StudyMed医師国家試験

初めての熱性けいれん―「何もしない」が正解になる理由

第101回医師国家試験 D問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第101回 D問題 第21問

8か月の乳児。発熱とけいれんとを主訴に来院した。午前中は元気で哺乳力も良好であったが,午後になって発熱に気付いた。その後,約3分続く全身のけいれんを認めた。発熱もけいれんも出生後初めてだという。意識は清明。身長72cm,体重8,600g。体温38.6℃。大泉門の膨隆は認めない。咽頭に軽度の発赤を認める。鼓膜に異常はない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部に異常を認めない。項部硬直とKernig徴候とはみられない。血液所見と血液生化学所見とに異常を認めない。 対応として適切なのはどれか。

  1. a.輸液
  2. b.経過観察
  3. c.抗菌薬投与
  4. d.抗けいれん薬投与
  5. e.副腎皮質ステロイド薬投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発熱に伴って初めてけいれんを起こした乳児への対応を考える問題だ。ポイントは2つ。まず「けいれんの原因として危険な病気が隠れていないか」、次に「このけいれんは熱性けいれんのどのタイプか」。この順で整理していこう。
医学生医学生
発熱とけいれんだと、まず髄膜炎が怖いです。小児科の実習でも、指導医の先生が真っ先に大泉門を触っていました。
ドクタードクター
いい心がけだね。発熱+けいれんでは、髄膜炎・脳炎、急性脳症、それに低血糖や電解質異常といった代謝異常をまず除外する。そのための手がかりが、意識の回復、髄膜刺激症状、大泉門の膨隆、そして血液検査だ。この子ではどうだろう。
医学生医学生
意識は清明で、大泉門膨隆も項部硬直もKernig徴候もなく、血液検査も正常です。危険な原因はひとまず考えにくいですね。
ドクタードクター
その通り。ちなみに乳児では項部硬直がはっきり出にくいから、大泉門の膨隆がとても大切な所見になる。咽頭が少し赤く鼓膜は正常だから、発熱の原因はウイルス性の上気道炎あたりと考えるのが自然だね。では、このけいれん自体はどう分類する?
医学生医学生
熱性けいれんだと思います。単純型と複雑型があったと思いますが、基準があいまいで……。
ドクタードクター
ここはしっかり覚えよう。焦点性の要素がある、15分以上続く、一度の発熱(通常24時間以内)で繰り返す、このどれか一つでもあれば複雑型。どれもなければ単純型だ。
医学生医学生
全身性で約3分、初回で反復もないので、単純型熱性けいれんですね。
ドクタードクター
正解。単純型は予後良好で、発達への影響もない。けいれんはすでに自然に止まっているし、意識も戻っている。だから適切な対応は経過観察だ。しばらく院内で様子を見て、再発がなく全身状態が良ければ、家族に説明して帰宅としてよい。
医学生医学生
何か治療したくなってしまいますが、輸液はどうでしょう。熱があると脱水が心配で。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、直前まで哺乳は良好で、嘔吐や下痢もなく、生化学検査も正常。脱水の根拠がないから点滴は不要で、口から水分をとれれば十分だよ。
医学生医学生
抗菌薬は、感染症による発熱なので必要かと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこが典型的な落とし穴。咽頭の軽い発赤による上気道炎はほとんどがウイルス性で、抗菌薬は効かない。血液検査で細菌感染を示す異常もなく、中耳炎や髄膜炎の所見もない。投与する根拠がないんだ。
医学生医学生
抗けいれん薬も、もう止まっているなら必要ないですよね。
ドクタードクター
そう。止痙治療を考えるのは、けいれんが5分以上続いている場合だ。そのときはジアゼパムやミダゾラムの静注などを使う。また、単純型の初回発作では、発熱時のジアゼパム坐剤による予防投与や抗てんかん薬の継続内服も原則として行わない。予防投与は、15分以上の遷延性発作の既往がある場合などに限って検討される。ステロイドについても、急性脳症や脳浮腫を疑うような状況ではないので適応はない。
医学生医学生
CBTの勉強のときは「とりあえず治療する」選択肢を選びがちでしたが、所見から不要と判断するのも大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそこがこの問題の狙いだね。ほかに、全例に髄液検査や頭部CT、脳波検査が必要なわけではないことも覚えておこう。意識障害が長引く、髄膜刺激症状や大泉門膨隆がある、といった場合に検査を考える。
医学生医学生
家族にはどんなことを説明すればいいでしょうか。
ドクタードクター
熱性けいれんは再発が約3割にみられること、特にこの子は1歳未満での発症なので再発しやすい部類に入ることを伝える。ほかの再発危険因子には、両親・きょうだいの熱性けいれんの家族歴、発熱から発作までが短いこと、発作時の体温が比較的低いことなどがある。けいれんが起きたら慌てず横向きに寝かせ、時間を測ること、5分以上続く場合や意識が戻らない場合は救急受診すること、も大事な指導だ。それから、解熱薬は熱による不快感をやわらげるのには使えるけれど、熱性けいれんの再発予防効果は示されていない。
医学生医学生
この月齢で初めての高熱だと、突発性発疹の始まりということもありそうですね。
ドクタードクター
鋭いね。突発性発疹はヒトヘルペスウイルス6・7型による感染で、熱性けいれんのきっかけになりやすい。数日後に解熱して発疹が出たら、それで発熱の原因がわかる、ということもよくあるよ。

