朝起きたら物が二つに―眼瞼下垂の裏に潜む「黒く抜けた円」の正体
第101回医師国家試験 A問題 第42問
国試問題にチャレンジ
53歳の女性。朝からものが二重に見えることを主訴に来院した。意識は清明。右眼瞼下垂と右眼球運動障害とを認める。頭部単純MRIのT1強調像(A)とT2強調像(B)とを示す。 診断の確定に必要なのはどれか。

- a.生検
- b.筋電図
- c.血管造影
- d.ホルモン定量
- e.ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
同側の眼瞼下垂と眼球運動障害は動眼神経麻痺を示し、成人で急性に生じた場合は、IC-PC動脈瘤などの脳動脈瘤による圧迫をまず疑います。動眼神経の表層には瞳孔を支配する副交感神経線維が走るため、圧迫性の麻痺では瞳孔散大を伴いやすく、糖尿病などの虚血性の麻痺では瞳孔が保たれやすい点が鑑別の手がかりになります。MRIで円形病変の内部にflow voidを認めれば血管性病変を示唆し、確定診断と治療計画には瘤の形状やネック、親血管との関係を精密に描出できる脳血管造影が標準です。動脈瘤が疑われる病変への生検は致命的な出血を招くため禁忌であり、筋電図やホルモン定量、PETは診断確定に役立ちません。圧迫症状を伴う未破裂動脈瘤は破裂リスクが高いとされるため、動眼神経麻痺を見たら動脈瘤を念頭に置いて速やかに精査する姿勢が臨床では欠かせません。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・53歳女性、朝からの複視(ものが二重に見える)。 ・意識清明、右眼瞼下垂と右眼球運動障害がある。 ・頭部単純MRIでは、トルコ鞍の周囲(鞍上部〜傍鞍部)の脳底部に、左右それぞれ境界明瞭な円形の腫瘤様病変を認め、右側(画像の向かって左)の方が大きい。病変内部には、血流が速いために信号が抜けて黒く見える無信号域(flow void)と、T1強調像で高信号を示す部分(血栓や乱流を反映)が混在し、信号が不均一である。
診断へのプロセス
眼瞼下垂と眼球運動障害が同側(右)にそろっていることから、右の動眼神経麻痺と考える。動眼神経は上眼瞼挙筋と、上直筋・下直筋・内側直筋・下斜筋を支配するため、麻痺すると眼瞼下垂と眼球の内転・上転・下転障害が起き、患眼は外下方に偏位して複視を生じる。 成人の急性の一側動眼神経麻痺では、まず内頸動脈−後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤などの脳動脈瘤による神経の圧迫を考えなければならない。動眼神経の表層を走る副交感神経線維が圧迫されやすいため、瞳孔散大(対光反射の減弱)を伴うことが多い点も特徴である(糖尿病などによる虚血性の動眼神経麻痺では瞳孔が保たれやすい)。 本例のMRIでは、動眼神経の通り道に近い傍鞍部に、flow voidを伴う円形病変が両側に存在し、内頸動脈の動脈瘤(一部血栓化を伴う大型動脈瘤)と考えられる。右側の動脈瘤が右動眼神経を圧迫して症状を起こしていると解釈できる。
設問の考え方
脳動脈瘤の確定診断と治療方針決定(瘤の部位・大きさ・形状、ネック(瘤の頸部)の幅、親動脈や分枝血管との関係、多発の有無)の評価には、脳血管造影が標準的な検査である。未破裂でも動眼神経麻痺など圧迫症状を伴う動脈瘤は増大や破裂の危険が高いと考えられ、速やかな精査と治療(開頭クリッピング術や血管内コイル塞栓術など)が求められる。
選択肢考察
- ×a. 生検
