StudyMed医師国家試験

血圧が乱れる本当の理由―「やめられない酒」こそ最重要の健康問題

第101回医師国家試験 D問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第101回 D問題 第19問

48歳の男性。高血圧症と脂質異常症とで通院中である。自己血圧測定の結果を持参して定期受診した。最近,血圧変動が激しいことの理由を尋ねたところ,「飲み始めるとついつい深酒になり,朝起きられない。朝食後の降圧薬の服用ができないし,そんな日は無断欠勤してしまう。それでも酒が止められない」と述べた。 この患者の健康上の問題として最も重要なのはどれか。

  1. a.高血圧症
  2. b.脂質異常症
  3. c.問題飲酒行動
  4. d.無断欠勤の罪悪感
  5. e.服薬コンプライアンス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、生活習慣病で通院中の男性が語ったエピソードから、いくつも並ぶ問題のうち何が最も重要かを判断する問題だ。カギは、問題同士の因果関係を整理して、根っこにあるものを見つけること。本人の言葉をどう受け止めたかな。
医学生医学生
血圧変動の原因は、朝の降圧薬を飲めていないことですよね。なので服薬コンプライアンスの問題かと思いました。
ドクタードクター
直接の原因としては確かにそうだね。でも、なぜ飲めないのかをもう一歩さかのぼってみよう。
医学生医学生
深酒をして朝起きられないから、ですね。欠勤も同じ理由です。
ドクタードクター
その通り。血圧の乱れも、服薬の乱れも、無断欠勤も、すべて飲酒から枝分かれしている。しかも飲酒そのものが血圧を上げ、中性脂肪も上げる。だから最も重要な健康上の問題は問題飲酒行動なんだ。
医学生医学生
でも、お酒を飲むこと自体は珍しくないですよね。どこからが「問題」になるんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。本人の言葉に注目しよう。飲み始めると量をコントロールできない、仕事という社会的役割を果たせていない、健康や生活に悪影響が出ていると分かっていながらやめられない。これらはDSM-5のアルコール使用障害、いわゆるアルコール依存症の診断項目に当てはまる特徴なんだ。
医学生医学生
精神科の講義で、量のコントロール障害と、害があっても続けることが依存の核だと習いました。
ドクタードクター
まさにそこ。量の多さだけでなく、コントロールを失っていることが本質だ。では他の選択肢も確認しよう。高血圧症はどうかな。
医学生医学生
治療中で実際に悪化しているので、一番重要に見えてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。ただ、今の血圧の不安定さは、飲酒による服薬の乱れと昇圧作用の結果だ。降圧薬を増やしても飲酒が続く限り安定しない。逆に節酒は高血圧の生活習慣改善の柱で、それ自体が降圧につながる。
医学生医学生
脂質異常症も同じ構図ですか。
ドクタードクター
そうだね。今回の血圧変動や生活の乱れとは直接つながらないうえ、過度の飲酒は肝臓での中性脂肪合成を促して高トリグリセリド血症を悪化させる。やはり飲酒への介入が先決になる。
医学生医学生
無断欠勤の罪悪感はどうでしょう。本人はつらそうですが。
ドクタードクター
問題文には罪悪感そのものの記載はないし、仮にあったとしても飲酒の二次的な結果だ。むしろ本人が問題を自覚していることは、治療への動機づけに活かせる大事な手がかりになる。服薬コンプライアンスも、飲み忘れの原因が深酒にある以上、服薬時刻を変えるような工夫だけでは根本的な解決にならない。今は患者が主体的に治療へ参加する意味で、服薬アドヒアランスという言葉がよく使われることも覚えておこう。
医学生医学生
結果ではなく原因を選ぶ、という考え方ですね。総合診療科の実習で、プロブレムリストを作るときに「根っこの問題は何か」と何度も聞かれました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。ここからは発展知識だ。外来でアルコールの問題を拾うにはスクリーニングが役立つ。CAGEは、減酒の必要を感じたか、飲酒を批判されて腹が立ったか、罪悪感を覚えたか、朝の迎え酒をしたかの4項目で、2項目以上なら依存を疑う。WHOが作ったAUDITは10項目で、危険な飲酒から依存まで幅広く評価できる。
医学生医学生
治療は断酒が目標になるんでしょうか。
ドクタードクター
アルコール依存症では原則として断酒が目標だ。ただし軽症例などでは飲酒量低減を目標にすることもある。動機づけ面接で本人の問題意識を引き出し、断酒補助薬のアカンプロサート、抗酒薬のジスルフィラムやシアナミド、飲酒量低減薬のナルメフェンなどを用いながら、断酒会やAAといった自助グループ、家族支援、専門医療機関との連携を組み合わせていく。
医学生医学生
急にやめたときの離脱症状にも注意が必要ですよね。
ドクタードクター
その通り。振戦や発汗、不眠、けいれん、重いと振戦せん妄が起こりうる。ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症にも注意したい。また多量飲酒は肝障害、膵炎、心筋症、心房細動、高尿酸血症などのリスクも高める。生活習慣病の外来では、飲酒歴を具体的に聞く習慣をつけておこう。
医学生医学生
血圧の数字だけを追わずに、その背景の生活まで聞き取ることが大事なんだと分かりました。

