StudyMed医師国家試験

夜中に5回のトイレ―前立腺のせいと決めつける前に「日誌」をつけよう

第101回医師国家試験 D問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第101回 D問題 第22問

77歳の男性。夜間の頻尿を主訴に来院した。就寝後に4,5回トイレに行く。既往歴に高血圧があり,服薬治療を受けている。前立腺は軽度肥大しているが硬結を触れない。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-),尿沈渣に赤血球,白血球を認めない。 まず行うのはどれか。

  1. a.睡眠薬を処方する。
  2. b.導尿カテーテルを留置する。
  3. c.午後から飲水を控えるよう指導する。
  4. d.1日の飲水と排尿との時刻と量とを記録するよう指導する。
  5. e.就寝時にオムツを着用し,オムツ内に排尿するよう指導する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高齢男性の夜間頻尿に対して、最初に何をすべきかを問う問題だ。着眼点は「夜間頻尿は症状であって診断名ではない」ということ。原因によって対策がまったく変わるから、治療の前に何を確かめるべきかを考えよう。
医学生医学生
高齢男性で前立腺が少し大きいので、前立腺肥大症による夜間頻尿だと思いました。
ドクタードクター
多くの人がまずそう考えるね。でも前立腺は「軽度」の肥大で、それだけで夜間に4、5回も起きる原因と決めつけるのは早い。夜間頻尿の原因は大きく3つに分けて考えるんだ。何だと思う?
医学生医学生
膀胱にためられないタイプと……尿がたくさん作られるタイプでしょうか。
ドクタードクター
いいね。一つ目は多尿・夜間多尿。1日の尿量自体が多い場合と、尿が夜にかたよって作られる場合がある。二つ目は膀胱蓄尿障害で、前立腺肥大症や過活動膀胱がここに入る。三つ目が睡眠障害で、眠りが浅くて目が覚めるたびにトイレに行ってしまうパターンだ。
医学生医学生
夜にかたよって尿が作られるというのは、どういう仕組みですか。
ドクタードクター
加齢で尿を濃くする力が落ちたり、抗利尿ホルモンの夜間の分泌リズムが崩れたりするんだ。ほかにも、心不全や下肢のむくみがあると、昼間に脚にたまった水分が横になると血管内に戻って夜に尿になる。睡眠時無呼吸症候群や利尿薬も原因になる。この人は高血圧で薬を飲んでいるから、そこも気になるね。
医学生医学生
尿検査が全部陰性なのは、どう解釈すればいいですか。
ドクタードクター
糖が陰性だから糖尿病による浸透圧利尿は考えにくいし、白血球や赤血球がないから尿路感染症や、腫瘍・結石もひとまず否定的だ。前立腺に硬結がないのも、前立腺癌を強く疑う所見ではないということ。つまり明らかな原因が見えないからこそ、3つのうちどれなのかを見分ける必要がある。
医学生医学生
それで、飲水と排尿の時刻と量を記録してもらうんですね。泌尿器科の実習で、外来の患者さんが記録用紙を持ってきていたのを思い出しました。
ドクタードクター
その通り、それが正解。排尿日誌と呼ばれるもので、非侵襲的で今日からすぐ始められる。1日の総尿量、夜間の尿量の割合、1回あたりの排尿量、飲水の時間と量が全部わかるから、原因の振り分けにうってつけなんだ。
医学生医学生
睡眠薬はどうでしょう。眠れていないなら効きそうな気もします。
ドクタードクター
原因が多尿や蓄尿障害なら、睡眠薬では尿は減らない。しかも高齢者では、ふらつきで夜間トイレに行くときに転倒して骨折したり、目が覚めにくくて失禁したり、せん妄を起こしたりする危険がある。睡眠障害が原因とわかってから考えるものだよ。
医学生医学生
午後から飲水を控える指導は、夜間多尿なら合っていそうですが。
ドクタードクター
そこがいちばん迷うところだね。夜間多尿と確認できれば、夕方以降の飲水やアルコール・カフェインを控える指導は有効だ。でも原因がわからない段階で指示するのは順序が逆。前立腺肥大症が原因なら効果は乏しいし、高齢者では脱水や脳梗塞などの血栓症、便秘を招くおそれもある。
医学生医学生
カテーテル留置やオムツは、さすがにやりすぎですよね。
ドクタードクター
そうだね。カテーテル留置は尿閉や大量の残尿があるときの処置で、この人にはその所見がない。入れれば尿路感染や尿道損傷のリスクを背負うことになる。自分でトイレに行ける人にオムツ内で排尿させるのも、自尊心を傷つけ、皮膚炎や感染の原因になり、自立した排泄を失わせることにもつながる。どちらも原因検索にはならないしね。
医学生医学生
まず原因を見分けて、それから治療、という順番が大事なんですね。日誌のどこを見れば判断できますか。
ドクタードクター
目安を覚えておこう。24時間尿量が体重あたり40 mL/kgを超えれば多尿。夜間の尿量が1日尿量の33%を超えれば、高齢者では夜間多尿と考える。1回排尿量が少なければ膀胱蓄尿障害を疑う。記録は少なくとも24時間、できれば2〜3日続けてもらうといい。
医学生医学生
原因がわかったら、それぞれどう治療するんでしょうか。
ドクタードクター
夜間多尿なら、夕方以降の飲水制限に加えて、夕方に脚を上げたり軽く歩いたりして、たまった水分を寝る前に出してしまう工夫が有効だ。心不全や睡眠時無呼吸症候群の治療、利尿薬の服用時刻の調整も大切。男性の夜間多尿にはデスモプレシンも使われるけれど、高齢者では低ナトリウム血症に注意が必要だ。前立腺肥大症ならα1遮断薬やPDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬、過活動膀胱なら抗コリン薬やβ3作動薬を使う。前立腺の評価としては、症状スコアのIPSS、PSA測定、超音波での前立腺体積と残尿量の測定なども並行して進めていこう。

