StudyMed医師国家試験

鉄はあるのに使えない―「Fe低値・フェリチン高値」のねじれが示す慢性炎症の貧血

第102回医師国家試験 D問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第20問

慢性炎症による二次性貧血でみられるのはどれか。 MCV MCHC Fe TIBC フェリチン ① 低値 低値 低値 高値 低値 ② 低値~正常 低値~正常 低値 低値 高値 ③ 正常~高値 低値 高値 低値 高値 ④ 低値 低値 高値 低値 高値 ⑤ 正常~高値 正常 高値 低値 高値

  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、鉄代謝の検査パターンから慢性炎症による二次性貧血を選ぶ問題だ。表には赤血球指数と鉄の指標が並んでいるけれど、まず注目してほしいのは血清鉄とフェリチンの組み合わせ。この2つの意味を確認するところから始めよう。
医学生医学生
血清鉄は血中を回っている鉄で、フェリチンは貯蔵鉄の指標ですよね。TIBCはトランスフェリンの量を反映すると習いました。
ドクタードクター
その通り。では慢性炎症による貧血、いわゆるanemia of chronic diseaseはどんな病態だったかな。
医学生医学生
関節リウマチや結核、悪性腫瘍などに伴う貧血ですよね。でも正直、鉄欠乏性貧血との違いがあいまいです。
ドクタードクター
そこが今回の核心だ。炎症で増えるIL-6は、肝臓で鉄調節ホルモンのヘプシジンの産生を増やす。ヘプシジンは、細胞から鉄を血中へ送り出す唯一の出口であるフェロポルチンを分解してしまう。すると何が起こると思う?
医学生医学生
マクロファージに取り込まれた鉄が外に出られなくなる……網内系ブロックですね。腸からの吸収も落ちそうです。
ドクタードクター
正解。だから血清鉄は下がるのに、貯蔵鉄はたまったまま。しかもフェリチン自体が炎症で増える急性期蛋白でもあるから、フェリチンは高値〜正常になる。「体に鉄はあるのに使えない」状態なんだ。トランスフェリンはどうなるかな。
医学生医学生
鉄が足りないなら、鉄欠乏のときのように増えるのでは……?
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。トランスフェリンは炎症で肝臓での産生が低下するから、TIBCは低値〜正常になる。つまり慢性炎症による貧血は、血清鉄が低く、TIBCも低く、フェリチンが高い。この組み合わせを満たすのは、血清鉄低値・TIBC低値・フェリチン高値で、MCVとMCHCが低値〜正常のパターンだけだ。
医学生医学生
赤血球指数が「低値〜正常」と幅を持たせてあるのはなぜですか。
ドクタードクター
いい質問だ。慢性炎症による貧血は正球性正色素性のことが多いけれど、長期化・高度になると鉄の利用障害を反映して小球性低色素性に傾く。その実態を表した書き方なんだ。では、ほかのパターンも見ていこう。小球性低色素性で、血清鉄低値・TIBC高値・フェリチン低値のものは?
医学生医学生
それは鉄欠乏性貧血ですね。貯蔵鉄が枯渇してフェリチンが最初に下がり、体が鉄不足を感知してトランスフェリンを増やすのでTIBCが上がります。
ドクタードクター
完璧。慢性炎症による貧血とは、TIBCとフェリチンの動きが正反対になる点が鑑別の要だ。次に、小球性低色素性なのに血清鉄もフェリチンも高く、TIBCが低いパターンはどう考える?
医学生医学生
鉄は十分あるのにヘモグロビンが作れない……ヘム合成の障害でしょうか。病理実習で骨髄の環状鉄芽球の写真を見ました。
ドクタードクター
そう、鉄芽球性貧血に合うパターンだ。ミトコンドリアに鉄が沈着した環状鉄芽球が骨髄にみられる。グロビン合成の障害であるサラセミアも小球性低色素性で、輸血や無効造血で鉄過剰を伴う例ではこれに近くなることがある。
医学生医学生
正〜大球性で正色素性、血清鉄とフェリチンが高くてTIBCが低いパターンは、造血そのものが落ちている状態ですか。
ドクタードクター
その通り。骨髄で赤芽球が鉄を取り込まなくなると、使われない鉄が血中にも貯蔵部位にもたまる。再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などが該当し、溶血や頻回輸血でも鉄過剰の所見をとりうる。残る、正〜大球性なのに低色素性で鉄過剰というパターンは、典型的な病型としてはあまり当てはまるものがないけれど、少なくとも血清鉄が高い時点で慢性炎症による貧血とは合わない。
医学生医学生
まず血清鉄が低いかどうかで分けて、次にTIBCとフェリチンの向きで鉄欠乏か炎症かを決めればいいんですね。
ドクタードクター
その2段階で整理できる。臨床的な注意点も押さえておこう。慢性炎症による貧血はHb 8〜10 g/dL程度の軽度〜中等度が多く、網赤血球は増えない。治療の基本は原因疾患の治療で、鉄欠乏を合併していなければ鉄剤の効果は乏しい。
医学生医学生
内科の実習で、リウマチの患者さんに鉄剤を出すかどうか指導医の先生が悩んでいたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそこが難しいところで、両者が合併することもあるんだ。フェリチンは炎症で上がるから、炎症があるときは基準範囲内でも鉄欠乏が隠れていることがある。フェリチンの値を炎症の程度と合わせて解釈する習慣をつけよう。ちなみにヘプシジンは鉄欠乏や造血亢進、低酸素で減り、遺伝性ヘモクロマトーシスではヘプシジン不足で鉄吸収が過剰になる。「鉄のブレーキ」として覚えておくと、病態がつながりやすいよ。