まとめ

生活習慣病で通院中の患者に血圧変動、服薬の乱れ、無断欠勤といった問題が重なる場合、それらに共通する根本原因を最も重要な健康上の問題として捉えることが大切です。飲酒量をコントロールできず、社会的役割を果たせず、害を自覚しながら飲酒をやめられない状態はアルコール使用障害(アルコール依存症)を示唆し、本例では問題飲酒行動が血圧のコントロール不良や服薬の乱れの原因になっています。多量飲酒は血圧上昇や高トリグリセリド血症を招き、節酒・断酒は生活習慣病の治療そのものにもなります。外来ではCAGEやAUDITでスクリーニングし、動機づけ面接、薬物療法、自助グループなどを組み合わせて支援し、離脱症状やウェルニッケ脳症にも注意します。症状や検査値の背後にある行動や生活に目を向ける視点は、慢性疾患の診療全般に欠かせない姿勢です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

48歳の男性で、高血圧症と脂質異常症の治療中である。最近血圧の変動が激しく、その理由を尋ねると本人から次のような話が出た。 ・飲み始めると量を抑えられず深酒になる(飲酒量のコントロール障害) ・翌朝起きられず、朝食後の降圧薬を飲めない(服薬の乱れ → 血圧コントロール不良) ・そうした日は無断欠勤する(職業上・社会的な障害) ・それでも酒をやめられない(有害な結果があるのに飲酒を続ける)

評価のプロセス

飲酒量のコントロールができないこと、飲酒によって健康や仕事に明らかな悪影響が出ていること、それを本人が自覚していながら飲酒をやめられないことは、いずれもアルコール依存症(DSM-5 ではアルコール使用障害)を強く示唆する特徴である。

問われていること

設問は、この患者の健康上の問題のうち「最も重要なもの」を選ばせている。血圧変動、降圧薬の飲み忘れ、無断欠勤などの問題はいずれも実在するが、それらはすべて問題のある飲酒行動から派生した結果である。さらに飲酒そのものが血圧上昇や中性脂肪上昇の原因にもなっている。複数の問題が並んでいるとき、それらの共通の根本原因をとらえ、そこに介入することが最も重要である。飲酒問題に対処しない限り、降圧薬を増やしても服薬指導をしても、根本的な改善は見込めない。

選択肢考察

  1. ×a.  高血圧症

    高血圧症は現に治療中の問題であり、血圧変動も起きているため重要ではある。しかし最近の血圧の不安定さは、深酒により朝の降圧薬が飲めないことと、飲酒そのものによる昇圧作用の両方から生じている。高血圧の悪化は飲酒問題の結果であり、最も重要な問題とはいえない。飲酒量を減らすことは、それ自体が高血圧の生活習慣改善の柱でもある。

  2. ×b.  脂質異常症

    脂質異常症も治療中の生活習慣病であるが、今回の受診で問題となっている血圧変動や生活の乱れとは直接関係しない。過度の飲酒は肝臓での中性脂肪合成を促し高トリグリセリド血症を悪化させるため、脂質異常症にとっても飲酒問題への介入が先決である。最も重要な問題ではない。

