ぶどうの房は膵管とつながっている―MRCPで見つける無症状の膵嚢胞
第102回医師国家試験 D問題 第38問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。腹部超音波検査で異常を指摘され来院した。症状は特に認めない。磁気共鳴胆管膵管像〈MRCP〉を別に示す。 診断はどれか。

- a.慢性膵炎
- b.膵形成異常
- c.嚢胞性膵疾患
- d.先天性胆道拡張症
- e.膵・胆管合流異常症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
無症状で偶然見つかった膵病変をMRCPで評価するときは、胆管・膵管の拡張、走行異常、嚢胞の有無と膵管との交通を順に確認することが基本です。膵体尾部に主膵管と交通するぶどうの房状の多房性嚢胞があり、胆管や主膵管に異常がなければ嚢胞性膵疾患であり、高齢男性・膵炎の既往なしという背景から分枝型IPMNが最も考えられます。慢性膵炎は主膵管の数珠状変化や膵石、膵形成異常は膵管の走行異常、先天性胆道拡張症は肝外胆管の拡張、膵・胆管合流異常症は長い共通管で特徴づけられ、それぞれ画像所見で区別します。嚢胞性膵腫瘍はIPMN、MCN、SCN、SPNを好発年齢・性別・形態・膵管との交通で鑑別し、膵炎後の仮性嚢胞とも区別します。IPMNは悪性化の所見に応じて切除・精査・経過観察を選び、通常型膵癌の併存にも注意して長期に追うことが、膵癌の早期発見につながる重要な視点です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・65歳男性。無症状で、腹部超音波検査で偶然に異常を指摘された。腹痛・黄疸・飲酒歴・膵炎の既往などの情報はない。 ・MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影:MRIで胆汁や膵液など静止した水分を強調して描出し、造影剤を使わずに胆管と膵管を画像化する検査)が提示されている。
画像所見
膵体尾部に、小さな袋がいくつか集まったような(ぶどうの房状の)多房性の嚢胞性病変を認め、主膵管と連続(交通)している。主膵管は頭部から尾部まで途切れず描出され、明らかな拡張や狭窄・不整はない。肝内胆管と総胆管に拡張はなく、胆嚢の腫大もない。膵管と胆管は十二指腸壁内で別々に開口しているように見え、長い共通管は認めない。
診断へのプロセス
MRCPで異常として目立つのは膵体尾部の嚢胞のみであり、画像診断名としては「嚢胞性膵疾患」となる。さらに、高齢男性・無症状・膵炎の既往がない・主膵管と交通する多房性嚢胞という特徴から、嚢胞性膵腫瘍のうち膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN:intraductal papillary mucinous neoplasm)、なかでも分枝膵管が拡張した分枝型IPMNが最も考えられる。 胆管・膵管の走行や形態に異常はなく、慢性膵炎、膵の形成異常、胆道の拡張、膵・胆管合流異常を示唆する所見はない。
設問の考え方
MRCPでは胆管系・膵管系それぞれの「拡張の有無」「走行異常の有無」「嚢胞の有無と膵管との交通」を順に確認する。本問は膵体尾部の嚢胞を見つけられれば正解にたどりつける。
選択肢考察
- ×a. 慢性膵炎
慢性膵炎では、MRCPや内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)で主膵管の不整な拡張と狭窄が交互に並ぶ数珠状の変化や、分枝膵管の不規則な拡張、膵管内の結石(膵石)による陰影欠損がみられる。本例では主膵管の拡張や狭細化・不整を認めず、慢性膵炎を示す所見はない。なお、慢性膵炎を厳密に否定するには、膵管像に加えて超音波・CT・超音波内視鏡で膵実質の石灰化や萎縮などを評価する必要がある。
- ×b. 膵形成異常
膵の形成異常には、腹側膵管と背側膵管が癒合しない膵管癒合不全(膵管が副乳頭側と主乳頭側で分かれて描出される)や、膵が十二指腸を輪状に取り囲む輪状膵などがあり、膵管の走行異常として描出される。本例では主膵管は頭部から尾部まで一続きに描出され、走行異常はない。
