ジギタリスは「心臓を強く、ゆっくり」―2つの作用から適応と禁忌を読み解く
第101回医師国家試験 F問題 第21問
国試問題にチャレンジ
ジギタリスの適応はどれか。
- a.貧血
- b.狭心症
- c.慢性心房細動
- d.完全房室ブロック
- e.甲状腺機能亢進症
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
ジギタリスはNa+/K+-ATPase阻害による陽性変力作用と、迷走神経を介した洞結節・房室結節の抑制作用をもち、頻脈性心房細動のレートコントロールや収縮能の低下した心不全に用いられます。房室ブロックでは徐脈を悪化させるため禁忌であり、狭心症では心筋酸素消費量を増やして虚血を悪化させるおそれがあります。貧血や甲状腺機能亢進症による高拍出状態は原因疾患の治療が本質で、ジギタリスの適応ではありません。現在、心房細動のレートコントロールの第一選択はβ遮断薬や非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬であり、ジゴキシンは心不全合併例などで用いられます。治療域が狭く、低カリウム血症・腎機能低下・高齢で中毒を起こしやすいため、作用機序から適応・禁忌・中毒までを一続きで理解しておくことが安全な薬物治療につながります。
解答・解説
正解はcです
ジギタリス(現在臨床で主に用いられるのはジゴキシン)は、心筋細胞膜のNa+/K+-ATPase(ナトリウムポンプ)を阻害する強心配糖体である。その作用は大きく2つに整理できる。 1. 陽性変力作用(心収縮力の増強):ナトリウムポンプが阻害されると細胞内Na+が増える。するとNa+/Ca2+交換系によるCa2+の汲み出しが減り、細胞内Ca2+が増加して心筋の収縮力が高まる。 2. 陰性変時・変伝導作用(心拍数の低下、房室伝導の抑制):主に迷走神経の緊張を高めることで、洞結節の自動能を抑え、房室結節の伝導を遅らせる(不応期を延長させる)。 この2つの作用から、ジギタリスが役立つのは「房室結節を通る興奮を減らしたい頻脈性の心房性不整脈」、とりわけ心房細動の心室レート(心拍数)コントロールと、収縮力の低下した心不全(特に頻脈性心房細動を伴うもの)である。 逆に、次のような病態では有用でないか、むしろ有害である。 ・房室伝導がすでに障害されている病態(房室ブロック):伝導抑制作用で徐脈が悪化する。 ・心筋酸素需要を増やすと困る病態(狭心症):収縮力増強は酸素消費を増やす。 ・心臓のポンプ機能自体は保たれた高心拍出状態(貧血、甲状腺機能亢進症):原因疾患の治療が本質であり、強心作用は必要ない。 したがって、適応となるのは慢性心房細動である。
選択肢考察
- ×a. 貧血
貧血では組織への酸素供給を保つため心拍出量が代償的に増加しており、重度になると高拍出性心不全をきたす。心臓の収縮力が落ちているわけではないので、強心作用をもつジギタリスは病態に合わず、適応とならない。治療は原因の検索と貧血そのものの是正(鉄剤、輸血など)である。
- ×b. 狭心症
狭心症は心筋の酸素需要に対して冠血流による供給が不足する病態である。ジギタリスは心収縮力を高めることで心筋酸素消費量を増やすため、虚血を悪化させるおそれがある。狭心症の治療には、心拍数と収縮力を下げて酸素需要を減らすβ遮断薬、冠動脈を拡張する硝酸薬やカルシウム拮抗薬、抗血小板薬などを用いる。
- ○c. 慢性心房細動
