いびきは「どこが狭いか」を語る音―アデノイドと睡眠時無呼吸を見抜く耳鼻科の視点
第101回医師国家試験 F問題 第22問
国試問題にチャレンジ
いびきが診断の手掛かりになるのはどれか。2つ選べ。
- a.副鼻腔炎
- b.アデノイド
- c.気管狭窄症
- d.ポリープ様声帯
- e.睡眠時無呼吸症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
いびきは、睡眠中に筋緊張が低下して狭くなった咽頭を空気が通る際に、軟口蓋や咽頭壁が振動して生じる音です。そのため、いびきが診断の糸口となる代表的な疾患は、小児のアデノイド増殖症と閉塞性睡眠時無呼吸であり、後者は家族が指摘する「いびきと呼吸停止」から疑われ、終夜睡眠ポリグラフ検査のAHIで重症度を評価します。一方、声帯病変は嗄声、気管狭窄は吸気性喘鳴、副鼻腔炎は膿性鼻汁や鼻閉が主症状で、いびきは特徴的な所見ではありません。治療は成人ではCPAPや生活指導、小児ではアデノイド切除術・口蓋扁桃摘出術が中心となります。「狭窄部位と音・症状を対応させる」考え方は、上気道から下気道までの呼吸器症状を鑑別するうえでの基本になります。
解答・解説
正解はb, eです
いびき(鼾)は、睡眠中に狭くなった上気道(鼻腔・咽頭)を空気が通過する際に、軟口蓋・口蓋垂・咽頭側壁などの軟部組織が振動して生じる音である。睡眠中は咽頭周囲の筋緊張が低下し、仰臥位では舌根や軟口蓋が重力で後方へ落ち込むため、もともと上気道に狭い部分があるとそこで気流が乱れていびきが出やすくなる。 したがって「いびきが診断の手掛かりになる」疾患とは、睡眠中の上気道(特に咽頭レベル)の狭窄をきたし、いびきが主要症状あるいは受診のきっかけとなる疾患である。 考え方の軸は狭窄部位と、それに対応する音・症状の違いである。 ・咽頭レベルの狭窄(アデノイド増殖症、口蓋扁桃肥大、閉塞性睡眠時無呼吸など)→ いびき ・喉頭・声門レベルの病変(声帯ポリープ、ポリープ様声帯など)→ 嗄声(声がれ) ・声門下〜気管レベルの狭窄 → 吸気性喘鳴(stridor)、呼吸困難 ・鼻副鼻腔の炎症 → 鼻閉、膿性鼻汁、後鼻漏、頭重感 この整理に当てはめると、いびきが典型的な症状であり診断の糸口となるのはアデノイド(咽頭扁桃肥大)と睡眠時無呼吸症候群の2つである。
選択肢考察
- ×a. 副鼻腔炎
副鼻腔炎の主症状は膿性鼻汁、鼻閉、後鼻漏、頬部痛や頭重感、嗅覚障害などである。鼻閉を介していびきを悪化させる要因にはなり得るが、いびきは副鼻腔炎に特徴的な所見ではなく、診断の手掛かりとして用いられることはない。診断は症状に加え、鼻内視鏡所見や画像検査(CTなど)で副鼻腔の粘膜肥厚・液体貯留を確認して行う。
- ○b. アデノイド
アデノイドは上咽頭後壁にある咽頭扁桃のことで、生理的に3〜6歳頃に最も大きくなり、その後は思春期にかけて縮小する。病的に肥大した状態(アデノイド増殖症)では上咽頭・後鼻孔が狭くなり、鼻呼吸が妨げられるため、いびき、口呼吸、睡眠時の呼吸停止(小児の閉塞性睡眠時無呼吸)が生じる。長期化するとアデノイド顔貌(口を開けた締まりのない顔つき)、耳管開口部の圧迫による滲出性中耳炎、睡眠障害による日中の集中力低下や成長障害をきたす。保護者が「子どものいびきがひどい」と訴えて受診することが多く、いびきは診断の重要な手掛かりとなる。
- ×c. 気管狭窄症
気管狭窄症は声門より下の下気道(気管)が狭くなる病態で、原因として長期挿管・気管切開後の瘢痕、気管腫瘍、外からの圧迫(甲状腺腫、縦隔腫瘍など)、先天性狭窄などがある。狭窄部を気流が通過する際に聴取されるのは喘鳴(stridor)であり、労作時や夜間の呼吸困難を伴う。いびきは主に咽頭レベルの軟部組織の振動音であり、気管狭窄の診断の手掛かりにはならない。
- ×d. ポリープ様声帯
