StudyMed医師国家試験

食後の痛みが今回は止まらない―胆石発作から急性胆嚢炎へ移る瞬間を読む

第102回医師国家試験 D問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第37問

68歳の女性。腹痛を主訴に来院した。3年前から時々食後に右上腹部痛があった。昨日の夕食後にも腹痛があった。体温37.4℃。右季肋部に圧痛を伴う腫瘤を触れる。白血球12,500。CRP 5.8mg/dL。腹部造影CTを別に示す。  考えられるのはどれか。2つ選べ。

第102回 D問題 第37問の問題画像
  1. a.胆石症
  2. b.胆嚢炎
  3. c.胆嚢腺筋腫症
  4. d.胆嚢腺腫
  5. e.胆嚢癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は右上腹部痛の高齢女性で、胆嚢に何が起きているかを考える問題だ。着眼点は2つ。これまで繰り返してきた痛みの意味と、今回それが何に変わったのか。そしてCTで胆嚢の壁がどんな形で厚くなっているか。「2つ選べ」という設問形式もヒントになるよ。
医学生医学生
食後の右上腹部痛を何年も繰り返しているので、まず胆石を考えました。消化器の講義で「fat, female, forty」と習った記憶があります。
ドクタードクター
いい出発点だね。脂肪を含む食事をとると胆嚢が収縮して、結石が胆嚢頸部や胆嚢管に一時的にはまり込む。これが胆石発作、いわゆる胆道疝痛だ。結石が外れれば痛みは治まるから、「時々」痛む経過になる。
医学生医学生
でも今回は痛みが続いていて、微熱や白血球、CRPも上がっています。ただの発作とは違うということですか。
ドクタードクター
その通り。結石が嵌頓したまま外れないと、胆汁がうっ滞して胆嚢内圧が上がり、壁の血流障害と化学的な炎症が起こる。そこに大腸菌やクレブシエラなどの腸内細菌の感染が加わって進行するのが急性胆嚢炎だ。右季肋部に触れる圧痛を伴う腫瘤は、炎症で腫れてパンパンになった胆嚢そのものと考えられる。
医学生医学生
臨床実習の消化器内科で、Murphy徴候を取らせてもらいました。深吸気で息が止まるのが印象的でした。
ドクタードクター
それも局所所見の代表だね。では画像だ。CTでは胆嚢が腫大し、内腔に結石があり、壁は全周性にほぼ均一に肥厚して浮腫を伴っている。壁が不整に厚くなったり、内腔に突出する腫瘤や周囲への浸潤があったりはしない。この所見をどう解釈する?
医学生医学生
結石があるので胆石症、炎症の所見がそろっていて壁が均一に浮腫状なので胆嚢炎。2つ選ぶなら、この組み合わせでしょうか。
ドクタードクター
正解。背景にある結石という病態と、それによって起きた炎症という病態の両方を選ぶわけだ。急性胆嚢炎の約90%以上は胆嚢結石を伴うから、まさに典型的な結石性胆嚢炎だね。診断基準のTG18でいえば、局所の炎症所見、全身の炎症所見、特徴的な画像所見がすべてそろっていて確診にあたる。
医学生医学生
胆嚢腺筋腫症も壁が厚くなる病気でしたよね。CBTの問題で見た気がして、少し迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。胆嚢腺筋腫症は、粘膜が壁内に入り込んだRokitansky-Aschoff洞が増えて壁が肥厚する良性疾患だ。画像では壁の中に小さな嚢胞が並び、超音波でコメット様エコーを示すのが特徴。多くは無症状で、単独ではこれほどの炎症反応は説明できない。
医学生医学生
胆嚢腺腫はポリープとして見えるものなので、今回のような全周性の壁肥厚とは形が違いますね。
ドクタードクター
そう、腺腫は粘膜から内腔に突出する隆起性病変だ。今回は内腔に突出する腫瘤はないし、腺腫自体も通常は無症状だ。隆起性病変の評価には腹部超音波や超音波内視鏡が役立つよ。
医学生医学生
胆嚢癌はどうでしょう。胆石は癌の危険因子だと病理の講義で習いました。
ドクタードクター
危険因子なのは確かだ。ただ胆嚢癌の壁肥厚は不整で限局的なことが多く、腫瘤形成や肝臓への直接浸潤、リンパ節腫大を伴うことがある。今回は均一な浮腫性の肥厚で、急性の経過と炎症所見で説明がつく。とはいえ炎症による肥厚と癌の区別が難しいこともあるから、胆嚢摘出後の病理検査で確認することが大切なんだ。
医学生医学生
壁肥厚は、均一で浮腫状なら炎症、不整で限局的なら癌、壁内の小嚢胞なら腺筋腫症、と形で見分けるわけですね。
ドクタードクター
よく整理できたね。さらに、肝硬変や低アルブミン血症、心不全、急性肝炎など胆嚢の外の原因でも壁は浮腫状に厚くなるから覚えておくといい。臨床のポイントも押さえよう。重症度はTG18で分類され、右季肋部の有痛性腫瘤触知は中等症の項目に入る。だからこの方は中等症にあたる。
医学生医学生
治療は抗菌薬で炎症を抑えてから、待機的に手術ですか。
ドクタードクター
絶食、輸液、抗菌薬を始めるところまではその通り。ただ現在は、手術に耐えられる全身状態であれば早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術が推奨されている。手術リスクが高い場合は、経皮経肝胆嚢ドレナージで感染した胆汁を抜く選択肢もある。あと、強い黄疸があれば総胆管結石や胆管炎、胆嚢頸部の結石が総胆管を圧排するMirizzi症候群の合併を考えよう。
医学生医学生
結石を伴わない胆嚢炎もありましたよね。ICUの患者さんで起こると聞きました。
ドクタードクター
無石胆嚢炎だね。重症患者、長期絶食や中心静脈栄養中、大手術後や熱傷後などに起こり、壊死や穿孔をきたしやすい。結石がないからと油断しないことが大切だよ。

