StudyMed医師国家試験

ジギタリスは「心臓を強く、ゆっくり」―2つの作用から適応と禁忌を読み解く

第101回医師国家試験 F問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第21問

ジギタリスの適応はどれか。

  1. a.貧血
  2. b.狭心症
  3. c.慢性心房細動
  4. d.完全房室ブロック
  5. e.甲状腺機能亢進症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はジギタリスの適応を問う問題だ。薬の名前と疾患を丸暗記するより、ジギタリスがもつ2つの作用を理解して、それがどの病態に役立ち、どの病態では逆効果になるかを考えると自然に答えが出る。まず、作用機序を覚えているかな。
医学生医学生
Na+/K+-ATPaseを阻害する強心配糖体、と薬理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。ナトリウムポンプが阻害されると細胞内Na+が増え、Na+/Ca2+交換系でCa2+を汲み出しにくくなる。その結果、細胞内Ca2+が増えて心筋の収縮力が高まる。これが陽性変力作用だ。もう1つの作用は何だろう。
医学生医学生
心拍数を下げる作用もあったと思います。でも収縮力を上げるのに脈が遅くなるのは、少し不思議な気がします。
ドクタードクター
そこが面白いところだね。ジギタリスは主に迷走神経の緊張を高めることで、洞結節の自動能を抑え、房室結節の伝導を遅らせる。つまり「強く、ゆっくり」打たせる薬なんだ。この2つの作用を踏まえて、どの選択肢に合うか考えてみよう。
医学生医学生
房室結節の伝導を抑えるなら、心房細動で心室に伝わる興奮を減らせるので、慢性心房細動が適応でしょうか。
ドクタードクター
正解。心房細動では心房から毎分350〜600回もの不規則な興奮が房室結節に押し寄せ、その一部が心室に伝わって頻脈になる。ジギタリスは房室結節というフィルターの目を細かくして、心拍数を下げる。これがレートコントロールだ。収縮力も高めるから、心機能が落ちた心不全を伴う頻脈性心房細動では特に役立つ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心房細動の患者さんにジゴキシンが出ていたのを見ました。これで洞調律に戻るわけではないんですよね。
ドクタードクター
そう、除細動する作用はない。それから、交感神経が亢進している運動時などでは効きが弱い。現在はレートコントロールの第一選択はβ遮断薬や、ベラパミル・ジルチアゼムといった非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬で、ジゴキシンはそれらで不十分な場合や心不全合併例で使う位置づけになっている。では完全房室ブロックはどうだろう。
医学生医学生
伝導を抑える薬なので、すでに伝導が途絶えている状態ではさらに悪くなりそうです。
ドクタードクター
その理解でいい。完全房室ブロックでは心室は遅い補充調律で何とか拍動している。そこに伝導抑制・徐脈化の作用を加えると、高度徐脈や心停止を招くおそれがあり、禁忌だ。房室ブロックはジギタリス中毒の症状でもある。治療はペースメーカが基本だね。
医学生医学生
狭心症は、心不全と同じく心臓が弱っているイメージなので、強心薬が効きそうに思ってしまいました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。狭心症は心筋の酸素需要に対して供給が足りない病態だ。収縮力を高めると心筋の酸素消費量が増えて、かえって虚血を悪化させるおそれがある。狭心症では、むしろ心拍数と収縮力を下げるβ遮断薬や、冠動脈を広げる硝酸薬・カルシウム拮抗薬を使う。
医学生医学生
貧血と甲状腺機能亢進症は、どちらも心拍出量が増える高拍出状態ですよね。
ドクタードクター
その通り。どちらもポンプ機能自体は落ちていないから、強心作用は必要ない。貧血なら原因の検索と鉄剤や輸血、甲状腺機能亢進症なら抗甲状腺薬などで原因を治すのが本質だ。甲状腺機能亢進症の動悸にはβ遮断薬を使う。しかも甲状腺機能亢進時はジゴキシンの分布容積や腎クリアランスが増えて血中濃度が上がりにくく、効きにくいんだ。
医学生医学生
収縮力を上げたい病態か、房室伝導を抑えたい病態かを考えれば、心房細動だけが両方の作用を活かせる、ということですね。
ドクタードクター
見事なまとめだ。最後に臨床で必ず押さえておきたいのがジギタリス中毒だ。治療域が狭く、中毒を起こしやすい。誘因として何を思いつくかな。
医学生医学生
CBTで低カリウム血症が出ました。ジゴキシンは腎排泄なので、腎機能低下や高齢者も危ないと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。ほかに低マグネシウム血症、高カルシウム血症、アミオダロンやベラパミルなどの併用薬も血中濃度や中毒リスクを上げる。症状は食欲不振や悪心・嘔吐、黄視症などの視覚異常、そして心室期外収縮の二段脈や房室ブロック、二方向性心室頻拍などの不整脈だ。治療量でも盆状ST低下がみられるが、それ自体は中毒を意味しない。
医学生医学生
中毒を疑ったら、まず中止して血中濃度とカリウムを確認するんですね。
ドクタードクター
そう。低カリウムを補正し、重症例では抗ジゴキシン抗体のFab断片を使う。もう1つ、WPW症候群に合併した心房細動では副伝導路の伝導を相対的に促進して心室細動を誘発する危険があるから、使ってはいけない。これも房室結節だけを抑える薬だから、と理屈で覚えておこう。

