StudyMed医師国家試験

心臓は頑張っているのに足りない―「高拍出性心不全」を3つの機序で読み解く

第102回医師国家試験 D問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第6問

高拍出性心不全をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.貧血
  2. b.心膜炎
  3. c.肥大型心筋症
  4. d.心タンポナーデ
  5. e.甲状腺機能亢進症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心不全のなかでも少し特殊な「高拍出性心不全」の原因を選ぶ問題だ。着眼点は、心臓が送り出す血液の量が「減っている」のか、それとも「増えているのに足りない」のか、という視点の切り替えだよ。まず、心不全の定義から確認しておこうか。
医学生医学生
心臓のポンプ機能が落ちて、全身に十分な血液を送れなくなった状態、ですよね。
ドクタードクター
おおむね正しい。ただ、正確には「全身の組織が必要とする血液量、つまり酸素需要を満たせなくなった状態」なんだ。多くの心不全は心筋障害や拡張障害で心拍出量そのものが落ちる低拍出性だけれど、需要側が極端に大きければ、心拍出量が正常以上でも追いつかなくなることがある。
医学生医学生
心拍出量が多いのに心不全、というのは講義で聞いたときも少し不思議でした。心臓は元気なのに、ということですか。
ドクタードクター
最初は元気なんだ。でも需要を満たそうと、長期間にわたって頻拍と大きな容量負荷を強いられ続ける。やがて心臓が疲弊して肺うっ血や浮腫が現れる。過労で倒れる働き者のようなイメージだね。原因は3つの機序に分けると整理しやすい。血液の酸素運搬能が落ちる、組織の代謝が高まって需要が増える、末梢血管抵抗が下がったり短絡ができたりする、の3つだ。
医学生医学生
酸素運搬能の低下なら貧血ですね。ヘモグロビンが少ないから、その分たくさん回さないといけない。
ドクタードクター
その通り。血液1 mLあたりで運べる酸素が減るので、心拍数と1回拍出量を増やして代償する。さらに組織の低酸素で末梢血管が拡張し、血管抵抗が下がることも心拍出量を押し上げる。目安としてヘモグロビンがおおむね7 g/dLを下回る状態が続くと心不全に至りうるし、もともと心疾患がある人ならもっと軽い貧血でも顕在化しやすい。
医学生医学生
代謝亢進のほうは甲状腺機能亢進症でしょうか。内分泌の講義で、Basedow病の患者さんは頻脈で汗をかいていると習いました。
ドクタードクター
正解。甲状腺ホルモンは全身の代謝を高めて酸素需要を増やすだけでなく、心筋に直接働いて心拍数と収縮力を上げ、末梢血管を拡張させ、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を介して循環血液量も増やす。これが続くと、洞性頻脈や心房細動による頻拍と容量負荷で高拍出性心不全になる。特に心房細動を合併した高齢者は要注意だ。
医学生医学生
では残りの心膜炎、肥大型心筋症、心タンポナーデは、どれも心臓自体の問題なので低拍出側ということですね。
ドクタードクター
そう。まず心膜炎は、急性期に炎症が心膜にとどまっていれば心機能への影響はほとんどない。問題になるのは、心膜液が大量にたまってタンポナーデになるか、慢性化して心膜が硬くなり心臓を締めつける収縮性心膜炎になったとき。どちらも心室が十分に広がれず、充満が減って心拍出量が下がる。
医学生医学生
心タンポナーデはBeckの三徴ですよね。低血圧、頸静脈怒張、心音減弱。救急の実習で心嚢穿刺を見学しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。心膜腔の圧が上がると、特に壁が薄く内圧の低い右房・右室が押しつぶされ、静脈還流が妨げられる。左室の収縮力が保たれていても、入ってくる血液が少なければ送り出せない。典型的な低拍出の病態だ。
医学生医学生
肥大型心筋症は収縮力が保たれていることが多いと聞いたので、心拍出量が増えるのかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。収縮能が保たれていても、心筋が硬くて拡張が障害され、閉塞性なら左室流出路狭窄もある。心房細動で拡張時間が短くなるとさらに充満が減る。一部は壁が薄くなって収縮力が落ちる拡張相肥大型心筋症へ移行する。いずれにしても心拍出量を増やす病態ではないんだ。
医学生医学生
なるほど、収縮が良いことと、拍出量が多いことは別なんですね。
ドクタードクター
その区別はとても大事だよ。発展として、3つ目の機序、血管抵抗低下や短絡の例も押さえておこう。透析用の内シャントなどの動静脈瘻、ビタミンB1欠乏による脚気心、骨Paget病、敗血症、肝硬変、妊娠などが挙がる。
医学生医学生
脚気心はアルコール多飲の方に多いと消化器内科の実習で聞きました。透析シャントも心不全の原因になるんですね。
ドクタードクター
そう、シャント血流が多すぎると心負荷になることがある。高拍出性心不全の身体所見としては、脈圧の増大、四肢が温かいこと、頻脈、収縮期駆出性雑音などが手がかりになる。手足が冷たい低拍出性とは対照的だね。そして治療は、利尿薬などの対症療法に加えて、貧血の補正、甲状腺機能の正常化、ビタミンB1補充、シャントの閉鎖といった原因の治療が最も重要だ。
医学生医学生
心不全を見たら、心臓だけでなく、その外側に原因がないかも探す必要があるということですね。
ドクタードクター
まさにそれが今回の学びだ。温かい手足と大きな脈圧の心不全に出会ったら、貧血や甲状腺、ビタミンB1、シャントを思い出してほしい。

