StudyMed医師国家試験

痛まない中耳炎がいちばん怖い?―耳痛の「出どころ」で見抜く滲出性中耳炎

第103回医師国家試験 G問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第103回 G問題 第11問

耳痛を伴わないのはどれか。

  1. a.耳癤
  2. b.扁桃周囲炎
  3. c.急性中耳炎
  4. d.滲出性中耳炎
  5. e.Ramsay Hunt症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「耳痛を伴わない疾患」を選ぶ問題だ。ポイントは、耳痛がどこから来るのかを2つに分けて整理すること。耳そのものに病変があって痛む場合と、耳以外の場所の痛みが耳に響く場合だね。この視点で選択肢を眺めると、答えは自然に浮かび上がってくるよ。
医学生医学生
耳の病気ならどれも痛そうですし、扁桃周囲炎はのどの病気なので、耳は痛くならないように思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。耳は三叉神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経、それに大耳介神経などの頸神経と、たくさんの神経から知覚を受けている。咽頭や喉頭も舌咽神経・迷走神経の支配を受けるから、のどの炎症の痛みが脳では「耳が痛い」と感じられることがあるんだ。これを関連痛、放散痛と呼ぶよ。
医学生医学生
解剖の講義で、迷走神経に耳介枝があると習った覚えがあります。あれが関係しているんですね。
ドクタードクター
その通り。Arnold神経と呼ばれる枝だね。扁桃周囲炎は口蓋扁桃の炎症が被膜の外に広がったもので、片側の強い咽頭痛、嚥下痛、開口障害、含み声、口蓋垂の健側への偏位が特徴。そして同側の耳への放散痛を訴えることが多い。だから耳痛を伴いうる疾患なんだ。
医学生医学生
耳癤は外耳道のおできですよね。小さな病変でもかなり痛いんでしょうか。
ドクタードクター
かなり痛いよ。外耳道の外側の毛包に黄色ブドウ球菌などが感染する限局性の化膿性炎症で、外耳道の皮膚は薄く軟骨や骨に密着しているから、わずかな腫れでも逃げ場がなく強い痛みになる。耳介を引っ張ったり耳珠を押したりすると痛みが増し、噛むときに痛むこともある。
医学生医学生
耳鼻科の臨床実習で、耳介を引くと痛がる患者さんを見ました。中耳炎との見分けに使うと教わりました。
ドクタードクター
いい経験だね。では急性中耳炎はどうかな。
医学生医学生
小児科でも耳を触って泣く子がいました。鼓膜が赤く腫れているから痛い、という理解で合っていますか。
ドクタードクター
合っているよ。上気道炎に続いて肺炎球菌やインフルエンザ菌などが耳管経由で中耳に感染し、中耳腔に膿がたまって圧が上がる。鼓膜が発赤・膨隆して引き伸ばされることで強い耳痛が出るんだ。鼓膜が破れて耳漏が出ると、圧が抜けて痛みが和らぐことが多いのも特徴だね。
医学生医学生
Ramsay Hunt症候群は顔面神経麻痺のイメージが強いですが、耳も痛むんですか。
ドクタードクター
痛むよ。膝神経節などに潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化で起こり、耳介や外耳道の水疱、末梢性顔面神経麻痺、難聴やめまいなどの第VIII脳神経症状が三主徴。帯状疱疹の神経痛として強い耳痛があり、水疱や麻痺より先に出ることもある。痛みが先行した段階で気づけるかが大切だ。
医学生医学生
となると、残る滲出性中耳炎が耳痛を伴わない疾患ということですね。同じ中耳炎なのに痛くないのが少し意外です。
ドクタードクター
そう、正解は滲出性中耳炎だ。名前は似ていても中身は別物で、急性の細菌感染ではなく、耳管の換気が悪くなって中耳腔が陰圧になり、粘膜から液体がしみ出してたまった状態なんだ。炎症所見に乏しいから耳痛も発熱もなく、主な症状は伝音難聴と耳閉感。鼓膜は膨隆ではなく陥凹し、黄色から琥珀色の液体や気泡、液面が透けて見える。ティンパノメトリーではB型やC型になるよ。
医学生医学生
痛くないということは、子どもだと気づかれにくいですよね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床上の問題点。呼んでも返事をしない、テレビの音を大きくする、といった行動や健診で初めて見つかることが多い。小児ではアデノイド増殖症や急性中耳炎後の遷延が原因になりやすく、言語発達への影響にも注意が必要だ。長引く場合は鼓膜換気チューブ留置も検討される。
医学生医学生
成人で滲出性中耳炎を見たら、何か注意することはありますか。
ドクタードクター
大事な質問だね。成人の片側性滲出性中耳炎では、耳管咽頭口をふさぐ上咽頭癌を必ず鑑別する。上咽頭の観察を忘れないことだ。それから関連痛の話とも関係するけれど、鼓膜や外耳道に異常がないのに耳が痛いという訴えは、咽頭癌や喉頭癌のサインのことがある。特に下咽頭癌や声門上癌では耳痛が初発症状になりうるんだ。
医学生医学生
耳が痛いのに耳に異常がない、耳に液がたまっているのに痛くない、どちらも耳の外に原因を探すきっかけになるんですね。
ドクタードクター
その通り。症状の有無そのものより、その症状がなぜ起きているのかを神経支配や病態から考える習慣をつけておくと、見逃しを防げるよ。

