StudyMed医師国家試験

見えにくさを感じる前に始まっている―原発開放隅角緑内障の「初期サイン」を見抜く

第102回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第14問

原発開放隅角緑内障で初期からみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.傍中心暗点
  2. b.視力低下
  3. c.角膜浮腫
  4. d.虹彩萎縮
  5. e.神経線維束欠損

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、原発開放隅角緑内障の初期にみられる所見を選ぶ問題だ。ポイントは、この病気が「自覚症状のないまま静かに進む」ということ。そして、眼底の構造の変化と視野という機能の変化が、どんな順番で現れるかを押さえることだよ。
医学生医学生
緑内障というと眼圧が高くて目が痛くなるイメージがありますが、開放隅角だと違うんですか。
ドクタードクター
そこが最初の整理ポイントだね。原発開放隅角緑内障は、隅角が開いているのに網膜神経節細胞とその軸索である網膜神経線維が少しずつ失われていく慢性の病気なんだ。眼圧が正常範囲にとどまる正常眼圧緑内障もこの病型に含まれていて、日本人ではむしろそちらが多い。痛みもなく、初期には本人はまず気づかない。
医学生医学生
では、初期の異常はどうやって見つかるんでしょうか。
ドクタードクター
多くは健診の眼底写真や視野検査がきっかけだ。順番としては、まず眼底に構造の変化が出る。視神経乳頭の陥凹が拡大し、特に上下のリムが薄くなる。そして乳頭から弓状に広がる楔状の暗い帯、つまり網膜神経線維層欠損、いわゆる神経線維束欠損が見えてくるんだ。
医学生医学生
神経線維がかなり減ってから、やっと視野に異常が出るということですか。
ドクタードクター
その通り。神経線維の脱落が視野異常に先行するから、神経線維束欠損は最早期の構造変化の一つと言える。無赤色光の眼底写真でよく見えるし、今は光干渉断層計(OCT)で網膜神経線維層の厚みを客観的に測れるようになった。
医学生医学生
眼科の臨床実習で、OCTの厚みマップの上下が赤く表示されているのを見せてもらいました。あれが神経線維の菲薄化なんですね。
ドクタードクター
そうそう。では、視野の異常はどこから始まると思う?
医学生医学生
視野が狭くなる病気なので、周辺から欠けていくのかと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、初期はちょっと違うんだ。乳頭の上極・下極に入る弓状の神経線維束が障害を受けやすく、この線維束は固視点から10〜20度付近のブエルム領域を担当している。だから最初は、中心のすぐそばにぽつんと見えない部分ができる傍中心暗点や、水平経線を境に上下で感度がずれる鼻側階段として現れるんだ。
医学生医学生
固視点そのものは保たれているから、本人は気づきにくいんですね。
ドクタードクター
その通り。だからハンフリー視野計のような静的視野検査で見つけることになる。これで正解は傍中心暗点と神経線維束欠損の2つだ。ほかの選択肢も確認しよう。視力低下はどうかな。
医学生医学生
視力は中心窩の機能を見ているので、黄斑を担当する線維が残っている間は保たれる……ということでしょうか。
ドクタードクター
完璧だね。乳頭黄斑線維束は比較的最後まで保たれるので、視力は末期になるまで下がらない。視力が良いから大丈夫、と思ってしまうことが発見の遅れにつながるんだ。次に角膜浮腫と虹彩萎縮だけど、これはどんな病態でみられる所見だろう。
医学生医学生
CBTの勉強で、急性緑内障発作では角膜が濁って虹視が出ると覚えました。
ドクタードクター
そう、角膜浮腫は眼圧が急激かつ高度に上がって角膜内皮のポンプ機能が追いつかないときに起こる、急性閉塞隅角緑内障の代表的な所見だ。虹彩萎縮も、発作後に高眼圧による虹彩の虚血で扇状に萎縮したり、虹彩炎や手術後にみられたりするもの。眼圧上昇がゆるやかで隅角や虹彩に器質的変化のない開放隅角緑内障の初期には、どちらも生じないよ。
医学生医学生
開放隅角は慢性で静か、閉塞隅角の発作は急激で派手、という対比で整理すると分かりやすいですね。
ドクタードクター
いい整理だね。最後に発展知識をまとめよう。病期は、構造変化だけで視野検査に異常が出ない前視野緑内障、傍中心暗点や鼻側階段が出る初期、弓状暗点が広がる中期、そして中心小島と耳側島だけが残る末期と進んでいく。乳頭の評価では、リム幅が下方・上方・鼻側・耳側の順に厚いというISNTの法則が崩れていないか、乳頭出血がないかにも注目するといい。
医学生医学生
治療は眼圧を下げることが中心でしたよね。正常眼圧でも下げるんですか。
ドクタードクター
そう、エビデンスのある治療は眼圧下降だけで、正常眼圧緑内障でも眼圧をさらに下げることで進行を抑える。第一選択はプロスタグランジン関連薬の点眼で、必要に応じてβ遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬などを追加し、効果が不十分ならレーザーや線維柱帯切除術などの手術を考える。失われた視野は戻らないから、自覚症状のないうちに見つけることが何より大切なんだ。

