StudyMed医師国家試験

乾いた咳とベルクロ音―「病変はどこか」から読み解く特発性肺線維症

第101回医師国家試験 F問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第19問

特発性肺線維症の症候はどれか。2つ選べ。

  1. a.喘鳴
  2. b.発熱
  3. c.乾性咳嗽
  4. d.口すぼめ呼吸
  5. e.fine crackles

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は特発性肺線維症の症候を選ぶ問題だ。症候を丸暗記するより、「病変が気道にあるのか、肺胞の壁(間質)にあるのか」から考えると、正解も誤りの理由も一気に見えてくるよ。まず、特発性肺線維症はどんな病気だったかな。
医学生医学生
原因不明の間質性肺炎の中で一番多いタイプで、肺が硬くなっていく病気だったと思います。
ドクタードクター
その通り。肺胞の壁に慢性・進行性の線維化が起こり、病理や画像では通常型間質性肺炎、いわゆるUIPパターンを示す。50歳以上で喫煙歴のある男性に多い。では、肺胞の壁が硬く厚くなると、呼吸機能はどうなる?
医学生医学生
肺が膨らみにくくなるので、拘束性換気障害ですね。酸素の拡散も悪くなりそうです。
ドクタードクター
完璧だ。その結果、主症状は労作時の息切れと、痰を伴わない乾いた咳になる。気道の分泌物が増える病気ではないから痰は出ず、乾性咳嗽が長く続く。これが正解の一つ目だ。
医学生医学生
聴診所見はどうでしょう。fine cracklesは間質性肺炎の代表的な音だと習いました。
ドクタードクター
そう、これが正解の二つ目。fine cracklesは吸気の終わりに聞こえる細かく高い断続性ラ音で、マジックテープをはがす音に似ているからベルクロラ音とも呼ばれる。線維化で硬くなった末梢の気腔が、吸気の終わりに一斉に開くときに生じるんだ。両側下肺野の背側で聞こえやすい。
医学生医学生
OSCEの練習で胸部の聴診をしたとき、背部の下のほうも必ず聴くように言われたのはそのためなんですね。
ドクタードクター
まさにそう。前胸部だけ聴いていると見逃しやすいから、背部下肺野の聴診は早期発見の大事な手がかりになる。では喘鳴はどうかな。
医学生医学生
喘鳴も呼吸器の病気でよく聞くので、肺線維症でもありそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。喘鳴は気道が狭くなり、そこを空気が通るときに鳴る連続性の笛のような音で、気管支喘息やCOPDの所見だ。特発性肺線維症の主病変は気道ではなく間質だから、喘鳴は特徴的ではない。
医学生医学生
口すぼめ呼吸もCOPDで習いました。息を吐きにくい病気の工夫でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。口すぼめ呼吸は、呼気時に気道内圧を高めて末梢気道がつぶれるのを防ぎ、息を吐きやすくする代償的な呼吸法だ。拘束性障害の特発性肺線維症では気流制限を補う必要がないので特徴的ではない。むしろ浅く速い呼吸になりやすいんだ。
医学生医学生
発熱は「肺炎」という名前がつく病気なので、出てもおかしくないと思ったのですが。
ドクタードクター
名前に惑わされやすいところだ。特発性肺線維症は月〜年単位でゆっくり進む線維化の病気で、急性炎症が主体ではないから、安定期には通常発熱しない。もし発熱を伴う間質性肺炎を見たら、過敏性肺炎、薬剤性肺炎、膠原病に伴う間質性肺炎、感染症などを考える。ただし急性増悪や感染を合併したときは発熱することもあるよ。
医学生医学生
つまり、間質の病気だから乾性咳嗽とfine crackles、気道の病気の所見である喘鳴や口すぼめ呼吸は違う、という整理ですね。
ドクタードクター
その通り。ほかに重要な身体所見として、ばち指も比較的よく見られる。検査ではKL-6やSP-Dといった間質性肺炎マーカーが上がり、呼吸機能では肺活量と拡散能が低下する。HRCTでは胸膜直下・肺底部優位の網状影や牽引性気管支拡張、蜂巣肺が見られるのが典型だ。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、6分間歩行試験で途中から酸素飽和度がどんどん下がる患者さんがいました。
ドクタードクター
拡散障害があると、安静時は保てても労作時に著明に低下するのが特徴なんだ。治療ではピルフェニドンやニンテダニブといった抗線維化薬で呼吸機能の低下を緩やかにし、低酸素血症には在宅酸素療法を行う。安定期のステロイド単独療法は推奨されない点も覚えておこう。
医学生医学生
予後はやはり厳しいのでしょうか。
ドクタードクター
診断後の中央生存期間は3〜5年程度とされ、予後不良な病気だ。特に注意したいのが急性増悪で、短期間に呼吸困難が急速に悪化し、新たなすりガラス影が出てくる。死因として重要だし、肺癌や肺高血圧症の合併も多い。外来で安定している患者さんでも、急な息切れの悪化には常に警戒が必要だよ。

