眠れないのではなく「息ができない」―睡眠時無呼吸に睡眠薬が禁物な理由
第100回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
54歳の男性。日中の眠気を主訴に来院した。営業で日中は車を運転することが多く,週に1,2日は夜11時まで勤務する。毎日ビール500 ml缶を5缶飲む。元来健康で人一倍体力に自信があったが,最近身体がだるく,昼間の運転中によく居眠りしそうになる。妻から睡眠時いびきが大きく,時々息をしないことがあると言われている。身長165 cm,体重92 kg。脈拍84/分,整。血圧142/96 mmHg。血液生化学所見:空腹時血糖132 mg/dL,総コレステロール224 mg/dL,HDL-コレステロール38 mg/dL,トリグリセリド196 mg/dL,AST 37 IU/L,ALT 48 IU/L,γ-GTP 86 IU/L(基準8〜50)。安静時心電図は正常。 この患者への指導で適切でないのはどれか。
- a.ポリソムノグラフィ検査
- b.長時間運転の制限
- c.睡眠薬の内服
- d.体重の減量
- e.禁酒
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
いびき、睡眠中の無呼吸の目撃、日中の過度の眠気がそろい、肥満や多量飲酒を伴う場合は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群をまず疑います。対応の基本は、ポリソムノグラフィによる確定診断と重症度評価、居眠り運転による事故を防ぐための運転制限、減量や禁酒といった危険因子の是正です。一方、睡眠薬や鎮静薬は上気道の筋緊張と呼吸中枢の反応、低酸素に対する覚醒反応を低下させて無呼吸を悪化させるため、避けるべきです。中等症以上ではCPAPが標準治療であり、高血圧や糖尿病、心血管疾患の合併にも注意が必要です。「眠気=睡眠不足」と短絡せず、睡眠の質を損なう病態を見抜くことが、安全で適切な指導につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・54歳男性。日中の強い眠気、倦怠感があり、運転中に居眠りしそうになる。 ・妻から、睡眠中の大きないびきと、時々呼吸が止まることを指摘されている。 ・身長165cm、体重92kgで、BMIは約33.8(92÷1.65²)と高度の肥満である。 ・飲酒量は毎日ビール500mL缶を5缶で、純アルコールに換算すると約100g/日(2,500mL×5%×0.8)に達する多量飲酒である。 ・血圧142/96mmHg、空腹時血糖132mg/dL、HDLコレステロール38mg/dL、トリグリセリド196mg/dLと、高血圧・高血糖・脂質異常がそろい、メタボリックシンドロームを疑わせる。γ-GTPとALTの上昇は、飲酒や脂肪肝による肝障害を示唆する。
診断へのプロセス
「いびき」「睡眠中の無呼吸の目撃」「日中の過度の眠気」の三つがそろい、肥満・多量飲酒・中年男性という危険因子を持つことから、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)がまず疑われる。肥満では咽頭周囲に脂肪が沈着し、睡眠中に筋が弛緩すると上気道が狭くなって閉塞する。無呼吸のたびに低酸素と覚醒反応が繰り返されるため、熟睡できず日中に強い眠気が生じる。また交感神経の緊張が繰り返され、高血圧や耐糖能異常、心血管疾患を合併しやすい。
設問の考え方
「適切でないもの」を一つ選ぶ問題である。OSASの疑い例に対しては、①確定診断のための検査、②事故防止のための安全指導、③危険因子(肥満、飲酒)の是正が適切な対応となる。一方、上気道の筋緊張や呼吸中枢の働きを低下させて無呼吸を悪化させる対応は避けなければならない。睡眠薬の内服がこれにあたる。
選択肢考察
- ×a. ポリソムノグラフィ検査
適切である。ポリソムノグラフィ(終夜睡眠ポリグラフ検査、PSG)は、脳波・眼球運動・筋電図・口鼻の気流・胸腹部の呼吸運動・経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)・心電図などを一晩連続して記録する検査で、睡眠時無呼吸症候群の確定診断と重症度評価の標準検査である。無呼吸・低呼吸指数(AHI:睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数)を求め、閉塞性か中枢性かも区別できる。本例は強く疑われるため、まず実施すべき検査である。