まとめ

高拍出性心不全は、心拍出量が正常以上に保たれているにもかかわらず、全身の需要がそれを上回るために生じる心不全です。原因は「酸素運搬能の低下(貧血)」「代謝亢進(甲状腺機能亢進症)」「末梢血管抵抗の低下・短絡(動静脈瘻、脚気心、骨Paget病、敗血症など)」の3つの機序で整理すると覚えやすくなります。一方、心膜炎(タンポナーデや収縮性心膜炎への進展)、心タンポナーデ、肥大型心筋症は、心室の充満障害などによって心拍出量が低下する低拍出性の病態です。高拍出性心不全では脈圧増大や四肢の温感が手がかりとなり、利尿薬などの対症療法に加えて原因疾患の治療が最も重要になります。心不全を「心拍出量と需要のバランス」で捉える視点は、心臓の外に潜む治療可能な原因を見逃さないための基本となります。

解答・解説

正解はa, eです

心不全は、心臓のポンプ機能が全身の組織が必要とする血液量(酸素需要)を満たせなくなった状態である。多くは心筋の障害や拡張障害などにより心拍出量そのものが低下する「低拍出性心不全」である。 これに対して「高拍出性心不全」は、心拍出量は正常より多いにもかかわらず、それを上回るほど全身の需要が大きい、あるいは血液の酸素運搬能力が落ちているために、結果として需要に追いつかなくなる状態である。心臓は長期間にわたり過大な容量負荷(前負荷の増大)と頻拍を強いられ、やがて肺うっ血や浮腫などの心不全症状が現れる。 高拍出性心不全の原因は、次の3つの機序に分けて考えると整理しやすい。 ・血液の酸素運搬能の低下:貧血 ・組織の代謝(酸素需要)の亢進:甲状腺機能亢進症 ・末梢血管抵抗の低下・短絡:動静脈瘻、脚気(ビタミンB1欠乏)、骨Paget病、敗血症、肝硬変など 一方、心膜疾患や心筋症は心臓自体の充満や収縮が障害される病態であり、心拍出量は低下する方向に働く。したがって本問では、貧血と甲状腺機能亢進症が高拍出性心不全の原因となる。

選択肢考察

  1. ○a.  貧血

    貧血ではヘモグロビンが減って血液1 mLあたりが運べる酸素量が少なくなる。組織への酸素供給を保つため、心拍数と1回拍出量を増やして心拍出量を増加させる代償が働く。また、組織の低酸素により末梢血管が拡張し血管抵抗が下がることも、心拍出量増加を促す。一般にヘモグロビンが著しく低い(おおむね7 g/dL未満)状態が続くと、この代償でも需要に追いつかなくなり、心拍出量が多いまま心不全を生じる。もともと心疾患のある人では、より軽い貧血でも心不全が顕在化しやすい。高拍出性心不全の代表的な原因である。

