「守るべき合併症」と「使ってはいけない相手」―降圧薬選択の禁忌を見抜く
第102回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
降圧薬の選択で禁忌はどれか。
- a.妊娠中の高血圧へのACE阻害薬
- b.心不全を合併した高血圧への降圧利尿薬
- c.脂質代謝異常に合併した高血圧へのα遮断薬
- d.腎障害を合併した高血圧へのカルシウム拮抗薬
- e.糖尿病を合併した高血圧へのアンジオテンシン受容体拮抗薬
対話形式の解説
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ドクターまとめ
降圧薬は、合併する病態に応じた積極的適応と禁忌の両面から選びます。ACE阻害薬やARBなどのレニン・アンジオテンシン系阻害薬は、胎児の腎障害から羊水過少、肺低形成、頭蓋の形成不全などを起こすため妊婦には禁忌で、妊娠中はメチルドパ、ヒドララジン、ラベタロール、ニフェジピンなどを用います。一方、心不全への利尿薬、糖尿病や蛋白尿のある慢性腎臓病へのACE阻害薬・ARB、腎障害へのカルシウム拮抗薬は推奨される組み合わせであり、α遮断薬も脂質代謝に悪影響を与えないため脂質異常症で禁忌にはなりません。β遮断薬の喘息、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の房室ブロックなど、薬ごとの禁忌もあわせて整理しておくことが大切です。妊娠可能年齢の女性への処方では将来の妊娠まで見据えて薬を選ぶ姿勢が、安全な高血圧診療につながります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
高血圧に別の病態が合併しているときに、どの降圧薬を選ぶかを問う問題である。禁忌の組み合わせを一つ選ぶ。
考え方
降圧薬の選択では、次の二つを押さえておく。 ・合併症があるとき、特に使うべき薬(積極的適応) ・その病態では使ってはならない薬(禁忌) 主要な降圧薬は、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、利尿薬、β遮断薬である。補助的な薬としてα遮断薬などがある。 本問の選択肢のうち、b・c・d・eは、その合併症に対して積極的に使われるか、少なくとも問題なく使える組み合わせである。一方、妊婦へのレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬(ACE阻害薬・ARB)は、胎児に重い障害を起こすので禁忌である。したがってaが正解である。
選択肢考察
- ○a. 妊娠中の高血圧へのACE阻害薬
ACE阻害薬は妊婦または妊娠の可能性がある女性には禁忌である。これが正解である。胎児の腎臓の発達と機能はRA系に大きく依存している。妊娠中期から後期にACE阻害薬を使うと、次のような障害が起こる。 ・胎児の腎障害(無尿)とそれに伴う羊水過少 ・羊水過少による肺低形成や四肢の拘縮 ・頭蓋骨の形成不全、胎児発育不全 ・胎児死亡や新生児の腎不全・低血圧 ARBや直接的レニン阻害薬も同じ理由で禁忌である。妊娠中の降圧には、メチルドパ、ヒドララジン、ラベタロール、ニフェジピンなどを使う。RA系阻害薬を服用中の女性が妊娠を希望する場合や妊娠が分かった場合は、速やかにほかの薬へ切り替える。
- ×b. 心不全を合併した高血圧への降圧利尿薬
利尿薬は、ナトリウムと水の排泄を促して循環血液量を減らし、うっ血や浮腫を改善する。心不全を合併した高血圧に対しては積極的適応がある。禁忌ではない。左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)では、ACE阻害薬またはARB(あるいはARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を基本とする。利尿薬は、体液が貯留した状態の改善に併用する。
- ×c. 脂質代謝異常に合併した高血圧へのα遮断薬
α1遮断薬は、血管平滑筋のα1受容体を遮断して末梢血管を拡げ、血圧を下げる。脂質代謝への悪影響はなく、むしろLDLコレステロールや中性脂肪をわずかに下げ、HDLコレステロールを上げる方向に働く。インスリン抵抗性も改善させるとされる。そのため、脂質異常症を合併した高血圧に使っても問題はなく、禁忌ではない。これに対して、サイアザイド系利尿薬や一部のβ遮断薬は、脂質や糖の代謝を悪化させることがある。なお、α遮断薬は大規模試験で心不全を増やす傾向が示されたため、第一選択薬ではない。早朝高血圧や前立腺肥大症を合併した例などで補助的に使われる。起立性低血圧(特に初回投与時)に注意が必要である。
- ×d. 腎障害を合併した高血圧へのカルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬(特にジヒドロピリジン系)は、腎機能が低下していても用量を調整する必要がほとんどない。降圧効果が確実で、腎障害を悪化させないので、禁忌ではない。慢性腎臓病(CKD)で蛋白尿がない場合は、ACE阻害薬・ARB・利尿薬と並ぶ第一選択肢である。蛋白尿がある場合は、糸球体内圧を下げる作用があるACE阻害薬やARBを優先する。それで目標血圧に届かないとき、カルシウム拮抗薬を併用する。
- ×e. 糖尿病を合併した高血圧へのアンジオテンシン受容体拮抗薬
ARBは、インスリン感受性を悪化させず、糖尿病性腎症の進行(アルブミン尿の増加)を抑える腎保護作用が示されている。糖尿病を合併した高血圧では、ACE阻害薬とともに第一選択として推奨される。適切な選択であり、禁忌ではない。ただし、腎機能が低下している例では高カリウム血症と血清クレアチニンの上昇に注意する。
主な降圧薬の禁忌(日本高血圧学会のガイドラインに基づく整理)
・カルシウム拮抗薬:非ジヒドロピリジン系(ベラパミル、ジルチアゼム)は、徐脈(2度以上の房室ブロック)で禁忌。 ・ACE阻害薬:妊娠、血管神経性浮腫の既往、特定の膜を用いるアフェレーシスや血液透析中。 ・ARB:妊娠。 ・サイアザイド系利尿薬:体液中のNa・Kが明らかに減っている病態。 ・β遮断薬:喘息、高度の徐脈、未治療の褐色細胞腫。 ・RA系阻害薬は、両側腎動脈狭窄や高カリウム血症では原則として使わない(慎重投与)。
妊娠高血圧に使える降圧薬
メチルドパ、ヒドララジン、ラベタロール、ニフェジピン(ほかに一部のカルシウム拮抗薬)。かつてはカルシウム拮抗薬も妊婦に禁忌とされていた。その後、安全性のデータが集まり、日本でも2022年にニフェジピンとアムロジピンの添付文書から妊婦への禁忌が外れた。重症の高血圧で急いで下げる必要があるときは、ヒドララジンやニカルジピンの静注を使う。
妊婦に禁忌の代表的な薬剤(循環器関連)
ACE阻害薬、ARB、直接的レニン阻害薬(胎児の腎障害・羊水過少)、ワルファリン(催奇形性:軟骨形成異常や鼻の低形成などのワルファリン胎芽病)、スタチンなど。
POINT
・妊婦にはACE阻害薬・ARBなどRA系阻害薬は禁忌である(胎児の腎障害・羊水過少・頭蓋の形成不全)。 ・妊娠中の降圧薬:メチルドパ、ヒドララジン、ラベタロール、ニフェジピン。 ・積極的適応:心不全にはRA系阻害薬・β遮断薬・利尿薬。糖尿病や蛋白尿のあるCKDにはACE阻害薬・ARB。 ・α遮断薬は脂質や糖の代謝に悪影響がない。ただし第一選択ではない。
