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虹彩に血管が生える理由―血管新生緑内障は「網膜の酸欠」から始まる

第102回医師国家試験 A問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第13問

血管新生緑内障をきたすのはどれか。

  1. a.視神経乳頭炎
  2. b.網膜中心静脈閉塞症
  3. c.網膜色素変性
  4. d.中心性漿液性網脈絡膜症
  5. e.加齢黄斑変性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血管新生緑内障の原因疾患を選ぶ問題だ。名前を丸暗記するより、「なぜ前眼部に血管が生えるのか」という病態から考えると、迷わず答えにたどり着ける。まず、新生血管ができる一番のきっかけは何だと思う?
医学生医学生
組織が酸素不足になることでしょうか。生理学の講義で、低酸素でHIFが働いてVEGFが増えると習いました。
ドクタードクター
その通り。血管新生緑内障の出発点は、網膜が広い範囲で虚血に陥ることなんだ。虚血網膜から大量に作られたVEGFが硝子体を通って前房へ拡散し、虹彩や隅角に新生血管を生じさせる。虹彩の新生血管は虹彩ルベオーシスと呼ばれ、瞳孔縁から始まることが多いよ。
医学生医学生
隅角に血管ができると、房水の出口がふさがるんですね。
ドクタードクター
そう。まず新生血管とそれに伴う線維血管膜が線維柱帯を覆って眼圧が上がる。さらに膜が収縮すると虹彩が隅角に引き寄せられて周辺虹彩前癒着ができ、隅角が閉じてしまう。こうなると眼圧は著しく上昇し、とても治りにくい。だからこの問題は「網膜虚血を起こす疾患はどれか」と読み替えればいいんだ。
医学生医学生
それなら網膜中心静脈閉塞症ですね。静脈がつまれば網膜の血流が滞って、虚血になりそうです。
ドクタードクター
正解。篩状板付近で網膜中心静脈が血栓で閉塞すると、眼底全体に火炎状出血や静脈の拡張蛇行、綿花様白斑が広がる。特に毛細血管の閉塞が広い虚血型では、血管新生緑内障へ進むリスクが高い。発症から3か月前後で起こりやすいので、昔は「100日緑内障」と呼ばれていたんだ。
医学生医学生
眼科の臨床実習で、蛍光眼底造影の無灌流領域を指して「ここが広いと危ない」と教わったのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその評価が大切だね。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも見ていこう。視神経乳頭炎はどうかな。
医学生医学生
視神経の炎症なので、視力低下や中心暗点は出ても、網膜の血管がつまるわけではない……ですよね。
ドクタードクター
その理解でいい。病変は視神経に限局していて、網膜虚血は起こさないからVEGFを介した前眼部の新生血管は生じない。次に網膜色素変性。眼底で血管が細くなるのが特徴だけど、虚血にならないのかな?
医学生医学生
血管が細いなら、血流が足りなくなって虚血になりそうな気もします。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。網膜色素変性で血管が細くなるのは、視細胞が遺伝的に変性して網膜組織が萎縮し、酸素の需要そのものが減った結果なんだ。需要に対して血流が足りない状態ではないから、VEGFの過剰産生は起こらない。夜盲、求心性視野狭窄、骨小体様色素沈着とセットで覚えておこう。
医学生医学生
中心性漿液性網脈絡膜症は、働き盛りの男性に多くて、ストレスやステロイドが誘因になる病気でしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。脈絡膜血管の透過性亢進と網膜色素上皮の障害で黄斑部に漿液性網膜剝離ができ、変視症や小視症を訴える。多くは自然に軽快するし、網膜血管の閉塞はないので血管新生緑内障とは無縁だ。
医学生医学生
加齢黄斑変性は少し迷いました。新生血管もVEGFも関係していて、抗VEGF薬で治療しますよね。
ドクタードクター
いい疑問だね。ここで大事なのは、新生血管がどこから生えるかの区別なんだ。加齢黄斑変性の新生血管は脈絡膜由来で、黄斑部の局所的な病変。網膜全体が虚血になるわけではないから、前房や隅角まで届くほどのVEGFは出ない。一方、糖尿病網膜症や静脈閉塞症の新生血管は網膜由来で、網膜虚血が原因だから硝子体出血や血管新生緑内障につながる。
医学生医学生
同じVEGFでも、網膜虚血による広範なものか、脈絡膜の局所病変かで結果が違うんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に発展知識をまとめよう。血管新生緑内障の原因疾患の三本柱は、増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症の虚血型、そして内頸動脈の高度狭窄・閉塞による眼虚血症候群だ。治療の基本は、虚血網膜を凝固して酸素需要を減らしVEGF産生を抑える汎網膜光凝固で、抗VEGF薬の硝子体内注射を併用して新生血管の退縮を早める。眼圧が下がらなければ線維柱帯切除術やチューブシャント手術も検討する。
医学生医学生
内頸動脈の病気が眼に出るのは意外でした。眼科以外の外来でも、糖尿病や頸動脈狭窄の患者さんの眼は気にかけるべきですね。
ドクタードクター
そういう視点が大切だよ。血管新生緑内障は進行すると強い眼痛や角膜浮腫を伴い、失明に至ることもある。だからこそ、網膜虚血を起こす疾患では定期的に虹彩や隅角を観察し、新生血管を早く見つけて予防的に光凝固を行うことが臨床の要になるんだ。