まとめ

夜間頻尿は症状であり、その原因は「多尿・夜間多尿」「膀胱蓄尿障害」「睡眠障害」の3つに分けて考えます。高齢男性では前立腺肥大症に目が向きがちですが、加齢や心不全、降圧薬・利尿薬などによる夜間多尿が関与していることも多く、軽度の前立腺腫大だけで原因を決めつけることはできません。そのため最初に行うべきは、飲水と排尿の時刻・量を記録する排尿日誌であり、24時間尿量(40 mL/kg超で多尿)、夜間尿量の割合(高齢者で33%超で夜間多尿)、1回排尿量から原因を振り分けます。原因を確かめずに睡眠薬や飲水制限を行うと、転倒・骨折や脱水といった害を招きかねません。「原因を見分けてから治療する」という姿勢は、高齢者診療全般に通じる基本です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・77歳の男性で、就寝後に4〜5回排尿のために起きる夜間頻尿を訴えている。 ・高血圧で服薬中である(降圧薬の種類によっては夜間の尿量に影響する)。 ・直腸診で前立腺は軽度に腫大しているが、硬結はなく、前立腺癌を強く疑う所見はない。 ・尿検査で蛋白・糖・潜血はいずれも陰性、沈渣で赤血球・白血球もみられない。尿路感染症、糖尿病による浸透圧利尿、尿路の腫瘍や結石などを示唆する所見はない。

診断へのプロセス

夜間頻尿は「夜間に排尿のために1回以上起きなければならない」という症状であり、それ自体は診断名ではない。原因は大きく次の3つ(およびその組み合わせ)に分けて考える。 ①多尿・夜間多尿:1日の尿量そのものが多い(飲水過多、糖尿病、尿崩症など)、あるいは尿が夜間にかたよって作られる(加齢による尿濃縮能・抗利尿ホルモン分泌リズムの変化、心不全、下肢浮腫、睡眠時無呼吸症候群、利尿薬など)。 ②膀胱蓄尿障害:膀胱に尿をためられない(前立腺肥大症、過活動膀胱、残尿の増加、間質性膀胱炎など)。 ③睡眠障害:眠りが浅く目が覚めるたびに排尿に行く。 本例は前立腺が軽度に腫大しており前立腺肥大症の関与も考えられるが、高齢で高血圧治療中であることから夜間多尿の可能性も十分ある。前立腺の軽度腫大だけで夜間頻尿の原因と決めつけることはできない。

設問の考え方

原因によって対策はまったく異なる(夜間多尿なら飲水・生活指導や基礎疾患・薬剤の見直し、蓄尿障害なら前立腺肥大症や過活動膀胱の治療など)。したがって治療より先に、原因を見分けるための情報を集めることが必要である。その最も基本的で侵襲のない方法が、飲水と排尿の時刻・量を記録する排尿日誌(頻度・尿量記録)である。

選択肢考察

  1. ×a.  睡眠薬を処方する。

    原因を調べないまま睡眠薬を出すのは適切でない。夜間頻尿の主因が多尿や蓄尿障害であれば睡眠薬では改善しない。さらに高齢者では、ふらつきによる夜間トイレ移動時の転倒・骨折、覚醒困難による尿失禁、せん妄などを招く危険がある。睡眠障害が原因と判明した場合に初めて検討する対策である。

