「治らない」か「繰り返す」か―自然気胸で手術に踏み切る2つの軸
第102回医師国家試験 D問題 第5問
国試問題にチャレンジ
自然気胸の手術適応はどれか。2つ選べ。
- a.初発例
- b.再発例
- c.胸水貯留
- d.緊張性気胸
- e.気漏の持続
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
自然気胸は肺尖部のブラ・ブレブの破綻で起こり、虚脱の程度に応じて安静、胸腔穿刺、胸腔ドレナージで治療するのが原則で、多くは保存的に治癒します。手術適応の軸は「ドレナージで治らない(気漏の持続・再膨張不全)」と「繰り返す(再発例)」の2つで、ほかに両側性気胸、多量の血胸、再発が命に関わる職業などの社会的適応があります。緊張性気胸は最重症ですが、まず行うべきは身体所見に基づく緊急脱気と胸腔ドレナージであり、それ自体は手術適応ではありません。標準手術は胸腔鏡下ブラ切除術で、手術困難例には胸膜癒着術や気管支充填術も選択肢となります。重症度と手術適応を分けて考える姿勢は、気胸に限らず治療方針を組み立てるうえでの基本になります。
解答・解説
正解はb, eです
自然気胸は、外傷や医療行為などの明らかな誘因なく胸腔内に空気がたまり、肺が虚脱する病態である。基礎疾患のない若年のやせ型・高身長の男性に多い原発性自然気胸は、肺尖部の小さな気腫性嚢胞(ブラ・ブレブ)が破れることで起こる。一方、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎などの肺疾患を背景に起こるものを続発性自然気胸という。 治療は肺の虚脱の程度と症状に応じて段階的に選ぶ。虚脱が軽く症状も乏しければ安静・経過観察、中等度以上なら胸腔穿刺による脱気や胸腔ドレナージ(胸腔内にチューブを留置し持続的に空気を排出する)を行う。多くはこれらの保存的治療で肺が再膨張し、破れた部位も自然に閉じる。 手術(現在は胸腔鏡下手術によるブラ切除が標準)が必要になるのは、保存的治療では治りにくい場合、あるいは再発の危険が高い場合である。つまり「ドレナージで治せない(気漏が止まらない、肺がふくらまない)」か「繰り返す(再発例)」かが手術適応の考え方の軸になる。緊張性気胸や少量の胸水は重症度や合併所見ではあるが、まず行うべきは胸腔ドレナージであり、それ自体が手術の理由にはならない。
選択肢考察
- ×a. 初発例
初発の自然気胸は、肺虚脱の程度に応じて安静・経過観察、胸腔穿刺、胸腔ドレナージで治療するのが原則であり、多くはこれで治癒する。したがって初発であることは手術適応の理由にならない。ただし初発例でも、気漏が持続する、肺が再膨張しない、両側同時に発生した、血胸を伴う、といった状況があれば手術を考慮する。また、再発した際の危険が大きい職業(航空機パイロット、ダイバーなど)では初発時から手術を選ぶことがある(社会的適応)。
- ○b. 再発例
自然気胸は保存的治療後の再発率が高く、初回後の同側再発はおよそ30〜50%とされ、再発を一度起こすとさらに再発しやすくなる。原因となっているブラ・ブレブは保存的治療では残るため、再発例では胸腔鏡下にブラを切除(必要に応じて胸膜の補強なども追加)して再発を防ぐ手術が勧められる。再発例は自然気胸の代表的な手術適応である。
- ×c. 胸水貯留
気胸に少量の胸水を伴うことは珍しくなく、胸腔ドレナージで空気と一緒に排出すればよい。胸水の存在そのものは手術適応ではない。ただし、ブラ周囲の癒着が切れて出血し、多量の血胸(血気胸)となって出血が続く場合は手術(止血)の適応となる。本選択肢の単なる「胸水貯留」は該当しない。
- ×d. 緊張性気胸
緊張性気胸は、破綻部が一方弁(チェックバルブ)のように働き、吸気時に胸腔へ入った空気が呼気時に出られず胸腔内圧が陽圧になった状態である。縦隔が健側へ押され、静脈還流が減って心拍出量が低下し、頻脈・血圧低下・ショックに至る。直ちに胸腔穿刺による緊急脱気と胸腔ドレナージを行って減圧することが治療であり、手術そのものの適応基準ではない。減圧後に気漏が続けば、そのとき改めて手術を検討する。
- ○e. 気漏の持続
胸腔ドレナージを行っても数日(一般におおむね3〜7日)以上空気漏れが止まらない場合は、破綻部が自然には閉じないと判断される。ドレーン留置を長く続けると感染(膿胸)のリスクや入院の長期化を招くため、胸腔鏡下手術で破綻したブラを切除し気漏を止める。保存的治療に抵抗する例として代表的な手術適応である。
自然気胸の手術適応(主なもの)
・再発例(同側の再発、反対側の既往を含む) ・気漏の持続(ドレナージで空気漏れが止まらない) ・肺の再膨張不全 ・両側性気胸(同時発生) ・多量の血胸を伴うもの(血気胸) ・画像で大きなブラが確認されるもの ・社会的適応(パイロット、ダイバーなど再発が生命に関わる職業、離島在住など)
治療の段階
軽度の虚脱:安静・経過観察 中等度以上:胸腔穿刺による脱気、または胸腔ドレナージ 保存的治療抵抗・再発:胸腔鏡下ブラ切除術(VATS:video-assisted thoracoscopic surgery) 手術が難しい高齢者・続発性気胸では、自己血や薬剤を胸腔内に注入する胸膜癒着術や、気管支鏡的に責任気管支を塞ぐ気管支充填術が選ばれることもある。
緊張性気胸
患側の呼吸音減弱・打診で鼓音、頸静脈怒張、気管の健側偏位、低血圧を呈する。臨床所見で診断し、画像検査を待たずに第2肋間鎖骨中線(または第4〜5肋間中腋窩線)から緊急穿刺して減圧し、その後胸腔ドレナージを行う。
POINT
・自然気胸はまず安静、胸腔穿刺、胸腔ドレナージで治療する。 ・手術適応の軸は「ドレナージで治らない(気漏持続・再膨張不全)」と「繰り返す(再発)」。そのほか両側性、多量の血胸、社会的適応。 ・緊張性気胸は緊急脱気・ドレナージで減圧するのが第一であり、それ自体が手術適応ではない。 ・標準手術は胸腔鏡下ブラ切除術。
