朝起きて5分で一服―高度ニコチン依存に「根性」より「禁煙補助薬」を
第101回医師国家試験 D問題 第26問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。20歳から1日35本の喫煙を続けてきた。禁煙を決意したが,朝起きて5分以内に最初のタバコを吸ってしまう。禁煙の指定がある場所でも禁煙するのがつらいという。風邪で寝込んでいるときも喫煙している。 この男性の禁煙指導で正しいのはどれか。
- a.食事の回数を増やす。
- b.禁煙補助薬を使用する。
- c.低ニコチンタバコにする。
- d.喫煙本数を徐々に減少させる。
- e.副腎皮質ステロイド薬を使用する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
起床後すぐの喫煙、禁煙場所での我慢の困難、病気で寝込んでいても喫煙、1日31本以上といったエピソードは、いずれもFTNDの項目に対応し、高度のニコチン依存を示します。身体的依存が強い喫煙者は離脱症状のために意志だけでは禁煙に失敗しやすく、ニコチンパッチ・ガムによるニコチン置換療法やα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体部分作動薬のバレニクリンを、カウンセリングと併用して禁煙開始日から完全にやめるのが標準的な指導です。減煙や低ニコチンタバコへの切り替えは代償的な深吸いのため有効な禁煙法とならず、禁煙後の体重増加には食事回数を増やすのではなく食事管理と運動で対応します。保険診療ではTDSによるニコチン依存症の判定が要件の一つとなり、5Aの枠組みで患者の段階に応じた支援を行います。依存度を正しく評価して治療法を選ぶ考え方は、禁煙外来だけでなく日常診療のあらゆる場面で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
症例の整理
・68歳男性。20歳から1日35本の喫煙を約48年間続けている。ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)は約1,700と非常に高い。 ・本人は禁煙を決意しており、行動変容の準備は整っている。 ・起床後5分以内に最初の1本を吸う、禁煙場所で我慢するのがつらい、風邪で寝込んでいても吸う、という行動がみられる。
ニコチン依存度の評価
これらのエピソードは、ニコチン依存度を評価する代表的な質問票であるFTND(Fagerström Test for Nicotine Dependence、ファーガストロームのニコチン依存度テスト、0〜10点)の項目にそのまま対応している。起床後5分以内の喫煙(3点)、1日31本以上(3点)、禁煙場所での我慢が困難(1点)、病気で寝込んでいても喫煙(1点)だけで8点に達し、高度のニコチン依存と判断できる。特に「起床後すぐに吸う」ことは、睡眠中に血中ニコチン濃度が下がって離脱症状が出ていることを示し、身体的依存の強さを最もよく反映する指標とされる。
設問の考え方
身体的依存が強い喫煙者では、意志の力だけで禁煙しようとしても、イライラ・集中力低下・強い喫煙欲求などのニコチン離脱症状のために失敗しやすい。このような場合は、行動療法やカウンセリングと並行して禁煙補助薬を用い、離脱症状を和らげながら禁煙開始日を決めて完全に断つのが基本である。本数を減らす、軽いタバコに替えるといった方法では、ニコチン依存そのものは解消されない。
選択肢考察
- ×a. 食事の回数を増やす。
禁煙すると、ニコチンによる代謝亢進や食欲抑制の作用がなくなり、また口寂しさを食べ物で紛らわせることから体重が増えやすい。したがって禁煙中はむしろ食事量や間食を管理し、適度な運動を勧めることが大切で、食事の回数を増やすことは体重増加を助長するだけである。禁煙を成功させる手段としての意味もない。
- ○b. 禁煙補助薬を使用する。