まとめ

原発開放隅角緑内障は、隅角が開いたまま網膜神経節細胞とその軸索が徐々に失われる慢性疾患で、日本人では正常眼圧緑内障が多く、初期にはほとんど自覚症状がありません。眼底では視神経乳頭陥凹の拡大や網膜神経線維層欠損(神経線維束欠損)といった構造変化が視野異常に先行し、初期の視野異常は弓状線維束の障害に対応したブエルム領域の傍中心暗点や鼻側階段として現れます。乳頭黄斑線維束は末期まで保たれるため視力は初期には低下せず、角膜浮腫や虹彩萎縮は急性閉塞隅角緑内障の発作を示唆する所見です。治療は正常眼圧例も含めて眼圧下降が基本で、プロスタグランジン関連薬点眼が第一選択となります。失われた視野は回復しないため、眼底写真やOCT、静的視野検査で早期の構造・機能変化を捉える考え方を身につけることが、健診や日常診療での見逃し防止につながります。

解答・解説

正解はa, eです

原発開放隅角緑内障(primary open-angle glaucoma:POAG)は、隅角が開いているにもかかわらず視神経乳頭の網膜神経節細胞とその軸索(網膜神経線維)が徐々に失われ、特徴的な視神経乳頭の変化と視野障害をきたす慢性進行性の疾患である。眼圧が正常範囲(21 mmHg以下)にとどまる正常眼圧緑内障もこの病型に含まれ、日本人ではむしろこちらが多い。 病初期は自覚症状がほとんどなく、健診などで眼底写真や視野検査の異常から発見されることが多い。構造変化と機能変化の順序を押さえることが本問の鍵である。まず眼底で視神経乳頭陥凹の拡大(特に上下極のリムの菲薄化)や、乳頭から弓状に広がる網膜神経線維層欠損(nerve fiber layer defect:NFLD)が現れる。神経線維の脱落がある程度進んでから、ようやく視野検査で異常として検出される。初期の視野異常は、弓状に走る神経線維束の障害に対応して、固視点から10〜20度付近のブエルム領域に生じる傍中心暗点や、鼻側階段である。 一方、視力は黄斑部(乳頭黄斑線維束)が末期まで比較的保たれるため、進行例になるまで低下しない。また慢性に経過し眼圧上昇も軽度〜中等度のため、急性緑内障発作でみられる角膜浮腫や虹彩の変化は生じない。以上より、初期からみられるのは傍中心暗点と神経線維束欠損である。

選択肢考察

  1. ○a.  傍中心暗点

    網膜神経線維のうち、視神経乳頭の上極・下極に入る弓状線維束は緑内障性障害を受けやすい。この線維束は固視点周囲のブエルム領域(固視点から約10〜20度)を担当するため、初期の視野障害は中心視野のすぐそばの孤立した暗点(傍中心暗点)や、水平経線を境に上下で感度が異なる鼻側階段として現れる。固視点そのものは保たれるため自覚されにくく、静的視野検査(ハンフリー視野計など)で検出される。