  2. ×b.  導尿カテーテルを留置する。

    尿道カテーテル留置は、尿閉や大量の残尿がある場合、厳密な尿量管理が必要な場合などに行う処置である。本例では尿閉の所見はなく、留置すれば尿路感染症、尿道損傷、不快感、日常生活の制限などの不利益が大きい。最初に行う対応ではない。

  3. ×c.  午後から飲水を控えるよう指導する。

    夜間多尿(特に夕方以降の過剰な飲水)が原因と確認できれば、夕方以降の飲水量の調整は有効な生活指導となる。しかし原因がわからない段階で午後からの飲水制限を指示するのは順序が逆である。前立腺肥大症や過活動膀胱が原因なら効果は乏しく、高齢者では脱水、脳梗塞などの血栓症、便秘を招くおそれもある。

  4. ○d.  1日の飲水と排尿との時刻と量とを記録するよう指導する。

    排尿日誌(頻度・尿量記録)をつけてもらうことで、1日の総尿量(多尿の有無)、夜間の尿量が1日尿量に占める割合(夜間多尿の有無)、1回排尿量(膀胱容量の目安)、飲水の時間帯と量がわかる。これにより多尿・夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害のいずれが主因かを見分け、原因に応じた治療方針を立てられる。非侵襲的で外来ですぐに始められるため、まず行うべき対応である。

  5. ×e.  就寝時にオムツを着用し,オムツ内に排尿するよう指導する。

    尿失禁があるわけではなく、自力でトイレに行ける患者におむつ内での排尿を指示するのは不適切である。心理的抵抗感や不快感、自尊心の低下、皮膚炎・尿路感染の危険があり、自立した排泄行動を失わせて廃用を進めることにもつながる。原因の検索にもならない。

夜間頻尿の定義と頻度

夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという訴えである。臨床的に生活の質や睡眠が損なわれ問題となるのは、おおむね2回以上の場合が多い。加齢とともに増加し、高齢者では最も多い下部尿路症状の一つで、夜間トイレに行く際の転倒・骨折の原因にもなる。

排尿日誌でわかること

・24時間尿量:体重あたり40 mL/kg/日を超えると多尿とされる。 ・夜間多尿指数(夜間尿量÷24時間尿量):高齢者では33%を超えると夜間多尿とされる(若年者では20%超)。 ・1回排尿量・最大1回排尿量:少なければ膀胱蓄尿障害(前立腺肥大症、過活動膀胱など)を考える。 ・飲水の時刻・量:夕方以降の飲水過多やアルコール・カフェイン摂取などの生活習慣が把握できる。 通常は連続した数日間(少なくとも24時間以上、できれば2〜3日)記録してもらう。

原因別の主な対策

・多尿:糖尿病・尿崩症などの基礎疾患の検索と治療、過剰な飲水の是正。 ・夜間多尿:夕方以降の飲水・アルコール・カフェインの制限、夕方の下肢挙上や軽い運動(日中に下肢にたまった水分を就寝前に排出させる)、心不全・睡眠時無呼吸症候群など基礎疾患の治療、利尿薬の服用時刻の調整や降圧薬の見直し。男性の夜間多尿による夜間頻尿にはデスモプレシン(抗利尿ホルモン類似薬)も用いられるが、高齢者では低ナトリウム血症に注意する。 ・膀胱蓄尿障害:前立腺肥大症にはα1遮断薬、PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬、5α還元酵素阻害薬など、過活動膀胱には抗コリン薬やβ3作動薬など。 ・睡眠障害:睡眠衛生指導、原因疾患の治療。

前立腺肥大症の初期評価

自覚症状の評価には国際前立腺症状スコア(IPSS)が用いられる。直腸診での硬結の有無、PSA(前立腺特異抗原)測定は前立腺癌との鑑別に、超音波での前立腺体積・残尿量測定、尿流測定は重症度評価に用いる。本例でもこれらの評価は並行して進めてよいが、夜間頻尿の原因を見分けるには排尿日誌が欠かせない。

POINT

・夜間頻尿の原因は「多尿・夜間多尿」「膀胱蓄尿障害」「睡眠障害」の3つに分けて考える。 ・高齢者の夜間頻尿では、前立腺肥大症だけでなく夜間多尿が関与していることが多い。 ・原因を見分ける最初の検査は排尿日誌(飲水・排尿の時刻と量の記録)。 ・多尿は24時間尿量40 mL/kg超、高齢者の夜間多尿は夜間尿量が1日尿量の33%超。 ・原因を確かめずに睡眠薬・飲水制限を行うのは不適切(転倒・脱水の危険)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。