代表はLD(赤血球内/血漿比 約160倍、主にLD1・LD2)とカリウム(約20〜40倍)で、ほかにAST、酸性ホスファターゼ、鉄も上がります。一方、CKは赤血球にほとんど含まれず、クレアチニンは濃度比が小さく、総蛋白は血清中に大量に存在するため、いずれも影響はわずかです。偽性高カリウム血症は溶血のほか、全血の放置・冷蔵や著明な血小板・白血球増多でも起こるため、心電図変化を伴わない高カリウム血症では再採血で確認することが重要です。検査値を採血手技や検体の状態と結びつけて解釈する視点は、日常診療での誤判断を防ぐ基本となります。

解答・解説

正解はb, eです

問われていること

採血後の検体で赤血球が壊れる(溶血する)と、赤血球の中にあった成分が血清(血漿)中へ漏れ出す。その結果、「赤血球内の濃度が血清中の濃度よりはるかに高い成分」ほど、見かけ上の測定値が大きく上昇する。したがって本問は、各項目について赤血球内と血清中の濃度比を考えれば解ける。

考え方

・赤血球内濃度が血清の10倍以上になる成分:LD(乳酸デヒドロゲナーゼ、約160倍)、カリウム(約20〜40倍)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、酸性ホスファターゼ、鉄(ヘモグロビン由来)など。これらは溶血で大きく上昇する。 ・赤血球内にほとんど存在しない、あるいは赤血球内と血清中の濃度に大差がない成分:クレアチニン(比は約1.6倍程度)、CK(クレアチンキナーゼ)、総蛋白など。これらは溶血の影響が小さい。 以上から、溶血で大きく変化するのはカリウムとLDである。

選択肢考察

  1. ×a.  総蛋白

    総蛋白は血清中に約6.5〜8.0 g/dLと高濃度に存在するため、溶血で遊離したヘモグロビンが蛋白として一部測り込まれ、わずかに高めに出ることはあっても、値が大きく動くことはない。総蛋白が問題となるのは、低栄養・肝硬変・ネフローゼ症候群での低下や、多発性骨髄腫・慢性炎症での上昇など、病態による変化である。

  2. ○b.  カリウム

    体内のカリウムの90%以上はNa+,K+-ATPase(ナトリウムポンプ)の働きで細胞内に保たれており、赤血球内のカリウム濃度は血清の数十倍(約20〜40倍)に達する。このため少量の溶血でも赤血球内のカリウムが血清中に流出し、血清カリウム値は見かけ上大きく上昇する(偽性高カリウム血症)。また、全血のまま長時間放置したり冷蔵したりしてもポンプが働かず、カリウムが漏れ出して値が変動するため、速やかな血清分離が重要である。

  3. ×c.  クレアチニン

    クレアチニンは筋肉のクレアチンの代謝産物で、腎糸球体で濾過され尿細管でほとんど再吸収されずに尿中に排泄されるため、腎機能の指標として用いられる。腎不全や脱水などで高値となる。赤血球内と血漿中の濃度比は約1.6倍程度と差が小さいため、溶血しても測定値が大きく変わることはない。

  4. ×d.  クレアチンキナーゼ〈CK〉

    CKは骨格筋、心筋、脳に多く含まれる酵素で、心筋梗塞、多発性筋炎などの筋疾患、横紋筋融解症、甲状腺機能低下症などで上昇する。赤血球にはCKはほとんど含まれないため、溶血によって値が大きく変化することはない。なお、赤血球に含まれるアデニル酸キナーゼが測定反応に干渉して軽度高値となる可能性はあるが、通常の測定法では阻害剤が加えられており、影響は小さい。

  5. ○e.  乳酸デヒドロゲナーゼ〈LD〉

    LDは解糖系の最終段階(ピルビン酸と乳酸の相互変換)を担う酵素で、赤血球にも豊富に含まれる。赤血球内のLD活性は血漿の約160倍と極めて高いため、わずかな溶血でも測定値が大きく上昇する。溶血で増えるのは主に赤血球・心筋に多いアイソザイムであるLD1・LD2である。同じ理由で、生体内の溶血性貧血でもLDは上昇する。

溶血の影響を受ける検査項目(赤血球内濃度が高い成分)

・LD(特にLD1・LD2):赤血球内/血漿比 約160倍 ・カリウム:約20〜40倍 ・AST:約15〜40倍 ・酸性ホスファターゼ:赤血球内に多い ・鉄:ヘモグロビンに由来 ・その他、遊離ヘモグロビン自体による比色法への干渉(色調の影響)で、ビリルビンなど一部項目の測定値が変動することがある

影響を受けにくい項目

クレアチニン、尿素窒素、CK、ALT(ASTより影響は小さい)、ナトリウム、総蛋白、アルブミンなど。

採血時に溶血を起こす要因

細い針での強い陰圧吸引、採血管への勢いよい注入、強い振盪、長い駆血時間、全血のまま長時間放置・冷蔵保存など。検体の溶血が疑われるとき(血清が赤色調)は、結果を解釈せず再採血を検討する。

偽性高カリウム血症

溶血のほか、著明な血小板増多症や白血球増多症でも、凝固の過程で細胞からカリウムが放出され血清カリウムが見かけ上高値となる。この場合、ヘパリン採血の血漿カリウムを測れば正常値となる。心電図変化がない高カリウム血症では、まず偽性を疑う。

POINT

・溶血で上昇するのは赤血球内に多く含まれる成分:LD、カリウム、AST、酸性ホスファターゼ、鉄 ・LDは赤血球内/血漿比が約160倍と最も影響が大きい ・クレアチニン、CK、総蛋白は溶血の影響をほとんど受けない ・偽性高カリウム血症の原因として、検体溶血・全血放置・血小板/白血球増多を覚える

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。