「アスピリン喘息」はアレルギーではない―COX-1阻害が引き起こす気道の過敏反応
第101回医師国家試験 F問題 第18問
国試問題にチャレンジ
アスピリン喘息で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.小児よりも成人で多い。
- b.鼻ポリープの合併が多い。
- c.ピリンアレルギーである。
- d.IgE抗体を介して発症する。
- e.ラテックスアレルギーを合併しやすい。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)は、COX-1阻害によりPGE2が減少し、システイニルロイコトリエンが過剰に産生されて起こる非アレルギー性の過敏反応で、IgE抗体は関与しません。20〜40歳代の成人に多く小児にはまれで、好酸球性副鼻腔炎・鼻茸・嗅覚障害を高率に合併します。ピラゾロン系薬剤に対するピリンアレルギーや、IgE依存性のラテックスアレルギーとは別の概念です。坐薬や外用薬でも発作が誘発されうること、発作時はコハク酸エステル型ステロイドの急速静注を避けることも臨床上重要です。成人発症喘息では必ずNSAIDsの使用歴を確認するという習慣が、思わぬ重症発作を防ぐことにつながります。
解答・解説
正解はa, bです
アスピリン喘息は、アスピリンに限らずシクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害作用をもつ非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)全般によって喘息発作が誘発される病態である。このため現在では「NSAIDs過敏喘息」や、鼻症状を含めて「NSAIDs-exacerbated respiratory disease(N-ERD)」「aspirin-exacerbated respiratory disease(AERD)」と呼ばれることが多い。 本問を解く鍵は、この病態が「アレルギー(免疫反応)ではない」という点である。NSAIDsがCOX-1を阻害すると、気道の炎症を抑える方向に働くプロスタグランジンE2(PGE2)の産生が低下する。すると、アラキドン酸がもう一方の代謝経路である5-リポキシゲナーゼ経路へ流れやすくなり、強力な気管支収縮作用をもつシステイニルロイコトリエン(LTC4・LTD4・LTE4)が過剰に産生されて発作が起こる。つまり薬理作用に基づく「不耐症(過敏症)」であり、特定の薬剤の化学構造を認識するIgE抗体は関与しない。構造の異なるNSAIDsであっても、COX-1阻害作用が強ければ交差して発作を起こすのはこのためである。 臨床像としては、成人(20〜40歳代)に発症することが多く小児にはまれであること、好酸球性の慢性副鼻腔炎や鼻茸(鼻ポリープ)、嗅覚障害を高率に合併することが特徴である。これらの知識をもとに選択肢を判定すると、疫学(a)と合併症(b)が正しく、病態をアレルギーとみなす記述(c、d)や、関連の乏しい別のアレルギーとの合併(e)は誤りとなる。
選択肢考察
- ○a. 小児よりも成人で多い。
NSAIDs過敏喘息は多くが20〜40歳代で発症する成人発症型の喘息で、成人喘息の約5〜10%を占めるとされる。小児の喘息はアトピー型(IgE依存型)が大半で、NSAIDs過敏喘息は思春期以前にはまれである。また男性より女性にやや多い。
- ○b. 鼻ポリープの合併が多い。
好酸球浸潤を伴う慢性副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎)と鼻茸(鼻ポリープ)を高率(およそ8割前後)に合併し、嗅覚障害も多い。鼻茸は術後も再発しやすい。成人発症の喘息患者に鼻茸や嗅覚低下を見たら、NSAIDs過敏の有無を必ず確認すべきである。
- ×c. ピリンアレルギーである。
ピリンアレルギーとは、スルピリンやアンチピリンなどピラゾロン系薬剤に対するアレルギー(薬疹など)を指す言葉である。NSAIDs過敏喘息はピラゾロン系に限らず、COX-1を阻害するNSAIDs全般で誘発される薬理学的な反応であり、特定の化学構造に対するアレルギーではない。名称が似ているため混同しやすいが別物である。
- ×d. IgE抗体を介して発症する。
発症機序はCOX-1阻害によるアラキドン酸代謝の偏り(PGE2の低下とシステイニルロイコトリエンの過剰産生)であり、IgE抗体を介するI型アレルギーではない。そのため初回投与でも発作が起こり得るし、薬剤に対する特異的IgE抗体の測定や皮膚テストで診断することはできない。診断は詳細な問診や、専門施設での負荷試験で行う。
- ×e. ラテックスアレルギーを合併しやすい。
ラテックスアレルギーは、天然ゴムに含まれるタンパク質に対するIgE依存性の即時型アレルギーで、接触蕁麻疹、喘息、アナフィラキシーなどを起こす。医療従事者、頻回の手術歴のある患者(二分脊椎など)がハイリスク群であり、バナナ・アボカド・キウイ・クリなどとの交差反応(ラテックス-フルーツ症候群)が知られる。NSAIDs過敏喘息に特に合併しやすいという関係はない。
NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)の概要
・名称:アスピリン以外のNSAIDsでも起こるため、NSAIDs過敏喘息、N-ERD、AERDとも呼ばれる。 ・疫学:成人喘息の約5〜10%。20〜40歳代発症が多く、女性にやや多い。小児にはまれ。 ・機序:COX-1阻害 → PGE2低下 → 5-リポキシゲナーゼ経路の亢進 → システイニルロイコトリエン過剰産生 → 気管支収縮・鼻閉・鼻汁。非アレルギー性(IgE非関与)。 ・合併:好酸球性副鼻腔炎、鼻茸(高率)、嗅覚障害。重症・難治性喘息になりやすい。 ・症状:NSAIDs使用後およそ1時間以内に、鼻閉・鼻汁に続いて喘息発作が出現する。顔面紅潮、腹部症状、蕁麻疹様症状を伴うこともある。
誘発しうるもの
・内服薬だけでなく、坐薬、注射薬、湿布や塗布薬などの外用NSAIDsでも起こる。坐薬や注射は吸収が速く重症化しやすい。 ・コハク酸エステル型ステロイド(ヒドロコルチゾンコハク酸エステル、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルなど)の急速静注で発作が悪化することがあるため、発作時にはリン酸エステル型ステロイドを用い、点滴でゆっくり投与するのが安全である。 ・食品・医薬品添加物(黄色4号〈タートラジン〉、安息香酸ナトリウム、パラベンなど)で症状が悪化する例もある。
比較的安全に使える薬
・COX-2選択的阻害薬(セレコキシブなど)は比較的安全とされる(ただし慎重に投与)。 ・アセトアミノフェンはCOX-1阻害作用が弱く、少量(1回300mg以下が目安)であれば比較的安全とされるが、高用量では発作を起こしうる。
治療
通常の喘息治療(吸入ステロイドを中心とする長期管理)に加え、ロイコトリエン受容体拮抗薬が有用である。鼻茸には内視鏡下副鼻腔手術が行われ、難治例では抗IL-5抗体、抗IL-4受容体α抗体などの生物学的製剤が用いられる。最も重要なのは原因となるNSAIDsを避けることで、患者自身に病名と避けるべき薬を理解させることが大切である。
POINT
・アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)はCOX-1阻害によるアラキドン酸代謝異常で起こり、IgEを介するアレルギーではない。 ・成人(20〜40歳代)発症が多く、小児にはまれ。成人喘息の約5〜10%。 ・鼻茸・好酸球性副鼻腔炎・嗅覚障害を高率に合併する。 ・ピリンアレルギーやラテックスアレルギーとは別の概念である。 ・コハク酸エステル型ステロイドの急速静注に注意し、発作時はリン酸エステル型を点滴で用いる。