まとめ

乳幼児の発熱に伴うけいれんでは、まず意識の回復、髄膜刺激症状、大泉門膨隆、血液検査から髄膜炎・脳炎・急性脳症・代謝異常を除外することが出発点です。そのうえで、焦点性発作、15分以上の持続、24時間以内の反復のいずれもなければ単純型熱性けいれんと判断でき、予後は良好です。発作が止まり意識清明なら、輸液・抗菌薬・抗けいれん薬・ステロイドはいずれも不要で、経過観察と家族への説明が適切な対応となります。止痙治療は5分以上続く発作が対象で、予防的ジアゼパムは遷延性発作の既往がある例などに限って検討されます。「治療しない」という判断を根拠をもって下せることは、小児救急の現場で過剰な検査や投薬を避けるための大切な力です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・8か月の乳児。午前中までは元気で哺乳も良好であり、午後に発熱に気付いた直後に全身性のけいれんが約3分間みられた。発熱・けいれんともに初めてである。 ・来院時の意識は清明で、けいれん後に意識障害が遷延していない。 ・体温38.6℃。咽頭に軽度の発赤があり、上気道炎などのウイルス感染に伴う発熱が考えやすい。鼓膜は正常で中耳炎は否定的である。 ・大泉門膨隆なし、項部硬直なし、Kernig徴候なしで、髄膜炎を示唆する所見はない。 ・血液検査・生化学検査に異常はなく、細菌感染による炎症反応の上昇や、低血糖・電解質異常などけいれんの原因となる代謝異常もみられない。

診断へのプロセス

乳幼児が38℃以上の発熱に伴ってけいれんを起こした場合、まず中枢神経感染症(髄膜炎・脳炎)、急性脳症、代謝異常(低血糖・低ナトリウム血症・低カルシウム血症など)を除外する必要がある。本例は意識清明で、髄膜刺激症状や大泉門膨隆がなく、検査値も正常であるため、これらは考えにくい。 そのうえで、けいれんが全身性で左右対称、持続が15分未満(約3分)、今回が初回で24時間以内の反復もないことから、熱性けいれんのうち「単純型熱性けいれん」と判断できる。

設問の考え方

単純型熱性けいれんは予後良好な病態であり、けいれんはすでに自然に止まっている。原因となっている発熱性疾患も軽症の上気道炎と考えられる。したがって、特別な治療を加える必要はなく、しばらく院内で全身状態・意識状態・けいれん再発の有無を観察し、問題がなければ家族に対応を指導して帰宅させる、というのが適切な方針となる。

選択肢考察

  1. ×a.  輸液

    発熱が続くと不感蒸泄が増えて脱水をきたすことはあるが、本例は直前まで哺乳が良好で、嘔吐や下痢もなく、血液生化学所見にも異常がない。脱水や電解質異常を示す根拠がないため、経静脈的な輸液の適応はない。経口で水分を十分にとらせれば足りる。

  2. ○b.  経過観察

    全身性・短時間(約3分)・初回・意識清明という特徴から単純型熱性けいれんと考えられ、髄膜炎や脳症を示唆する所見もない。けいれんは自然に止まっており、検査異常もないため、薬物治療は不要である。院内でしばらく状態を観察して意識の回復やけいれん再発の有無を確認し、帰宅後の注意点(発熱時の観察、けいれん時の対処、再受診の目安)を家族に説明する対応が適切である。