  2. ×b.  心膜炎

    急性心膜炎で炎症が心膜にとどまっている間は、心機能への影響はほとんどなく、心不全は起こしにくい。問題となるのは、心膜液が大量にたまって心タンポナーデになった場合や、慢性化して心膜が肥厚・硬化し心臓を締めつける収縮性心膜炎になった場合である。いずれも心室が十分に拡張できず(拡張障害)、心室への血液充満が減るため心拍出量は低下する。つまり心膜炎による心不全は低拍出性であり、高拍出性ではない。

  3. ×c.  肥大型心筋症

    肥大型心筋症(HCM:hypertrophic cardiomyopathy)は、明らかな原因なく左室心筋が不均一に肥大する疾患である。収縮能は多くの例で保たれるが、心筋が硬く左室の拡張が障害されること、左室流出路狭窄(閉塞性の場合)、心房細動などの頻脈性不整脈で拡張時間が短くなることなどから、左室への充満が不十分となり、うっ血性心不全をきたしうる。さらに一部(5〜10%程度)は経過中に壁が薄くなって収縮力が低下し、拡張型心筋症に似た拡張相肥大型心筋症へ移行する。いずれも心拍出量を増やす病態ではなく、高拍出性心不全の原因にはならない。

  4. ×d.  心タンポナーデ

    心タンポナーデは、心膜腔に貯留した液体(心膜液や血液)の圧が高まり心臓を外から圧迫する状態である。特に壁が薄く内圧の低い右房・右室が押しつぶされ、静脈還流が妨げられて心室に血液が十分入らない。左室の収縮力自体は保たれていても、送り出す血液が少ないため心拍出量は低下し、低血圧・頸静脈怒張・心音減弱(Beckの三徴)や奇脈を示してショックに陥る。典型的な低拍出の病態であり、治療は心嚢穿刺による排液である。

  5. ○e.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺ホルモンは全身の代謝を高めて組織の酸素需要を増やす。また心筋に直接作用して心拍数と収縮力を増し、末梢血管を拡張させて血管抵抗を下げ、さらにレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を介して循環血液量を増やす。これらにより心拍出量は大きく増加する。この過剰な状態が続くと、洞性頻脈や心房細動による頻拍、容量負荷の蓄積により心臓が需要に応えきれなくなり、高拍出性心不全をきたす(甲状腺中毒性心疾患)。とくに心房細動を合併した高齢者で起こりやすい。

高拍出性心不全の主な原因

・貧血(高度の慢性貧血) ・甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症) ・脚気心:ビタミンB1(チアミン)欠乏により末梢血管が拡張し、心拍出量が増える。アルコール多飲者や偏った食事で起こる。 ・動静脈瘻(シャント):透析用の内シャント、外傷性・先天性の動静脈瘻などで、血液が毛細血管を通らず静脈へ短絡するため、有効な循環を保とうと心拍出量が増える。 ・骨Paget病:骨の病変部で血流が著しく増え、動静脈短絡のように働く。 ・その他:妊娠、敗血症、肝硬変、多発性骨髄腫など。

心不全の分類

・低拍出性心不全と高拍出性心不全(心拍出量による分類) ・左室駆出率(LVEF)による分類:LVEFが低下した心不全(HFrEF、LVEF 40%未満)、軽度低下した心不全(HFmrEF、40%以上50%未満)、保たれた心不全(HFpEF、50%以上)。心不全患者のかなりの割合(報告により3分の1から半数程度)はLVEFが保たれており、拡張障害が重要な病態となる。

高拍出性心不全の特徴

脈圧の増大、四肢の温感、頻脈、収縮期駆出性雑音などを伴いやすい。治療では利尿薬などの対症療法に加え、原因疾患(貧血の補正、甲状腺機能の正常化、ビタミンB1補充、シャント閉鎖など)の治療が最も重要である。

POINT

・高拍出性心不全:心拍出量は多いのに需要に追いつかない心不全。 ・原因は「酸素運搬能低下(貧血)」「代謝亢進(甲状腺機能亢進症)」「血管抵抗低下・短絡(動静脈瘻、脚気、骨Paget病)」で整理する。 ・心膜炎(収縮性心膜炎)、心タンポナーデ、肥大型心筋症は充満障害などによる低拍出の病態。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。