まとめ

食後の右上腹部痛の反復は、結石が胆嚢頸部に一時的に嵌頓する胆石発作を示し、嵌頓が持続して発熱・炎症反応・腫大胆嚢の触知を伴えば急性胆嚢炎へ進展したと考えます。CTで胆嚢結石、胆嚢腫大、全周性で均一な浮腫性の壁肥厚がみられれば胆石症と胆嚢炎の併存、すなわち結石性急性胆嚢炎と診断でき、急性胆嚢炎の約90%以上は結石を伴います。壁肥厚の形態は鑑別の鍵で、Rokitansky-Aschoff洞とコメット様エコーなら胆嚢腺筋腫症、内腔への隆起なら胆嚢腺腫、不整・限局的な肥厚や浸潤なら胆嚢癌を考えます。治療は絶食・輸液・抗菌薬に加え、耐術可能なら早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術が推奨され、TG18による重症度判定が治療方針の土台になります。病歴・身体所見・画像を組み合わせて病態を段階的に読み解く力は、急性腹症の診療全般に役立ちます。

解答・解説

正解はa, bです

所見の整理

・68歳女性。3年前から食後に右上腹部痛を繰り返している。これは脂肪を含む食事で胆嚢が収縮し、結石が胆嚢頸部や胆嚢管に一時的にはまり込むことで生じる「胆石発作(胆道疝痛)」に典型的な病歴である。 ・昨日の夕食後から腹痛が続いている。 ・体温37.4℃の微熱、白血球12,500/μL、CRP 5.8 mg/dLと全身性の炎症反応がある。 ・右季肋部に圧痛を伴う腫瘤を触れる。これは炎症で腫大・緊満した胆嚢を触れていると解釈できる。

画像所見

腹部造影CTでは、胆嚢が腫大し、胆嚢内腔に結石像を認める。胆嚢壁は全周性にほぼ均一に肥厚し、壁の浮腫を伴っている。壁の不整な肥厚や、内腔へ突出する腫瘤、周囲臓器への浸潤像はみられない。

