足りないのか、詰まっているのか―障害部位で読み解く男性不妊症の治療
第110回医師国家試験 A問題 第11問
国試問題にチャレンジ
男性不妊症の原因と対応の組合せで正しいのはどれか。
- a.射精障害 ―― テストステロン補充療法
- b.精索静脈瘤 ―― 精路再建術
- c.閉塞性無精子症 ―― ゴナドトロピン補充療法
- d.非閉塞性無精子症 ―― 精巣内精子採取術
- e.低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 ―― 人工授精
対話形式の解説
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ドクターまとめ
男性不妊症は、視床下部・下垂体の障害、精巣の造精機能障害、精路の通過障害、性機能障害に分けると治療が整理しやすくなります。非閉塞性無精子症では精巣内に部分的に残る精子を顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)で探して採取し、顕微授精に用いるのが基本です。閉塞性無精子症には精路再建術や精子採取+顕微授精、精索静脈瘤には静脈結紮術・塞栓術、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症にはhCG+FSHによるゴナドトロピン補充療法、射精障害には原因に応じた薬物療法や人工授精が対応します。外因性テストステロンは負のフィードバックで精子形成を抑制するため、挙児希望例には用いません。「足りないのか、作れないのか、詰まっているのか、出せないのか」を見極める考え方は、FSHや精巣容積の解釈を含め、男性不妊診療全体の土台になります。
解答・解説
正解はdです
男性不妊症の主な原因疾患と、それぞれに対する標準的な治療を対応させる問題である。 男性不妊症は、障害の部位によって大きく次のように整理できる。 ・精巣より上位(視床下部・下垂体)の障害:低ゴナドトロピン性性腺機能低下症など。ゴナドトロピン(LH・FSH)が不足して精子形成が起こらない。 ・精巣そのものの障害(造精機能障害):非閉塞性無精子症、精索静脈瘤による精子形成低下など。 ・精子の通り道(精路)の障害:閉塞性無精子症。精巣では精子が作られているが、精巣上体・精管などの閉塞で射出されない。 ・性機能の障害:勃起障害や射精障害。精子自体には問題がないことが多い。 それぞれ「何が足りないのか、どこが詰まっているのか」を考えれば、治療法はおのずと決まる。足りないホルモンは補い、閉塞は再開通させ、静脈瘤は処理し、精子が射出されなければ直接採取して生殖補助医療(ART)につなげる、という発想である。非閉塞性無精子症では、精巣内に局所的に残っているわずかな精子を外科的に探し出して採取し、顕微授精に用いるのが基本方針となる。
選択肢考察
- ×a. 射精障害 ―― テストステロン補充療法
射精障害(逆行性射精、腟内射精障害、無射精など)は精子の産生ではなく射出の過程の問題であり、テストステロン値が低いことによるものではない場合がほとんどである。治療は原因に応じた薬物療法(逆行性射精に対する三環系抗うつ薬・交感神経刺激薬など)、射精前後の尿や用手的に得た精液を用いた人工授精、性機能障害への対応などが中心となる。加えて、外因性テストステロンを投与すると負のフィードバックで下垂体からのLH・FSH分泌が抑えられ、精巣内のテストステロン濃度が低下して精子形成はむしろ抑制される。挙児希望の男性にテストステロン補充を行うのは不適切であり、組合せとして誤りである。
- ×b. 精索静脈瘤 ―― 精路再建術
精索静脈瘤は精巣からの静脈血(蔓状静脈叢)がうっ滞して拡張した状態で、左側に多い。陰嚢内温度の上昇などを介して造精機能を低下させる、男性不妊症の代表的な原因である。治療は内精索静脈の結紮術(高位結紮術や顕微鏡下低位結紮術)や塞栓術であり、精路再建術ではない。精路再建術(精管精管吻合術、精管精巣上体吻合術など)は閉塞性無精子症に対する治療である。
- ×c. 閉塞性無精子症 ―― ゴナドトロピン補充療法
閉塞性無精子症では、精巣の造精機能やゴナドトロピン分泌は正常で、精路の閉塞のために精液中に精子が出てこない。したがってホルモン補充の意味はない。治療は閉塞部を再開通させる精路再建術(精管精管吻合術、精管精巣上体吻合術)、あるいは精巣上体や精巣から精子を採取して顕微授精を行う方法である。ゴナドトロピン補充療法は低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対する治療である。
- ○d. 非閉塞性無精子症 ―― 精巣内精子採取術
非閉塞性無精子症は精巣の造精機能が高度に障害されて精液中に精子がない状態で、無精子症の多くを占める。精路を再建しても精子は出てこないが、精巣内には精子形成が保たれた精細管が部分的に残っていることがある。そこで手術用顕微鏡で精細管を観察し、太く精子形成が期待できる部分を選んで採取する顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)を行い、得られた精子を顕微授精(卵細胞質内精子注入法:ICSI)に用いる。病態に合った正しい組合せである。
- ×e. 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 ―― 人工授精
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(Kallmann症候群や下垂体機能低下症など)は、視床下部・下垂体からのゴナドトロピン分泌不足によって精巣が刺激されず、精子形成が起こらない状態である。精液中に精子がないか著しく少ないため、そのまま人工授精を行っても成立しない。治療はhCG(LH作用)とFSH製剤(rFSHなど)を用いたゴナドトロピン補充療法で、精巣自体は正常なため精子形成の回復が期待でき、自然妊娠が得られることもある。
男性不妊症の分類と治療の整理
・造精機能障害(約8割と最多):特発性造精機能障害、精索静脈瘤、停留精巣後、Klinefelter症候群、Y染色体微小欠失など。精索静脈瘤には結紮術、非閉塞性無精子症にはmicro-TESE+ICSI。 ・内分泌異常:低ゴナドトロピン性性腺機能低下症にはhCG+FSHによるゴナドトロピン補充療法。 ・精路通過障害:閉塞性無精子症(精管結紮後、鼠径ヘルニア術後、先天性両側精管欠損など)には精路再建術、または精巣上体精子吸引・精巣内精子採取+ICSI。 ・性機能障害:勃起障害にはPDE5阻害薬など、射精障害には原因に応じた薬物療法や人工授精。
テストステロン補充と不妊
外因性テストステロン(およびアンドロゲン製剤)は視床下部・下垂体を抑制してLH・FSHを低下させ、精巣内テストステロン濃度を下げるため精子形成を抑制する。避妊効果すら持つため、挙児希望のある男性の性腺機能低下症にはテストステロンではなくゴナドトロピン製剤を用いる。
無精子症の鑑別の目安
閉塞性では精巣容積・血中FSHはおおむね正常、非閉塞性では精巣が小さくFSHが高値となることが多い。低ゴナドトロピン性ではLH・FSH・テストステロンがいずれも低値である。
POINT
・非閉塞性無精子症 → 精巣内精子採取術(micro-TESE)+顕微授精(ICSI) ・閉塞性無精子症 → 精路再建術(または精子採取+ICSI) ・精索静脈瘤 → 精索静脈結紮術・塞栓術 ・低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 → ゴナドトロピン(hCG+FSH)補充療法 ・射精障害 → 原因に応じた治療や人工授精 ・テストステロン補充は精子形成を抑制するため、挙児希望例には用いない
