心静止に電気は効かない―静脈路を取ったら迷わずアドレナリン
第100回医師国家試験 D問題 第18問
国試問題にチャレンジ
58歳の男性。会議で発言中に突然倒れ,救急車で搬入された。同僚が心肺蘇生を施行したが,7分後救急隊到着時には心肺停止状態(心電図は心室細動)であった。救急救命士によって除細動(200ジュール,1回)されたがモニターでは心静止であった。ラリンゲアルマスクで気道確保され,バッグによる人工呼吸と心臓マッサージとを施行され,用手換気で良好な胸郭の動きが確認される。心電図モニターでは心静止である。右前腕静脈に静脈路を確保した。 この時点で標準的に用いられるのはどれか。
- a.リドカイン
- b.アドレナリン
- c.プロカインアミド
- d.ノルアドレナリン
- e.イソプロテレノール
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
心停止の心電図波形は、電気ショックの適応となる心室細動・無脈性心室頻拍と、適応とならない心静止・PEAに分けて対応します。心静止では電気ショックは行わず、質の高い胸骨圧迫と人工呼吸を続けながら、静脈路・骨髄路が確保でき次第アドレナリン1mgを投与し、3〜5分ごとに繰り返すのが標準です。アドレナリンはα1作用で拡張期圧を上げ、冠灌流圧・脳灌流圧を高めることで自己心拍再開に寄与します。リドカインなどの抗不整脈薬は難治性VF/VTの薬で、ノルアドレナリンやイソプロテレノールは心停止中の標準薬ではありません。治療可能な原因の検索や、アトロピン・バソプレシンが推奨から外れた経緯も含めて押さえておくことが、ガイドラインに沿った蘇生を実践する基盤になります。
解答・解説
正解はbです
経過の整理
・58歳男性が会議中に突然倒れた。目撃のある突然の心停止であり、中年男性であることから、急性冠症候群などを背景とした致死性不整脈による心臓突然死がまず考えられる。 ・同僚による心肺蘇生(CPR)が行われ、7分後に救急隊が到着した時点の心電図は心室細動(VF)であった。 ・電気的除細動が1回行われたが、その後のモニターは心静止(asystole:心電図が平坦で電気的活動がない状態)となった。 ・ラリンゲアルマスク(声門上気道デバイス)で気道が確保され、換気で胸郭が良好に上がることから換気は有効である。胸骨圧迫も継続されている。 ・静脈路が確保された。
二次救命処置(ALS)での判断
心停止の心電図波形は、電気ショックの適応となる「ショック適応リズム」(心室細動、無脈性心室頻拍)と、適応とならない「ショック非適応リズム」(心静止、無脈性電気活動〈PEA〉)に分けられる。本例は除細動後に心静止へ移行しており、現時点ではショック非適応リズムである。心静止に電気ショックを行っても効果はなく、質の高い胸骨圧迫と人工呼吸を中断せずに続けながら、静脈路(または骨髄路)が確保でき次第、できるだけ早くアドレナリンを投与するのが標準的な手順である。あわせて、心停止の原因のうち治療可能なもの(低酸素、循環血液量減少、高・低カリウム血症、アシドーシス、低体温、緊張性気胸、心タンポナーデ、中毒、冠動脈や肺動脈の血栓など)を検索し、対処する。
設問の考え方
状況説明は長いが、問われているのは「静脈路が確保された心静止の患者に、標準的に投与する薬剤は何か」という一点である。心停止の波形にかかわらず、蘇生で中心となる血管収縮薬はアドレナリンである。
選択肢考察
- ×a. リドカイン
リドカインはNaチャネル遮断作用を持つ抗不整脈薬(Vaughan Williams分類Ib群)である。心停止の治療では、電気ショックを繰り返しても停止しない心室細動・無脈性心室頻拍(難治性VF/VT)に対して、アミオダロンの代わりとして用いられることがある。心静止には電気的な興奮そのものがなく、抗不整脈薬で抑える対象がないため、適応はない。
- ○b. アドレナリン
