StudyMed医師国家試験

「病気がない」だけでは足りない―WHOが描いた健康の3つの柱

第102回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第102回 B問題 第1問

WHO憲章では,健康とは,単に疾病がないということではなく,「身体的,□□的,□□的に完全に良好な状態である」としている。  □□に入る言葉はどれか。2つ選べ。

  1. a.機能
  2. b.精神
  3. c.衛生
  4. d.社会
  5. e.経済

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の出発点ともいえる、WHO憲章の「健康の定義」を問う問題だ。知識問題ではあるけれど、健康をどんな側面からとらえているのかを理解しておくと、ほかの分野にもつながる。まずは空欄に入りそうな言葉を考えてみようか。
医学生医学生
身体的、の次は「精神的」ですよね。衛生学の講義で最初に習った気がします。でももう一つが「社会的」だったか「機能的」だったか、少し自信がありません。
ドクタードクター
そこが迷いどころだね。答えは「精神的」と「社会的」。憲章の英文では physical、mental、social の3語が並び、それらが完全に満たされた状態を well-being と表現している。さらに、健康とは disease(病気)や infirmity(虚弱)がないことだけではない、と付け加えているんだ。
医学生医学生
つまり、からだ・こころ・社会生活の3つがそろって初めて健康、ということですね。
ドクタードクター
その通り。病気でないことを健康とする消極的な考え方から、もっと積極的で包括的な概念へ広げた点に意義がある。では「機能」はどうして入らないと思う?
医学生医学生
体の機能が保たれていることは、身体的に良好な状態に含まれてしまうから、でしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。機能は身体的側面の中身であって、独立した柱ではない。「機能」という言葉は、むしろWHOが2001年に採択した国際生活機能分類、ICFの文脈で使われる概念なんだ。
医学生医学生
ICFはリハビリテーション科の実習で、心身機能・活動・参加の枠組みとして教わりました。混同しないようにします。
ドクタードクター
次に「衛生」。これは健康を守り増進するための環境整備や予防活動を指す言葉で、公衆衛生や環境衛生のように使う。健康の状態そのものを表す側面ではないんだ。
医学生医学生
手段と状態の違いですね。では「経済」は?所得格差が健康に影響するという話は、社会医学の講義で聞いた覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えているね。経済状態は健康の社会的決定要因の一つとして大切だけれど、それは健康に影響を与える要因であって、定義の言葉としては含まれない。要因と定義を分けて考えるのがポイントだ。
医学生医学生
精神的な側面が入っているということは、身体に病気がなくても、強い抑うつがあれば健康とはいえないわけですね。
ドクタードクター
そう。そして社会的側面は、家族や地域、職場との関係が保たれ、社会の一員として役割を果たせる状態を指す。臨床でも、退院後に仕事や家庭へ戻れるかまで考えるのは、この考え方とつながっているんだ。
医学生医学生
精神科の実習で、症状は落ち着いたのに復職に悩んでいる患者さんがいました。あれも社会的な健康の問題ですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。発展知識も押さえておこう。1998年のWHO執行理事会で、spiritual(霊的)と dynamic(動的)を加える改正案が出されたけれど、総会では審議が見送られて採択されていない。だから現行の定義は3つの側面のままだ。
医学生医学生
「スピリチュアル」が入っていると思い込んでいたので、ひっかかるところでした。
ドクタードクター
ひっかけとしてよく使われるから注意してね。ちなみにWHO憲章は1946年に採択され、1948年4月7日に発効した。この日は世界保健デーになっている。英語で出題されることもあるから、physical・mental・social・well-being はセットで覚えておこう。
医学生医学生
関連して、1978年のアルマ・アタ宣言がプライマリヘルスケア、1986年のオタワ憲章がヘルスプロモーション、という流れも整理しておきます。
ドクタードクター
いいね。健康をどうとらえるかという土台があってこそ、そうした国際的な取り組みの意味も見えてくるよ。