- ○c. 嚢胞性膵疾患
膵体尾部に主膵管と交通する多房性の嚢胞性病変を認めるので、嚢胞性膵疾患である。高齢男性に無症状で見つかり、膵炎の既往がなく、主膵管と交通するぶどうの房状の多房性嚢胞であることから、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の分枝型が最も考えられる。膵炎後に生じる膵仮性嚢胞は単房性のことが多く、膵炎の既往がない本例には合わない。
- ×d. 先天性胆道拡張症
先天性胆道拡張症は、総胆管を中心とする肝外胆管が嚢腫状や紡錘状に拡張する疾患で、ほぼ全例に膵・胆管合流異常を合併する。肝内胆管の拡張を伴う型もある。本例では肝内胆管・総胆管とも拡張を認めない。
- ×e. 膵・胆管合流異常症
膵・胆管合流異常症は、膵管と胆管が十二指腸壁の外で合流し、括約筋(Oddi括約筋)の作用が合流部に及ばないため、膵液と胆汁が相互に逆流する先天異常である。画像では長い共通管として描出される。本例では明らかな共通管を認めない。ただし共通管が短い例では、MRCPだけでは胆管拡張を伴わない合流異常を見落とすことがあり、確定にはERCPなどの直接造影が必要になることがある。
膵嚢胞性疾患の分類
大きく、膵炎などに続発する非腫瘍性嚢胞(膵仮性嚢胞など)と、腫瘍性の嚢胞(嚢胞性膵腫瘍)に分けられる。
主な嚢胞性膵腫瘍の比較
・IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍):高齢男性に多い。膵頭部に多いが体尾部にも生じる。膵管上皮が乳頭状に増殖して粘液を産生し、膵管が拡張して嚢胞となる。主膵管と交通するのが特徴で、主膵管型・分枝型・混合型に分けられる。分枝型はぶどうの房状の多房性嚢胞を示す。内視鏡で十二指腸乳頭の開口部から粘液が排出される所見(開大した乳頭)がみられることがある。腺腫から浸潤癌まで段階的に進展しうる。また、IPMN自体の悪性化とは別に、膵内の離れた部位に通常型膵癌が発生するリスクも高い。 ・MCN(粘液性嚢胞腫瘍):中年女性に多く、膵体尾部に好発する。厚い被膜に覆われた嚢胞の中に小嚢胞を含む「cyst in cyst」(夏みかん状)の形態をとる。卵巣様間質を有し、原則として主膵管とは交通しない。悪性化の可能性があるため原則切除する。 ・SCN(漿液性嚢胞腫瘍):中高年女性に多い。小嚢胞が密に集まった蜂巣状(スポンジ状)の構造を示し、中心に星芒状の瘢痕や石灰化を伴うことがある。ほとんどが良性である。 ・SPN(充実性偽乳頭状腫瘍):若年女性に多い。充実部分と出血・壊死による嚢胞部分が混在する。低悪性度の腫瘍である。
膵仮性嚢胞
急性膵炎や慢性膵炎、膵外傷の後に、漏れた膵液が周囲に貯留し線維性の壁で囲まれたもの。真の上皮の裏打ちをもたない。単房性のことが多く、膵炎の既往が診断の手がかりとなる。
IPMNの取り扱い
国際診療ガイドラインでは、悪性を強く疑う所見(high-risk stigmata:膵頭部病変による閉塞性黄疸、造影される5mm以上の壁在結節、主膵管径10mm以上など)があれば切除を考慮する。悪性を疑う所見(worrisome features:嚢胞径30mm以上、造影される5mm未満の壁在結節、主膵管径5〜9mm、嚢胞の増大、CA19-9上昇、膵炎の合併など)がある場合は超音波内視鏡などで精査する。いずれもなければ経過観察となるが、通常型膵癌の併存にも注意して定期的に画像検査を行う。
MRCPの利点
非侵襲的で造影剤が不要であり、ERCPのような膵炎の合併症リスクがない。胆管・膵管の全体像や、嚢胞と膵管の交通の評価に優れる。
POINT
・MRCPでは胆管・膵管の拡張、走行異常、嚢胞の有無と膵管との交通を順に確認する。 ・高齢男性、無症状、主膵管と交通するぶどうの房状の多房性嚢胞 → 分枝型IPMN。 ・MCNは中年女性の膵体尾部、cyst in cyst、卵巣様間質、膵管と交通しない。SCNは蜂巣状で多くは良性。 ・膵仮性嚢胞は膵炎の既往があり、単房性が多い。 ・IPMNは本体の悪性化に加え、通常型膵癌の併存にも注意して経過観察する。
