StudyMed医師国家試験

右を切ったら左が痛くない―交叉の高さで読み解くBrown-Séquard症候群

第102回医師国家試験 E問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第9問

第1胸椎レベルで脊髄の右半分を損傷したときにみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.左手掌の痛覚低下
  2. b.右上腕三頭筋の反射亢進
  3. c.左下肢の痛覚低下
  4. d.左下肢の深部反射亢進
  5. e.右下肢の筋力低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脊髄の片側だけが損傷されたときに何が起こるかを問う問題だ。いわゆるBrown-Séquard症候群だね。ポイントは2つ。ひとつは各伝導路が「どの高さで左右に交叉するか」、もうひとつは損傷の高さがT1、つまり上肢を支配する髄節のほぼ下端だということ。この2つを組み合わせれば、症状が出る「側」と「範囲」が決まるよ。
医学生医学生
神経解剖の講義で伝導路の図を何度も描かされましたが、交叉の場所がいつもごちゃごちゃになってしまいます。
ドクタードクター
じゃあ一緒に整理しよう。まず随意運動を伝える外側皮質脊髄路、いわゆる錐体路。これはどこで交叉する?
医学生医学生
延髄の錐体交叉です。だから脊髄の中では、もう支配する側と同じ側を下りている……ということですね。
ドクタードクター
その通り。だから右半側を損傷すると、損傷部より下の右側、つまり右下肢に上位運動ニューロン障害型の筋力低下が起こる。痙性麻痺で、腱反射亢進やBabinski徴候陽性を伴うのが典型だ。右下肢の筋力低下は正解のひとつだね。
医学生医学生
振動覚や位置覚の後索も延髄で交叉なので、同じく右側の障害になりますか。
ドクタードクター
そう。後索は脊髄内では同側を上行して、延髄の薄束核・楔状束核を出たあとに内側毛帯として交叉する。だから右下肢の深部感覚障害になる。ここまでは「損傷と同じ側」と覚えておけばいい。では温痛覚はどうだろう。
医学生医学生
外側脊髄視床路は……脊髄に入ってすぐ反対側に渡るんでしたっけ。
ドクタードクター
正解。後根から入った温痛覚の線維は、1〜2髄節上行するあいだに前白交連を通って対側へ移り、反対側を上っていく。だから右半側の損傷では、損傷部よりやや下のレベル以下で、左側の温痛覚が低下する。左下肢の痛覚低下がもうひとつの正解だ。
医学生医学生
運動と深部感覚は同側、温痛覚だけ対側。交叉が脊髄か延髄かの違いなんですね。
ドクタードクター
それが本質だよ。では残りの選択肢。左手掌の痛覚低下はどうかな。
医学生医学生
左側の温痛覚が落ちるなら、左手も含まれるような気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。手掌の皮膚感覚はおおむねC6〜C8の皮膚分節が担っている。この線維はT1より上で脊髄に入り、その高さで交叉して上っていくから、T1の損傷とは関係がない。対側の温痛覚低下が出るのは損傷部より1〜2髄節下以下、つまり体幹下部と下肢なんだ。
医学生医学生
なるほど、交叉してから傷の横を通らないので無事なんですね。右の上腕三頭筋反射の亢進はどうでしょう。右の錐体路が切れているので、亢進しそうにも思えます。
ドクタードクター
いい疑問だ。腱反射が亢進するのは、反射中枢より上で錐体路が障害されて抑制が外れたとき。上腕三頭筋反射の中枢は主にC7で、T1はそれより下だから影響は及ばない。同じ理屈で、上肢の腱反射はC5〜C8の範囲なので、T1損傷では原則として保たれるよ。
医学生医学生
左下肢の深部反射亢進は、反射が亢進するのは右下肢なので誤り、ということですね。
ドクタードクター
そう。左下肢を制御する錐体路は延髄で交叉したあと脊髄の左側を下りているから、右半側の損傷では保たれる。臨床実習で、片足は動かないのに痛みは反対の足が感じない、という患者さんを見たら、まずこの症候群を思い浮かべてほしい。
医学生医学生
整形外科を回ったとき、刺創で脊髄損傷になった方の話を聞きました。原因はやはり外傷が多いのですか。
ドクタードクター
刺創や銃創などの外傷が古典的だけど、髄外腫瘍や椎間板ヘルニアによる片側からの圧迫、多発性硬化症などの脱髄でも起こる。ただし純粋な半側切断はまれで、不完全な型が多い。それから細かい点だけど、損傷した高さそのものでは後根や前角が直接やられるので、同側に全感覚脱失の帯や、その髄節の下位運動ニューロン障害による筋萎縮がみられることがある。触覚は同側の後索と対側の前脊髄視床路の両方で伝わるから、障害は軽いことが多いよ。
医学生医学生
国試では、まず損傷側を基準にして同側か対側かを決めて、次に高さで上肢が含まれるかを確認する、という2段階で考えればよさそうです。
ドクタードクター
その手順で十分戦える。反射中枢の高さ、上腕二頭筋がC5〜C6、上腕三頭筋がC7中心、膝蓋腱がL2〜L4、アキレス腱がS1〜S2もセットで押さえておくと、脊髄障害の高位診断にそのまま使えるよ。