- ×b. 長時間運転の制限
適切である。本例は業務で日常的に車を運転しており、すでに運転中に居眠りしそうになっている。睡眠時無呼吸症候群の患者は交通事故の危険が高いことが知られており、診断と治療によって眠気が改善するまでは、長時間の運転を控えるよう指導することは、本人と第三者の安全のために必要である。
- ○c. 睡眠薬の内服
適切でない。ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬は、上気道を広げておく筋(オトガイ舌筋など)の緊張を低下させ、さらに呼吸中枢の反応を鈍らせる。また無呼吸による低酸素に反応して起こる覚醒を遅らせるため、無呼吸の持続時間が延び、低酸素血症が悪化する。本例の日中の眠気は不眠ではなく、睡眠中の無呼吸で睡眠の質が損なわれていることによるものであり、睡眠薬では解決しないうえ、危険を増す。
- ×d. 体重の減量
適切である。肥満は閉塞性睡眠時無呼吸の最大の危険因子であり、咽頭周囲や舌の脂肪沈着が上気道を狭くする。減量により無呼吸の回数が減り、軽症例では改善が期待できる。加えて本例の高血圧、高血糖、脂質異常、脂肪肝の改善にもつながる。
- ×e. 禁酒
適切である。アルコールには上気道の筋緊張を低下させる作用と、覚醒反応を抑える作用があり、特に就寝前の飲酒はいびきと無呼吸を悪化させる。本例は約100g/日という多量飲酒で、γ-GTPとALTの上昇もあることから、肝障害の観点からも禁酒の指導が必要である。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の分類
・閉塞性(OSA):上気道の閉塞によるもので大部分を占める。呼吸努力(胸腹部の動き)はあるのに気流が止まる。 ・中枢性(CSA):呼吸中枢からの指令が途絶えるもので、呼吸努力そのものが消える。心不全に伴うCheyne-Stokes呼吸などでみられる。
定義と重症度
・無呼吸:口鼻の気流が10秒以上停止した状態。低呼吸:気流が一定以上低下し、SpO2の低下や覚醒反応を伴う状態。 ・AHI(無呼吸・低呼吸指数)で重症度を分ける:5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症。 ・日中の眠気などの症状を伴いAHIが5以上、または症状がなくてもAHIが15以上であれば閉塞性睡眠時無呼吸と診断する。
症状・合併症
・睡眠中:大きないびき、無呼吸の目撃、窒息感による覚醒、夜間頻尿。 ・日中:過度の眠気、起床時の頭痛、集中力低下、倦怠感。 ・合併症:高血圧(特に治療抵抗性高血圧)、不整脈(心房細動など)、虚血性心疾患、脳卒中、心不全、糖尿病、脂質異常症。交通事故・労働災害のリスクも高い。
治療
・生活習慣の改善:減量、禁酒(特に就寝前の飲酒を避ける)、禁煙、睡眠薬や鎮静薬の中止、側臥位での睡眠。 ・持続陽圧呼吸療法(CPAP):鼻マスクから一定の陽圧を送り、上気道を内側から広げて閉塞を防ぐ。中等症〜重症の標準治療である。 ・口腔内装置(マウスピース):下顎を前に出して気道を広げる。軽症〜中等症に用いる。 ・外科治療:扁桃肥大やアデノイド肥大など解剖学的な原因が明らかな場合に考慮する(小児ではアデノイド・扁桃摘出術が第一選択)。
評価方法
・簡易検査(携帯型の睡眠モニター)で気流とSpO2を自宅で測定してスクリーニングし、ポリソムノグラフィで確定する流れが一般的である。 ・日中の眠気の評価にはEpworth眠気尺度(ESS)が用いられる。
POINT
・いびき+無呼吸の目撃+日中の過度の眠気+肥満 → 閉塞性睡眠時無呼吸症候群を疑う。 ・確定診断はポリソムノグラフィ(AHIで重症度を評価)。 ・睡眠薬・鎮静薬と飲酒は上気道の筋緊張と覚醒反応を低下させ、無呼吸を悪化させるので避ける。 ・治療は減量・禁酒などの生活指導とCPAPが中心。 ・居眠り運転による事故の危険があり、運転の制限を指導する。 ・高血圧、糖尿病、脂質異常症、心血管疾患の合併が多い。
