病因から読み解く心奇形の組合せ―先天性風疹症候群に大血管転位はない
第101回医師国家試験 F問題 第24問
国試問題にチャレンジ
疾患と心血管異常の組合せで誤っているのはどれか。
- a.DiGeorge症候群 ―― Fallot四徴症
- b.Marfan症候群 ―― 僧帽弁逸脱症候群
- c.Osler病〈遺伝性出血性末梢血管拡張症〉 ―― 肺動静脈瘻
- d.Turner症候群 ―― 大動脈縮窄症
- e.先天性風疹症候群 ―― 完全大血管転位症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
先天異常症候群や遺伝性疾患に合併する心血管異常は、病因から理解すると整理しやすくなります。DiGeorge症候群は神経堤細胞の遊走障害による円錐動脈幹異常(Fallot四徴症など)、Marfan症候群は結合組織の脆弱性による大動脈基部拡張・解離と僧帽弁逸脱、Osler病は血管形成異常による肺動静脈瘻、Turner症候群は大動脈二尖弁や大動脈縮窄症を合併します。先天性風疹症候群の心奇形は動脈管開存症と末梢性肺動脈狭窄が代表で、完全大血管転位症は典型的な合併異常ではなく、むしろ糖尿病母体児に多いことが知られます。こうした組合せの知識は、特徴的な身体所見から心疾患を予測して心エコーなどの精査につなげる、小児循環器診療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
先天異常症候群や遺伝性疾患の多くは、特徴的な心血管異常を合併する。本問はそれぞれの疾患に「典型的に合併する心血管異常」を正しく対応づけられるかを問う、誤りの組合せを選ぶ問題である。 整理のコツは、疾患の成り立ち(病因)から合併異常を理解することである。 ・発生異常(染色体微細欠失):DiGeorge症候群 → 第3・第4咽頭嚢や神経堤細胞の発生障害 → 心臓流出路(円錐動脈幹)の異常 ・結合組織の異常:Marfan症候群 → 弁や大動脈壁の脆弱化 → 僧帽弁逸脱、大動脈拡張・解離 ・血管形成の異常:Osler病 → 全身の毛細血管拡張・動静脈奇形 → 肺動静脈瘻 ・性染色体異常:Turner症候群 → 左心系の閉塞性病変 → 大動脈二尖弁、大動脈縮窄症 ・胎内感染:先天性風疹症候群 → 動脈管開存症、末梢性肺動脈狭窄 先天性風疹症候群で問題になる心奇形は動脈管開存症と肺動脈(末梢肺動脈)狭窄が代表的であり、完全大血管転位症は典型的な合併異常ではない。したがって誤っている組合せはeである。
選択肢考察
- ×a. DiGeorge症候群 ―― Fallot四徴症
正しい組合せである。DiGeorge症候群は主に染色体22q11.2の微細欠失によって起こり、胎生期の第3・第4咽頭嚢(鰓嚢)およびその周囲の咽頭弓の発生異常を生じる。そのため胸腺低形成(T細胞性免疫不全)、副甲状腺低形成(低カルシウム血症・テタニー)、特異顔貌、口蓋裂などに加え、神経堤細胞の遊走障害による心臓流出路(円錐動脈幹)の奇形を合併する。代表はFallot四徴症、総動脈幹症(総動脈幹遺残)、大動脈弓離断(特にB型)であり、右側大動脈弓や心室中隔欠損症もみられる。症状の頭文字をとったCATCH22という呼び方も知られる。
- ×b. Marfan症候群 ―― 僧帽弁逸脱症候群
正しい組合せである。Marfan症候群は、弾性線維の構成成分であるフィブリリン1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の全身性結合組織疾患である。高身長・長い四肢とくも状指、関節過伸展、漏斗胸、側弯症などの骨格異常、水晶体偏位(亜脱臼)を特徴とする。心血管系では結合組織の脆弱性により、大動脈基部(Valsalva洞)の拡張、それに伴う大動脈弁閉鎖不全症、大動脈解離が生じ、僧帽弁も粘液腫様に変性して僧帽弁逸脱症候群・僧帽弁閉鎖不全症を高率に合併する。生命予後を左右するのは大動脈解離・破裂である。
- ×c. Osler病〈遺伝性出血性末梢血管拡張症〉 ―― 肺動静脈瘻