まとめ

血管新生緑内障は、網膜の広範な虚血によって産生されたVEGFが前眼部へ拡散し、虹彩ルベオーシスや隅角新生血管、線維血管膜による房水流出障害と周辺虹彩前癒着を生じて眼圧が著しく上昇する続発緑内障です。原因疾患の代表は増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症(虚血型)、眼虚血症候群の三つで、網膜中心静脈閉塞症では発症後約3か月で起こりやすいことから「100日緑内障」とも呼ばれました。視神経乳頭炎、網膜色素変性、中心性漿液性網脈絡膜症は網膜虚血を伴わず、加齢黄斑変性の新生血管は脈絡膜由来の局所病変であるため、いずれも原因とはなりません。治療の基本は汎網膜光凝固で、抗VEGF薬や眼圧下降治療・手術を組み合わせます。「新生血管=網膜虚血の結果」という病態の流れで理解しておくと、糖尿病や頸動脈疾患の患者を診る際の眼合併症の予防にも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

血管新生緑内障(neovascular glaucoma:NVG)は、網膜が広い範囲で虚血に陥ることを出発点とする続発緑内障である。虚血網膜からは血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が大量に産生され、これが硝子体から前房へ拡散して虹彩や隅角に新生血管を生じさせる。隅角の新生血管とそれに伴う線維血管膜が房水の流出路(線維柱帯)をふさぎ、さらに収縮して周辺虹彩前癒着(隅角閉塞)を形成するため、眼圧が著しく上昇する。 したがって本問は「網膜虚血を起こす疾患はどれか」と読み替えればよい。網膜虚血を起こす代表的疾患は、増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症(特に虚血型)、眼虚血症候群(内頸動脈の高度狭窄・閉塞)の三つである。選択肢の中で網膜の血流障害・虚血を主病態とするのは網膜中心静脈閉塞症のみであり、他は炎症、変性、漿液性剝離、脈絡膜側の新生血管が主体で、網膜虚血は生じない。

選択肢考察

  1. ×a.  視神経乳頭炎

    視神経乳頭炎は眼球内の視神経(乳頭部)に生じる炎症で、乳頭の発赤・腫脹と急激な視力低下、中心暗点、対光反射の異常(相対的瞳孔求心路障害)などをきたす。病変は視神経に限局しており、網膜血管が閉塞して網膜が虚血に陥ることはないため、VEGFを介した虹彩・隅角の新生血管は生じない。

