子どもの耳痛と高熱―起因菌は「鼻の奥」から耳管を通ってやってくる
第102回医師国家試験 A問題 第41問
国試問題にチャレンジ
7歳の男児。発熱と耳痛とを主訴に来院した。昨日から左耳痛を訴えていたが,夕方から39.0℃の発熱を認め,耳痛が増悪したため救急外来を受診した。鼓膜の写真を別に示す。 起因菌として考えられるのはどれか。2つ選べ。

- a.インフルエンザ菌
- b.髄膜炎菌
- c.肺炎球菌
- d.腸球菌
- e.緑膿菌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児の急な耳痛と発熱に、鼓膜の発赤・膨隆がみられれば急性中耳炎と診断します。小児の耳管は短く太く水平に近いため、鼻咽腔の常在菌が耳管を経て中耳に入りやすく、起因菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスの3つが代表です。髄膜炎菌は侵襲性感染症、腸球菌は尿路・胆道感染や心内膜炎、緑膿菌は慢性化膿性中耳炎や外耳道炎で問題となる菌であり、急性中耳炎の起因菌としては考えにくいです。耐性菌としてPRSPやBLNARが重要で、治療はアモキシシリンが基本、重症例では鼓膜切開も行います。「感染経路から起因菌を推定する」考え方は、副鼻腔炎や肺炎など他の気道感染症にも共通する大切な視点です。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・7歳の男児。前日から左耳の痛みがあり、同日夕方に39.0℃の発熱が加わって耳痛が強まった。 ・経過は1日程度と短く、急に始まっている。 ・鼓膜写真では、鼓膜が赤くなり(発赤)、中耳に膿がたまって外側へ張り出している(膨隆)。
診断への考え方
小児が急に耳痛と発熱を起こしたとき、最初に考えるのは急性中耳炎である。鼓膜の発赤と膨隆は中耳腔に膿が貯留していることを示し、急性中耳炎に特徴的な所見である。外耳炎では耳介を引っ張ったときや耳珠を押したときの痛みが目立ち、鼓膜そのものの膨隆は通常みられない。流行性耳下腺炎(ムンプス)や頸部の化膿性リンパ節炎でも耳の周りが痛むことはあるが、鼓膜所見に異常は出ない。以上から、左急性中耳炎と診断する。
設問の考え方
急性中耳炎の多くは、かぜ(上気道炎)に続いて起こる。鼻咽腔にすみついている細菌が耳管(中耳と鼻咽腔をつなぐ管)を通って中耳に入り、感染を起こす。小児の耳管は成人より短く、太く、水平に近いため、細菌が中耳に入りやすい。このため起因菌は鼻咽腔の常在菌が中心となり、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)の3菌が代表である。選択肢のうちこれに当てはまるのは、インフルエンザ菌と肺炎球菌である。
選択肢考察
- ○a. インフルエンザ菌
インフルエンザ菌はグラム陰性の小さな桿菌で、小児の鼻咽腔によく定着している。肺炎球菌と並んで急性中耳炎の二大起因菌であり、正しい。中耳炎の原因となるのは主に莢膜をもたない株(無莢膜型、NTHi)である。細菌性髄膜炎の原因となるb型(Hib)はワクチンで減ったが、無莢膜型はHibワクチンの対象外なので、中耳炎の原因菌としては今も重要である。β-ラクタマーゼを作らないのにアンピシリンが効きにくい株(BLNAR)が増えており、治療で問題になっている。インフルエンザ菌は細菌であり、インフルエンザウイルスとは別の病原体である。
- ×b. 髄膜炎菌
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)はグラム陰性双球菌で、鼻咽腔に保菌されることがある。しかし病気を起こす場合は、血流に乗って広がる侵襲性感染症(髄膜炎・敗血症)が中心で、急性中耳炎の起因菌としてはまれである。日本では発生数が少ないが、侵襲性髄膜炎菌感染症は感染症法で五類感染症に指定されており、診断したら直ちに届け出る必要がある。
- ○c. 肺炎球菌
肺炎球菌はグラム陽性の双球菌(2個ずつ並ぶ球菌)で、小児の鼻咽腔に高い頻度で定着している。急性中耳炎の起因菌として最も重要なものの一つであり、正しい。肺炎球菌による中耳炎は、症状が強く、発熱も高くなりやすい。ペニシリンが効きにくい株(PRSP、ペニシリン耐性肺炎球菌)が問題となっている。乳幼児への肺炎球菌結合型ワクチンは、侵襲性感染症の予防に加えて、中耳炎の起因菌の構成にも影響を与えている。
- ×d. 腸球菌
腸球菌(Enterococcus属)は腸管の常在菌で、尿路感染症、胆道感染症、感染性心内膜炎、院内感染などの原因になる。鼻咽腔に定着する菌ではないため、耳管を通って起こる急性中耳炎の起因菌とは考えにくく、誤りである。
- ×e. 緑膿菌
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)はブドウ糖を発酵しないグラム陰性桿菌である。慢性化膿性中耳炎で耳だれが続く例、外耳炎、糖尿病患者などに起こる悪性外耳道炎(壊死性外耳道炎)ではよく検出される。抗菌薬が繰り返し使われた例や、免疫の弱った児ではありうる。しかし、健康な小児に急に起こった急性中耳炎の起因菌としてはきわめてまれであり、誤りである。
急性中耳炎の概要
・急に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳だれ(耳漏)を起こす。乳幼児は耳痛を言葉で訴えにくく、不機嫌、よく泣く、耳に手をやる、といった様子で気づかれることが多い。 ・鼓膜所見:発赤、膨隆、光錐(正常鼓膜で見える光の反射)の消失。鼓膜が破れると耳漏が出て、中耳の圧が下がるため耳痛は軽くなる。 ・かかりやすくなる因子:3歳未満、集団保育、上気道炎、受動喫煙、耳管の未熟さ(短い、太い、水平)など。
起因菌
・3大起因菌:肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス。 ・ウイルス(RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスなど)だけで起こる場合や、細菌と一緒に感染している場合もある。 ・肺炎、副鼻腔炎といった、鼻咽腔から広がる気道感染症でも起因菌の構成はよく似ている。
治療の概要
・軽症なら、抗菌薬を使わずに3日間ほど経過を見る方法がとられる。 ・抗菌薬を使うときは、まずアモキシシリンを選ぶのが基本である。耐性菌が疑われる場合や治療が効かない場合は、高用量アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸などへ変更する。 ・鼓膜の膨隆が強い重症例では鼓膜切開を行い、膿を出して中耳の圧を下げる。 ・治った後にも中耳に液がたまったまま残ることがあり(滲出性中耳炎)、聴力に影響することがある。
POINT
・小児の急な耳痛と発熱に、鼓膜の発赤・膨隆があれば急性中耳炎と診断する。 ・起因菌は鼻咽腔の常在菌が中心で、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスの3つが代表である。 ・耐性菌として、肺炎球菌ではPRSP、インフルエンザ菌ではBLNARが重要である。 ・緑膿菌は慢性化膿性中耳炎や外耳道炎で、腸球菌は尿路・胆道・心内膜炎で問題になる菌である。