ポリープ様声帯(ラインケ浮腫)は、声帯粘膜の直下にあるラインケ腔に浮腫が生じ、両側声帯全長がぶよぶよと膨らむ良性疾患である。喫煙との関連が強く、声の酷使も誘因となり、中高年の喫煙者、特に女性に多い。主症状は低く粗い(粗糙性)嗄声で、女性では声が男性のように低くなることが特徴である。高度になれば呼吸困難をきたすこともあるが、声門レベルの病変であり、いびきが診断の手掛かりになることはない。
- ○e. 睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群(SAS:sleep apnea syndrome)の大部分を占める閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)では、睡眠中に上気道が狭窄・閉塞を繰り返す。狭窄の段階では大きないびきが生じ、完全に閉塞すると気流が止まって無呼吸となり、呼吸再開時に再び大きないびきやあえぐような呼吸が起こる。家族やベッドパートナーから「大きないびきと、その合間に息が止まっている」と指摘されて受診する例が多く、習慣性のいびきは本症を疑う最も重要な手掛かりである。ほかに日中の過度の眠気、起床時の頭痛、夜間頻尿などを伴い、肥満、小顎、扁桃肥大などが危険因子となる。診断は終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で行う。
いびきの発生機序
睡眠中は咽頭拡張筋(オトガイ舌筋など)の緊張が低下し、仰臥位では舌根・軟口蓋が後方へ偏位するため、上気道が狭くなる。狭い部位を通る気流が速くなると内腔の圧が下がり(ベルヌーイ効果)、軟口蓋や咽頭壁が振動していびき音が生じる。狭窄がさらに進んで気道が完全に閉じると無呼吸となる。
いびきの原因・増悪因子
・鼻腔:アレルギー性鼻炎、鼻中隔弯曲症、鼻ポリープなどによる鼻閉(口呼吸を招き、いびきを増悪させる) ・上咽頭:アデノイド増殖症(小児) ・中咽頭:口蓋扁桃肥大、軟口蓋・口蓋垂の過長、巨舌 ・全身・生活因子:肥満(咽頭周囲の脂肪沈着)、小顎・下顎後退、飲酒、睡眠薬の服用、加齢、仰臥位
閉塞性睡眠時無呼吸の概要
・無呼吸は10秒以上の気流停止、低呼吸は気流の明らかな低下に酸素飽和度低下や覚醒を伴うものと定義される。 ・1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を無呼吸低呼吸指数(AHI)といい、成人ではAHI 5以上で異常、5〜15未満が軽症、15〜30未満が中等症、30以上が重症とされる。 ・合併症として高血圧、心房細動などの不整脈、心不全、脳卒中、2型糖尿病などとの関連が知られ、日中の眠気による交通事故の危険も高まる。 ・治療は減量、飲酒制限、側臥位睡眠などの生活指導、中等症以上では持続陽圧呼吸療法(CPAP)が中心で、軽〜中等症では口腔内装置(マウスピース)も用いられる。小児では原因がアデノイド・口蓋扁桃肥大であることが多く、アデノイド切除術・口蓋扁桃摘出術が第一選択となる。
狭窄部位と症状の対応
・咽頭:いびき、睡眠時無呼吸 ・声門:嗄声、高度なら呼吸困難 ・声門下〜気管:吸気性喘鳴(stridor)、呼吸困難 ・細い気管支:呼気性の笛声音(wheeze)
POINT
・いびきは睡眠中の上気道(主に咽頭)狭窄による軟部組織の振動音である。 ・いびきが診断の糸口となる代表疾患は、小児のアデノイド増殖症(口蓋扁桃肥大)と閉塞性睡眠時無呼吸である。 ・声帯病変は嗄声、気管狭窄は喘鳴、副鼻腔炎は膿性鼻汁・鼻閉が主症状であり、いびきは特徴的所見ではない。 ・睡眠時無呼吸症候群の確定診断は終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で、AHIにより重症度を評価する。