まとめ

慢性炎症による二次性貧血では、IL-6がヘプシジンを増やし、フェロポルチンが分解されることで鉄がマクロファージ内に閉じ込められ(網内系ブロック)、血清鉄低値・TIBC低値〜正常・フェリチン高値〜正常という特徴的なパターンを示します。赤血球指数は正球性正色素性が多いものの、長期化すると小球性低色素性に傾きます。鉄欠乏性貧血はTIBC高値・フェリチン低値と逆の動きを示し、鉄芽球性貧血や造血低下による貧血では血清鉄とフェリチンがともに高値となる点で区別できます。治療は原疾患の治療が基本で、鉄剤は鉄欠乏の合併がなければ効果が乏しく、炎症下ではフェリチンが見かけ上高くなることにも注意が必要です。「血清鉄は低いのに貯蔵鉄は多い」というねじれを読み解く力は、貧血の鑑別全般の基礎となります。

解答・解説

正解はbです

慢性炎症による二次性貧血(慢性疾患に伴う貧血、anemia of chronic disease:ACD)は、関節リウマチなどの膠原病、結核などの慢性感染症、悪性腫瘍、炎症性腸疾患といった慢性の炎症性疾患に伴って起こる貧血である。入院患者では鉄欠乏性貧血に次いで多い貧血とされる。

病態:体内に鉄はあるのに使えない

炎症で増えるサイトカインのインターロイキン6(IL-6)は、肝臓で鉄調節ホルモンであるヘプシジンの産生を増やす。ヘプシジンは、細胞から鉄を血中へ送り出す唯一の出口であるフェロポルチンを分解する。その結果、 ・マクロファージ(網内系=細網内皮系)に取り込まれた鉄が血中に放出されず、貯蔵されたまま閉じ込められる(網内系ブロック) ・十二指腸からの鉄吸収も低下する こうして血清鉄が下がり、赤芽球が使える鉄が不足する。さらに炎症性サイトカインはエリスロポエチンの産生と赤芽球の増殖を抑え、赤血球の寿命も短縮させる。

検査値の読み方

・血清鉄(Fe):網内系から放出されないため低値 ・TIBC(総鉄結合能、血中で鉄を運ぶトランスフェリンの量を反映):トランスフェリンは炎症で産生が低下するため低値〜正常 ・フェリチン(貯蔵鉄の指標):貯蔵鉄が使われずにたまっていることに加え、フェリチン自体が炎症で増える急性期蛋白であるため高値〜正常 ・MCV(平均赤血球容積)・MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度):多くは正球性正色素性であるが、長期化・高度になると鉄の利用障害を反映して小球性低色素性に傾く。したがって「低値〜正常」となる。 解法としては、まず「Fe低値かつフェリチン高値」という組み合わせに注目する。血清鉄が低いのに貯蔵鉄が多いという“ねじれ”は鉄の利用障害を示し、慢性炎症による貧血に特徴的である。この条件を満たすのは②だけであり、TIBC低値もこれに合致する。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    小球性低色素性で、Fe低値・TIBC高値・フェリチン低値の組み合わせは鉄欠乏性貧血の典型である。貯蔵鉄が枯渇するため、最初にフェリチンが低下する。体が鉄不足を感知して肝臓でのトランスフェリン産生を増やすため、TIBCは上昇する(トランスフェリン飽和度=Fe/TIBCは著しく低下)。慢性炎症による貧血とはTIBCとフェリチンの動きが正反対である点が鑑別の要となる。

