StudyMed医師国家試験

若い女性の「よく動くしこり」―乳腺線維腺腫を乳癌と見分ける5つの視点

第101回医師国家試験 F問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第20問

乳腺線維腺腫で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.20,30歳代に好発する。
  2. b.多くは単発性である。
  3. c.乳頭から血性分泌がみられる。
  4. d.えくぼ徴候がみられる。
  5. e.圧痛を認める。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳腺線維腺腫の基本像を問う問題だ。選択肢には年齢、個数、乳頭分泌、皮膚の変化、痛みと、乳房腫瘤を診るときの基本的なチェックポイントが並んでいる。それぞれが線維腺腫の特徴なのか、それとも別の疾患を示すサインなのかを整理していこう。まず、線維腺腫とはどんな腫瘍だったかな。
医学生医学生
良性腫瘍で、病理の講義では上皮と間質の両方が増える腫瘍と習いました。
ドクタードクター
その通り。乳管をつくる上皮成分と、周りの線維性の間質がともに増殖してできる良性腫瘍だ。エストロゲンの影響を受けて発生・増大すると考えられていて、若い女性の乳房腫瘤では最も多い。では好発年齢はどうだろう。
医学生医学生
エストロゲンの影響が強い時期ということは、10代後半から30代前半くらいでしょうか。
ドクタードクター
そう、まさにその年代で、20〜30歳代に好発という記述は正しい。乳癌のピークは40〜60歳代だから、年齢は両者を見分ける大きな手がかりになる。妊娠・授乳期に大きくなることがあり、閉経後は退縮して硝子化し、ポップコーン様の粗大石灰化を残すこともあるんだ。
医学生医学生
個数についてはどうですか。若い人だと両側に何個もできるイメージもあって迷いました。
ドクタードクター
多発や両側性の例も1〜2割程度はあるとされるけれど、少数派だ。大部分は片側の単発性腫瘤として見つかるから、多くは単発という記述も正しい。触診では境界明瞭、表面平滑、弾性硬で、周囲と癒着しないのでよく動く。「乳房のネズミ」と表現されることもあるね。
医学生医学生
臨床実習で乳腺外科を回ったとき、指で押すとつるっと逃げるしこりだと教わりました。
ドクタードクター
いい経験だね。ここからは誤りの選択肢を見ていこう。乳頭からの血性分泌は、何を考える所見かな。
医学生医学生
乳癌でしょうか。線維腺腫も乳管の上皮を含むので、出血することもありそうに思えますが。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。血性分泌は乳管の内腔に病変が突出しているときに起こる。最も多い原因は乳管内乳頭腫で、ほかに非浸潤性乳管癌などの乳癌、乳腺症でもみられることがある。線維腺腫は上皮を含んでいても乳管内に突き出す病変ではないから、乳頭異常分泌は通常みられない。
医学生医学生
えくぼ徴候は乳癌の所見でしたよね。CBTの勉強でCooper靱帯という言葉とセットで覚えました。
ドクタードクター
そう。乳腺と皮膚をつなぐCooper靱帯に癌が浸潤して短縮し、皮膚を内側へ引き込むことでくぼみができる。腫瘤上の皮膚を寄せると目立ちやすい。浸潤性の悪性腫瘍を示唆する所見だから、周囲に浸潤しない線維腺腫ではみられない。
医学生医学生
最後の圧痛はどうでしょう。良性なら痛みがあってもおかしくない気もします。
ドクタードクター
線維腺腫は基本的に無痛性なんだ。圧痛があれば、月経前に痛みや硬結が強くなる乳腺症や、授乳期に発赤・熱感を伴う乳腺炎をまず考える。良性かどうかと痛みの有無は別の軸だと考えておくといい。
医学生医学生
つまり、若年・単発・境界明瞭・可動性良好・無痛が線維腺腫で、血性分泌は乳管内病変、えくぼは乳癌、圧痛は乳腺症や乳腺炎というふうに、所見ごとに疾患を対応させるんですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。最後に臨床での注意点を補足しよう。超音波では楕円形で境界明瞭平滑、内部均質な低エコーで、縦横比が小さい横長の腫瘤が典型だ。縦長で後方エコーが減弱し、境界部にhaloを伴うなら乳癌を疑う。
医学生医学生
典型的な線維腺腫なら、手術はしなくてもいいのでしょうか。
ドクタードクター
典型例は経過観察でよい。ただし急速に大きくなる場合、3cm程度以上と大きい場合、画像が典型的でない場合は、針生検や摘出生検を考える。特に注意したいのが葉状腫瘍で、線維腺腫に似ているけれど間質成分の増殖が優位で急速に増大し、良性から悪性まであって局所再発しやすい。だから周囲の正常組織を含めた切除が必要になるんだ。
医学生医学生
「若いから線維腺腫だろう」で終わらせず、増大のスピードにも目を向けることが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。年齢と触診所見で当たりをつけ、画像と経過で確かめる。この流れを身につけておこう。

まとめ

乳腺線維腺腫は上皮成分と間質成分がともに増殖する良性腫瘍で、エストロゲンの影響を受け、10歳代後半〜30歳代前半の女性に好発します。多くは片側単発で、境界明瞭・表面平滑・弾性硬・可動性良好・無痛性の腫瘤として触れるのが典型です。乳頭からの血性分泌は乳管内乳頭腫や乳癌、えくぼ徴候はCooper靱帯に浸潤した乳癌、圧痛は乳腺症や乳腺炎を示唆する所見であり、線維腺腫ではみられません。典型例は経過観察でよいものの、急速に増大する場合は間質優位に増殖する葉状腫瘍との鑑別が必要です。乳房腫瘤の各所見がどの疾患を示すかを対応づけて理解しておくことは、乳癌を見逃さない診察の基礎になります。

