StudyMed医師国家試験

顔と腕だけがむくむ理由―肺癌が上大静脈をふさぐとき

第102回医師国家試験 A問題 第53問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第53問

50歳の男性。呼吸困難を主訴に来院した。1か月前から咳嗽と労作時呼吸困難とが出現し,徐々に増悪した。3日前から顔面と上肢とに浮腫が出現した。胸部右側で呼吸音の減弱を認める。胸部エックス線写真を別に示す。経気管支擦過細胞診はクラスⅣである。  考えられるのはどれか。

第102回 A問題 第53問の問題画像
  1. a.心不全
  2. b.癌性リンパ管症
  3. c.上大静脈症候群
  4. d.Pancoast症候群
  5. e.Lambert-Eaton症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺癌が疑われる患者さんに出てきた「むくみ」の意味を読み解く問題だ。注目してほしいのは、浮腫が体のどこに出ているか、という分布。そして胸部エックス線写真で縦隔がどう見えるかだ。むくみと聞いて、まず何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
むくみと呼吸困難の組み合わせだと、最初は心不全を考えてしまいます。
ドクタードクター
自然な発想だね。でも心不全、特に右心不全の浮腫は重力の影響を受けるから、下腿のような低い部位から出てくるのが典型だ。今回は顔面と上肢、つまり上半身だけにむくみが出ている。これはどう説明できるだろう。
医学生医学生
上半身だけの血液がうまく戻れていない、ということでしょうか。解剖の講義で、頭頸部と上肢の静脈血は上大静脈に集まると習いました。
ドクタードクター
その通り。上大静脈は頭頸部と上肢の静脈血を右心房へ戻す血管で、右上縦隔を走っている。壁が薄くて内圧が低いから、隣の腫大リンパ節や腫瘍に押されるとすぐにつぶれてしまうんだ。胸部エックス線写真では、右上縦隔、つまり右傍気管部の陰影が外側に張り出していて、上縦隔リンパ節の腫大が疑われる。一方で心陰影の拡大は目立たない。
医学生医学生
細胞診がクラスⅣなので肺癌があって、その縦隔リンパ節転移が上大静脈を圧迫している、という流れですね。
ドクタードクター
そう、それが上大静脈症候群だ。右下肺野の透過性低下は胸水か無気肺を示唆していて、右の呼吸音減弱と合う。咳嗽や徐々に進む呼吸困難も、腫瘍による気道狭窄や悪性胸水で説明できる。肺癌、上半身に限局した浮腫、上縦隔の拡大、この3つがそろったら上大静脈症候群を第一に考えよう。
医学生医学生
心不全なら、両側の肺うっ血や心拡大が写真に出るはずなので、所見が右に偏っている今回とは合わないですね。
ドクタードクター
よく整理できている。次は癌性リンパ管症。これはどんな病態だったかな。
医学生医学生
癌細胞が肺のリンパ管に広がるもので、病理実習で間質に腫瘍細胞が詰まった標本を見ました。呼吸困難は強くなりそうですが。
ドクタードクター
そう、乾性咳嗽と進行性の呼吸困難を来す。ただ画像では網状影やKerley線が両側性、あるいは一側肺全体にびまん性に出ることが多い。何より、顔と腕のむくみという静脈還流障害は説明できないんだ。
医学生医学生
Pancoast症候群も上肢の症状が出るので少し迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。Pancoast症候群は肺尖部の腫瘍が胸壁や腕神経叢、交感神経幹に浸潤して起こる。主な症状は肩から上肢への強い痛み、尺骨神経領域を中心とした上肢の運動・知覚障害、そしてHorner症候群だ。むくみが主体ではないし、今回の写真では肺尖部に腫瘤は見当たらない。
医学生医学生
Lambert-Eaton症候群は小細胞癌に合併する傍腫瘍症候群なので、症状の種類がそもそも違いますね。
ドクタードクター
その通り。電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体でアセチルコリン放出が減り、下肢近位筋優位の筋力低下、腱反射低下、口渇などが出る。反復刺激試験で高頻度刺激により振幅が増えるwaxingが有名だ。浮腫とは関係がない。
医学生医学生
CBTの勉強では、肺癌の合併症を名前だけで覚えていましたが、どこが障害されるかで症状を考えると整理しやすいです。
ドクタードクター
まさにそれが大事。上大静脈症候群についてもう少し深めよう。原因の大部分は悪性腫瘍で、肺癌、とくに小細胞癌や右上葉の癌が多く、次いで悪性リンパ腫や縦隔腫瘍がある。良性では中心静脈カテーテルやペースメーカーリードに伴う血栓も原因になる。症状は顔面・頸部・上肢の浮腫のほか、頸静脈や前胸部の表在静脈の怒張、顔面紅潮、頭痛などで、前屈位や臥位で悪化しやすい。
医学生医学生
前胸部の静脈が浮き出るのは、側副血行路ができているからですか。
ドクタードクター
そう。閉塞がゆっくり進めば奇静脈系や胸壁の静脈を通る側副路が発達して症状がやわらぐこともある。逆に急速に閉塞すると側副路が間に合わず症状が強い。喉頭浮腫による気道狭窄や脳浮腫を起こすと緊急対応が必要になる。
医学生医学生
治療は、まず原因の癌を治療するんでしょうか。
ドクタードクター
基本はそうだね。造影CTで閉塞部位と原因病変を評価し、治療方針のために組織型を確定することが重要になる。小細胞癌や悪性リンパ腫は化学療法がよく効くし、非小細胞癌では放射線療法なども選ばれる。症状が強ければ血管内ステント留置で速やかに還流を改善させることもあるし、頭部挙上やステロイド、利尿薬などの対症療法も併用される。臨床実習で呼吸器内科を回るときは、肺癌の患者さんの顔つきや首の静脈にも目を向けてみてほしい。