  2. ○b.  網膜中心静脈閉塞症

    網膜中心静脈が篩状板付近で血栓により閉塞すると、網膜全体の静脈がうっ滞し、火炎状出血・静脈の拡張蛇行・綿花様白斑などが眼底全域にみられる。このうち毛細血管の閉塞が広範な虚血型では、虚血網膜からVEGFが大量に放出され、虹彩ルベオーシス(虹彩新生血管)から血管新生緑内障へ進展する。発症からおよそ3か月前後で起こりやすいことから、かつて「100日緑内障」と呼ばれた。蛍光眼底造影で無灌流領域が広い場合には汎網膜光凝固を行って虚血網膜を減らし、新生血管の発生を抑える。

  3. ×c.  網膜色素変性

    網膜色素変性は視細胞(主に杆体、進行すると錐体も)が遺伝的に変性していく疾患で、夜盲、求心性視野狭窄、骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様萎縮が特徴である。血管が細くなるのは網膜組織が萎縮し代謝需要が低下した結果であり、血流不足による虚血網膜ではないためVEGFの過剰産生は起こらず、血管新生緑内障の原因とはならない。

  4. ×d.  中心性漿液性網脈絡膜症

    中心性漿液性網脈絡膜症は、脈絡膜血管の透過性亢進と網膜色素上皮の障害により黄斑部に漿液性網膜剝離を生じる疾患で、働き盛りの男性に多く、ストレスやステロイド使用が誘因となる。変視症・小視症・中心暗点を訴えるが、多くは数か月で自然軽快する。網膜血管の閉塞はなく網膜虚血を伴わないため、新生血管や血管新生緑内障は生じない。

  5. ×e.  加齢黄斑変性

    加齢黄斑変性(滲出型)では脈絡膜から新生血管が網膜色素上皮下や網膜下に伸び、出血や滲出を起こして視力が低下する。ここでも新生血管の誘導にVEGFが関与するが、これは黄斑部の局所的な病変であり、網膜全体が虚血に陥るわけではない。前房・隅角へ届くほどのVEGFが網膜から放出されることはなく、虹彩・隅角新生血管や血管新生緑内障の原因とはならない。

血管新生緑内障の病態

網膜虚血 → VEGF産生亢進 → 虹彩ルベオーシス(瞳孔縁から始まることが多い)・隅角新生血管 → 線維血管膜による開放隅角期の眼圧上昇 → 膜の収縮による周辺虹彩前癒着(閉塞隅角期)→ 高度の眼圧上昇、という経過をたどる。進行すると難治性で、強い眼痛・頭痛・充血・角膜浮腫を伴い、失明に至ることもある。

主な原因疾患

・増殖糖尿病網膜症(最多) ・網膜中心静脈閉塞症(虚血型) ・眼虚血症候群(内頸動脈の高度狭窄・閉塞) ・そのほか網膜中心動脈閉塞症、長期間の網膜剝離、慢性ぶどう膜炎、眼内腫瘍などでも起こりうる。

治療

原因である網膜虚血に対する汎網膜光凝固(網膜の虚血部分を凝固して酸素需要を減らし、VEGF産生を抑える)が基本である。新生血管の退縮を早めるため抗VEGF薬の硝子体内注射を併用する。眼圧は点眼・内服の眼圧下降薬で管理し、コントロール不良例では線維柱帯切除術や緑内障チューブシャント手術を行う。

新生血管の部位による区別

網膜由来の新生血管(糖尿病網膜症、静脈閉塞症など)は網膜虚血に起因し、硝子体出血や血管新生緑内障の原因となる。一方、脈絡膜新生血管(加齢黄斑変性、強度近視など)は黄斑部の局所病変であり、血管新生緑内障とは結びつかない。

POINT

・血管新生緑内障は「網膜虚血 → VEGF → 虹彩・隅角新生血管 → 房水流出障害」で起こる続発緑内障である。 ・原因疾患の三本柱は、増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症(虚血型)、眼虚血症候群(内頸動脈閉塞)。 ・網膜中心静脈閉塞症による血管新生緑内障は発症後約3か月で起こりやすい(100日緑内障)。 ・加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管は網膜虚血によるものではなく、血管新生緑内障の原因にならない。 ・予防・治療の基本は汎網膜光凝固、補助として抗VEGF薬。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。