StudyMed医師国家試験

胸骨角の奥で気管は分かれる―気道・血管・肺胞の「地図」を描き直す

第103回医師国家試験 G問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第103回 G問題 第12問

正しいのはどれか。

  1. a.気管は第4胸椎の高さで左右に分岐する。
  2. b.右主気管支は左主気管支よりも長い。
  3. c.末梢肺静脈は気管支と並行して走る。
  4. d.呼吸細気管支が分岐して終末細気管支となる。
  5. e.ガス交換は肺胞孔で行われる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は呼吸器の基本解剖を問う問題だ。気道がどこで分かれ、どう枝分かれしてガス交換の場にたどり着くのか。そして肺の中で動脈と静脈がどこを走っているのか。この3つの地図を頭の中に描けるかがカギになるよ。
医学生医学生
解剖実習で気管を剖出したときに分岐部を見ましたが、高さまではあいまいです。第4胸椎だった気がするのですが。
ドクタードクター
その記憶で正しいよ。気管は第6頸椎の高さ、輪状軟骨の下縁で喉頭から続き、10〜12cmほど下って第4〜5胸椎の高さで左右の主気管支に分かれる。体表では胸骨角、つまり第2肋軟骨が付く高さに相当するんだ。だから、気管が第4胸椎の高さで分岐するという記述が正解になる。
医学生医学生
胸骨角は身体診察のOSCE対策で肋間を数える目印として覚えました。気管分岐部の目印でもあるんですね。
ドクタードクター
そう、胸骨角の高さには気管分岐部のほかに大動脈弓の始まりと終わりもあって、縦隔の重要な目印なんだ。分岐部の内腔の隆起はカリナと呼ばれ、気管支鏡検査で位置を確認する基準になる。では左右の主気管支の違いはどうだろう。
医学生医学生
右のほうが太くて、異物が入りやすいと習いました。太いということは長さも右が長いのでしょうか。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。右主気管支は太いけれど短く、約2.5〜3cm。しかも垂直に近い角度で分かれる。左主気管支は大動脈弓の下をくぐって左肺門へ向かうので約5cmと長く、細く、水平に近い角度になる。だから右が長いという記述は誤りだ。
医学生医学生
短くて太くてまっすぐだから、誤嚥した異物が右に落ちやすいということですね。
ドクタードクター
その通り。誤嚥性肺炎が右下葉に多いのも、気管チューブを深く入れすぎると右主気管支に入って片肺挿管になるのも同じ理由だ。麻酔科実習で挿管後に両側の呼吸音を必ず聴くのはこのためだよ。次は肺の血管。気管支と並んで走るのはどちらかな。
医学生医学生
肺動脈と肺静脈がペアになって気管支と一緒に走っているイメージでした。
ドクタードクター
よくある誤解だね。気管支に寄り添って走るのは肺動脈と気管支動脈で、肺静脈は違う。肺静脈の末梢枝は肺胞壁の毛細血管から始まり、小葉間隔壁や区域と区域の境界を通って肺門へ向かう。つまり気管支から離れて走るんだ。だから肺静脈が気管支と並行するという記述は誤り。
医学生医学生
肺静脈が区域の境界を走るなら、手術で区域を切り分けるときの目印になりそうです。
ドクタードクター
鋭いね。実際に肺区域切除では、区域間を走る静脈が境界の目印として使われる。胸部CTの読影でも、二次小葉の中心に細気管支と肺動脈、辺縁の小葉間隔壁に肺静脈とリンパ管がある、という配置を知っていると、病変が小葉中心性か辺縁性かを判断できるようになる。
医学生医学生
気道の枝分かれの順番も、終末と呼吸のどちらが先か毎回迷ってしまいます。
ドクタードクター
名前に惑わされやすいところだね。「終末」は導管部の最後という意味なんだ。気管から細気管支を経て終末細気管支までは肺胞をもたず、ガスを運ぶだけの解剖学的死腔。その先で壁に肺胞が出てくるのが呼吸細気管支で、ここから呼吸部が始まり、肺胞管、肺胞嚢、肺胞へと続く。だから呼吸細気管支が分岐して終末細気管支になる、という記述は順序が逆で誤りだ。
医学生医学生
導管部の終わりが終末細気管支、呼吸部の始まりが呼吸細気管支、と覚えればよさそうです。最後の肺胞孔は、名前からしてガス交換に関わりそうですが。
ドクタードクター
そう思わせる選択肢だね。肺胞孔、いわゆるKohn孔は隣り合う肺胞どうしをつなぐ小さな孔で、気道が詰まったときに隣の肺胞から空気が回り込む側副換気の通り道になる。ガス交換が行われるのは、I型肺胞上皮細胞、基底膜、毛細血管内皮からなる薄い肺胞壁だ。なお、肺炎の際に炎症が隣の肺胞へ広がる経路にもなるよ。
医学生医学生
病理実習で大葉性肺炎の標本を見たとき、炎症が一気に広がる理由としてKohn孔の話が出ていました。
ドクタードクター
いいつながりだね。最後に整理しておこう。1本の終末細気管支より末梢の領域を細葉と呼び、ガス交換の機能単位になる。肺胞ではI型細胞がガス交換の面をつくり、II型細胞がサーファクタントを分泌して肺胞の虚脱を防ぐ。また気管支動脈は体循環系で気管支壁を栄養し、喀血の主な出血源になる。解剖の知識は、気管支鏡、挿管、CT読影、手術と、臨床のあらゆる場面の土台になるんだ。

