虹彩に血管が生える理由―血管新生緑内障は「網膜の酸欠」から始まる
第102回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
血管新生緑内障をきたすのはどれか。
- a.視神経乳頭炎
- b.網膜中心静脈閉塞症
- c.網膜色素変性
- d.中心性漿液性網脈絡膜症
- e.加齢黄斑変性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血管新生緑内障は、網膜の広範な虚血によって産生されたVEGFが前眼部へ拡散し、虹彩ルベオーシスや隅角新生血管、線維血管膜による房水流出障害と周辺虹彩前癒着を生じて眼圧が著しく上昇する続発緑内障です。原因疾患の代表は増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症(虚血型)、眼虚血症候群の三つで、網膜中心静脈閉塞症では発症後約3か月で起こりやすいことから「100日緑内障」とも呼ばれました。視神経乳頭炎、網膜色素変性、中心性漿液性網脈絡膜症は網膜虚血を伴わず、加齢黄斑変性の新生血管は脈絡膜由来の局所病変であるため、いずれも原因とはなりません。治療の基本は汎網膜光凝固で、抗VEGF薬や眼圧下降治療・手術を組み合わせます。「新生血管=網膜虚血の結果」という病態の流れで理解しておくと、糖尿病や頸動脈疾患の患者を診る際の眼合併症の予防にも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
血管新生緑内障(neovascular glaucoma:NVG)は、網膜が広い範囲で虚血に陥ることを出発点とする続発緑内障である。虚血網膜からは血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が大量に産生され、これが硝子体から前房へ拡散して虹彩や隅角に新生血管を生じさせる。隅角の新生血管とそれに伴う線維血管膜が房水の流出路(線維柱帯)をふさぎ、さらに収縮して周辺虹彩前癒着(隅角閉塞)を形成するため、眼圧が著しく上昇する。 したがって本問は「網膜虚血を起こす疾患はどれか」と読み替えればよい。網膜虚血を起こす代表的疾患は、増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症(特に虚血型)、眼虚血症候群(内頸動脈の高度狭窄・閉塞)の三つである。選択肢の中で網膜の血流障害・虚血を主病態とするのは網膜中心静脈閉塞症のみであり、他は炎症、変性、漿液性剝離、脈絡膜側の新生血管が主体で、網膜虚血は生じない。
選択肢考察
- ×a. 視神経乳頭炎
視神経乳頭炎は眼球内の視神経(乳頭部)に生じる炎症で、乳頭の発赤・腫脹と急激な視力低下、中心暗点、対光反射の異常(相対的瞳孔求心路障害)などをきたす。病変は視神経に限局しており、網膜血管が閉塞して網膜が虚血に陥ることはないため、VEGFを介した虹彩・隅角の新生血管は生じない。
- ○b. 網膜中心静脈閉塞症
網膜中心静脈が篩状板付近で血栓により閉塞すると、網膜全体の静脈がうっ滞し、火炎状出血・静脈の拡張蛇行・綿花様白斑などが眼底全域にみられる。このうち毛細血管の閉塞が広範な虚血型では、虚血網膜からVEGFが大量に放出され、虹彩ルベオーシス(虹彩新生血管)から血管新生緑内障へ進展する。発症からおよそ3か月前後で起こりやすいことから、かつて「100日緑内障」と呼ばれた。蛍光眼底造影で無灌流領域が広い場合には汎網膜光凝固を行って虚血網膜を減らし、新生血管の発生を抑える。
- ×c. 網膜色素変性
網膜色素変性は視細胞(主に杆体、進行すると錐体も)が遺伝的に変性していく疾患で、夜盲、求心性視野狭窄、骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様萎縮が特徴である。血管が細くなるのは網膜組織が萎縮し代謝需要が低下した結果であり、血流不足による虚血網膜ではないためVEGFの過剰産生は起こらず、血管新生緑内障の原因とはならない。
- ×d. 中心性漿液性網脈絡膜症
中心性漿液性網脈絡膜症は、脈絡膜血管の透過性亢進と網膜色素上皮の障害により黄斑部に漿液性網膜剝離を生じる疾患で、働き盛りの男性に多く、ストレスやステロイド使用が誘因となる。変視症・小視症・中心暗点を訴えるが、多くは数か月で自然軽快する。網膜血管の閉塞はなく網膜虚血を伴わないため、新生血管や血管新生緑内障は生じない。
- ×e. 加齢黄斑変性
加齢黄斑変性(滲出型)では脈絡膜から新生血管が網膜色素上皮下や網膜下に伸び、出血や滲出を起こして視力が低下する。ここでも新生血管の誘導にVEGFが関与するが、これは黄斑部の局所的な病変であり、網膜全体が虚血に陥るわけではない。前房・隅角へ届くほどのVEGFが網膜から放出されることはなく、虹彩・隅角新生血管や血管新生緑内障の原因とはならない。
血管新生緑内障の病態
網膜虚血 → VEGF産生亢進 → 虹彩ルベオーシス(瞳孔縁から始まることが多い)・隅角新生血管 → 線維血管膜による開放隅角期の眼圧上昇 → 膜の収縮による周辺虹彩前癒着(閉塞隅角期)→ 高度の眼圧上昇、という経過をたどる。進行すると難治性で、強い眼痛・頭痛・充血・角膜浮腫を伴い、失明に至ることもある。
主な原因疾患
・増殖糖尿病網膜症(最多) ・網膜中心静脈閉塞症(虚血型) ・眼虚血症候群(内頸動脈の高度狭窄・閉塞) ・そのほか網膜中心動脈閉塞症、長期間の網膜剝離、慢性ぶどう膜炎、眼内腫瘍などでも起こりうる。
治療
原因である網膜虚血に対する汎網膜光凝固(網膜の虚血部分を凝固して酸素需要を減らし、VEGF産生を抑える)が基本である。新生血管の退縮を早めるため抗VEGF薬の硝子体内注射を併用する。眼圧は点眼・内服の眼圧下降薬で管理し、コントロール不良例では線維柱帯切除術や緑内障チューブシャント手術を行う。
新生血管の部位による区別
網膜由来の新生血管(糖尿病網膜症、静脈閉塞症など)は網膜虚血に起因し、硝子体出血や血管新生緑内障の原因となる。一方、脈絡膜新生血管(加齢黄斑変性、強度近視など)は黄斑部の局所病変であり、血管新生緑内障とは結びつかない。
POINT
・血管新生緑内障は「網膜虚血 → VEGF → 虹彩・隅角新生血管 → 房水流出障害」で起こる続発緑内障である。 ・原因疾患の三本柱は、増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症(虚血型)、眼虚血症候群(内頸動脈閉塞)。 ・網膜中心静脈閉塞症による血管新生緑内障は発症後約3か月で起こりやすい(100日緑内障)。 ・加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管は網膜虚血によるものではなく、血管新生緑内障の原因にならない。 ・予防・治療の基本は汎網膜光凝固、補助として抗VEGF薬。