まとめ

特発性肺線維症は肺胞間質に慢性・進行性の線維化が生じる疾患で、拘束性換気障害と拡散障害をきたし、労作時呼吸困難と乾性咳嗽が主症状となります。聴診では両側下肺野背側に吸気終末のfine crackles(ベルクロラ音)を聴取し、ばち指も重要な所見です。喘鳴や口すぼめ呼吸は気道狭窄・気流制限を伴う気管支喘息やCOPDの所見であり、安定期には発熱もみられないため、発熱があれば急性増悪や感染、他の間質性肺炎を考えます。KL-6・SP-Dの上昇、HRCTでの蜂巣肺、抗線維化薬による治療、急性増悪による予後不良もあわせて押さえておきましょう。「病変が気道か間質か」から症候を組み立てる考え方は、呼吸器疾患全般の理解に役立ちます。

解答・解説

正解はc, eです

特発性肺線維症(IPF:idiopathic pulmonary fibrosis)は、原因の特定できない特発性間質性肺炎のうち最も頻度が高い病型で、肺胞の壁(間質)に慢性・進行性の線維化が生じる疾患である。病理・画像上は通常型間質性肺炎(UIP:usual interstitial pneumonia)パターンを示し、50歳以上の喫煙歴のある男性に多い。 症候を考えるときは「どこに病変があり、どのような機能障害が起こるか」から整理するとわかりやすい。 ・病変の場は気道ではなく肺胞間質である。したがって気道の狭窄による喘鳴や、呼気の気流制限を補うための口すぼめ呼吸といった閉塞性障害の所見は目立たない。 ・肺胞壁が硬く厚くなるため、肺が膨らみにくくなり(拘束性換気障害)、酸素の拡散も障害される。その結果、労作時の息切れが主症状となり、痰を伴わない乾性咳嗽が持続する。 ・硬くなった末梢の肺胞や細気管支が吸気の終わりに一斉に開放されるため、両側下肺野背側を中心に、吸気終末に細かい断続性ラ音(fine crackles、いわゆる捻髪音・ベルクロラ音)が聴取される。 ・経過は月〜年単位の緩徐な進行で、急性炎症の病態ではないため、安定期に発熱をきたすことは通常ない。 この病態の整理から、乾性咳嗽とfine cracklesがIPFの症候として正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  喘鳴

    喘鳴(wheezes)は、気管支喘息やCOPDのように気道が狭くなり、狭い部分を空気が通過することで生じる連続性の笛様音である。IPFの主病変は肺胞間質の線維化であり、気道狭窄を主体としないため、喘鳴は特徴的な症候ではない。