アドレナリンはα受容体とβ受容体の両方を刺激する。心停止時に重要なのはα1作用による末梢血管の収縮で、これにより大動脈の拡張期圧が上がり、胸骨圧迫中の冠灌流圧と脳灌流圧が高まって自己心拍再開(ROSC)の可能性が上がる。β1作用による心筋収縮力や自動能の増強も加わる。心静止・PEAでは静脈路確保後すみやかに1mgを静注し、以後3〜5分ごとに繰り返し投与する。心室細動・無脈性心室頻拍でも、電気ショックで停止しない場合に投与する。
- ×c. プロカインアミド
プロカインアミドはNaチャネル遮断薬(Ia群)で、脈拍のある心室頻拍や心房細動などの頻脈性不整脈に用いられる。血管拡張や陰性変力作用により血圧を下げることがあり、心停止の蘇生薬として標準的に用いる薬剤ではない。心静止にも適応はない。
- ×d. ノルアドレナリン
ノルアドレナリンはα1作用が強く、β1作用も持つ昇圧薬で、敗血症性ショックなどで血管が拡張し血圧が保てないときに持続静注で用いる。自己心拍が再開した後の低血圧に使うことはあるが、心停止中の蘇生薬としては標準的に用いられない。
- ×e. イソプロテレノール
イソプロテレノールはβ1・β2受容体を刺激する薬剤で、α作用を持たない。脈拍のある徐脈(房室ブロックなど)で心拍数を増やす目的に用いられることがある。しかしβ2作用で末梢血管を拡張させ拡張期圧を下げてしまうため、冠灌流圧を保つことが必要な心停止の蘇生には適さず、心静止の標準治療薬ではない。
成人の心停止アルゴリズム(ALS)の要点
・質の高い胸骨圧迫:胸骨の下半分を、深さ約5cm(6cmを超えない)、1分間に100〜120回のテンポで、中断を最小限にして行う。圧迫のたびに胸壁を元の位置に戻す。 ・約2分ごとに心電図波形を確認し、ショック適応かどうかを判断する。
ショック適応リズム(VF/無脈性VT)
・電気ショックを1回行ったら、波形確認をせずにただちに胸骨圧迫から再開する。 ・電気ショックで停止しなければアドレナリン1mgを投与し、以後3〜5分ごとに繰り返す。 ・それでも停止しない難治性VF/VTには、アミオダロン(またはリドカイン、ニフェカラント)などの抗不整脈薬を考慮する。
ショック非適応リズム(心静止/PEA)
・電気ショックは行わない。 ・静脈路・骨髄路が確保でき次第、アドレナリン1mgをすみやかに投与し、3〜5分ごとに繰り返す。 ・原因検索と治療が重要である。心静止では、モニターの電極外れや感度設定の誤りによる見かけ上の平坦波形でないかも確認する。 ・心静止は蘇生の成功率が低く、予後不良の波形である。
かつての治療との違い
・かつては心静止に対してアトロピンの投与が推奨されていたが、有効性が示されず、2010年のガイドラインから定型的な使用は推奨されなくなった。 ・バソプレシンもかつてはアドレナリンの代わりとして用いられることがあったが、上乗せ効果がないことから、2015年のガイドラインで推奨から外れた。 ・また以前は電気ショックを3回連続で行う方法がとられていたが、現在は1回ショックの後ただちに胸骨圧迫を再開する方法に変わっている。
薬剤の投与経路
・第一選択は静脈路で、確保できなければ骨髄路を用いる。末梢静脈から投与した場合は、20mL程度の輸液で後押しし、腕を挙上して薬剤を中心循環へ送る。
POINT
・心停止の波形は、ショック適応(VF/無脈性VT)と非適応(心静止/PEA)に分けて対応する。 ・心静止・PEAに電気ショックは行わない。胸骨圧迫を続け、静脈路確保後すぐにアドレナリン1mgを投与し、3〜5分ごとに繰り返す。 ・アドレナリンのα1作用による血管収縮が、胸骨圧迫中の冠灌流圧・脳灌流圧を高める。 ・リドカインやアミオダロンは難治性VF/VTに用いる薬で、心静止には使わない。 ・治療可能な原因(低酸素、循環血液量減少、電解質異常、低体温、緊張性気胸、心タンポナーデ、中毒、血栓)を検索する。