まとめ

ジギタリスはNa+/K+-ATPase阻害による陽性変力作用と、迷走神経を介した洞結節・房室結節の抑制作用をもち、頻脈性心房細動のレートコントロールや収縮能の低下した心不全に用いられます。房室ブロックでは徐脈を悪化させるため禁忌であり、狭心症では心筋酸素消費量を増やして虚血を悪化させるおそれがあります。貧血や甲状腺機能亢進症による高拍出状態は原因疾患の治療が本質で、ジギタリスの適応ではありません。現在、心房細動のレートコントロールの第一選択はβ遮断薬や非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬であり、ジゴキシンは心不全合併例などで用いられます。治療域が狭く、低カリウム血症・腎機能低下・高齢で中毒を起こしやすいため、作用機序から適応・禁忌・中毒までを一続きで理解しておくことが安全な薬物治療につながります。

解答・解説

正解はcです

ジギタリス(現在臨床で主に用いられるのはジゴキシン)は、心筋細胞膜のNa+/K+-ATPase(ナトリウムポンプ)を阻害する強心配糖体である。その作用は大きく2つに整理できる。 1. 陽性変力作用(心収縮力の増強):ナトリウムポンプが阻害されると細胞内Na+が増える。するとNa+/Ca2+交換系によるCa2+の汲み出しが減り、細胞内Ca2+が増加して心筋の収縮力が高まる。 2. 陰性変時・変伝導作用(心拍数の低下、房室伝導の抑制):主に迷走神経の緊張を高めることで、洞結節の自動能を抑え、房室結節の伝導を遅らせる(不応期を延長させる)。 この2つの作用から、ジギタリスが役立つのは「房室結節を通る興奮を減らしたい頻脈性の心房性不整脈」、とりわけ心房細動の心室レート(心拍数)コントロールと、収縮力の低下した心不全(特に頻脈性心房細動を伴うもの)である。 逆に、次のような病態では有用でないか、むしろ有害である。 ・房室伝導がすでに障害されている病態(房室ブロック):伝導抑制作用で徐脈が悪化する。 ・心筋酸素需要を増やすと困る病態(狭心症):収縮力増強は酸素消費を増やす。 ・心臓のポンプ機能自体は保たれた高心拍出状態(貧血、甲状腺機能亢進症):原因疾患の治療が本質であり、強心作用は必要ない。 したがって、適応となるのは慢性心房細動である。

選択肢考察

  1. ×a.  貧血

    貧血では組織への酸素供給を保つため心拍出量が代償的に増加しており、重度になると高拍出性心不全をきたす。心臓の収縮力が落ちているわけではないので、強心作用をもつジギタリスは病態に合わず、適応とならない。治療は原因の検索と貧血そのものの是正(鉄剤、輸血など)である。

  2. ×b.  狭心症

    狭心症は心筋の酸素需要に対して冠血流による供給が不足する病態である。ジギタリスは心収縮力を高めることで心筋酸素消費量を増やすため、虚血を悪化させるおそれがある。狭心症の治療には、心拍数と収縮力を下げて酸素需要を減らすβ遮断薬、冠動脈を拡張する硝酸薬やカルシウム拮抗薬、抗血小板薬などを用いる。