まとめ

肺癌患者で顔面・頸部・上肢に限局した浮腫が出現した場合は、上縦隔リンパ節転移や腫瘍の直接浸潤で上大静脈が圧迫される上大静脈症候群を考えます。胸部エックス線写真での右上縦隔の拡大はその手がかりとなり、頸静脈や前胸部表在静脈の怒張、顔面紅潮なども特徴です。心不全の浮腫は下肢優位で心拡大や両側性肺うっ血を伴い、癌性リンパ管症は間質性の陰影、Pancoast症候群は上肢痛とHorner症候群、Lambert-Eaton症候群は近位筋の筋力低下と、それぞれ症状の分布と性質が異なります。治療は原因腫瘍の治療が基本で、組織型の確定が重要となり、症状が強い場合はステント留置も検討されます。症状を「どの構造が障害されたか」から考える姿勢は、肺癌の多彩な局所進展や傍腫瘍症候群を整理する土台になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・50歳男性。1か月前から咳嗽と労作時呼吸困難が出現し、次第に悪化している。 ・3日前から顔面と上肢に浮腫が出現した。浮腫が「上半身に限局」している点が最大の手がかりである。 ・身体所見では胸部右側の呼吸音が減弱している。 ・経気管支擦過細胞診はクラスⅣ(悪性が強く疑われる)であり、肺癌が存在することを前提に考えてよい。 ・胸部エックス線写真では、右下肺野の透過性が低下しており(胸水貯留あるいは無気肺を示唆)、右呼吸音減弱と合致する。さらに右上縦隔(右傍気管部)の陰影が外側へ張り出すように拡大しており、上縦隔リンパ節の腫大が疑われる。心陰影の拡大は目立たない。

診断へのプロセス

肺癌患者で、顔面・頸部・上肢といった上半身のみに浮腫が生じた場合、まず上大静脈(SVC:superior vena cava)の閉塞・狭窄を考える。上大静脈は頭頸部と上肢の静脈血を右心房へ還流させる血管であり、右上縦隔を走行する。壁が薄く内圧が低いため、隣接する腫大リンパ節や腫瘍に容易に圧排される。本例では右上縦隔の拡大があり、肺癌の縦隔リンパ節転移(あるいは腫瘍の直接浸潤)が上大静脈を圧迫した結果、頭頸部・上肢からの静脈還流が障害され、上半身の浮腫が生じたと解釈できる。 一方、咳嗽や徐々に進行する労作時呼吸困難、右呼吸音減弱は、腫瘍による気道狭窄・無気肺や悪性胸水で説明できる。

設問の考え方

「肺癌+上半身に限局した浮腫+上縦隔拡大」という組み合わせから上大静脈症候群を選ぶ。全身性浮腫(心不全)、肺実質・間質の病変(癌性リンパ管症)、肺尖部の局所浸潤症状(Pancoast症候群)、神経筋接合部の傍腫瘍症候群(Lambert-Eaton症候群)とは、症状の分布や性質がまったく異なる点を押さえる。

選択肢考察

  1. ×a.  心不全

    心不全(特に右心不全)による浮腫は重力の影響を受け、下腿など身体の低い部位から出現するのが典型で、顔面と上肢だけに浮腫が限局することは説明できない。また左心不全による肺うっ血や胸水は両側性に出現することが多く、胸部エックス線写真では心拡大(心胸郭比の増大)や肺血管陰影の増強を伴うはずである。本例では心拡大は目立たず、所見は右側に偏在しているため否定的である。

  2. ×b.  癌性リンパ管症

    癌性リンパ管症は、癌細胞が肺のリンパ管内に広がって間質を侵す病態で、乾性咳嗽と進行性の呼吸困難を来す。胸部エックス線写真では両側性の網状影、Kerley線、肺門リンパ節腫大などを示すことが多く、片側であっても一側肺全体にびまん性に広がるのが一般的で、下肺野にのみ限局する陰影は典型的でない。何より、顔面と上肢の浮腫という上半身の静脈還流障害を説明できない。