診断へのプロセス

反復する食後の右上腹部痛という胆石発作の既往に加え、今回は炎症反応(発熱・白血球増多・CRP上昇)と右季肋部の圧痛を伴う腫瘤(腫大胆嚢)がそろい、CTで胆嚢結石・胆嚢腫大・びまん性の壁肥厚が確認できる。したがって、胆嚢結石が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓して胆汁がうっ滞し、そこに炎症(多くは二次的な細菌感染を伴う)が加わった「胆石性の急性胆嚢炎」と診断できる。 急性胆嚢炎の診断基準(急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン、TG18)に当てはめると、局所所見(右上腹部の圧痛・腫瘤)、全身の炎症所見(発熱・白血球増多・CRP上昇)、画像所見(胆嚢腫大・壁肥厚・結石)のすべてを満たし、確診に相当する。

設問の考え方

「考えられるのはどれか。2つ選べ」であり、背景にある結石(胆石症)と、それによって生じた炎症(胆嚢炎)の両方を選ぶ。壁肥厚をきたす他の胆嚢疾患(胆嚢腺筋腫症、胆嚢癌)や隆起性病変(胆嚢腺腫)とは、壁肥厚の形態と臨床像で区別する。

選択肢考察

  1. ○a.  胆石症

    CTで胆嚢内腔に結石像が認められ、胆嚢結石症(胆石症)が存在する。3年前からの食後右上腹部痛の反復も、結石が胆嚢頸部に一過性に嵌頓して起こる胆石発作として説明できる。急性胆嚢炎の約90%以上は胆嚢結石を伴っており、本例でも結石の嵌頓が胆嚢炎の引き金になったと考えられる。

  2. ○b.  胆嚢炎

    持続する右上腹部痛、右季肋部の圧痛を伴う腫瘤(腫大胆嚢)、発熱、白血球増多、CRP上昇という臨床像に加え、CTで胆嚢腫大と全周性・びまん性の壁肥厚(浮腫)を認めることから、急性胆嚢炎と診断できる。結石を伴っているので胆石性(結石性)胆嚢炎である。

  3. ×c.  胆嚢腺筋腫症

    胆嚢腺筋腫症(アデノミオマトーシス)は、胆嚢壁内のRokitansky-Aschoff洞(RAS:粘膜が壁内へ入り込んだ憩室様の構造)が増生し、壁が肥厚する良性疾患である。限局型・分節型・びまん型があり、分節型では胆嚢が瓢箪のようにくびれ、くびれより底部側に結石を伴いやすい。画像では壁内のRASが小嚢胞状に見え、超音波でコメット様エコーを示すのが特徴である。多くは無症状で、単独では発熱や白血球増多・CRP上昇といった強い炎症反応を説明できない。本例のCTは浮腫を伴う均一な壁肥厚と胆嚢腫大であり、臨床経過とあわせて炎症によるものと考えるのが妥当である。

  4. ×d.  胆嚢腺腫

    胆嚢腺腫は胆嚢粘膜から内腔へ突出する隆起性病変(ポリープ)として描出される良性腫瘍である。本例のCTでは内腔に突出する腫瘤は認めず、所見は結石と全周性の壁肥厚である。また腺腫自体は通常無症状で、炎症反応や腫大胆嚢の触知は説明できない。胆嚢の隆起性病変の検出・評価には腹部超音波検査(必要に応じて超音波内視鏡)が有用である。

  5. ×e.  胆嚢癌

    胆嚢癌は画像上、胆嚢壁の不整で限局的な肥厚、内腔や壁外へ広がる腫瘤、肝臓など周囲臓器への直接浸潤、リンパ節腫大などとして現れる。造影では肥厚した壁の内側(粘膜側)が強く造影されることが多い。本例のCTは浮腫を伴う均一な壁肥厚であり、腫瘍を疑う不整像や浸潤像はない。胆石は胆嚢癌の危険因子ではあるが、本例の急性の経過と炎症所見は胆嚢炎で説明できる。なお、胆嚢炎による壁肥厚と癌との区別が難しい場合もあり、胆嚢摘出後の病理検査で確認することが重要である。