まとめ

脊髄の片側損傷で生じるBrown-Séquard症候群では、延髄で交叉する錐体路と後索の障害により、損傷部以下の同側に痙性の運動麻痺・腱反射亢進・深部感覚障害が起こり、脊髄に入ってすぐ交叉する外側脊髄視床路の障害により、損傷部よりやや下以下の対側に温痛覚障害が起こります。T1レベルの右半側損傷では、右下肢の筋力低下と左下肢の痛覚低下が現れ、C5〜C8が担う手掌の感覚や上腕三頭筋反射は原則として保たれます。腱反射の亢進は反射中枢より上で錐体路が障害されたときに生じる点も重要で、損傷の高さと反射中枢の位置関係を常に意識する必要があります。伝導路の交叉部位と髄節レベルを組み合わせて考える方法は、脊髄障害の局在診断全般の基礎となります。

解答・解説

正解はc, eです

脊髄の片側(右半分または左半分)だけが横断的に損傷されたときに現れる症候の組み合わせを、脊髄半側切断症候群(Brown-Séquard〈ブラウン・セカール〉症候群)という。本問はその症候を、伝導路が「どの高さで左右に交叉するか」から導けるかを問うている。

考え方の手順

1. 障害される高さを確認する:第1胸椎(T1)レベルである。上肢を支配する髄節(C5〜T1)の大部分はこれより上にあり、その反射弓や上肢の感覚入力は原則として保たれる。したがって症状の主な舞台は損傷部より下、つまり体幹下部と下肢である。 2. 各伝導路の交叉部位を思い出す。 ・皮質脊髄路(錐体路、随意運動の指令を伝える経路):延髄の錐体交叉で既に左右が入れ替わっており、脊髄内では同側を下行する。→ 右半側損傷では右下肢の運動麻痺(痙性麻痺)と深部腱反射亢進、Babinski徴候陽性。 ・後索路(深部感覚=振動覚・位置覚、識別性触覚を伝える経路):脊髄では同側を上行し、延髄の薄束核・楔状束核から出た線維が内側毛帯として交叉する。→ 右下肢の深部感覚障害。 ・外側脊髄視床路(温痛覚を伝える経路):後根から入った線維は1〜2髄節上行する間に前白交連を通って反対側へ移り、対側を上行する。→ 左側の損傷レベルより少し下以下の温痛覚障害。 3. 損傷した高さそのものでは、後根・前角が直接障害されるため、同側の全感覚脱失の帯や、その髄節支配筋の下位運動ニューロン障害(筋萎縮など)がみられることがある。 これらを右半側・T1レベルに当てはめ、各選択肢が「どちら側」「どの高さ」の症候かを照合すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  左手掌の痛覚低下

