陽性者100人、本物は何人?―感度・特異度だけでは決まらない「適中度」の落とし穴
第102回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
大腸癌に対して感度80%,特異度70%の検査がある。ある地区でこの検査を施行したところ,100人の陽性者が見つかった。 真に大腸癌を有すると予測される人数はどれか。
- a.20人
- b.30人
- c.70人
- d.80人
- e.予測できない
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
陽性者のうち真に疾患をもつ人の数を問われたら、それは陽性反応適中度(真陽性÷陽性者全体)の問題であり、四分割表を書いて考えるのが基本です。感度・特異度・陽性者数の3条件だけでは四分割表の4つのマスを決められず、受診集団の有病率が分からない限り真陽性者数は予測できません。感度は疾患ありを分母、特異度は疾患なしを分母、適中度は検査結果を分母とする指標であり、この分母の違いを取り違えると誤った数値を選んでしまいます。感度・特異度は検査固有の性能で有病率の影響を原則受けませんが、適中度は有病率に依存し、有病率の低い検診集団では陽性反応適中度が低くなります。この考え方は、スクリーニング陽性者への精密検査の必要性や、患者への結果説明の根拠として臨床で直接役立ちます。
解答・解説
正解はeです
問われていること
「検査陽性者100人のうち、本当に大腸癌をもつ人は何人か」という問いは、陽性反応適中度(PPV: positive predictive value、陽性者のうち真に疾患をもつ人の割合)を求めることと同じである。
四分割表で整理する
疾患あり・なしと検査陽性・陰性で2×2の表を作り、各セルを次のように置く。 ・疾患あり・検査陽性=真陽性 TP(true positive) ・疾患あり・検査陰性=偽陰性 FN(false negative) ・疾患なし・検査陽性=偽陽性 FP(false positive) ・疾患なし・検査陰性=真陰性 TN(true negative) 問題文から得られる条件は次の3つである。 ・感度=TP/(TP+FN)=0.8 ・特異度=TN/(FP+TN)=0.7 ・陽性者数=TP+FP=100 未知数はTP、FN、FP、TNの4つであるのに対し、式は3本しかない。したがって、TP(真陽性者数)を一つに決めることはできない。足りないのは「疾患をもつ人が何人いたか」、つまり受診集団における有病率(または受診者総数と有病者数)の情報である。
具体例で確かめる
疾患あり D 人、疾患なし H 人とすると、TP=0.8D、FP=0.3H(1-特異度=偽陽性率0.3)であり、0.8D+0.3H=100 を満たす組み合わせは無数にある。 ・D=5、H=320(有病率約1.5%)のとき:TP=4、FP=96 → 真の患者は4人(PPV 4%) ・D=50、H=200(有病率20%)のとき:TP=40、FP=60 → 真の患者は40人(PPV 40%) ・D=110、H=40(有病率約73%)のとき:TP=88、FP=12 → 真の患者は88人(PPV 88%) 感度・特異度が同じでも、有病率によって真陽性者数は大きく変わる。したがって本問の条件だけでは「予測できない」が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 20人
20人は100×(1-感度0.8)で得られる数で、偽陰性率(疾患ありのうち検査陰性となる割合)を陽性者数に掛けた意味のない値である。偽陰性者は検査陰性側に属するため、陽性者100人の内訳とは関係しない。有病率によっては真陽性者がたまたま20人になることはあるが、与えられた条件から20人と定めることはできない。
- ×b. 30人
30人は100×(1-特異度0.7)、すなわち偽陽性率を陽性者数に掛けた値である。偽陽性率は「疾患のない人のうち検査陽性になる割合」であり、分母は疾患のない人の総数であって陽性者100人ではない。疾患のない人の数が不明なので偽陽性者数も求まらず、真陽性者数も決まらない。
- ×c. 70人
70人は特異度70%を陽性者数100人に掛けた値である。特異度は「疾患のない人を陰性と正しく判定する割合」で、陽性者のうち何人が真の患者かを示す指標ではない。指標の意味を取り違えた数値であり誤りである。
- ×d. 80人
感度80%を「陽性者の80%が真の患者」と読み違えると80人になる。感度は疾患をもつ人を分母とした割合(TP/(TP+FN))であり、陽性者を分母とする陽性反応適中度(TP/(TP+FP))とは別物である。陽性反応適中度は有病率に左右されるため、感度だけから80人と決めることはできない。
- ○e. 予測できない
四分割表の未知数4つ(TP、FN、FP、TN)に対し、与えられた条件は感度・特異度・陽性者数の3つだけであり、真陽性者数は一意に定まらない。真陽性者数(陽性反応適中度)を求めるには、受診集団の有病率または有病者数・非有病者数が必要である。したがって本問の条件からは予測できない。
検査の評価指標
・感度=TP/(TP+FN):疾患をもつ人を陽性と判定できる割合。高いほど見逃し(偽陰性)が少ない。 ・特異度=TN/(FP+TN):疾患のない人を陰性と判定できる割合。高いほど偽陽性が少ない。 ・偽陽性率=1-特異度、偽陰性率=1-感度 ・陽性反応適中度(PPV)=TP/(TP+FP):陽性者のうち真に疾患をもつ人の割合 ・陰性反応適中度(NPV)=TN/(FN+TN):陰性者のうち真に疾患のない人の割合
有病率と適中度の関係
感度・特異度は検査そのものの性能を表し、原則として有病率の影響を受けない。一方、適中度は検査を行う集団の有病率に依存する。 ・有病率が高い集団:陽性反応適中度は上がり、陰性反応適中度は下がる。 ・有病率が低い集団(一般住民の検診など):偽陽性が相対的に多くなり、陽性反応適中度は下がる。 このため、同じ検査でも一般住民検診と専門外来とでは、陽性結果の意味が大きく異なる。
スクリーニング検査の位置づけ
スクリーニングは二次予防(早期発見・早期治療)の手段であり、無症状の人を対象に、疾患のありそうな人とそうでない人をふるい分けることを目的とする。確定診断を目的とする精密検査とは区別される。大腸癌検診では便潜血検査(免疫法2日法)がスクリーニングとして用いられ、陽性者には全大腸内視鏡検査などの精密検査が行われる。
POINT
・陽性者のうち真の患者数を問われたら「陽性反応適中度」の問題と捉え、四分割表を書く。 ・陽性反応適中度・陰性反応適中度は有病率に依存する。感度・特異度だけでは計算できない。 ・感度・特異度は検査固有の性能であり、原則として有病率に左右されない。 ・有病率が低い集団ほど陽性反応適中度は低くなる(偽陽性の割合が増える)。 ・感度(疾患ありが分母)と陽性反応適中度(検査陽性が分母)の分母の違いを混同しない。
