心臓は頑張っているのに足りない―「高拍出性心不全」を3つの機序で読み解く
第102回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
高拍出性心不全をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.貧血
- b.心膜炎
- c.肥大型心筋症
- d.心タンポナーデ
- e.甲状腺機能亢進症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
高拍出性心不全は、心拍出量が正常以上に保たれているにもかかわらず、全身の需要がそれを上回るために生じる心不全です。原因は「酸素運搬能の低下(貧血)」「代謝亢進(甲状腺機能亢進症)」「末梢血管抵抗の低下・短絡(動静脈瘻、脚気心、骨Paget病、敗血症など)」の3つの機序で整理すると覚えやすくなります。一方、心膜炎(タンポナーデや収縮性心膜炎への進展)、心タンポナーデ、肥大型心筋症は、心室の充満障害などによって心拍出量が低下する低拍出性の病態です。高拍出性心不全では脈圧増大や四肢の温感が手がかりとなり、利尿薬などの対症療法に加えて原因疾患の治療が最も重要になります。心不全を「心拍出量と需要のバランス」で捉える視点は、心臓の外に潜む治療可能な原因を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はa, eです
心不全は、心臓のポンプ機能が全身の組織が必要とする血液量(酸素需要)を満たせなくなった状態である。多くは心筋の障害や拡張障害などにより心拍出量そのものが低下する「低拍出性心不全」である。 これに対して「高拍出性心不全」は、心拍出量は正常より多いにもかかわらず、それを上回るほど全身の需要が大きい、あるいは血液の酸素運搬能力が落ちているために、結果として需要に追いつかなくなる状態である。心臓は長期間にわたり過大な容量負荷(前負荷の増大)と頻拍を強いられ、やがて肺うっ血や浮腫などの心不全症状が現れる。 高拍出性心不全の原因は、次の3つの機序に分けて考えると整理しやすい。 ・血液の酸素運搬能の低下:貧血 ・組織の代謝(酸素需要)の亢進:甲状腺機能亢進症 ・末梢血管抵抗の低下・短絡:動静脈瘻、脚気(ビタミンB1欠乏)、骨Paget病、敗血症、肝硬変など 一方、心膜疾患や心筋症は心臓自体の充満や収縮が障害される病態であり、心拍出量は低下する方向に働く。したがって本問では、貧血と甲状腺機能亢進症が高拍出性心不全の原因となる。
選択肢考察
- ○a. 貧血
貧血ではヘモグロビンが減って血液1 mLあたりが運べる酸素量が少なくなる。組織への酸素供給を保つため、心拍数と1回拍出量を増やして心拍出量を増加させる代償が働く。また、組織の低酸素により末梢血管が拡張し血管抵抗が下がることも、心拍出量増加を促す。一般にヘモグロビンが著しく低い(おおむね7 g/dL未満)状態が続くと、この代償でも需要に追いつかなくなり、心拍出量が多いまま心不全を生じる。もともと心疾患のある人では、より軽い貧血でも心不全が顕在化しやすい。高拍出性心不全の代表的な原因である。
- ×b. 心膜炎
急性心膜炎で炎症が心膜にとどまっている間は、心機能への影響はほとんどなく、心不全は起こしにくい。問題となるのは、心膜液が大量にたまって心タンポナーデになった場合や、慢性化して心膜が肥厚・硬化し心臓を締めつける収縮性心膜炎になった場合である。いずれも心室が十分に拡張できず(拡張障害)、心室への血液充満が減るため心拍出量は低下する。つまり心膜炎による心不全は低拍出性であり、高拍出性ではない。
- ×c. 肥大型心筋症
肥大型心筋症(HCM:hypertrophic cardiomyopathy)は、明らかな原因なく左室心筋が不均一に肥大する疾患である。収縮能は多くの例で保たれるが、心筋が硬く左室の拡張が障害されること、左室流出路狭窄(閉塞性の場合)、心房細動などの頻脈性不整脈で拡張時間が短くなることなどから、左室への充満が不十分となり、うっ血性心不全をきたしうる。さらに一部(5〜10%程度)は経過中に壁が薄くなって収縮力が低下し、拡張型心筋症に似た拡張相肥大型心筋症へ移行する。いずれも心拍出量を増やす病態ではなく、高拍出性心不全の原因にはならない。
- ×d. 心タンポナーデ
心タンポナーデは、心膜腔に貯留した液体(心膜液や血液)の圧が高まり心臓を外から圧迫する状態である。特に壁が薄く内圧の低い右房・右室が押しつぶされ、静脈還流が妨げられて心室に血液が十分入らない。左室の収縮力自体は保たれていても、送り出す血液が少ないため心拍出量は低下し、低血圧・頸静脈怒張・心音減弱(Beckの三徴)や奇脈を示してショックに陥る。典型的な低拍出の病態であり、治療は心嚢穿刺による排液である。
- ○e. 甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンは全身の代謝を高めて組織の酸素需要を増やす。また心筋に直接作用して心拍数と収縮力を増し、末梢血管を拡張させて血管抵抗を下げ、さらにレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を介して循環血液量を増やす。これらにより心拍出量は大きく増加する。この過剰な状態が続くと、洞性頻脈や心房細動による頻拍、容量負荷の蓄積により心臓が需要に応えきれなくなり、高拍出性心不全をきたす(甲状腺中毒性心疾患)。とくに心房細動を合併した高齢者で起こりやすい。
高拍出性心不全の主な原因
・貧血(高度の慢性貧血) ・甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症) ・脚気心:ビタミンB1(チアミン)欠乏により末梢血管が拡張し、心拍出量が増える。アルコール多飲者や偏った食事で起こる。 ・動静脈瘻(シャント):透析用の内シャント、外傷性・先天性の動静脈瘻などで、血液が毛細血管を通らず静脈へ短絡するため、有効な循環を保とうと心拍出量が増える。 ・骨Paget病:骨の病変部で血流が著しく増え、動静脈短絡のように働く。 ・その他:妊娠、敗血症、肝硬変、多発性骨髄腫など。
心不全の分類
・低拍出性心不全と高拍出性心不全(心拍出量による分類) ・左室駆出率(LVEF)による分類:LVEFが低下した心不全(HFrEF、LVEF 40%未満)、軽度低下した心不全(HFmrEF、40%以上50%未満)、保たれた心不全(HFpEF、50%以上)。心不全患者のかなりの割合(報告により3分の1から半数程度)はLVEFが保たれており、拡張障害が重要な病態となる。
高拍出性心不全の特徴
脈圧の増大、四肢の温感、頻脈、収縮期駆出性雑音などを伴いやすい。治療では利尿薬などの対症療法に加え、原因疾患(貧血の補正、甲状腺機能の正常化、ビタミンB1補充、シャント閉鎖など)の治療が最も重要である。
POINT
・高拍出性心不全:心拍出量は多いのに需要に追いつかない心不全。 ・原因は「酸素運搬能低下(貧血)」「代謝亢進(甲状腺機能亢進症)」「血管抵抗低下・短絡(動静脈瘻、脚気、骨Paget病)」で整理する。 ・心膜炎(収縮性心膜炎)、心タンポナーデ、肥大型心筋症は充満障害などによる低拍出の病態。