正しい組合せである。Osler病(Osler-Weber-Rendu病、遺伝性出血性毛細血管拡張症:HHT)は、ENG遺伝子やACVRL1遺伝子などの変異による常染色体顕性(優性)遺伝の血管形成異常である。口唇・舌・鼻粘膜・指先などの毛細血管拡張と、それによる反復性鼻出血、消化管出血を特徴とする。内臓では肺、脳、肝臓などに動静脈奇形を生じ、特に肺動静脈瘻(肺動静脈奇形)は右→左短絡をつくるため、低酸素血症・チアノーゼ・ばち指のほか、静脈側の血栓や細菌がフィルターとなる肺毛細血管を素通りして奇異性塞栓(脳梗塞)や脳膿瘍の原因となる。
- ×d. Turner症候群 ―― 大動脈縮窄症
正しい組合せである。Turner症候群は45,Xを基本核型とするX染色体モノソミー(モザイクや構造異常も含む)で、表現型は女性である。低身長、性腺形成不全(原発性無月経、二次性徴の欠如)、翼状頸、外反肘、盾状胸、新生児期の手足のリンパ浮腫などを特徴とする。心血管異常としては大動脈二尖弁が最も多く、次いで大動脈縮窄症が代表的であり、成人期には大動脈拡張・解離の危険も高い。腎奇形(馬蹄腎など)も合併しやすい。
- ○e. 先天性風疹症候群 ―― 完全大血管転位症
誤った組合せであり、これが正解である。先天性風疹症候群は妊娠初期(特に妊娠12週頃まで)の母体の風疹ウイルス初感染により胎児に生じる先天異常で、三大症状は白内障(ほかに緑内障・網膜症)、感音難聴、先天性心疾患である。合併する心疾患は動脈管開存症が最も代表的で、ほかに末梢性肺動脈狭窄(肺動脈分枝狭窄)、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症などがみられる。完全大血管転位症は大動脈が右室から、肺動脈が左室から起始する流出路の形成異常であり、先天性風疹症候群の典型的な合併心奇形には含まれない。完全大血管転位症は糖尿病母体児で頻度が高いことが知られる。
疾患別の代表的な心血管異常
・DiGeorge症候群(22q11.2欠失症候群):Fallot四徴症、総動脈幹症、大動脈弓離断(B型)、右側大動脈弓、心室中隔欠損症 ・Down症候群(21トリソミー):房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)、心室中隔欠損症 ・Turner症候群(45,X):大動脈二尖弁、大動脈縮窄症、大動脈解離 ・Williams症候群(7q11.23欠失):大動脈弁上狭窄、末梢性肺動脈狭窄 ・Noonan症候群:肺動脈弁狭窄(異形成弁)、肥大型心筋症 ・Marfan症候群(FBN1変異):大動脈基部拡張、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈解離、僧帽弁逸脱症候群 ・Ehlers-Danlos症候群(血管型):動脈破裂・解離 ・Osler病(HHT):肺動静脈瘻、脳・肝の動静脈奇形 ・先天性風疹症候群:動脈管開存症、末梢性肺動脈狭窄 ・糖尿病母体児:完全大血管転位症、心室中隔欠損症、肥大型心筋症(中隔肥厚) ・母体の全身性エリテマトーデス(抗SS-A抗体陽性):胎児・新生児の先天性完全房室ブロック
先天性風疹症候群の要点
・妊娠初期ほど発症頻度が高く、妊娠20週以降の感染ではほとんど起こらない。 ・三大症状:白内障、感音難聴、先天性心疾患(動脈管開存症など) ・その他:小頭症、精神運動発達遅滞、子宮内発育不全、血小板減少性紫斑、肝脾腫、骨のX線透亮像など ・予防には風疹ワクチン(MRワクチン)による妊娠可能年齢女性とその周囲の免疫獲得が重要である。ワクチンは生ワクチンのため妊娠中は接種できず、接種後2か月間は避妊が必要とされる。
DiGeorge症候群の記憶法
CATCH22:Cardiac defects(心奇形)、Abnormal facies(特異顔貌)、Thymic hypoplasia(胸腺低形成)、Cleft palate(口蓋裂)、Hypocalcemia(低カルシウム血症)、22q11.2欠失
POINT
・先天性風疹症候群の心奇形は動脈管開存症と末梢性肺動脈狭窄が代表で、完全大血管転位症は典型ではない。 ・完全大血管転位症は糖尿病母体児に多い。 ・DiGeorge症候群は円錐動脈幹異常(Fallot四徴症、総動脈幹症、大動脈弓離断)を合併する。 ・Marfan症候群は大動脈基部拡張・解離と僧帽弁逸脱、Turner症候群は大動脈二尖弁と大動脈縮窄症、Osler病は肺動静脈瘻。