生検は腫瘍性病変の組織型を確定するために行う検査である。本例の病変はflow voidを伴う血管性病変(脳動脈瘤)であり、組織採取を試みれば瘤を穿刺して致命的な出血を招く危険がある。脳動脈瘤が疑われる病変に生検を行ってはならない。
- ×b. 筋電図
筋電図(反復刺激試験などを含む)は末梢神経障害・筋疾患や、眼瞼下垂・複視を来す重症筋無力症の評価に用いる。重症筋無力症の眼症状は日内変動や易疲労性を示し、瞳孔は障害されない。本例の症状は頭蓋内病変による動眼神経の圧迫で説明でき、筋電図は動脈瘤の診断確定に役立たない。
- ○c. 血管造影
脳血管造影は動脈瘤の存在・部位・大きさ・形状、ネックの幅、親動脈や周囲分枝との位置関係、多発の有無を詳細に示し、確定診断と治療法(クリッピングかコイル塞栓術か)の選択に不可欠である。近年はMRA(MR血管撮影)や3D-CTA(3次元CT血管撮影)の進歩で非侵襲的に動脈瘤の存在診断ができることも多いが、小さな病変や末梢部の評価、治療前の詳細な評価にはカテーテルによる血管造影(特に3D回転血管撮影)が最も精密な検査である。
- ×d. ホルモン定量
ホルモン定量は下垂体腺腫などの内分泌腫瘍や、hCGを産生する胚細胞腫瘍などで有用である。下垂体腺腫も傍鞍部に進展して動眼神経麻痺を起こすことはあるが、本例の病変は両側に分かれた円形病変でflow voidを伴い、血管性病変の像である。ホルモン定量では動脈瘤の診断は確定できない。
- ×e. ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉
PET(多くはFDG-PET)はブドウ糖代謝の亢進を指標に、悪性腫瘍の病期診断、転移・再発巣の検索などに用いる機能画像である。血管の形態を詳細に描出できないため、脳動脈瘤の診断確定や治療計画には使えない。
動眼神経麻痺の原因と鑑別
・圧迫性(瞳孔散大を伴いやすい):IC-PC動脈瘤、脳底動脈先端部動脈瘤、鉤ヘルニア、海綿静脈洞部の腫瘍や動脈瘤、下垂体卒中など ・虚血性(瞳孔が保たれやすい):糖尿病、高血圧などによる微小血管障害。数か月で自然回復することが多い。 ・その他:中脳梗塞(ウェーバー症候群:同側動眼神経麻痺+対側片麻痺)、トロサ・ハント症候群、外傷など 動眼神経の瞳孔を支配する副交感神経線維は神経の表層(背内側)を走るため、外からの圧迫で早期に障害される。これが「瞳孔散大を伴う動眼神経麻痺は動脈瘤を疑え」と言われる理由である。
脳動脈瘤の画像診断
・MRI:速い血流はflow voidとして無信号に描出される。血栓化した部分は時期によりT1・T2でさまざまな信号を示し、層状に見えることもある。 ・MRA、3D-CTA:非侵襲的なスクリーニングや経過観察に用いる。 ・脳血管造影(DSA:デジタルサブトラクション血管造影):最も詳細で、確定診断・治療計画の標準である。
未破裂脳動脈瘤の治療
大きさ(5〜7 mm以上)、症候性(脳神経圧迫症状など)、不整形・ブレブ(瘤の表面の小さな突出)の存在、後交通動脈や前交通動脈の部位などは破裂リスクが高いとされ、治療が検討される。治療法は開頭クリッピング術と血管内治療(コイル塞栓術、フローダイバーターなど)がある。
POINT
・眼瞼下垂+眼球運動障害(外下方偏位)=動眼神経麻痺。瞳孔散大を伴えば脳動脈瘤(特にIC-PC動脈瘤)による圧迫をまず疑う。 ・MRIでflow voidを伴う円形病変は動脈瘤を示唆する。 ・脳動脈瘤の確定診断と治療計画には脳血管造影が標準である。 ・動脈瘤を疑う病変への生検は禁忌である。
