抗菌薬だけでは終わらない―総胆管結石は「原因を取り除く」が鉄則
第102回医師国家試験 D問題 第36問
国試問題にチャレンジ
52歳の男性。右季肋部痛を主訴に来院した。昨夜,夕食後に右季肋部痛が出現し,今朝まで持続している。体温36.5℃。眼球結膜に黄染を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。右季肋部に圧痛を認める。白血球11,000。血液生化学所見:総ビリルビン1.6mg/dL,AST 58IU/L,ALT 45IU/L,ALP 580IU/L(基準260以下),γ-GTP 102 IU/L(基準8~50)。CRP 3.4mg/dL。腹部超音波検査で異常を認めたため行った内視鏡的逆行性胆管膵管造影写真〈ERCP〉を別に示す。 治療として最も適切なのはどれか。

- a.抗菌薬投与
- b.経口胆石溶解薬投与
- c.体外衝撃波結石破砕療法
- d.内視鏡的除石術
- e.腹腔鏡下胆嚢摘出術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
右季肋部痛に胆道系酵素優位の肝機能異常を伴い、ERCPで拡張した総胆管内に円形の透亮像を認めれば総胆管結石と診断でき、炎症所見を伴えば急性胆管炎を合併しています。総胆管結石は閉塞性黄疸や急性閉塞性化膿性胆管炎、胆石性膵炎を防ぐため症状の有無にかかわらず除去が原則で、第一選択は乳頭括約筋切開やバルーン拡張を併用した内視鏡的除石術です。抗菌薬は併用しますが単独では根本治療にならず、経口胆石溶解薬や体外衝撃波結石破砕療法は主に胆嚢結石が対象、腹腔鏡下胆嚢摘出術は除石後の再発予防として追加します。重症例では除石よりも緊急の胆道ドレナージが優先されるため、Tokyo Guidelines 2018による重症度判定とあわせて「原因除去」と「ドレナージ」の考え方を押さえておくことが、急性腹症の初期対応に直結します。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・52歳男性。夕食後に右季肋部痛が出現し、翌朝まで続いている。脂肪を含む食事の後に胆嚢が収縮することで起こる胆石発作を思わせる経過である。 ・体温36.5℃で発熱はなく、眼球結膜の黄染(肉眼的黄疸)もない。腹膜刺激症状はなく、右季肋部に圧痛がある。 ・白血球11,000、CRP 3.4 mg/dLと軽度の炎症反応がある。 ・ALP 580 IU/L(基準上限の2倍強)、γ-GTP 102 IU/Lと胆道系酵素が上昇し、総ビリルビンも1.6 mg/dLと軽度上昇している。AST・ALTの上昇は軽度である。これは胆汁の流れが妨げられている(胆汁うっ滞)ことを示すパターンである。 ・ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影: 十二指腸乳頭から造影剤を注入し胆管・膵管を写す検査)では、拡張した総胆管内に複数個(3個程度)の円形〜類円形の透亮像(造影剤が抜けて見える陰影欠損)を認め、総胆管結石である。主膵管に異常はみられない。
診断へのプロセス
右季肋部痛、胆道系酵素の上昇、超音波で異常を指摘され、ERCPで総胆管内に結石を認めたことから、総胆管結石と診断できる。さらに、炎症反応(白血球・CRPの上昇)、胆汁うっ滞を示す肝胆道系酵素の異常、画像での胆管拡張と結石という3つの要素がそろっており、急性胆管炎の診断基準(Tokyo Guidelines 2018)を満たす。発熱・黄疸・意識障害・ショックなどはなく、臓器障害もないため、重症度としては軽症と考えられる。 胆管末端の悪性腫瘍(下部胆管癌、Vater乳頭部癌、膵頭部癌)でも胆管拡張と胆道系酵素上昇をきたすが、本例ではERCPで結石による透亮像が明らかで、膵管も正常に造影されていることから考えにくい。
治療の考え方
総胆管結石は、放置すると結石が乳頭部に嵌頓して閉塞性黄疸、急性閉塞性化膿性胆管炎(胆管内圧が上昇して感染胆汁が血中に逆流し敗血症に至る重篤な病態)、胆石性膵炎を起こしうるため、症状の有無にかかわらず結石を除去するのが原則である。現在の第一選択は内視鏡による除石である。胆道感染を伴っているため抗菌薬も併用するが、原因である結石を取り除かなければ根本的な治療にならない。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬投与
本例は炎症反応の上昇があり、胆管炎を合併していると考えられるため、抗菌薬投与は必要な治療の一部である。しかし抗菌薬は感染を抑えるだけで、胆汁の流れを妨げている結石は残る。結石が乳頭部に嵌頓して胆管が閉塞すると、胆管内圧が上がって抗菌薬が胆汁中に移行しにくくなり、重症の胆管炎に進行するおそれがある。原因の除去(除石や胆道ドレナージ)を伴わない抗菌薬単独は「最も適切な治療」とはいえない。
- ×b. 経口胆石溶解薬投与
ウルソデオキシコール酸などの経口胆石溶解薬は、胆嚢機能が保たれた胆嚢内の小さな(おおむね径15mm未満)コレステロール結石に対して、長期間(半年~数年)の内服で溶解を図る治療である。効果が出るまでに時間がかかり、溶解率も高くない。本例のように胆管炎を合併している総胆管結石では速やかな除去が必要であり、また比較的大きな結石には効果が期待できないため適応とならない。
