真っ青になって倒れる理由―血管迷走神経性失神で起こる「徐脈」と「冷汗」の正体
第102回医師国家試験 E問題 第22問
国試問題にチャレンジ
急性ストレスに伴う失神時にみられる身体反応はどれか。2つ選べ。
- a.冷汗
- b.低血糖
- c.血圧上昇
- d.顔面紅潮
- e.脈拍数減少
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
恐怖・痛み・採血などの急性ストレスを契機とする失神は、反射性失神の代表である血管迷走神経性失神です。迷走神経の緊張による徐脈と、交感神経の抜け落ちによる血管拡張が重なって血圧が下がり、脳血流が一時的に不足することで意識を失います。このため脈拍数減少と、顔面蒼白を伴う冷汗が典型的な身体反応であり、血圧上昇や顔面紅潮は病態と逆向き、ストレス時の血糖はむしろ上昇傾向を示します。出血性ショックでは代償性に頻脈となる点との違いや、汗腺が交感神経コリン作動性線維に支配される点も、あわせて押さえておきたい知識です。病歴から反射性失神を見抜きつつ、労作時や前駆症状のない失神では心原性失神を疑って精査する姿勢が、臨床での安全な判断につながります。
解答・解説
正解はa, eです
失神(syncope)とは、脳全体の血流が一過性に低下することで意識を失い、姿勢を保てなくなるが、短時間のうちに自然かつ完全に回復する状態である。原因は大きく、反射性(神経調節性)失神、起立性低血圧による失神、心原性失神(不整脈や器質的心疾患)に分けられる。 強い恐怖・驚き・痛み・精神的ショック、長時間の立位、採血や注射などの急性ストレスを契機に起こる失神は、反射性失神の代表である血管迷走神経性失神(vasovagal syncope)である。機序は次のように整理できる。 (1) ストレスや静脈還流の減少を契機に、自律神経の反射が異常に作動する。 (2) 迷走神経(副交感神経)の活動が急に強まり、心拍数が減る(心抑制型)。 (3) 同時に血管を収縮させている交感神経の活動が抜け落ち、末梢血管が拡張して血圧が下がる(血管抑制型)。 (4) 徐脈と血圧低下が重なって心拍出量と脳灌流圧が低下し、脳血流が一時的に不足して意識を失う。 したがって本問では、「徐脈と血圧低下」を軸に、失神に伴う自律神経反応として何が現れるかを考える。発作の前後には、顔面蒼白、冷汗、悪心、あくび、眼前暗黒感、脱力感などの前駆症状・随伴症状がみられる。これに当てはまるのは冷汗と脈拍数減少である。血圧上昇や顔面紅潮は、血圧低下・皮膚蒼白という実際の病態と逆向きの所見であり、低血糖は本病態の機序に含まれない。
選択肢考察
- ○a. 冷汗
血管迷走神経性失神では、発作の直前から直後にかけて顔面蒼白とともに冷汗がみられるのが典型的である。汗腺は交感神経のうちアセチルコリンを伝達物質とする線維(交感神経コリン作動性線維)に支配されており、強い自律神経の反応に伴って発汗が起こる。さらに、血圧低下を回復させようとする代償反応として皮膚の血管が収縮するため、皮膚は冷たく青白くなり、そこに汗をかいた状態が「冷汗」として観察される。ショックの徴候(5P)の一つでもある。したがって本病態でみられる身体反応である。
- ×b. 低血糖
急性ストレスでは、交感神経‐副腎髄質系からアドレナリンが、視床下部‐下垂体‐副腎皮質系からコルチゾールが分泌される。これらはいずれも血糖を上げるホルモンであり、ストレス時の血糖はむしろ上昇傾向を示す。低血糖は意識障害の鑑別として重要であるが、血管迷走神経性失神の機序とは関係せず、本病態でみられる身体反応ではない。
- ×c. 血圧上昇
血管迷走神経性失神の本態は、交感神経による血管収縮の抜け落ち(血管拡張)と迷走神経による徐脈の結果として起こる血圧低下と脳灌流の減少である。発作時の血圧は低下しており、血圧上昇はみられない。ストレスを受けた直後に一時的に交感神経が興奮して血圧が上がることはあるが、失神する時点では血圧は下がっている。
- ×d. 顔面紅潮
失神時は心拍出量の低下と血圧低下により皮膚への血流が減り、さらに代償性に皮膚血管が収縮するため、顔面は蒼白となる。顔面紅潮は皮膚血流が増えた状態であり、本病態の所見とは逆である。周囲の人が「顔が真っ青になって倒れた」と表現する状況が典型である。
- ○e. 脈拍数減少
急性ストレスを契機に迷走神経(副交感神経)の緊張が急激に高まり、洞結節の自動能と房室伝導が抑えられて徐脈となる(時に洞停止や房室ブロックに至る)。心拍数が減ると心拍出量が低下し、血管拡張による血圧低下と合わさって脳血流が不足し失神に至る。脈拍数減少は本病態の中核をなす身体反応である。出血性ショックなど循環血液量が減るショックでは代償性に頻脈となるのと対照的である。
反射性(神経調節性)失神の分類
・血管迷走神経性失神:精神的ストレス(恐怖、痛み、採血など)や長時間の立位が誘因。若年者に多く、最も頻度の高い失神である。 ・状況失神:排尿、排便、咳嗽、嚥下、食後など特定の状況で誘発される。 ・頸動脈洞症候群:頸部の回旋やきついネクタイなどで頸動脈洞が刺激されて起こる。高齢男性に多い。
血管迷走神経性失神の典型像
・前駆症状:気分不快、悪心、あくび、冷汗、顔面蒼白、眼前暗黒感、耳鳴り、脱力感 ・発作時:徐脈、血圧低下、短時間の意識消失(通常1分以内)。脳虚血が長引くと短時間のけいれん様の動きがみられることもある。 ・回復:臥位になると脳血流が戻り、速やかに意識が回復する。発作後の疲労感が残ることはあるが、てんかん発作後のような長い意識の混濁は通常ない。 ・反応の型:心拍数低下が主体の心抑制型、血圧低下が主体の血管抑制型、両者の混合型がある。
診断と対応
・病歴(誘因、前駆症状、体位)が診断の鍵である。誘発試験としてヘッドアップティルト試験がある。 ・発作時は仰臥位にして下肢を挙上し、脳血流を確保する。 ・再発予防には誘因の回避、水分・塩分の摂取、前駆症状を感じたら座る・しゃがむ、脚を組んで力を入れるなどの対抗動作(physical counterpressure maneuver)が有効である。
鑑別として重要なもの
・心原性失神(不整脈、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症など)は突然死につながりうるため、労作中の失神、前駆症状のない失神、心疾患の既往、突然死の家族歴があれば精査が必要である。 ・低血糖、てんかん、脳血管障害などは「失神」ではなく意識障害の鑑別として区別して考える。
POINT
・急性ストレスによる失神は血管迷走神経性失神(反射性失神)である。 ・機序:迷走神経緊張による徐脈+交感神経の抜け落ちによる血管拡張 → 血圧低下 → 脳血流低下。 ・身体反応:徐脈(脈拍数減少)、血圧低下、顔面蒼白、冷汗、悪心、あくび。 ・血圧上昇・顔面紅潮は逆向きの所見。ストレス時はむしろ血糖が上昇傾向。 ・出血性ショックでは頻脈、血管迷走神経反射では徐脈という違いを押さえる。