まとめ

気管は第6頸椎の高さで始まり、第4〜5胸椎、体表では胸骨角の高さで左右の主気管支に分岐します。右主気管支は短く太く垂直に近いため、異物や気管チューブが入りやすく、誤嚥性肺炎も右下葉に多くみられます。肺内では肺動脈と気管支動脈が気管支に並走する一方、肺静脈は小葉間隔壁や区域間を走るため、区域切除の境界やCTでの小葉構造の理解に役立ちます。気道は終末細気管支までがガス交換をしない導管部で、呼吸細気管支以降が呼吸部となり、ガス交換は肺胞壁で行われます(肺胞孔は側副換気の通路です)。これらの基本解剖は、挿管・気管支鏡・画像診断・手術を理解するための共通の土台です。

解答・解説

正解はaです

本問は、気道の走行と分岐、肺内の血管の配置、ガス交換の場という呼吸器系の基本的な解剖を問うものである。 気道は、ガスを運ぶだけの「導管部(気道部)」と、実際にガス交換を行う「呼吸部」に分けられる。導管部は気管から始まり、主気管支、葉気管支、区域気管支と枝分かれを繰り返し、軟骨をもたない細気管支を経て終末細気管支に至る。終末細気管支までは肺胞をもたず、ガス交換には関与しない(解剖学的死腔)。終末細気管支の先で、壁に肺胞が出現し始める呼吸細気管支となり、さらに肺胞管、肺胞嚢、肺胞へと続く。ここが呼吸部である。 肺内の血管は、肺動脈と肺静脈で走行が異なる。肺動脈は気管支に寄り添って並走し、肺小葉や細葉の中心部に入る。一方、肺静脈は肺胞壁の毛細血管から集まった血液を、小葉間の結合組織(小葉間隔壁)や区域の境界を通って肺門へ運び、気管支とは離れて走る。 これらの知識を踏まえて各選択肢を検討すると、気管分岐部の高さに関する記述が正しい。

選択肢考察

  1. ○a.  気管は第4胸椎の高さで左右に分岐する。

    正しい。気管は第6頸椎の高さ(輪状軟骨の下縁)で喉頭から続き、長さ約10〜12cmを下行して、第4〜5胸椎の高さで左右の主気管支に分かれる。体表では胸骨角(Louis角、第2肋軟骨が付着する部位)の高さに相当する。分岐部の内腔にある隆起を気管分岐部稜(カリナ)といい、気管支鏡検査の重要な目印である。なお、深吸気時や立位では分岐部はやや下がる。

  2. ×b.  右主気管支は左主気管支よりも長い。

    誤り。右主気管支は長さ約2.5〜3cmと短く、太く、垂直に近い角度(正中線から約25°)で分岐する。左主気管支は大動脈弓の下をくぐって左肺門に向かうため、長さ約5cmと長く、細く、より水平に近い角度(約45°)で分岐する。この形態の違いから、誤嚥した異物や、挿入しすぎた気管チューブは右主気管支に入りやすく、誤嚥性肺炎も右肺(特に右下葉)に多い。