- ×c. 体外衝撃波結石破砕療法
体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)は、体外から衝撃波を集中させて結石を砕く治療で、主に腎・尿管結石に用いられる。胆石では、胆嚢機能が保たれた胆嚢内の少数のコレステロール結石に経口溶解薬と併用して用いられたことがあるが、現在はあまり行われない。総胆管結石に対する第一選択ではなく、破砕片が胆管に残って閉塞や胆管炎を悪化させうる。内視鏡での除去が困難な巨大結石などに限って補助的に用いられることがある程度である。
- ○d. 内視鏡的除石術
総胆管結石の治療の第一選択は、ERCPに引き続いて行う内視鏡的除石術である。十二指腸乳頭を電気メスで切開して出口を広げる内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や、バルーンで乳頭を拡張する内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を行い、バスケット鉗子やバルーンカテーテルで結石を十二指腸へかき出す。結石が大きい場合は、機械的砕石具で砕いてから除去する。開腹手術に比べて低侵襲で、診断に用いたERCPからそのまま治療に移行できる利点がある。胆管炎を合併しているため抗菌薬を併用し、結石が一度に取り切れない場合や胆管炎が重い場合には、胆管ステントなどによる内視鏡的胆道ドレナージを先に行う。
- ×e. 腹腔鏡下胆嚢摘出術
腹腔鏡下胆嚢摘出術は、症状のある胆嚢結石症や急性胆嚢炎に対する標準的な手術であり、胆嚢を取るだけでは総胆管内の結石は除去されない。総胆管結石の患者の多くは胆嚢結石を合併しており、再発予防のために内視鏡的除石術の後に胆嚢摘出術を追加することは推奨されるが、まず行うべき治療ではない。
総胆管結石の概要
・胆管内の結石には、胆嚢で形成されて胆管に落下したもの(コレステロール結石が多い)と、胆管内で形成されたもの(ビリルビンカルシウム石が多く、胆汁うっ滞や細菌感染が関与)がある。 ・症状: 上腹部痛・右季肋部痛、黄疸、発熱。無症状で見つかることもある。 ・合併症: 閉塞性黄疸、急性胆管炎(重症では急性閉塞性化膿性胆管炎)、胆石性膵炎。 ・検査: 血液では胆道系酵素(ALP、γ-GTP)とビリルビンの上昇。画像は腹部超音波(胆管拡張の有無)、CT、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影: 造影剤を使わず非侵襲的に胆管を描出)、超音波内視鏡(EUS)、ERCP。ERCPは診断と治療を同時に行える一方、膵炎などの合併症があるため、診断目的のみの場合はMRCPやEUSが優先されることが多い。
急性胆管炎の診断と重症度(Tokyo Guidelines 2018の要点)
・診断: A 全身の炎症所見(発熱・悪寒戦慄、または白血球数・CRPの異常)、B 胆汁うっ滞所見(黄疸、または肝胆道系酵素の異常)、C 胆管病変の画像所見(胆管拡張、または結石・狭窄・ステントなどの原因)。A・B・Cをそれぞれ1項目以上満たせば確診。 ・古典的には、発熱・黄疸・右上腹部痛のCharcot三徴が知られ、これにショックと意識障害が加わったものをReynolds五徴とよぶ(急性閉塞性化膿性胆管炎を示唆)。 ・重症度: 重症(臓器障害を伴う)、中等症(高度の白血球異常、39℃以上の発熱、高齢、高ビリルビン血症、低アルブミン血症などのうち複数を満たす)、軽症(どちらにも該当しない)。 ・治療: 全例で抗菌薬と輸液を開始する。重症・中等症では速やかな胆道ドレナージ(内視鏡的経鼻胆道ドレナージ[ENBD]、内視鏡的胆道ステント留置[EBS]、困難な場合は経皮経肝胆道ドレナージ[PTBD])を行う。軽症でも、初期治療に反応しない場合はドレナージを行い、原因の結石は可能であれば内視鏡的に除去する。
胆石治療の使い分け
・症状のある胆嚢結石・急性胆嚢炎: 腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準。 ・胆嚢機能が保たれた小さなコレステロール結石で手術を望まない場合: 経口胆石溶解療法(ウルソデオキシコール酸)。 ・総胆管結石: 内視鏡的除石術(EST/EPBD+バスケット・バルーンでの除去、大きな結石は機械的砕石)。胆嚢結石を合併していれば、その後に胆嚢摘出術を行う。内視鏡的治療が困難な場合は外科的切石術。
POINT
・右季肋部痛+胆道系酵素(ALP・γ-GTP)上昇+画像で総胆管内の透亮像 → 総胆管結石。 ・総胆管結石は症状の有無にかかわらず除去が原則で、第一選択は内視鏡的除石術(EST/EPBD+結石除去)。 ・胆管炎を合併すれば抗菌薬を併用するが、抗菌薬単独では根本治療にならない。重症例は緊急の胆道ドレナージ。 ・経口胆石溶解療法と体外衝撃波結石破砕療法は主に胆嚢結石(コレステロール結石)が対象。 ・胆嚢結石を合併する場合、除石後に腹腔鏡下胆嚢摘出術を追加する。