  2. ×b.  視力低下

    視力は黄斑部の中心窩の機能を反映する。緑内障では黄斑部を担当する乳頭黄斑線維束が比較的後期まで保たれるため、初期には視力は正常である。視野障害が進行して中心の固視点近くまで及ぶ末期になって初めて視力が低下する。自覚症状に乏しいことが発見の遅れにつながる点が問題となる。

  3. ×c.  角膜浮腫

    角膜浮腫は、眼圧が急激かつ高度(しばしば40〜50 mmHg以上)に上昇して角膜内皮のポンプ機能が追いつかなくなるときに起こり、急性閉塞隅角緑内障(緑内障発作)の代表的所見である。長期に著しい高眼圧が続く末期の緑内障でもみられうるが、開放隅角緑内障では眼圧上昇がゆるやかで程度も軽いことが多く、初期に角膜浮腫を生じることはない。

  4. ×d.  虹彩萎縮

    虹彩萎縮は、急性閉塞隅角緑内障の発作後(高眼圧による虹彩の虚血で扇状萎縮を生じる)、ヘルペス性虹彩毛様体炎などの虹彩炎、虹彩へのレーザー治療や手術の後などにみられる所見である。原発開放隅角緑内障は隅角・虹彩に器質的変化を伴わない疾患であり、初期に虹彩萎縮を生じることはない。

  5. ○e.  神経線維束欠損

    網膜神経線維層欠損(NFLD)は、神経線維の束が脱落した部分が、乳頭縁から弓状方向に広がる楔状の暗い帯として眼底写真(特に無赤色光撮影)で観察される所見である。緑内障では神経線維がかなり失われるまで視野検査に異常が出ないため、NFLDは視野異常の出現に先行してみられる最早期の構造変化の一つである。現在は光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)による網膜神経線維層厚の測定でも客観的に評価できる。

緑内障の病期と所見の進み方

1. 前視野緑内障:乳頭陥凹拡大やNFLDなどの構造変化はあるが、通常の視野検査では異常が出ない段階。 2. 初期:傍中心暗点、鼻側階段、ブエルム領域の弓状暗点。 3. 中期:弓状暗点が上下に拡大し、輪状暗点となることもある。 4. 末期:求心性に視野が狭くなり、中心の小さな視野(中心小島)と耳側の視野(耳側島)が残る。この段階で視力も低下する。

視神経乳頭の緑内障性変化

・陥凹乳頭径比(C/D比)の拡大、上下の非対称 ・リム(辺縁部)の菲薄化・切れ込み(ノッチ)。リム幅は下方>上方>鼻側>耳側の順(ISNTの法則)が正常であり、これが崩れると緑内障を疑う。 ・乳頭出血(乳頭縁の線状出血。進行の危険因子) ・網膜神経線維層欠損

原発開放隅角緑内障と急性閉塞隅角緑内障の対比

・原発開放隅角緑内障:慢性・無症状、眼圧は正常〜軽中等度上昇、角膜は透明、前房深度正常。 ・急性閉塞隅角緑内障:急激な眼痛・頭痛・悪心嘔吐・霧視・虹視、毛様充血、角膜浮腫、浅前房、中等度散瞳、高度の眼圧上昇。発作後に虹彩萎縮や緑内障斑(水晶体前嚢下混濁)を残す。

治療

唯一エビデンスのある治療は眼圧下降である。プロスタグランジン関連薬点眼を第一選択とし、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、α2作動薬、ROCK阻害薬などを追加する。効果不十分な場合はレーザー線維柱帯形成術や線維柱帯切除術などの手術を行う。失われた視野は回復しないため、早期発見・早期治療が重要である。

POINT

・原発開放隅角緑内障は初期に自覚症状がなく、構造変化(乳頭陥凹拡大・網膜神経線維層欠損)が視野異常に先行する。 ・初期の視野異常はブエルム領域の傍中心暗点と鼻側階段。 ・視力は末期まで保たれる。 ・角膜浮腫や虹彩萎縮は急性閉塞隅角緑内障(発作)を示唆する所見である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。