  3. ×c.  抗菌薬投与

    発熱の原因は咽頭の軽度発赤から上気道炎が考えられ、その多くはウイルス感染である。血液所見に白血球増多などの細菌感染を示唆する異常はなく、中耳炎(鼓膜正常)や髄膜炎(髄膜刺激症状・大泉門膨隆なし)の所見もない。抗菌薬を投与する根拠はない。

  4. ×d.  抗けいれん薬投与

    けいれんはすでに止まっているため、止痙目的の抗けいれん薬(ジアゼパムやミダゾラムなど)は不要である。けいれんが5分以上続いている場合に止痙治療を考慮する。また、単純型熱性けいれんの初回発作では、発熱時のジアゼパム予防投与や抗てんかん薬の継続内服も原則として行わない。予防投与は、15分以上続く遷延性発作の既往がある場合や、再発の危険因子を複数もつ児でけいれんを繰り返す場合などに限って検討される。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイド薬投与

    副腎皮質ステロイドは、けいれん重積に伴う急性脳症や脳浮腫、自己免疫性脳炎などで用いられることがあるが、意識清明で検査異常もない単純型熱性けいれんでは適応がない。

熱性けいれんとは

主に生後6か月から5歳(60か月)までの乳幼児に起こる、通常38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性・非けいれん性を含む)で、髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、その他明らかな発作の原因がみられず、てんかんの既往もないものをいう。日本では小児の7〜10%程度が経験するとされ、欧米より頻度が高い。発熱の原因は上気道炎、突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス6・7型感染)、インフルエンザなどのウイルス感染が多い。本例のように1歳前後の乳児で初めての高熱に伴う場合、突発性発疹の初期であることもしばしばある。

単純型と複雑型

次のいずれか一つ以上を満たすものを複雑型熱性けいれんとし、いずれも満たさないものを単純型とする。 ①焦点性発作(部分発作)の要素がある ②15分以上持続する ③一発熱機会(通常24時間以内)に複数回反復する 単純型は予後良好で、知的発達や運動発達への影響はない。

初期対応の流れ

・発作が続いていれば気道確保・酸素投与を行い、5分以上続く場合はジアゼパムやミダゾラムの静注などで止痙を図る。 ・発作が止まっていれば、意識の回復、神経学的異常の有無、髄膜刺激症状、大泉門膨隆などを確認する。 ・髄膜刺激症状、大泉門膨隆、意識障害の遷延などがあれば髄膜炎・脳炎・脳症を疑い、髄液検査や頭部画像検査を行う。全例に髄液検査・頭部CT・脳波検査を行う必要はない。 ・解熱薬は発熱による不快感の軽減には使えるが、熱性けいれんの再発予防効果は示されていない。

再発と予防

熱性けいれんの再発は約30%にみられる。再発の危険因子として、両親・同胞の熱性けいれんの家族歴、1歳未満での発症、発熱から発作までの時間が短い(おおむね1時間以内)、発作時の体温が39℃以下と比較的低い、などが知られる。本例は1歳未満の発症であり、再発しうることを家族に説明しておく必要がある。 発熱時のジアゼパム坐剤による予防投与は、15分以上の遷延性発作の既往がある場合や、危険因子を複数もち発作を反復する場合などに検討されるもので、単純型の初回例では通常行わない。

てんかんへの移行

熱性けいれん全体でのてんかん発症率は一般人口よりやや高い程度にとどまる。てんかん発症の危険因子には、発症前からの神経学的異常・発達遅滞、複雑型熱性けいれん、両親・同胞のてんかんの家族歴などがある。

POINT

・熱性けいれんは生後6か月〜5歳の発熱時にみられ、中枢神経感染症・代謝異常など明らかな原因がないもの。 ・複雑型の条件は「焦点性発作」「15分以上」「24時間以内の反復」のいずれか。どれもなければ単純型。 ・発熱+けいれんでは、まず髄膜炎・脳炎・脳症・代謝異常の除外(意識、髄膜刺激症状、大泉門膨隆、血液検査)。 ・けいれんが止まり意識清明な単純型熱性けいれんは、薬物治療不要で経過観察。 ・止痙治療の対象は5分以上続くけいれん。予防的ジアゼパムは遷延性発作の既往や危険因子の重なりがある例に限る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。