まとめ

WHO憲章の前文では、健康とは身体的(physical)・精神的(mental)・社会的(social)に完全に良好な状態(well-being)であり、単に病気や虚弱がないことではないと定義されています。「機能」は身体的側面に含まれる内容でICFの文脈で使われる語、「衛生」は健康を守る手段、「経済」は健康に影響する社会的決定要因であり、いずれも定義の語ではありません。1998年にspiritualとdynamicを加える改正案が出されましたが採択されておらず、現行の定義は3側面のままです。WHO憲章は1948年4月7日に発効し、この日は世界保健デーとされています。健康を包括的にとらえるこの定義は、患者の心理面や社会復帰まで見据えた診療や、公衆衛生活動の基本的な考え方の土台となります。

解答・解説

正解はb, dです

本問は世界保健機関(WHO: World Health Organization)憲章の前文に掲げられた「健康の定義」を問う基本問題である。 憲章の英文では、健康を構成する三つの側面として physical(身体的)、mental(精神的)、social(社会的)の3語が並び、それらが完全に満たされた状態を well-being(良好な状態)と表現している。さらに、健康とは病気(disease)や虚弱(infirmity)がないことだけを意味するのではない、と付け加えている。日本語にすると「健康とは、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であって、単に疾病や病弱が存在しないことではない」となる。 問題文では「身体的」がすでに示されているので、残りの二つの空欄には「精神」と「社会」が入る。 この定義の意義は、健康を「病気でないこと」という消極的な捉え方にとどめず、からだ・こころ・社会生活の三面がそろって良好であるという積極的かつ包括的な概念として示した点にある。英語で出題されることもあるため、physical / mental / social の3語と well-being、disease・infirmity という語をまとめて覚えておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  機能

    WHO憲章の健康の定義には「機能的」という語は含まれない。身体の機能が保たれていることは「身体的(physical)」に良好な状態に含まれる内容であり、独立した一側面としては挙げられていない。なお「機能」は、国際生活機能分類(ICF)など障害・生活機能の評価の文脈で用いられる概念である。

  2. ○b.  精神

    原文の mental well-being にあたり、「精神的に良好な状態」は健康を構成する三つの側面の一つである。身体に病気がなくても、強い不安や抑うつなど心の状態が損なわれていれば、WHOの定義では健康とはいえない。

  3. ×c.  衛生

    「衛生」は健康を守り増進するための環境整備や予防活動(公衆衛生、環境衛生など)を指す語であり、健康の状態そのものを表す側面ではない。WHO憲章の健康の定義には含まれない。

  4. ○d.  社会

    原文の social well-being にあたる。家族や地域、職場などとの関係が保たれ、社会の一員として役割を果たし生活できる状態を意味する。身体・精神に加えて社会的側面まで健康の概念に含めた点が、この定義の大きな特徴である。

  5. ×e.  経済

    経済状態は所得格差などを通じて健康に影響する要因(健康の社会的決定要因の一つ)ではあるが、WHO憲章の健康の定義に「経済的」という語は含まれない。

WHO憲章

WHO憲章は1946年に採択され、1948年4月7日に発効した。この日にちなみ、4月7日は「世界保健デー(World Health Day)」とされている。健康の定義は憲章の前文に置かれている。

前文のその他の主な内容

到達しうる最高水準の健康を享受することは、人種・宗教・政治的信念・経済的または社会的条件の差別なく、すべての人の基本的権利の一つであるとされている。

spiritual(スピリチュアル)を加える改正案

1998年のWHO執行理事会で、健康の定義に spiritual(霊的・スピリチュアル)と dynamic(動的)を加える改正案が提案されたが、総会では審議が見送られ、採択されていない。したがって現行の定義は physical・mental・social の3側面である。

関連する概念

・ヘルスプロモーション:1986年のオタワ憲章で「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義された。 ・プライマリヘルスケア:1978年のアルマ・アタ宣言で提唱された。 ・国際生活機能分類(ICF):2001年にWHOが採択した、生活機能と障害の分類である。

POINT

・WHO憲章の健康の定義:身体的(physical)・精神的(mental)・社会的(social)に完全に良好な状態(well-being)を指し、疾病や虚弱がないだけでは健康とはいえない。 ・「機能」「衛生」「経済」「霊的(spiritual)」は定義に含まれない(spiritual は改正案が出されたが未採択)。 ・英文での出題にも対応できるよう、キーワードを英語でも押さえておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。