    手掌の皮膚感覚はおおむねC6〜C8の皮膚分節(デルマトーム)が担う。これらの髄節から入った温痛覚線維はT1より上の高さで脊髄に入り、その高さで対側へ交叉して上行するため、T1での損傷の影響を受けない。脊髄視床路の障害で対側に温痛覚低下が現れるのは、損傷部より1〜2髄節ほど下のレベル以下であり、左手掌は含まれない。

  2. ×b.  右上腕三頭筋の反射亢進

    上腕三頭筋反射の反射中枢は主にC7(C6〜C8)髄節にある。深部腱反射が亢進するのは、反射弓を上位から抑制している錐体路が反射中枢より上で障害されたときである。T1での損傷は反射中枢より下なので、上腕三頭筋反射に錐体路障害の影響は及ばず、亢進しない。

  3. ○c.  左下肢の痛覚低下

    温痛覚を伝える線維は脊髄に入ってまもなく(1〜2髄節上行する間に)前白交連を通って反対側の外側脊髄視床路に入り、対側を上行する。したがって右半側の脊髄視床路が損傷されると、損傷部よりやや下のレベル以下の、反対側(左側)の温痛覚が低下する。左下肢はこの範囲に含まれる。

  4. ×d.  左下肢の深部反射亢進

    左下肢の運動と深部反射を上位から制御する錐体路は、延髄で交叉した後、脊髄では左側を下行している。右半側の損傷では左側の錐体路は保たれるため、左下肢の深部腱反射は亢進しない。反射亢進がみられるのは損傷と同側の右下肢である。

  5. ○e.  右下肢の筋力低下

    外側皮質脊髄路は延髄の錐体交叉で既に交叉を終えているため、脊髄内では支配する側と同じ側を下行する。右半側の損傷で右側の錐体路が断たれると、損傷部以下の右側、すなわち右下肢に上位運動ニューロン障害型の筋力低下(痙性麻痺)が生じ、腱反射亢進やBabinski徴候を伴う。

Brown-Séquard症候群の症候のまとめ(損傷側を基準に)

・損傷部以下の同側:運動麻痺(痙性)、深部腱反射亢進、Babinski徴候陽性、深部感覚(振動覚・位置覚)障害。 ・損傷部よりやや下以下の対側:温痛覚障害。 ・損傷した高さの同側:全感覚脱失の帯状領域、髄節性の下位運動ニューロン障害(筋萎縮・弛緩性麻痺)。その上方に感覚過敏帯を伴うことがある。 ・触覚は同側の後索と対側の前脊髄視床路の両方で伝わるため、障害は軽いことが多い。

主な伝導路の交叉部位

・外側皮質脊髄路(随意運動):延髄錐体交叉。 ・後索-内側毛帯路(深部感覚・識別性触覚):延髄(薄束核・楔状束核から出た後に内側毛帯として交叉)。 ・外側脊髄視床路(温痛覚):脊髄に入った後、1〜2髄節上行する間に前白交連で交叉。

主な深部腱反射と反射中枢

・上腕二頭筋反射:C5〜C6 ・腕橈骨筋反射:C5〜C6 ・上腕三頭筋反射:C6〜C8(主にC7) ・膝蓋腱反射:L2〜L4 ・アキレス腱反射:S1〜S2

原因

外傷(刺創・銃創など)、髄外腫瘍や椎間板ヘルニアによる片側からの圧迫、多発性硬化症などの脱髄、放射線脊髄症などが挙げられる。純粋な半側切断はまれで、不完全な型が多い。

POINT

・脊髄半側損傷では、運動麻痺・深部感覚障害は損傷と同側、温痛覚障害は対側に現れる。 ・錐体路と後索路は延髄で交叉、脊髄視床路は脊髄に入ってすぐ(1〜2髄節上で)交叉する。 ・腱反射が亢進するのは、その反射中枢より上で錐体路が障害されたとき。反射中枢より下の損傷ではその反射は影響を受けない。 ・T1レベルの損傷では、上肢の感覚や上肢の腱反射(C5〜C8)は原則として保たれる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。