胎児の記憶を呼び覚ます肝腫瘍―AFPが語る「肝細胞由来」というキーワード
第102回医師国家試験 G問題 第14問
国試問題にチャレンジ
血清AFP値が上昇するのはどれか。2つ選べ。
- a.肝悪性リンパ腫
- b.大腸癌肝転移
- c.肝内胆管癌
- d.肝細胞癌
- e.肝芽腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
AFPは胎児期に卵黄嚢と胎児肝で産生される糖蛋白で、成人では低値ですが、肝細胞が癌化して胎児型の性質を取り戻すと再び産生されるため、肝細胞由来の腫瘍である肝細胞癌と肝芽腫で上昇します。肝細胞癌ではAFP、AFP-L3分画、PIVKA-IIを組み合わせて評価し、小児の肝芽腫では約90%でAFPが著明高値となります。一方、胆管上皮由来の肝内胆管癌や大腸癌肝転移ではCEA・CA19-9、悪性リンパ腫では可溶性IL-2受容体やLDが指標となり、AFPは通常上昇しません。AFPは卵黄嚢腫瘍、慢性肝炎・肝硬変、妊娠(胎児の開放性神経管欠損で高値)、新生児期でも上昇しうるため、背景を踏まえた解釈が必要です。「臓器」ではなく「発生母地」で腫瘍マーカーを整理する考え方は、他の腫瘍マーカーの理解にも応用できます。
解答・解説
正解はd, eです
問われていること
AFP(α-フェトプロテイン)がどの肝腫瘍で上昇するかを問う、腫瘍マーカーの基本問題である。
AFPとは
AFPは胎児期に卵黄嚢と胎児肝で産生される糖蛋白で、胎児血中の主要な蛋白である。出生後は産生が急速に減り、成人の血中ではごく低値(おおむね10 ng/mL以下)となる。肝細胞が癌化して胎児型の性質を取り戻すと再びAFPを産生するため、肝細胞に由来する腫瘍(肝細胞癌、肝芽腫)や、卵黄嚢の成分を含む胚細胞腫瘍(卵黄嚢腫瘍など)で上昇する。
考え方
肝臓にできる腫瘍でも、発生母地が肝細胞かどうかで腫瘍マーカーが異なる。 ・肝細胞由来:肝細胞癌(成人)、肝芽腫(小児)→ AFP上昇 ・胆管上皮由来:肝内胆管癌 → CEA、CA19-9 ・他臓器癌の転移:大腸癌肝転移 → 原発巣のマーカー(CEA、CA19-9) ・リンパ球由来:悪性リンパ腫 → 可溶性IL-2受容体、LD したがって、AFPが上昇するのは肝細胞癌と肝芽腫である。
選択肢考察
- ×a. 肝悪性リンパ腫
肝の悪性リンパ腫はリンパ球系の腫瘍であり、肝細胞由来ではないためAFPは上昇しない。肝原発のリンパ腫はまれで、多くは全身性リンパ腫の節外病変として肝に浸潤したもの(Ann Arbor分類でstage IV)である。悪性リンパ腫では特異性の高い腫瘍マーカーが乏しいが、可溶性IL-2受容体(sIL-2R)とLD(乳酸デヒドロゲナーゼ)が病勢や治療効果の指標として広く用いられる。
- ×b. 大腸癌肝転移
転移性肝癌の腫瘍細胞は原発巣である大腸の腺癌の性質を保っているため、上昇するのは大腸癌のマーカーであるCEA(癌胎児性抗原)やCA19-9であり、AFPは通常上昇しない。大腸癌は血行性に門脈を経由して肝へ転移しやすく、転移性肝癌の原発巣として頻度が高い。
- ×c. 肝内胆管癌
肝内胆管癌(胆管細胞癌)は肝内の胆管上皮から発生する腺癌であり、肝細胞由来ではないためAFPは通常上昇しない。腫瘍マーカーとしてはCA19-9やCEAが用いられる。わが国の原発性肝癌の大部分(約95%)は肝細胞癌で、肝内胆管癌は数%程度である。
- ○d. 肝細胞癌
肝細胞癌は肝細胞が癌化した腫瘍で、胎児型の蛋白であるAFPを再び産生するようになるため血清AFPが上昇する。肝細胞癌の腫瘍マーカーとしては、AFP、AFPのレクチン親和性分画であるAFP-L3分画(肝細胞癌に特異性が高い)、PIVKA-II(ビタミンK欠乏時に出現する異常プロトロンビン、DCPとも呼ぶ)の3つが用いられる。なお、AFPは慢性肝炎や肝硬変でも軽度上昇することがあるため、AFP-L3分画やPIVKA-IIを組み合わせて評価する。
- ○e. 肝芽腫
肝芽腫は胎児期の未熟な肝細胞(肝芽細胞)に類似した細胞からなる悪性腫瘍で、小児の原発性肝悪性腫瘍の大部分を占め、3歳以下(特に乳幼児期)に好発する。胎児肝の性質をもつため大多数(約90%)の症例で血清AFPが著明に上昇し、診断や治療効果・再発の判定に用いられる。主な症状は上腹部の腫瘤や腹部膨満である。低出生体重児や家族性大腸腺腫症、Beckwith-Wiedemann症候群で発生リスクが高い。
AFPが上昇する主な病態
・腫瘍性:肝細胞癌、肝芽腫、卵黄嚢腫瘍(精巣・卵巣の胚細胞腫瘍の一型)、AFP産生胃癌など ・非腫瘍性:慢性肝炎・肝硬変(肝細胞再生に伴う軽度上昇)、劇症肝炎の回復期、妊娠(胎児由来で母体血中に移行)、新生児・乳児(生理的高値) ・妊娠時:母体血清AFP高値は胎児の開放性神経管欠損(二分脊椎、無脳症)や腹壁破裂などを示唆する
肝腫瘍と腫瘍マーカーの整理
・肝細胞癌:AFP、AFP-L3分画、PIVKA-II ・肝芽腫:AFP ・肝内胆管癌:CA19-9、CEA ・転移性肝癌:原発巣のマーカー(大腸癌ならCEA、CA19-9など) ・悪性リンパ腫:可溶性IL-2受容体、LD
原発性肝癌の内訳(わが国)
肝細胞癌が約95%、肝内胆管癌が数%で、混合型などはまれである。肝細胞癌の背景には慢性肝疾患(B型・C型肝炎ウイルス感染、アルコール性肝疾患、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患など)がある。
POINT
・AFPは胎児肝・卵黄嚢由来の蛋白で、肝細胞由来腫瘍(肝細胞癌・肝芽腫)と卵黄嚢腫瘍で上昇する ・肝細胞癌のマーカー:AFP、AFP-L3分画、PIVKA-II ・肝芽腫は3歳以下に好発し、約90%でAFPが著明高値 ・肝内胆管癌・大腸癌肝転移はCEA・CA19-9、悪性リンパ腫は可溶性IL-2受容体
