ぶら下がる腸、貼りつく腸―「間膜」の有無で見分ける後腹膜臓器
第103回医師国家試験 G問題 第13問
国試問題にチャレンジ
後腹膜に固定されていないのはどれか。
- a.腎臓
- b.十二指腸
- c.上行結腸
- d.横行結腸
- e.腹部大動脈
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
腹部臓器は、間膜で後腹壁から吊られ可動性をもつ腹膜内臓器と、後腹壁に接して前面のみ腹膜に覆われる後腹膜臓器に分けられます。腎臓・副腎・尿管・腹部大動脈・下大静脈は一次性、十二指腸(球部を除く)・膵臓・上行結腸・下行結腸は間膜が癒合した二次性の後腹膜臓器です。横行結腸とS状結腸は結腸間膜をもつ腹膜内臓器で後腹膜に固定されておらず、可動性があるため捻転を起こしえます。この区分は背部痛の評価、CTでの後腹膜腔の読影、結腸授動などの手術手技を理解する土台となるため、発生と間膜の有無から理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はdです
本問は、腹部の臓器・血管を「腹膜との位置関係」で分類できるかを問う解剖学の基本問題である。 腹腔内の臓器は、腹膜との関係から大きく二つに分けられる。一つは表面のほぼ全体が臓側腹膜で包まれ、腸間膜などの「間膜」によって後腹壁からぶら下がっている腹膜内臓器(腹腔内臓器)である。もう一つは後腹壁に接し、前面だけが壁側腹膜(後腹膜)で覆われている後腹膜臓器(腹膜後器官)である。後腹膜臓器は間膜をもたないため、後腹壁にしっかり固定されていて、ほとんど移動しない。 選択肢を見ると、腎臓・腹部大動脈は発生当初から腹膜の後ろにある一次性(原発性)の後腹膜臓器、十二指腸・上行結腸は発生の途中で間膜が後腹壁と癒合して後腹膜に固定された二次性の後腹膜臓器である。一方、横行結腸は横行結腸間膜をもつ腹膜内臓器であり、後腹壁には固定されていない。したがって「後腹膜に固定されていない」のは横行結腸である。 覚え方としては、結腸は「上行・下行は固定、横行・S状は間膜あり(可動)」と整理するとよい。
選択肢考察
- ×a. 腎臓
腎臓は副腎とともに後腹壁に位置し、前面が壁側腹膜で覆われる代表的な後腹膜臓器である。発生当初から腹膜の外(後ろ)で形成される一次性の後腹膜臓器に分類される。腎臓の周囲は脂肪被膜(腎周囲脂肪)と腎筋膜(ゲロタ筋膜)に包まれており、固定は比較的ゆるく、呼吸に伴って上下に数cm動く。痩せた人などで腎臓が立位で大きく下がる状態を遊走腎という。ただし、間膜でぶら下がっているわけではなく、後腹膜腔に位置する臓器である。
- ×b. 十二指腸
十二指腸は膵臓とともに後腹壁に固定された後腹膜臓器である。胎生期には背側腸間膜をもっていたが、腸の回転に伴いその間膜が後腹壁の腹膜と癒合して固定されたもので、二次性の後腹膜臓器と呼ばれる。なお厳密には、幽門に続く十二指腸球部(上部の起始部約2〜3cm)は肝十二指腸間膜などに付着しており、後腹壁には固定されず可動性がある。しかし十二指腸全体としては後腹膜臓器として扱うのが一般的であり、明らかに固定されていない横行結腸と比べれば本問の正解にはならない。
- ×c. 上行結腸
上行結腸は右腸骨窩の盲腸から始まり、肝臓下面の右結腸曲まで右側腹部の後腹壁に沿って上行する。後面は後腹壁に癒着し、前面と側面が腹膜で覆われているため、二次性の後腹膜臓器として後腹壁に固定されている。左側の下行結腸も同様に固定されている。このため上行結腸・下行結腸の外側には腹膜の反転部(白線、トルト[Toldt]の癒合筋膜に対応)があり、手術ではここを切開して結腸を授動する。
- ○d. 横行結腸
横行結腸は右結腸曲から左結腸曲まで腹部を横切る結腸で、横行結腸間膜という間膜によって後腹壁(膵臓前面付近)からぶら下がっている腹膜内臓器である。間膜をもつため可動性が大きく、個人差もあり、立位では臍よりも下、ときに骨盤腔まで垂れ下がることがある。前面には胃の大弯から垂れる大網が付着する。このように横行結腸は後腹膜には固定されていないため、本問の正解である。結腸のうち間膜をもって可動性があるのは横行結腸とS状結腸であり、この2部位は捻転(特にS状結腸軸捻転)を起こしうる。
- ×e. 腹部大動脈
腹部大動脈は横隔膜の大動脈裂孔(第12胸椎の高さ)から腹腔に入り、椎体のやや左前方を後腹壁に沿って下行し、第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分岐する。前面は壁側腹膜で覆われており、後腹膜腔に位置する構造物である。右側を並走する下大静脈も同様に後腹膜に位置する。そのため腹部大動脈瘤の破裂では、まず後腹膜腔に血腫をつくることが多い。
腹膜と臓器の位置関係
腹膜は腹腔の内面を覆う壁側腹膜と、臓器表面を覆う臓側腹膜からなり、両者は間膜を介して連続している。
腹膜内臓器(腹腔内臓器)
表面の大部分が腹膜に包まれ、間膜で吊られて可動性をもつ臓器。胃、空腸、回腸、横行結腸、S状結腸、肝臓、脾臓、胆嚢、十二指腸球部、虫垂(虫垂間膜をもつ)、卵巣・卵管(女性)など。盲腸は腹膜に覆われるが固定の程度には個人差がある。
後腹膜臓器(腹膜後器官)
後腹壁に接し、前面のみが壁側腹膜に覆われる臓器・構造物。 ・一次性(はじめから腹膜の後ろで発生): 腎臓、副腎、尿管、腹部大動脈、下大静脈、交感神経幹など ・二次性(間膜が後腹壁と癒合して固定): 十二指腸(球部を除く)、膵臓(膵尾部は脾腎ヒダ内にあり可動性あり)、上行結腸、下行結腸
腹膜下臓器
膀胱、直腸下部、子宮・腟の一部などは骨盤腔で腹膜の下方に位置し、腹膜下器官と呼ばれることもある。
臨床との関連
・後腹膜臓器の疾患(膵炎、腎疾患、大動脈瘤など)では背部痛を訴えやすい。 ・腹部CTで後腹膜腔の液体貯留(膵炎の滲出液、大動脈瘤破裂の血腫など)を評価する際に、この区分が重要となる。 ・間膜をもつS状結腸や横行結腸は捻転を起こしうる。
POINT
・後腹膜臓器: 腎臓、副腎、尿管、腹部大動脈、下大静脈、十二指腸(球部を除く)、膵臓、上行結腸、下行結腸 ・横行結腸とS状結腸は結腸間膜をもつ腹膜内臓器で、後腹膜に固定されず可動性がある ・十二指腸・膵臓・上行結腸・下行結腸は間膜が癒合して固定された二次性の後腹膜臓器 ・十二指腸球部は例外的に可動性がある点も押さえる