解答・解説

正解はa, bです

乳腺線維腺腫(fibroadenoma)は、乳管を構成する上皮成分と、その周囲の間質(線維性結合組織)の両方が増殖してできる良性腫瘍である。若年女性の乳房腫瘤として最も頻度が高く、エストロゲンの影響を受けて発生・増大すると考えられている。 本問では「若年女性に多い良性腫瘍」という基本像を押さえたうえで、各選択肢の症候が本当に線維腺腫のものか、それとも乳癌・乳管内乳頭腫・乳腺症・乳腺炎など他疾患の特徴なのかを判別することが求められる。 ・好発年齢:10歳代後半〜30歳代前半で、乳癌(40〜60歳代に多い)より明らかに若い。 ・腫瘤の性状:多くは単発で、境界明瞭・表面平滑な球形〜楕円形の腫瘤として触れる。硬さは弾性硬(消しゴム様)で、周囲組織と癒着しないため可動性が良好である。自発痛や圧痛は通常ない。 ・乳頭や皮膚の変化:腫瘍は乳管内に発生するものではなく、周囲組織への浸潤もないため、乳頭異常分泌や皮膚のひきつれは生じない。 したがって、好発年齢(a)と単発であること(b)が正しい。乳頭からの血性分泌、えくぼ徴候、圧痛はそれぞれ他疾患を示唆する所見である。

選択肢考察

  1. ○a.  20,30歳代に好発する。

    線維腺腫は10歳代後半から30歳代前半に多く、若年女性にみられる乳房腫瘤の代表である。エストロゲン感受性があるため、妊娠・授乳期に増大することがあり、閉経後は退縮して硝子化・粗大石灰化(ポップコーン様石灰化)をきたすことがある。好発年齢が乳癌(40〜60歳代)より若いことは、両者を鑑別する際の重要な手がかりとなる。

  2. ○b.  多くは単発性である。

    線維腺腫の大部分は片側の単発性腫瘤として発見される。10〜20%程度では多発性や両側性のこともあるが、少数派である。単発で、境界明瞭・平滑・弾性硬・可動性良好な腫瘤が典型像である。

  3. ×c.  乳頭から血性分泌がみられる。

    乳頭からの血性分泌は、乳管内に発生する病変、すなわち乳管内乳頭腫(最も頻度が高い原因)や乳癌(特に非浸潤性乳管癌)で生じる所見である。乳腺症でもみられることがある。線維腺腫は乳管内腔に突出する病変ではないため、乳頭異常分泌は通常みられない。

  4. ×d.  えくぼ徴候がみられる。

    えくぼ徴候(dimpling sign)は、乳癌が乳腺と皮膚をつなぐ線維性の支持組織であるCooper靱帯に浸潤し、靱帯が短縮して皮膚を内側へ引き込むことで生じるくぼみである。腫瘤の上の皮膚を寄せると目立つ。浸潤性の悪性腫瘍を示唆する所見であり、周囲へ浸潤しない良性の線維腺腫ではみられない。

  5. ×e.  圧痛を認める。

    線維腺腫は通常、無痛性の腫瘤である。乳房の圧痛は、月経周期に伴って症状が変動する乳腺症や、発赤・熱感を伴う乳腺炎(授乳期のうっ滞性乳腺炎・化膿性乳腺炎など)で認められることが多い。

乳腺線維腺腫の要点

・病理:上皮成分と間質成分がともに増殖する良性腫瘍(管内型・管周囲型などの組織型がある)。悪性化はきわめてまれ。 ・触診:境界明瞭、表面平滑、弾性硬、可動性良好、無痛性の腫瘤。 ・超音波検査:楕円形で境界明瞭平滑、内部は均質な低エコー、縦横比(D/W比)が小さい(横長)、後方エコーは不変〜増強、外側陰影を伴うこともある。 ・マンモグラフィ:境界明瞭な円形〜楕円形の腫瘤影。高齢者では粗大な石灰化(ポップコーン様)を伴うことがある。 ・診断確定:画像で典型的でない場合や増大傾向がある場合は、穿刺吸引細胞診や針生検を行う。 ・治療:典型例は経過観察でよい。急速増大、3cm程度以上の大きさ、患者の希望、葉状腫瘍との鑑別が必要な場合などは摘出生検を行う。

鑑別疾患

・葉状腫瘍:線維腺腫に似るが、間質成分の増殖が優位で、急速に増大して大きな腫瘤となりやすい。良性・境界病変・悪性があり、局所再発しやすいため、周囲の正常組織を含めた切除が必要である。 ・乳癌:40〜60歳代に多い。境界不明瞭、硬い、可動性不良の腫瘤。えくぼ徴候、皮膚の橙皮様変化(peau d'orange)、乳頭陥凹、血性乳頭分泌、腋窩リンパ節腫大などを伴いうる。超音波では縦横比が大きく(縦長)、後方エコー減弱、境界部高エコー像(halo)を示すことがある。 ・乳管内乳頭腫:乳管内に発生する良性腫瘍で、血性・漿液性の乳頭分泌が主症状。 ・乳腺症:30〜40歳代に多い。月経前に増強する乳房痛・圧痛、境界不明瞭な硬結。 ・乳腺炎:授乳期に多く、発赤・腫脹・熱感・疼痛を伴う。

POINT

・線維腺腫は10歳代後半〜30歳代前半の若年女性に好発する良性腫瘍で、多くは単発。 ・境界明瞭、表面平滑、弾性硬、可動性良好、無痛性が典型。 ・血性乳頭分泌 → 乳管内乳頭腫・乳癌、えくぼ徴候 → 乳癌(Cooper靱帯浸潤)、圧痛 → 乳腺症・乳腺炎。 ・急速に増大する場合は葉状腫瘍との鑑別が必要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。