  2. ○b.  ②

    慢性炎症による二次性貧血の所見である。ヘプシジンの増加により鉄がマクロファージ内に閉じ込められるためFeは低値、鉄は貯蔵されたまま使われずかつフェリチンは急性期蛋白でもあるためフェリチンは高値、トランスフェリンは炎症で産生が落ちるためTIBCは低値となる。赤血球指数は正球性正色素性であることが多いが、慢性化すると小球性低色素性にもなるため、MCV・MCHCはともに「低値〜正常」という表記がこの貧血の実態に合致する。

  3. ×c.  ③

    MCVが正常〜高値でありながらMCHCが低値という正〜大球性低色素性のパターンで、Fe高値・TIBC低値・フェリチン高値を伴う。典型的な貧血の病型としてはあまり該当するものがなく、少なくとも慢性炎症による貧血(Fe低値となる)とは合致しない。

  4. ×d.  ④

    小球性低色素性でありながら、Fe高値・TIBC低値・フェリチン高値と体内の鉄は過剰である。これは鉄が十分にあってもヘモグロビンを作れない病態、すなわちヘム合成の障害による鉄芽球性貧血(ミトコンドリアに鉄が沈着した環状鉄芽球が骨髄にみられる)に合う。グロビン合成の障害であるサラセミアも小球性低色素性貧血を示し、輸血や無効造血による鉄過剰を伴う例ではこの型に近くなる。小球性低色素性貧血の鑑別では、鉄欠乏性貧血・慢性炎症による貧血・鉄芽球性貧血・サラセミアを鉄代謝の指標で区別する。

  5. ×e.  ⑤

    正〜大球性正色素性で、Fe高値・TIBC低値・フェリチン高値を示す。骨髄での造血(赤芽球による鉄の取り込み)が低下すると、使われない鉄が血中と貯蔵部位にたまるため、このパターンになる。再生不良性貧血や骨髄異形成症候群(MDS)などが該当し、赤血球の破壊が亢進する溶血性貧血や、頻回輸血を受けている例でも鉄過剰の所見をとり得る。慢性炎症による貧血とはFeの値が逆である。

小球性低色素性貧血の鑑別(鉄代謝の指標)

・鉄欠乏性貧血:Fe↓、TIBC↑、フェリチン↓ ・慢性炎症による貧血:Fe↓、TIBC↓〜正常、フェリチン↑〜正常 ・鉄芽球性貧血:Fe↑、TIBC↓〜正常、フェリチン↑(骨髄に環状鉄芽球) ・サラセミア:Fe・フェリチンは正常〜↑、TIBC正常。MCVの低下が貧血の程度に比べて著しく、赤血球数はむしろ多いことがある(標的赤血球)。診断にはヘモグロビン分析や遺伝子検査を用いる。

ヘプシジンと鉄代謝

ヘプシジンは肝臓で作られるペプチドホルモンで、鉄の吸収と放出を抑える「鉄のブレーキ」として働く。 ・増加する状況:炎症(IL-6)、鉄過剰 ・減少する状況:鉄欠乏、造血の亢進(エリスロポエチン刺激)、低酸素 慢性炎症ではヘプシジンが増えることで貧血になる一方、遺伝性ヘモクロマトーシスではヘプシジンが不足して鉄の吸収が過剰になる。

慢性炎症による貧血の特徴と治療

・貧血は軽度〜中等度(Hb 8〜10 g/dL程度)のことが多く、進行は緩やかである。 ・網赤血球は増えない(産生低下による貧血)。 ・鉄欠乏性貧血との合併もあり得る。フェリチンは炎症で上昇するため、炎症下ではフェリチンが基準範囲内でも鉄欠乏が隠れている場合がある。 ・治療の基本は原因疾患の治療である。鉄剤の投与は、鉄欠乏を合併していなければ効果が乏しい。

腎性貧血との関係

慢性腎臓病に伴う貧血は、主にエリスロポエチンの産生低下による正球性正色素性貧血であり、二次性貧血の一つとして慢性炎症による貧血と並べて整理される。

POINT

・慢性炎症による貧血=IL-6→ヘプシジン増加→フェロポルチン分解→鉄の利用障害(網内系ブロック)。 ・Fe↓、TIBC↓、フェリチン↑が特徴。「Fe低値なのにフェリチン高値」が鍵。 ・赤血球指数は正球性正色素性が多く、慢性化で小球性低色素性に傾く。 ・鉄欠乏性貧血(TIBC↑、フェリチン↓)とはTIBCとフェリチンの動きが逆。 ・治療は原疾患の治療。鉄剤は基本的に無効。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。