急性胆嚢炎の病態

約90〜95%が胆嚢結石を伴う結石性胆嚢炎である。結石が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓すると胆嚢内圧が上がり、胆嚢壁の血流障害と化学的炎症が起こり、そこに腸内細菌(大腸菌、クレブシエラ、腸球菌など)の感染が加わって進行する。結石を伴わない無石胆嚢炎は、重症患者、長期絶食・中心静脈栄養中、大手術後、外傷・熱傷後などにみられ、壊死や穿孔をきたしやすい。

臨床所見

右上腹部(心窩部)痛、発熱、悪心・嘔吐が主な症状である。Murphy徴候(右季肋部を圧迫したまま深吸気させると、下降してきた炎症胆嚢が指に当たって痛みのため吸気が止まる)が特徴的で、腫大した胆嚢を触れることもある。黄疸は通常軽度か認めない。強い黄疸がある場合は総胆管結石・胆管炎の合併やMirizzi症候群(胆嚢頸部・胆嚢管の結石が総胆管を外から圧排して閉塞性黄疸をきたす状態)を考える。

診断基準(TG18)

A 局所の炎症所見:Murphy徴候、右上腹部の腫瘤触知・自発痛・圧痛 B 全身の炎症所見:発熱、CRP上昇、白血球数上昇 C 急性胆嚢炎に特徴的な画像所見 A・Bそれぞれ1項目以上で疑診、さらにCを満たせば確診とする。

画像所見

第一選択は腹部超音波検査で、胆嚢腫大、壁肥厚(4mm以上)、壁内の低エコー層(浮腫)、嵌頓結石、胆嚢周囲の液体貯留、プローブで胆嚢を圧迫した際の圧痛(sonographic Murphy sign)などをみる。CTは壊疽・穿孔・膿瘍などの合併症や他疾患の除外に有用である。なお、コレステロール結石など結石の成分によってはCTで写りにくいことがある。

重症度と治療の概略

重症度は、臓器障害を伴う重症(Grade III)、白血球著増(18,000/μL超)・右季肋部の有痛性腫瘤触知・症状出現から72時間以上経過・顕著な局所炎症所見(壊疽性・気腫性胆嚢炎、胆嚢周囲膿瘍など)のいずれかを伴う中等症(Grade II)、それ以外の軽症(Grade I)に分けられる。本例は右季肋部に有痛性腫瘤を触れるので、この基準では中等症に当てはまる。治療は絶食・輸液・抗菌薬を開始し、手術に耐えられる全身状態であれば早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術が推奨される。手術リスクが高い場合は経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)などで胆嚢内の感染胆汁を排出する。

胆嚢壁肥厚をきたす疾患の鑑別

・急性胆嚢炎:全周性・均一な肥厚、壁内浮腫、胆嚢腫大、炎症反応あり ・慢性胆嚢炎:萎縮した胆嚢に壁肥厚、炎症反応は乏しい ・胆嚢腺筋腫症:壁内のRAS(小嚢胞)、超音波でコメット様エコー ・胆嚢癌:不整・限局性の肥厚や腫瘤、周囲への浸潤 ・胆嚢外の原因:肝硬変・低アルブミン血症・心不全・急性肝炎などでも壁が浮腫性に肥厚する

POINT

・食後の右上腹部痛の反復は胆石発作を示唆する。 ・右上腹部痛+発熱・炎症反応+腫大胆嚢(圧痛を伴う腫瘤、Murphy徴候)+画像での胆嚢腫大・壁肥厚・結石 → 胆石性急性胆嚢炎。 ・急性胆嚢炎の約90%以上は胆嚢結石を伴う。 ・全周性で均一な浮腫性の壁肥厚は炎症を、不整・限局性の肥厚や腫瘤は胆嚢癌を示唆する。 ・胆嚢腺筋腫症はRASの増生とコメット様エコー、胆嚢腺腫は内腔への隆起性病変が特徴で、いずれも単独では炎症反応を説明できない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。