腫瘤の「住所」が正体を語る―縦隔腫瘍は区域で絞り込め
第102回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
縦隔腫瘍と好発部位の組合せで正しいのはどれか。
- a.奇形腫 ―― 前縦隔
- b.神経原性腫瘍 ―― 前縦隔
- c.縦隔内甲状腺腫 ―― 中縦隔
- d.心膜嚢胞 ―― 後縦隔
- e.リンパ腫 ―― 後縦隔
対話形式の解説
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医学生まとめ
縦隔腫瘍は発生母地となる臓器・組織によって好発区域がおおむね決まっており、画像で腫瘤の位置を把握することが鑑別の第一歩です。前縦隔には胸腺腫と奇形腫などの胚細胞性腫瘍、上縦隔には頸部から連続する縦隔内甲状腺腫、中縦隔には気管支原性嚢胞・心膜嚢胞・悪性リンパ腫、後縦隔には肋間神経や交感神経幹由来の神経原性腫瘍が好発します。奇形腫は正中線上に遺残した胚細胞から生じ、3胚葉成分を反映してCTで脂肪や石灰化を示すのが特徴です。胸腺腫に伴う重症筋無力症、悪性胚細胞性腫瘍のAFP・hCG、リンパ腫による上大静脈症候群など、区域ごとの臨床的特徴とあわせて覚えると、画像から病態を推論する力が身につきます。
解答・解説
正解はaです
縦隔は左右の胸膜腔に挟まれた領域で、胸腺・心臓と大血管・気管・食道・リンパ節・神経などが入っている。縦隔腫瘍はどの臓器・組織から生じるかによって出現しやすい区域がおおむね決まっているため、画像で腫瘤の位置が分かれば、発生母地を推定して鑑別診断をかなり絞り込める。 伝統的な区分では、胸骨柄下縁と第4胸椎下縁を結ぶ線より上を上縦隔とし、その下を心膜の前(前縦隔)、心膜とその内容・気管分岐部周辺(中縦隔)、心膜の後ろから脊柱まで(後縦隔)に分ける。対応関係の基本は次のとおりである。 ・上縦隔:縦隔内甲状腺腫(頸部の甲状腺が胸腔内へ伸びたもの) ・前縦隔:胸腺腫・胸腺癌、奇形腫などの胚細胞性腫瘍 ・中縦隔:気管支原性嚢胞、心膜嚢胞、悪性リンパ腫(リンパ節病変) ・後縦隔:神経原性腫瘍(神経鞘腫・神経線維腫・神経節細胞腫など) 本問ではこの対応に合うのは「奇形腫 ―― 前縦隔」だけである。
選択肢考察
- ○a. 奇形腫 ―― 前縦隔
奇形腫は胚細胞性腫瘍の一つで、胎生期に原始生殖細胞が生殖腺へ移動する途中、正中線上に遺残した細胞から生じると考えられている。縦隔では胸腺の近くにあたる前縦隔に好発し、前縦隔腫瘍としては胸腺腫に次いで多い。成熟奇形腫は3胚葉由来の成分(皮膚付属器、脂肪、骨・歯など)を含むため、CTで脂肪濃度や石灰化が見えることが診断の手がかりになる。組合せは正しい。
- ×b. 神経原性腫瘍 ―― 前縦隔
神経原性腫瘍は肋間神経や交感神経幹から発生する。これらの神経は脊柱の両脇を走行しているため、腫瘍は後縦隔(傍脊椎領域)に好発する。後縦隔腫瘍の大部分を占め、成人では神経鞘腫、小児では神経芽腫や神経節細胞腫が多い。椎間孔を通って脊柱管内へ伸び、ダンベル型の形をとることがある。前縦隔ではないため誤りである。
- ×c. 縦隔内甲状腺腫 ―― 中縦隔
縦隔内甲状腺腫は、頸部の甲状腺腫が下へ大きくなって胸郭入口を越え、胸腔内に入り込んだもの(胸骨下甲状腺腫)が大部分である。そのため上縦隔、特に気管の前方から側方に好発し、気管を圧迫・偏位させることがある。頸部の甲状腺と連続していることを確認するのが診断のポイントとなる。中縦隔ではないため誤りである。
- ×d. 心膜嚢胞 ―― 後縦隔
心膜嚢胞は胎生期に心膜が形成される過程で一部が分離して生じる、先天性の良性嚢胞である。心膜に接して存在するため中縦隔(前縦隔寄りとも表現される)に位置し、特に右の心横隔膜角に多い。多くは無症状で、胸部X線写真で偶然見つかる。心膜から離れた後縦隔にはできないため誤りである。
- ×e. リンパ腫 ―― 後縦隔
悪性リンパ腫はリンパ節の多い領域に発生し、日本の教科書的な対応では中縦隔(気管分岐部・肺門周囲のリンパ節)の腫瘍として扱われる。一方、Hodgkinリンパ腫(結節硬化型)や縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫のように胸腺付近から生じるものは前縦隔に大きな腫瘤をつくることが多い。いずれにしても後縦隔は好発部位ではなく、誤りである。
縦隔の区分
伝統的な4区分は、胸骨柄下縁と第4・5胸椎間を結ぶ面で上縦隔と下縦隔に分け、下縦隔を心膜との位置関係から前・中・後に分けるものである。近年、日本胸腺研究会はCT画像に基づいた区分(上縦隔、前縦隔=血管前領域、中縦隔=気管・食道周囲領域、後縦隔=傍椎体領域)を提唱しているが、各区域に好発する腫瘍の考え方は同じである。
主な縦隔腫瘍の頻度と特徴
・胸腺腫:成人の縦隔腫瘍で最も多い。前縦隔。重症筋無力症、赤芽球癆、低γグロブリン血症などを合併することがある。 ・胚細胞性腫瘍:前縦隔。成熟奇形腫が最多。悪性(セミノーマ、非セミノーマ)は若年男性に多く、AFP(α-フェトプロテイン)やhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が腫瘍マーカーになる。 ・神経原性腫瘍:後縦隔。小児の縦隔腫瘍では最も多い。 ・先天性嚢胞:気管支原性嚢胞(中縦隔、気管分岐部近く)、心膜嚢胞(心横隔膜角)、食道嚢胞など。 ・悪性リンパ腫:中縦隔〜前縦隔。発熱・盗汗・体重減少(B症状)を伴うことがあり、上大静脈症候群の原因となる。
前縦隔腫瘍の覚え方
英語圏では前縦隔腫瘤の鑑別を「4つのT」(thymoma:胸腺腫、teratoma:奇形腫、thyroid:甲状腺、terrible lymphoma:リンパ腫)とまとめることがある。
POINT
・前縦隔:胸腺腫、奇形腫(胚細胞性腫瘍) ・上縦隔:縦隔内甲状腺腫 ・中縦隔:気管支原性嚢胞、心膜嚢胞、悪性リンパ腫 ・後縦隔:神経原性腫瘍 ・腫瘤の位置から発生母地を推定することが縦隔腫瘍の鑑別の第一歩である。
