「ふさがる」か「動かない」か―腸閉塞の原因を物理で見抜く
第102回医師国家試験 D問題 第19問
国試問題にチャレンジ
腸閉塞の原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.感染性腸炎
- b.結腸癌
- c.S状結腸軸捻転
- d.過敏性腸症候群
- e.直腸脱
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腸閉塞は腸内容の通過障害であり、現在の用語では腫瘍・癒着・ねじれ・ヘルニア嵌頓などによる機械的閉塞を「腸閉塞」、腹膜炎や術後の腸管麻痺など閉塞機転のないものを「イレウス」と呼び分けます。結腸癌は大腸閉塞の最多原因で、特に内腔が狭く便が固形化する左側結腸で閉塞を来しやすく、S状結腸軸捻転は高齢者や慢性便秘の人に多い絞扼性の閉塞で、X線のcoffee bean signが特徴です。感染性腸炎や過敏性腸症候群は腸管運動の変化が主体、直腸脱は肛門外への脱出であり、通常は腸閉塞の原因とはなりません。臨床では原因の推定に加え、血流障害を伴う絞扼性かどうかを腹膜刺激徴候、血液検査、造影CTで見極めることが、緊急手術の判断に直結します。「内腔を物理的にふさぐか」という視点を持つと、腸閉塞の原因疾患を体系的に整理できます。
解答・解説
正解はb, cです
腸閉塞とは、何らかの原因で腸の内容物(食物残渣・消化液・ガス)が肛門側へ進めなくなった状態である。腸管内に内容物とガスがたまって腸が拡張し、腹痛・嘔吐・腹部膨満・排便や排ガスの停止といった症状が現れる。 原因は大きく2つに分けられる。 ・機械的な閉塞:腸の内腔が物理的にふさがる、あるいは圧迫・ねじれ・はまり込みによって通過できなくなるもの。腫瘍、術後の癒着、ヘルニア嵌頓、腸重積、軸捻転などが該当する。 ・機能的な障害:腸の内腔はふさがっていないが、腸の動き(蠕動)が止まるなどして内容物が運ばれなくなるもの。腹膜炎や開腹術後の麻痺性イレウスが代表である。 なお現在のわが国の急性腹症診療ガイドラインでは、機械的な閉塞のみを「腸閉塞」、腸管麻痺など閉塞機転のないものを「イレウス」と呼び分けることが推奨されている。 本問では、選択肢の各疾患が「腸管の通過を物理的に妨げるか」を考える。結腸癌は腫瘍そのものが内腔を狭窄・閉塞させ、S状結腸軸捻転は腸管がねじれて通過を遮断する。いずれも典型的な機械的腸閉塞の原因である。一方、感染性腸炎・過敏性腸症候群は腸管運動が亢進する方向の病態(下痢など)が主体であり、直腸脱は肛門から直腸が脱出する病態で、腸閉塞の原因としては通常挙げられない。
選択肢考察
- ×a. 感染性腸炎
細菌(カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌、腸炎ビブリオなど)やウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)による腸炎では、腸管の蠕動と分泌が亢進し、下痢・腹痛・発熱・嘔吐を来すのが基本である。内腔が物理的にふさがることはなく、通常は腸閉塞の原因とはならない。まれに重症のClostridioides difficile腸炎などで中毒性巨大結腸症(腸管麻痺・拡張)を来すことはあるが、これは例外的である。
- ○b. 結腸癌
進行した結腸癌では、腫瘍が腸管の全周に広がって内腔を狭くし(全周性狭窄)、最終的に閉塞させる。これは腫瘍による単純性(閉塞性)の機械的腸閉塞であり、大腸閉塞の原因として最も多い。特に内容物が固形化しつつある左側結腸(下行結腸・S状結腸)の癌では閉塞症状を来しやすく、便通異常や便が細くなる(便柱狭小)などを経て腸閉塞で発見されることもある。一方、右側結腸は内腔が広く内容物も液状であるため閉塞を起こしにくく、貧血や腫瘤触知で見つかることが多い。回盲弁が閉じていると盲腸が過度に拡張し、穿孔の危険が高まる(closed loop obstruction)。