心房細動では心房から毎分350〜600回程度の不規則な興奮が房室結節に到達し、その一部が心室に伝わって頻脈となる。ジギタリスは迷走神経を介して房室結節の伝導を抑え、心室へ伝わる興奮の数を減らすことで心拍数を低下させる(レートコントロール)。さらに陽性変力作用も併せもつため、収縮力が低下した心不全を伴う頻脈性心房細動に特に有用である。なお、ジギタリスには洞調律へ戻す(除細動する)作用はなく、交感神経が亢進した状況(運動時など)では効果が弱い。現在ではレートコントロールの第一選択はβ遮断薬や非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)であり、ジゴキシンはそれらで不十分な場合や心不全合併例で併用・選択される位置づけである。
- ×d. 完全房室ブロック
完全房室ブロックは心房から心室への伝導が完全に途絶え、心室が遅い補充調律で拍動している状態である。房室伝導を抑制し徐脈化させるジギタリスは、補充調律をさらに抑えて高度徐脈や心停止を招くおそれがあり、禁忌である。そもそも房室ブロックはジギタリス中毒の症状の一つでもある。治療はペースメーカ植込みが基本となる。
- ×e. 甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモンの作用により頻脈や心拍出量の増加が生じ、高拍出性心不全や心房細動を合併することがある。しかし疾患そのものはジギタリスの適応ではなく、治療の中心は抗甲状腺薬などによる甲状腺機能の是正である。動悸・頻脈の対症療法にはβ遮断薬が用いられる。また甲状腺機能亢進時はジゴキシンの分布容積や腎クリアランスが増大して血中濃度が上がりにくく、交感神経亢進も加わって効果が得られにくい。
ジギタリスの作用機序のまとめ
・Na+/K+-ATPase阻害 → 細胞内Na+上昇 → Na+/Ca2+交換の抑制 → 細胞内Ca2+上昇 → 心収縮力増強(陽性変力作用) ・迷走神経刺激 → 洞結節の自動能低下、房室結節の伝導遅延(陰性変時・変伝導作用) ・心不全では、症状や入院を減らす効果はあるが、生命予後を改善する効果は示されていない。
主な適応と禁忌
・適応:頻脈性心房細動・心房粗動のレートコントロール、収縮機能が低下した心不全(特に心房細動合併例) ・禁忌・慎重投与:房室ブロック、洞不全症候群などの徐脈性不整脈、WPW症候群に合併した心房細動(副伝導路の伝導を相対的に促進し、心室細動を誘発する危険)、閉塞性肥大型心筋症(収縮力増強で左室流出路狭窄が悪化)
ジギタリス中毒
・治療域が狭く、中毒を起こしやすい薬である。 ・中毒を助長する因子:低カリウム血症、低マグネシウム血症、高カルシウム血症、腎機能低下(ジゴキシンは主に腎排泄)、高齢者、甲状腺機能低下症、併用薬(アミオダロン、ベラパミル、キニジンなどで血中濃度上昇) ・症状:食欲不振・悪心・嘔吐などの消化器症状、視覚異常(黄視症など)、めまい、不整脈(心室期外収縮の二段脈、房室ブロック、房室ブロックを伴う発作性心房頻拍、二方向性心室頻拍など) ・心電図:治療量でもST部分の盆状低下(盆状ST低下)がみられることがある(これ自体は中毒を意味しない)。 ・対応:投与中止、血中濃度測定、電解質の補正(低カリウムの補正)、重症例では抗ジゴキシン抗体(Fab断片)を用いる。
心房細動のレートコントロールに用いる薬
β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)、ジゴキシン。心機能が低下した例では、陰性変力作用のあるカルシウム拮抗薬を避け、β遮断薬やジゴキシンを用いる。
POINT
・ジギタリスはNa+/K+-ATPase阻害による陽性変力作用と、迷走神経を介した房室伝導抑制作用をもつ。 ・主な適応は頻脈性心房細動のレートコントロールと、収縮能の低下した心不全。 ・房室ブロックには禁忌。狭心症では心筋酸素消費増加により不適。 ・貧血や甲状腺機能亢進症による高拍出状態は原因疾患の治療が優先で、ジギタリスの適応ではない。 ・中毒の誘因として低カリウム血症・腎機能障害・高齢が重要。