  2. ×b.  発熱

    IPFは緩徐に進行する慢性の線維化疾患であり、安定期に発熱はみられないのが通常である。発熱を伴う間質性肺炎をみた場合は、急性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、過敏性肺炎、薬剤性肺炎、膠原病関連間質性肺炎、感染症などを鑑別に挙げる。なお、IPFでも急性増悪(1か月以内に呼吸困難が急速に悪化し、新たなすりガラス影が出現する病態)や感染合併時には発熱を伴うことがあるが、IPFそのものの典型的症候ではない。

  3. ○c.  乾性咳嗽

    労作時呼吸困難とともにIPFの代表的な自覚症状である。気道分泌物の増加を伴わないため、痰の出ない乾いた咳が長期間持続する。間質の線維化により肺の伸展受容体や咳受容体が刺激されることが関与すると考えられており、難治性でQOLを低下させる。

  4. ×d.  口すぼめ呼吸

    口すぼめ呼吸は、COPD(とくに肺気腫)の患者が呼気時に口をすぼめて気道内圧を高め、末梢気道の虚脱(エアトラッピング)を防いで息を吐きやすくする代償的な呼吸法である。IPFは拘束性換気障害であり、気流制限を代償する必要がないため、口すぼめ呼吸は特徴的でない。IPFではむしろ浅く速い呼吸になりやすい。

  5. ○e.  fine crackles

    fine crackles(捻髪音)は、吸気終末に聴こえる細かく高調な断続性ラ音で、マジックテープをはがす音に似ることからベルクロラ音とも呼ばれる。線維化で硬くなった末梢気腔が吸気の終わりに急に開く際に生じ、IPFでは両側下肺野の背側を中心に高頻度に聴取される。早期診断の手がかりとなる重要な身体所見である。

特発性肺線維症(IPF)の要点

・疫学:50歳以上、男性、喫煙者に多い。特発性間質性肺炎の中で最も多い。 ・症状:労作時呼吸困難、乾性咳嗽。安定期に発熱はない。 ・身体所見:両側下肺野背側の吸気終末fine crackles、ばち指(比較的高頻度)、進行例ではチアノーゼ。 ・血液検査:KL-6、SP-D、SP-Aなどの間質性肺炎マーカーが上昇する。LDHも上昇しうる。 ・呼吸機能:拘束性換気障害(%肺活量の低下)と拡散能(DLCO)の低下。労作時に著明な酸素飽和度低下をきたす(6分間歩行試験で評価)。 ・画像:胸部X線で両側下肺野優位の網状影と肺容積の減少。HRCTでは胸膜直下・肺底部優位の網状影、牽引性気管支拡張、蜂巣肺(蜂窩肺)を認め、UIPパターンと呼ばれる。 ・治療:抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)で呼吸機能低下の速度を緩やかにする。低酸素血症には在宅酸素療法、適応があれば肺移植。ステロイド単独療法は安定期IPFには推奨されない。 ・合併症・予後:急性増悪(死亡原因として重要)、肺癌、肺高血圧症、気胸を合併しやすい。診断後の中央生存期間は3〜5年程度と予後不良である。

副雑音の整理

・連続性ラ音:wheezes(高調、気管支喘息・COPD)、rhonchi(低調、太い気道の分泌物・狭窄) ・断続性ラ音:fine crackles(吸気終末、細かい。間質性肺炎・肺線維症・石綿肺)、coarse crackles(吸気早期〜呼気、粗い。肺炎、気管支拡張症、肺水腫など気道内の分泌物)

POINT

・IPFは肺胞間質の線維化による拘束性障害で、主症状は労作時呼吸困難と乾性咳嗽。 ・聴診では両側下肺野背側に吸気終末のfine crackles(ベルクロラ音)、ばち指も重要所見。 ・喘鳴・口すぼめ呼吸は閉塞性疾患(喘息・COPD)の所見。 ・安定期IPFで発熱はみられない(発熱があれば急性増悪・感染・他の間質性肺炎を考える)。 ・KL-6・SP-D上昇、HRCTで蜂巣肺(UIPパターン)、治療は抗線維化薬。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。