- ○c. S状結腸軸捻転
S状結腸は長い腸間膜をもち可動性に富むうえ、腸間膜の付け根(基部)が狭いため、それを軸としてねじれやすい。ねじれると腸管の両端が閉じた閉鎖ループとなって通過障害を来すだけでなく、腸間膜の血管も締め付けられて血行障害が生じ、放置すると腸管の壊死・穿孔に至る(複雑性=絞扼性の機械的腸閉塞)。高齢者、慢性便秘、長期臥床、向精神薬の服用者などに多い。腹部単純X線で拡張したS状結腸が逆U字型に見えるcoffee bean signが特徴的である。壊死や腹膜炎がなければ内視鏡的整復をまず試み、壊死が疑われる場合や再発例では手術を行う。
- ×d. 過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛と便通異常(下痢・便秘、または両者の交替)が慢性に続くが、内視鏡などで説明できる器質的異常を認めない機能性の消化管疾患である。脳と腸の相互作用(脳腸相関)の異常やストレスが関与すると考えられている。腹部膨満感や残便感を訴えることはあっても、腸管の内腔がふさがることはなく、腸閉塞の原因とはならない。
- ×e. 直腸脱
直腸脱は、骨盤底筋群の脆弱化や直腸の固定不良、慢性的な強い怒責(いきみ)などにより、直腸壁が肛門外へ脱出する病態である。高齢の経産婦に多い。脱出、出血、粘液の排出、便失禁、排便困難・残便感などを来すが、腸閉塞の原因としては一般に挙げられない。脱出した直腸が戻らず嵌頓することはまれにあるが、典型的な腸閉塞の原因疾患ではない。
腸閉塞・イレウスの分類
1.機械的腸閉塞(腸管内腔の物理的閉塞) ・単純性(閉塞性):腸管の血流は保たれている。原因は術後癒着(最多)、腫瘍(大腸癌など)、炎症性狭窄(クローン病など)、胆石・異物・糞便による内腔閉塞、先天性腸閉鎖・狭窄など。 ・複雑性(絞扼性):腸管の血流障害を伴い、壊死・穿孔の危険があるため緊急手術の対象となる。原因は索状物(バンド)による絞扼、ヘルニア嵌頓(鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、内ヘルニア)、腸重積、腸軸捻転など。 2.機能的イレウス(閉塞機転なし) ・麻痺性:腸管の蠕動が停止するもの。汎発性腹膜炎、開腹術後、腸間膜血管の閉塞、低カリウム血症、薬剤(オピオイド、向精神薬など)、脊髄損傷、後腹膜の出血・炎症など。 ・痙攣性:腸管の一部が痙攣性に収縮するもの。鉛中毒などでまれにみられる。
絞扼性腸閉塞を疑う所見
持続的で強い腹痛、腹膜刺激徴候、発熱・頻脈・ショック、白血球増多・CK上昇・代謝性アシドーシス(乳酸上昇)、造影CTでの腸管壁の造影不良・腸間膜の浮腫・腹水などがあれば絞扼を疑い、緊急手術を考慮する。
大腸閉塞の原因
成人では大腸癌が最多で、次いでS状結腸軸捻転、憩室炎による狭窄などが続く。大腸癌による閉塞では、緊急手術のほか、大腸ステント留置や経肛門的イレウス管による減圧を行ってから待機的に手術を行う方法もある。
POINT
・腸閉塞=腸内容の通過障害。機械的(単純性・複雑性)と機能的(麻痺性・痙攣性)に分ける。 ・現在の用語では、機械的閉塞を「腸閉塞」、閉塞機転のない腸管麻痺を「イレウス」と呼び分ける。 ・結腸癌:大腸閉塞の最多原因。左側結腸癌で閉塞しやすい。 ・S状結腸軸捻転:高齢者・慢性便秘に多い絞扼性の閉塞。X線でcoffee bean sign、まず内視鏡的整復。 ・感染性腸炎、過敏性腸症候群、直腸脱は通常腸閉塞の原因とならない。