まとめ

耳痛は、耳癤・急性中耳炎・Ramsay Hunt症候群のように耳そのものの病変で生じる一次性の痛みと、扁桃周囲炎などの咽頭・喉頭病変から舌咽神経・迷走神経を介して耳に響く関連痛とに分けて整理できます。滲出性中耳炎は耳管機能障害による中耳腔への滲出液貯留で、急性炎症を欠くため耳痛や発熱はなく、伝音難聴と耳閉感が主症状です。鼓膜の陥凹と液体の透見、ティンパノメトリーのB型・C型が診断の手がかりとなり、痛みがないぶん小児では言語発達への影響を見逃さないよう注意が必要です。成人の片側性滲出性中耳炎では上咽頭癌を、耳に所見のない耳痛では咽頭・喉頭癌を疑う視点も重要です。耳の神経支配と病態を結びつけて理解することは、耳鼻咽喉科領域の診察で隠れた疾患を拾い上げる力につながります。

解答・解説

正解はdです

耳痛(耳の痛み)は、原因の場所によって大きく2種類に分けて考えるとよい。 1つ目は、耳そのもの(耳介、外耳道、鼓膜、中耳)に病変があって痛む「一次性(耳原性)耳痛」である。外耳道や鼓膜は知覚神経が豊富で、炎症による腫脹や、中耳腔の圧上昇による鼓膜の伸展が強い痛みを生む。耳癤(外耳道の毛包の化膿)、急性中耳炎、耳介・外耳道に水疱をつくる帯状疱疹(Ramsay Hunt症候群)がこれに当たる。 2つ目は、耳以外の病変の痛みが耳に感じられる「関連痛(放散痛)」である。耳は三叉神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経、頸神経(大耳介神経など)という複数の神経から知覚を受けており、これらの神経が同時に支配する咽頭、喉頭、歯、顎関節などの病変では、痛みが耳に響くように感じられる。扁桃炎・扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍などの咽頭疾患では、舌咽神経や迷走神経を介して耳痛が生じる。 これに対して、滲出性中耳炎は炎症所見が乏しく、中耳腔に液体が静かにたまるだけの疾患であり、耳痛は通常みられない。主な症状は難聴と耳閉感である。したがって「耳痛を伴わない」ものとしては滲出性中耳炎を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  耳癤

    耳痛を伴う。耳癤(急性限局性外耳道炎)は、外耳道の外側(軟骨部)にある毛包や皮脂腺に黄色ブドウ球菌などが感染して生じる限局性の化膿性炎症である。外耳道の皮膚は薄く軟骨・骨に密着しているため、わずかな腫れでも強い痛みとなる。耳介を引っ張ったり耳珠を押したりすると痛みが増すのが特徴で、咀嚼時にも痛むことがある。

  2. ×b.  扁桃周囲炎

    耳痛を伴いうる。扁桃周囲炎は、口蓋扁桃の炎症が扁桃被膜の外側(扁桃周囲間隙)に広がったもので、膿がたまると扁桃周囲膿瘍となる。多くは片側性で、強い咽頭痛、嚥下痛、開口障害、含み声(こもった声)、軟口蓋の腫脹と口蓋垂の健側への偏位がみられる。咽頭の知覚を担う舌咽神経・迷走神経は耳にも分布しているため、痛みが同側の耳へ放散する関連痛としての耳痛を伴うことが多い。

