顔は右、体は左―ねじれた感覚障害が指し示す延髄外側と後下小脳動脈
第101回医師国家試験 A問題 第43問
国試問題にチャレンジ
66歳の男性。今朝からのめまいと左上下肢のしびれとを主訴に来院した。右顔面の温痛覚の低下,顔面を除く左半身の温痛覚の低下および右半身の小脳失調を認める。四肢の運動麻痺は認めない。眼部の写真を示す。 障害があるのはどれか。

- a.視床膝状体動脈
- b.外側線条体動脈
- c.後大脳動脈
- d.上小脳動脈
- e.後下小脳動脈
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
同側の顔面と対側の頸部以下で温痛覚が低下する交代性の解離性感覚障害は、三叉神経脊髄路と交叉後の外側脊髄視床路が並ぶ延髄外側の病変に特徴的です。これにめまい、同側の小脳失調、縮瞳と軽い眼瞼下垂からなる同側Horner症候群が加わり、運動麻痺を欠けば延髄外側症候群(Wallenberg症候群)と診断でき、責任血管は後下小脳動脈または椎骨動脈です。疑核障害による嚥下障害や嗄声を伴うことも多く、誤嚥への配慮が臨床上重要になります。対側片麻痺・深部感覚障害・同側舌下神経麻痺を示す延髄内側症候群との対比や、若年者の椎骨動脈解離という原因も合わせて押さえておきましょう。症候から神経路の走行をたどって病変部位と血管支配を導く考え方は、脳幹症候群全般を理解する基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・66歳男性、今朝からの急性発症(脳血管障害を示唆)。 ・めまい:前庭神経核の障害を示唆する。 ・右顔面の温痛覚低下:右の三叉神経脊髄路・脊髄路核の障害。 ・顔面を除く左半身の温痛覚低下:右の外側脊髄視床路の障害(この線維は脊髄で交叉した後に上行するため、病変の反対側に症状が出る)。 ・右半身の小脳失調:右の下小脳脚・小脳の障害。 ・四肢の運動麻痺なし:延髄の腹内側を走る錐体路は保たれている。 ・眼部写真:右の眼瞼下垂(眼裂狭小)と縮瞳を認め、右Horner症候群と考えられる。
診断へのプロセス
病変と同側(右)の顔面と、反対側(左)の頸部以下の体幹・四肢に温痛覚障害がみられる交代性の感覚障害は、延髄外側の病変に特徴的である。しかも温痛覚だけが障害され、触覚・深部感覚は保たれる解離性感覚障害の形をとる。これにめまい・同側の小脳失調・同側Horner症候群(延髄外側を下行する交感神経線維の障害)が加わり、運動麻痺がないことから、右の延髄外側症候群(Wallenberg症候群)と診断できる。
設問の考え方
延髄外側部は後下小脳動脈(PICA)と、その起始となる椎骨動脈から灌流される。したがって責任血管は右の後下小脳動脈(または右椎骨動脈)である。選択肢に椎骨動脈はないため、後下小脳動脈を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 視床膝状体動脈
視床膝状体動脈は後大脳動脈から分岐して視床の外側部(後外側腹側核・後内側腹側核など、感覚の中継核)を灌流する。閉塞や出血では対側半身の全感覚障害(顔面を含む)や、後に強い痛み(視床痛)を生じる視床症候群を起こす。障害は顔も体も同じ側(病変の対側)にそろって出るため、本例の交代性感覚障害とは合わない。高血圧性の視床出血の責任血管としても知られる。
- ×b. 外側線条体動脈
外側線条体動脈は中大脳動脈の穿通枝で、被殻・内包などの大脳基底核領域を灌流する。高血圧性被殻出血の責任血管として有名で、閉塞では穿通枝梗塞(ラクナ梗塞や、共通幹の閉塞による大きめの穿通枝梗塞)を起こす。症状は対側の片麻痺や感覚障害が中心で、脳幹の脳神経症状や交代性感覚障害はみられない。
- ×c. 後大脳動脈
後大脳動脈は脳底動脈の終枝で、後頭葉・側頭葉内側面を灌流し、視床や中脳への穿通枝も出す。閉塞では対側の同名半盲(黄斑回避を伴うことが多い)、記憶障害、視床症状による感覚障害などを起こす。延髄は灌流しないため、本例の症状は説明できない。
- ×d. 上小脳動脈
上小脳動脈は脳底動脈の上端近くから分岐し、小脳上面や上小脳脚、橋上部の背外側を灌流する。閉塞では同側の小脳失調が主体となり、橋上部の外側脊髄視床路が障害されると対側の温痛覚低下を伴うこともあるが、顔面を含む交代性感覚障害や延髄由来の症状は典型的ではない。小脳出血の責任血管となることもある。
- ○e. 後下小脳動脈
後下小脳動脈(PICA)は椎骨動脈から分岐し、延髄外側部と小脳下面を灌流する。その閉塞により、同側顔面・対側体幹四肢の温痛覚障害、同側Horner症候群、めまい・眼振、同側小脳失調、嚥下障害・嗄声(疑核の障害)などを呈する延髄外側症候群(Wallenberg症候群)が起こる。本例の症候とよく一致する。なお実際の症例では、PICA単独よりも椎骨動脈の閉塞(解離を含む)が原因であることの方が多い。
延髄外側症候群(Wallenberg症候群)の症候と障害部位
病変と同側: ・顔面の温痛覚障害:三叉神経脊髄路・脊髄路核 ・Horner症候群(眼瞼下垂、縮瞳、顔面の発汗低下):下行する交感神経線維 ・小脳失調:下小脳脚 ・嚥下障害・構音障害・嗄声、軟口蓋・声帯の麻痺:疑核(舌咽神経・迷走神経) ・めまい、悪心・嘔吐、眼振:前庭神経核 ・吃逆(しゃっくり)を伴うこともある 病変と対側: ・頸部以下の体幹・四肢の温痛覚障害:外側脊髄視床路 みられないもの: ・運動麻痺(錐体路は延髄腹内側)、舌の麻痺(舌下神経核は内側)、深部感覚障害(内側毛帯は内側)
延髄内側症候群(Dejerine症候群)との対比
前脊髄動脈や椎骨動脈の傍正中枝の閉塞で起こり、対側片麻痺(錐体路)、対側の深部感覚障害(内側毛帯)、同側の舌下神経麻痺(舌を出すと病側に偏位)を呈する。「外側は温痛覚と脳神経・小脳、内側は運動と深部覚と舌」と整理するとよい。
原因
高齢者では動脈硬化による椎骨動脈・PICAの閉塞、比較的若年者では椎骨動脈解離が重要な原因である。解離では後頸部痛を伴うことが多い。
POINT
・同側顔面と対側頸部以下の温痛覚障害(交代性の解離性感覚障害)+同側Horner症候群+同側小脳失調+めまい、運動麻痺なし=延髄外側症候群(Wallenberg症候群)。 ・責任血管は後下小脳動脈(PICA)または椎骨動脈で、実際には椎骨動脈閉塞例が多い。 ・錐体路・内側毛帯・舌下神経核は延髄内側にあるため、延髄外側症候群では障害されない。