  3. ○c.  問題飲酒行動

    飲み始めると深酒になる、翌朝起きられず服薬や出勤ができない、それでも酒をやめられないという訴えは、飲酒のコントロールを失い、有害な結果を承知で飲酒を続けている状態であり、アルコール依存症が疑われる。血圧のコントロール不良、服薬の乱れ、無断欠勤という健康面・社会面の問題は、すべてこの飲酒行動から生じている。根本原因である問題飲酒行動に介入しなければ他の問題は解決しないため、最も重要な健康上の問題である。

  4. ×d.  無断欠勤の罪悪感

    無断欠勤は飲酒による社会的障害の一つであり、本人がそれに罪悪感を抱いている可能性はある。しかし問題文には罪悪感についての記載はなく、仮にあったとしても飲酒問題の二次的な結果にすぎない。むしろ問題を自覚していることは、治療への動機づけに活かせる点である。最も重要な健康上の問題とはいえない。

  5. ×e.  服薬コンプライアンス

    服薬コンプライアンス(患者が指示どおりに服薬すること。現在は患者が主体的に治療に参加するという意味で服薬アドヒアランスという語が用いられる)の不良は、血圧変動の直接の原因ではある。しかし飲み忘れは深酒で朝起きられないために生じており、飲酒問題の結果である。服薬時刻を変更するなどの工夫だけでは根本的解決にならず、最も重要な問題とはいえない。

アルコール依存症(アルコール使用障害)の特徴

DSM-5 のアルコール使用障害は、12か月以内に次のような項目のうち2項目以上を満たすことで診断され、該当数により軽度・中等度・重度に分けられる。 ・意図していたより多量または長期間飲酒する ・減量や中止の努力が失敗する ・飲酒関連の活動に多くの時間を費やす ・飲酒への強い渇望(クレービング) ・飲酒のため仕事・学校・家庭での役割を果たせない ・社会的・対人関係の問題があるのに飲酒を続ける ・飲酒のために重要な活動を放棄・縮小する ・身体的に危険な状況でも飲酒を繰り返す ・心身の問題が悪化すると知りながら飲酒を続ける ・耐性 ・離脱症状 本例では、量のコントロール障害、役割(仕事)の不履行、健康上の不利益を知りながら飲酒を続けていることなどが当てはまる。

スクリーニング

・CAGE:減酒の必要性を感じたか(Cut down)、飲酒を批判されて腹が立ったか(Annoyed)、飲酒に罪悪感を覚えたか(Guilty)、朝の迎え酒をしたか(Eye-opener)の4項目。2項目以上で依存を疑う。 ・AUDIT:WHO が作成した10項目の質問票で、危険な飲酒から依存まで幅広く評価できる。

飲酒と生活習慣病

・高血圧:習慣的な多量飲酒は血圧を上昇させ、降圧薬の効果も弱める。節酒により血圧は低下する。高血圧治療ガイドラインでは、男性はエタノールで20〜30mL/日以下、女性は10〜20mL/日以下に制限することが推奨されている。 ・脂質異常症:高トリグリセリド血症を悪化させる。 ・その他:アルコール性肝障害(脂肪肝、肝炎、肝硬変)、膵炎、心筋症、不整脈(心房細動)、高尿酸血症、耐糖能異常、消化管癌などのリスクが上がる。

治療・対応の概要

・動機づけ面接などで本人の問題意識を引き出し、治療への動機を高める。 ・アルコール依存症の治療目標は原則として断酒である。軽症例などでは飲酒量低減を目標とすることもある。 ・薬物療法:断酒補助薬(アカンプロサート)、抗酒薬(ジスルフィラム、シアナミド)、飲酒量低減薬(ナルメフェン)。 ・自助グループ(断酒会、AA)への参加、家族支援、専門医療機関との連携。 ・離脱症状(振戦、発汗、不眠、けいれん、振戦せん妄)やウェルニッケ脳症(ビタミンB1欠乏)に注意する。

POINT

・複数の問題(血圧変動、服薬の乱れ、欠勤)が並ぶときは、それらに共通する根本原因を「最も重要な問題」として捉える。 ・量のコントロール障害、社会的役割の不履行、有害と知りながら続ける飲酒はアルコール依存症(アルコール使用障害)を示唆する。 ・多量飲酒は血圧上昇・高トリグリセリド血症の原因となり、節酒は生活習慣病の治療にもなる。 ・スクリーニングには CAGE や AUDIT を用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。