「はっきりしない」が一番こわい―あいまいな予後説明が患者に残すもの
第102回医師国家試験 C問題 第14問
国試問題にチャレンジ
病気の予後についての医師の説明に対して,患者があいまいな説明と感じた。 最もよくみられる患者の反応はどれか。
- a.不穏
- b.失神
- c.不安
- d.逃避
- e.めまい
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
予後は統計や経験に基づく確率的な見通しであり、医師の説明は幅をもった表現になりやすいため、患者は将来の見通しが立たず、最もよくみられる反応として不安を抱きます。不確実さは不安を生む代表的な要因であり、失神やめまいは衝撃的な告知で起こりうるものの、あいまいな説明への典型的反応ではありません。不穏はせん妄などに伴う情動の乱れで器質的背景をもつことが多く、逃避は深刻な現実を告げられたときの防衛反応として区別されます。臨床では、不確かな点も誠実に伝え、平易な言葉で具体的に説明し、質問の機会を設けて理解を確認することが重要で、悪い知らせにはSPIKESの手順が役立ちます。説明の受け止められ方まで想像する姿勢は、信頼される医師患者関係の基盤になります。
解答・解説
正解はcです
病状説明、特に予後の説明が患者の心理にどう影響するかを問う問題である。 予後とは、病気が今後どのような経過をたどり、最終的にどうなるかの見通しである。予後の予測は臨床経験や統計データ(生存率など)に基づくが、個々の患者の将来を確実に言い当てることはできない。そのため医師の説明はどうしても幅をもった表現になりやすく、また患者の心理状態に配慮して数値を直接示さないこともある。 患者の側からみると、自分の将来という最も関心の高い事柄について、はっきりしない説明を受けることになる。すると「本当は悪い結果を隠しているのではないか」「自分はどうなってしまうのか」と見通しの立たない状態に置かれ、漠然とした心配や恐れ、すなわち不安が生じる。不確実さ(先が読めないこと)は、不安を生む最も代表的な要因である。 一方、失神やめまいのような身体症状、不穏、逃避といった反応は、特別な条件がそろえば起こりうるとしても、「説明があいまいだった」ことに対する典型的な反応とはいえない。「最もよくみられる」反応を選ぶ問題であることに注意する。
選択肢考察
- ×a. 不穏
不穏とは、落ち着きがなく、興奮して静かにしていられない状態をいい、臨床ではせん妄などの軽い意識障害を伴う情動の乱れを指すことが多い。脳の器質的疾患、代謝異常、薬剤、精神疾患などが背景にあることが多く、説明があいまいだったという心理的刺激だけで生じる典型的な反応ではない。
- ×b. 失神
失神は、脳全体の血流が一時的に低下して意識を失い、自然に回復する状態である。強い精神的ショックによる血管迷走神経反射で起こることはあり、余命がごく短い、重い機能障害が残るなど衝撃的な告知を受けた場面ではありうる。しかし、内容がはっきりしない説明がきっかけで失神が起こることは考えにくい。
- ○c. 不安
不安とは、対象がはっきりしない漠然とした心配や恐れの感情である。予後の説明があいまいだと、患者は自分の将来の見通しが立たず、「重大な事実を伏せられているのではないか」と悪い方向へ想像を膨らませやすい。この先どうなるかわからない不確実な状態は不安を最も生じやすく、あいまいな説明に対する反応として最も一般的である。
- ×d. 逃避
逃避は、受け入れがたい現実から目をそらしたり話題を変えたりする防衛的な反応である。深刻な内容を告げられた場合に生じることはあるが、説明があいまいと感じた場合には、むしろ「もっと詳しく知りたい」と質問を重ねたり不安を募らせたりすることが多く、逃避は典型的な反応ではない。
- ×e. めまい
強い心理的ストレスで心因性のめまいが生じることはあり、重大な内容と受け取った場合には起こりうる。しかし、あいまいな説明を受けたことが直接の誘因となってめまいを起こすことは一般的ではない。
予後説明の難しさ
予後は統計的な数値や医師の経験に基づく「確率」であり、個人の将来を正確に予測するには限界がある。さらに、患者の心理状態や治療への取り組み方によっては、数値をそのまま伝えることが適切でない場合もある。このため予後の説明はあいまいになりやすく、そのあいまいさは患者に希望を残す一方で、不安の原因ともなる。
インフォームド・コンセントと説明の工夫
インフォームド・コンセント(十分な説明を受けたうえでの同意)では、患者が理解できる平易な言葉で、簡潔かつ具体的に説明することが求められる。不確実な事柄は、「わからない」ことを含めて誠実に伝え、どの程度確かなのか、今後どのように見通しがはっきりしていくのかを示すと、患者の不安を和らげやすい。説明後には質問の機会を設け、理解度や受け止め方を確認する。
悪い知らせの伝え方
悪い知らせを伝える際の手順としてSPIKESがよく知られている。S(Setting:場の設定)、P(Perception:患者の認識の確認)、I(Invitation:どこまで知りたいかの確認)、K(Knowledge:情報の提供)、E(Emotions/Empathy:感情への共感的対応)、S(Strategy/Summary:今後の方針と要約)である。
告知後の心理
重大な病気を告げられた患者の心理過程として、キューブラー・ロスの5段階(否認・怒り・取引・抑うつ・受容)が知られる。否認や逃避はこの過程で生じうる防衛反応であり、あいまいな説明への反応とは区別して考える。
POINT
・予後の説明があいまいだと、患者は将来の見通しが立たず不安を抱きやすい。 ・不確実性は不安の最大の要因である。 ・説明は平易な言葉で具体的に行い、不確かな点も誠実に伝え、質問の機会を設けて理解を確認する。