本例は高度のニコチン依存であり、禁煙補助薬による薬物療法の良い適応である。ニコチン置換療法(ニコチンパッチ、ニコチンガム)は、タバコ以外の経路からニコチンを補って離脱症状を抑え、段階的に量を減らしていく治療で、タバコ煙に含まれる一酸化炭素やタールなどの有害物質を取り込まずに済む。ほかに、ニコチン受容体(α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体)の部分作動薬であるバレニクリンの内服もあり、喫煙欲求と離脱症状を軽減するとともに、喫煙しても満足感が得られにくくなる。これらを行動療法と組み合わせることで禁煙成功率が高まる。
- ×c. 低ニコチンタバコにする。
喫煙そのものが続くので禁煙にはならない。さらに、依存のある喫煙者はニコチンの摂取量を一定に保とうとして、深く吸い込む、1本を根元まで吸う、本数を増やすといった代償的な吸い方をするため、実際に体内に入るニコチンや有害物質は表示ほど減らない。深く吸い込むことで末梢の肺にまで煙が届き、健康被害が軽くなるという根拠もない。
- ×d. 喫煙本数を徐々に減少させる。
本数を減らしても、1本あたりを深く強く吸うなどの代償行動が起こり、ニコチン摂取量はあまり減らない。また喫煙を続ける限り依存は維持されるため、減らした状態から完全な禁煙に移れないまま再び本数が戻ることが多い。禁煙指導の原則は、禁煙開始日を決めてその日から完全にやめることであり、そのつらさを補うのが禁煙補助薬の役割である。
- ×e. 副腎皮質ステロイド薬を使用する。
副腎皮質ステロイド薬はニコチン依存や離脱症状に対する作用をもたず、禁煙治療には用いない。むしろ易感染性、耐糖能悪化、骨粗鬆症などの副作用があり、使う理由がない誤りの選択肢である。
FTND(ファーガストロームのニコチン依存度テスト)
6項目、合計0〜10点で評価する。 ・起床後何分で最初の喫煙をするか: 5分以内3点、6〜30分2点、31〜60分1点、61分以降0点 ・禁煙場所で喫煙を我慢するのが難しいか: はい1点 ・1日のうちでやめるのが最も難しいのはどの1本か: 朝の最初の1本1点 ・1日の喫煙本数: 31本以上3点、21〜30本2点、11〜20本1点、10本以下0点 ・起床後数時間の方が、その後よりも頻繁に吸うか: はい1点 ・病気でほとんど1日中寝ているときも吸うか: はい1点 点数が高いほど身体的依存が強い。わが国では、ニコチン依存症の診断にはTDS(Tobacco Dependence Screener、10項目の質問票で5点以上をニコチン依存症と判定)が用いられ、保険診療による禁煙治療の要件の一つにもなっている。
禁煙補助薬
・ニコチンパッチ: 皮膚に貼り、ニコチンを一定の速度で吸収させる。医療用と一般用医薬品(OTC)がある。副作用は貼付部位の皮膚炎、不眠など。 ・ニコチンガム: 喫煙欲求が出たときに噛み、口腔粘膜から吸収させる。一般用医薬品。 ・バレニクリン(内服): α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体の部分作動薬。ニコチンを含まない。吐き気、頭痛、異常な夢などの副作用があり、服用中は自動車運転など危険を伴う機械操作を避けるよう注意喚起されている。
禁煙指導の枠組み(5A)
Ask(喫煙状況を尋ねる)、Advise(禁煙を勧める)、Assess(禁煙の意思を評価する)、Assist(禁煙開始日の設定や補助薬の使用などを支援する)、Arrange(フォローアップを行う)。本例は禁煙を決意しており、Assistの段階にある。
禁煙後の変化
禁煙直後から数週間は離脱症状(イライラ、不安、集中困難、不眠、食欲増加など)が出やすく、多くは2〜4週間で軽くなる。体重増加がみられることが多いが、禁煙による健康上の利益はそれを大きく上回る。
POINT
・起床後すぐの喫煙、禁煙場所での我慢の困難、病気でも喫煙、1日31本以上は、いずれも高度ニコチン依存を示すFTNDの項目である。 ・高度のニコチン依存では、禁煙補助薬(ニコチンパッチ・ガム、バレニクリン)とカウンセリングを併用し、禁煙開始日を決めて完全にやめる。 ・減煙や低ニコチンタバコへの切り替えは、代償的な深吸いなどのため有効な禁煙法にならない。 ・禁煙後の体重増加対策として、食事回数を増やすのではなく食事管理と運動を指導する。