  3. ○c.  慢性心房細動

    心房細動では心房から毎分350〜600回程度の不規則な興奮が房室結節に到達し、その一部が心室に伝わって頻脈となる。ジギタリスは迷走神経を介して房室結節の伝導を抑え、心室へ伝わる興奮の数を減らすことで心拍数を低下させる(レートコントロール)。さらに陽性変力作用も併せもつため、収縮力が低下した心不全を伴う頻脈性心房細動に特に有用である。なお、ジギタリスには洞調律へ戻す(除細動する)作用はなく、交感神経が亢進した状況(運動時など)では効果が弱い。現在ではレートコントロールの第一選択はβ遮断薬や非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)であり、ジゴキシンはそれらで不十分な場合や心不全合併例で併用・選択される位置づけである。

  4. ×d.  完全房室ブロック

    完全房室ブロックは心房から心室への伝導が完全に途絶え、心室が遅い補充調律で拍動している状態である。房室伝導を抑制し徐脈化させるジギタリスは、補充調律をさらに抑えて高度徐脈や心停止を招くおそれがあり、禁忌である。そもそも房室ブロックはジギタリス中毒の症状の一つでもある。治療はペースメーカ植込みが基本となる。

  5. ×e.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモンの作用により頻脈や心拍出量の増加が生じ、高拍出性心不全や心房細動を合併することがある。しかし疾患そのものはジギタリスの適応ではなく、治療の中心は抗甲状腺薬などによる甲状腺機能の是正である。動悸・頻脈の対症療法にはβ遮断薬が用いられる。また甲状腺機能亢進時はジゴキシンの分布容積や腎クリアランスが増大して血中濃度が上がりにくく、交感神経亢進も加わって効果が得られにくい。

ジギタリスの作用機序のまとめ

・Na+/K+-ATPase阻害 → 細胞内Na+上昇 → Na+/Ca2+交換の抑制 → 細胞内Ca2+上昇 → 心収縮力増強(陽性変力作用) ・迷走神経刺激 → 洞結節の自動能低下、房室結節の伝導遅延(陰性変時・変伝導作用) ・心不全では、症状や入院を減らす効果はあるが、生命予後を改善する効果は示されていない。

主な適応と禁忌

・適応:頻脈性心房細動・心房粗動のレートコントロール、収縮機能が低下した心不全(特に心房細動合併例) ・禁忌・慎重投与:房室ブロック、洞不全症候群などの徐脈性不整脈、WPW症候群に合併した心房細動(副伝導路の伝導を相対的に促進し、心室細動を誘発する危険)、閉塞性肥大型心筋症(収縮力増強で左室流出路狭窄が悪化)

ジギタリス中毒

・治療域が狭く、中毒を起こしやすい薬である。 ・中毒を助長する因子:低カリウム血症、低マグネシウム血症、高カルシウム血症、腎機能低下(ジゴキシンは主に腎排泄)、高齢者、甲状腺機能低下症、併用薬(アミオダロン、ベラパミル、キニジンなどで血中濃度上昇) ・症状:食欲不振・悪心・嘔吐などの消化器症状、視覚異常(黄視症など)、めまい、不整脈(心室期外収縮の二段脈、房室ブロック、房室ブロックを伴う発作性心房頻拍、二方向性心室頻拍など) ・心電図:治療量でもST部分の盆状低下(盆状ST低下)がみられることがある(これ自体は中毒を意味しない)。 ・対応:投与中止、血中濃度測定、電解質の補正(低カリウムの補正)、重症例では抗ジゴキシン抗体(Fab断片)を用いる。

心房細動のレートコントロールに用いる薬

β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)、ジゴキシン。心機能が低下した例では、陰性変力作用のあるカルシウム拮抗薬を避け、β遮断薬やジゴキシンを用いる。

POINT

・ジギタリスはNa+/K+-ATPase阻害による陽性変力作用と、迷走神経を介した房室伝導抑制作用をもつ。 ・主な適応は頻脈性心房細動のレートコントロールと、収縮能の低下した心不全。 ・房室ブロックには禁忌。狭心症では心筋酸素消費増加により不適。 ・貧血や甲状腺機能亢進症による高拍出状態は原因疾患の治療が優先で、ジギタリスの適応ではない。 ・中毒の誘因として低カリウム血症・腎機能障害・高齢が重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。