  3. ×c.  末梢肺静脈は気管支と並行して走る。

    誤り。気管支と並行して走るのは肺動脈(および気管支を栄養する気管支動脈)である。肺静脈の末梢枝は肺胞壁の毛細血管から始まり、小葉間隔壁や区域間の結合組織の中を通って肺門へ向かうため、気管支とは離れて走る。この性質から、肺区域切除の際には区域間を走る肺静脈(区域間静脈)が区域の境界の目印となる。

  4. ×d.  呼吸細気管支が分岐して終末細気管支となる。

    誤り。順序が逆である。終末細気管支が分岐して呼吸細気管支となる。終末細気管支は導管部の最終の枝で肺胞をもたないが、呼吸細気管支になると壁の一部に肺胞が出現し、わずかながらガス交換に関与する。その先は肺胞管、肺胞嚢、肺胞と続く。1本の終末細気管支より末梢の領域を細葉(肺細葉)と呼び、ガス交換の機能単位とされる。

  5. ×e.  ガス交換は肺胞孔で行われる。

    誤り。ガス交換は、肺胞の壁(肺胞上皮、基底膜、毛細血管内皮からなる薄い血液空気関門)を介して行われる。肺胞孔(Kohn孔)は隣り合う肺胞どうしをつなぐ直径10μm前後の小孔で、気道が閉塞した際に隣接する肺胞からの側副換気の通り道となるが、ガス交換の場ではない。一方で、肺炎の際に細菌や炎症が隣接肺胞へ広がる経路にもなる。

気道の分岐(成人)

気管 → 主気管支 → 葉気管支(右3本・左2本) → 区域気管支(右10・左8〜10) → 亜区域気管支 → … → 細気管支(軟骨が消失) → 終末細気管支 → 呼吸細気管支 → 肺胞管 → 肺胞嚢 → 肺胞 ・終末細気管支まで:導管部(解剖学的死腔、成人で約150mL) ・呼吸細気管支以降:呼吸部 ・気道は約23回分岐する(Weibelのモデル)。

気管の概要

・起始:第6頸椎の高さ(輪状軟骨下縁) ・分岐:第4〜5胸椎の高さ(胸骨角の高さ) ・長さ約10〜12cm、直径約2cm ・前方と側方はU字型の気管軟骨、後壁は軟骨のない膜様部(平滑筋を含む)で、背側に食道が接する。

左右の主気管支の比較

・右:短い(約2.5〜3cm)、太い、分岐角が小さく垂直に近い → 異物や気管チューブが入りやすい ・左:長い(約5cm)、細い、分岐角が大きく水平に近い

肺の血管系

・肺動脈:右心室から静脈血を運ぶ。気管支と並走し、小葉・細葉の中心に位置する(小葉中心性)。 ・肺静脈:動脈血を左心房へ運ぶ。小葉間隔壁や区域間を走り、気管支から離れている。 ・気管支動脈:大動脈などから分岐し、気管支壁や肺の支持組織を栄養する体循環系の血管。気管支に沿って走る。喀血の主な出血源となる。

肺胞の構造

・I型肺胞上皮細胞:肺胞表面の大部分を覆う扁平な細胞で、ガス交換の場をつくる。 ・II型肺胞上皮細胞:肺サーファクタントを分泌し、肺胞の表面張力を下げて虚脱を防ぐ。損傷時にはI型細胞に分化して修復を担う。 ・肺胞マクロファージ:肺胞内の異物を処理する。 ・肺胞孔(Kohn孔):隣接肺胞間の交通路。側副換気に関与する。

肺の単位

・細葉(肺細葉):1本の終末細気管支より末梢の領域。直径数mm。 ・二次小葉(Millerの二次小葉):小葉間隔壁に囲まれた直径1〜2.5cm程度の多角形の単位で、数個の細葉を含む。中心部を細気管支と肺動脈が走り、辺縁の小葉間隔壁を肺静脈とリンパ管が走る。胸部CTで病変の分布(小葉中心性か、小葉辺縁性か)を読むときの基本単位となる。

POINT

・気管分岐部は第4〜5胸椎の高さ(胸骨角の高さ)。 ・右主気管支は短く太く垂直に近い → 異物・気管チューブは右に入りやすい。 ・気管支に並走するのは肺動脈。肺静脈は小葉間・区域間を走る。 ・順序は終末細気管支 → 呼吸細気管支。終末細気管支までは導管部、呼吸細気管支以降が呼吸部。 ・ガス交換は肺胞壁で行われ、肺胞孔(Kohn孔)は側副換気の通路である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。