  3. ○c.  上大静脈症候群

    肺癌の上縦隔リンパ節転移や腫瘍の直接浸潤によって上大静脈が圧迫・閉塞されると、頭頸部と上肢からの静脈還流が障害され、顔面・頸部・上肢の浮腫、頸静脈怒張、前胸部の表在静脈の怒張(側副血行路)、顔面紅潮、頭痛などが生じる。本例は細胞診で肺癌が示唆され、胸部エックス線写真で右上縦隔の拡大がみられ、3日前から顔面と上肢に限局する浮腫が出現しているため、上大静脈症候群と考えるのが最も妥当である。

  4. ×d.  Pancoast症候群

    Pancoast症候群は、肺尖部に発生した肺癌(Pancoast腫瘍、肺尖部胸壁浸潤癌)が胸壁・腕神経叢・交感神経幹などに浸潤して生じる症候群である。肩から上肢にかけての強い痛み、上肢の運動・知覚障害(主に尺骨神経領域)、Horner症候群(縮瞳、眼瞼下垂による眼裂狭小、患側顔面の発汗低下)が特徴である。上肢の浮腫が主体ではなく、本例の画像でも肺尖部に腫瘤はみられないため当てはまらない。

  5. ×e.  Lambert-Eaton症候群

    Lambert-Eaton症候群(Lambert-Eaton筋無力症候群)は、神経終末の電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)に対する自己抗体によりアセチルコリン放出が低下する傍腫瘍症候群で、肺小細胞癌に合併しやすい。下肢近位筋優位の筋力低下、腱反射の低下、口渇などの自律神経症状を示し、反復刺激試験では高頻度刺激で振幅が増大する(waxing)。浮腫を来す病態ではなく、本例の症状とは合わない。

上大静脈症候群の概要

・原因:大部分が悪性腫瘍によるもので、肺癌(特に小細胞癌と右上葉の癌)が最多であり、次いで悪性リンパ腫、縦隔腫瘍などが続く。良性の原因としては、中心静脈カテーテルやペースメーカーリードに伴う血栓、線維性縦隔炎などがある。 ・症状:顔面・頸部・上肢の浮腫、頸静脈や前胸壁の表在静脈の怒張、顔面紅潮、頭痛、めまい、呼吸困難、嗄声など。前屈位や臥位で症状が増悪しやすい。重症では喉頭浮腫による気道狭窄や脳浮腫を来し、緊急対応が必要となる。 ・経過:閉塞がゆっくり進むと奇静脈系や胸壁の静脈を介する側副血行路が発達し、数週間で症状がある程度軽減することがある。急速に閉塞すると側副路が間に合わず症状が強い。 ・診断:造影CTで上大静脈の狭窄・閉塞と原因病変、側副血行路を評価する。治療方針決定のため、組織診断(病理型の確定)を得ることが重要である。 ・治療:原因疾患の治療(小細胞癌や悪性リンパ腫では化学療法の反応性が高い、非小細胞癌では放射線療法など)が基本である。症状が強い場合は血管内ステント留置で速やかに還流を改善させる。頭部挙上、酸素投与、浮腫軽減のための副腎皮質ステロイドや利尿薬などの対症療法も併用される。

肺癌に伴う主な局所進展・傍腫瘍症候群の整理

・上大静脈症候群:上縦隔リンパ節・腫瘍による上大静脈圧排 → 上半身の浮腫 ・Pancoast症候群:肺尖部腫瘍の胸壁・腕神経叢・交感神経浸潤 → 上肢痛、Horner症候群 ・反回神経麻痺:左反回神経(大動脈弓下を反回)が縦隔リンパ節で障害されやすい → 嗄声 ・横隔神経麻痺:横隔膜挙上 ・Lambert-Eaton症候群:小細胞癌に多い傍腫瘍症候群 → 近位筋筋力低下 ・SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群):小細胞癌 → 低Na血症 ・異所性ACTH産生:小細胞癌 → Cushing症候群 ・PTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)産生:扁平上皮癌 → 高Ca血症

POINT

・肺癌患者で顔面・頸部・上肢に限局した浮腫をみたら上大静脈症候群を考える。 ・原因は肺癌(特に小細胞癌)の上縦隔リンパ節転移・直接浸潤が最多で、胸部エックス線写真では右上縦隔の拡大がヒントとなる。 ・心不全の浮腫は下肢優位で、両側性の肺うっ血・心拡大を伴う点で区別する。 ・Pancoast症候群は肺尖部腫瘍による上肢痛とHorner症候群、Lambert-Eaton症候群は近位筋の筋力低下と区別して覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。