  3. ×c.  急性中耳炎

    耳痛を伴う。急性中耳炎は、上気道炎に続いて肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスなどが耳管を経由して中耳に感染する急性の炎症である。中耳腔に膿がたまって圧が上がり、鼓膜が発赤・膨隆することで強い耳痛が生じる。そのほか発熱、耳閉感、伝音難聴を伴い、乳幼児では不機嫌や耳に手をやるしぐさとして現れる。鼓膜が破れて耳漏が出ると、圧が抜けて痛みが軽くなることが多い。

  4. ○d.  滲出性中耳炎

    滲出性中耳炎では通常、耳痛はみられない。本症は、急性炎症の症状(耳痛・発熱)を伴わずに中耳腔に滲出液がたまった状態である。耳管の換気機能が悪くなって中耳腔が陰圧となり、粘膜から液体がしみ出すことで生じる。原因として、アデノイド増殖症、急性中耳炎の治りきらない状態、上咽頭癌による耳管閉塞などがある。症状は伝音難聴と耳閉感が中心で、痛みがないため小児では気づかれにくく、呼んでも返事をしない、テレビの音を大きくするといった行動や、健診で初めて発見されることが多い。

  5. ×e.  Ramsay Hunt症候群

    耳痛を伴う。Ramsay Hunt症候群は、膝神経節などに潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化によって起こる。耳介や外耳道の発赤・水疱、末梢性顔面神経麻痺、第VIII脳神経症状(感音難聴、耳鳴、めまい)を三主徴とする。帯状疱疹による神経痛として強い耳痛を伴い、しばしば水疱や顔面神経麻痺に先行して出現する。

耳痛の原因の整理

一次性(耳そのものの病変) ・耳介:耳介の帯状疱疹、耳介軟骨膜炎、凍傷 ・外耳道:耳癤、びまん性外耳道炎、外耳道真菌症、外耳道異物、悪性外耳道炎(高齢の糖尿病患者などに生じる緑膿菌感染) ・鼓膜・中耳:急性中耳炎、水疱性鼓膜炎、航空性中耳炎、外傷性鼓膜穿孔、急性乳様突起炎 関連痛(放散痛) ・咽頭・喉頭:扁桃炎、扁桃周囲膿瘍、咽頭癌、喉頭癌(特に下咽頭癌や声門上癌では耳痛が初発症状のこともある) ・口腔・顎:う歯、智歯周囲炎、顎関節症、舌癌 ・その他:舌咽神経痛、頸椎疾患

耳の知覚神経

・三叉神経(耳介側頭神経):外耳道前壁・耳介前部 ・顔面神経:外耳道後壁・耳甲介の一部 ・舌咽神経(鼓室神経〈Jacobson神経〉):中耳粘膜 ・迷走神経(耳介枝〈Arnold神経〉):外耳道後下壁・耳甲介 ・頸神経(大耳介神経・小後頭神経):耳介の大部分と耳の後ろ 咽頭や喉頭も舌咽神経・迷走神経の支配を受けるため、これらの領域の病変は耳痛として感じられる。「鼓膜・外耳道に異常がないのに耳が痛い」場合は、咽頭・喉頭の悪性腫瘍を見逃さないことが重要である。

急性中耳炎と滲出性中耳炎の比較

・急性中耳炎:急性の細菌感染。耳痛・発熱あり。鼓膜は発赤・膨隆。 ・滲出性中耳炎:耳管機能障害による滲出液の貯留。耳痛・発熱なし。鼓膜は陥凹し、液体の透見(黄色~琥珀色、気泡や液面形成)を認める。ティンパノメトリーでB型(平坦)またはC型(陰圧)を示す。難聴は伝音難聴。

滲出性中耳炎の注意点

・小児:好発。アデノイド増殖症や急性中耳炎後の遷延が多い。言語発達への影響に注意する。治療は経過観察、原因疾患の治療、長引く場合は鼓膜換気チューブ留置など。 ・成人:片側性の滲出性中耳炎では、耳管咽頭口を閉塞する上咽頭癌を必ず鑑別する。

POINT

・耳痛には、耳そのものの病変による痛みと、咽頭・喉頭・口腔などからの関連痛(放散痛)がある。 ・耳癤、急性中耳炎、Ramsay Hunt症候群は耳の直接の病変による強い耳痛を伴う。 ・扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍は舌咽神経・迷走神経を介した関連痛として耳痛をきたす。 ・滲出性中耳炎は耳痛・発熱がなく、難聴と耳閉感が主症状であるため、小児では見逃されやすい。 ・成人の片側性滲出性中耳炎では上咽頭癌を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。