StudyMed医師国家試験

食道に止まったボタン電池は「時限装置」―数時間で進むアルカリ損傷と内視鏡摘出

第100回医師国家試験 D問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第100回 D問題 第19問

2歳の男児。ボタン型電池を誤飲し来院した。頸胸部エックス線単純写真で食道入口部に電池が停留しているのを確認した。 適切な処置はどれか。

  1. a.経鼻栄養チューブ挿入
  2. b.内視鏡下摘出
  3. c.頸部切開手術
  4. d.気管切開術
  5. e.経過観察

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は小児の誤飲、それもボタン型電池が食道に引っかかった場面での対応を問う問題だ。着眼点は「何を飲んだか」と「どこにあるか」の2つ。同じ異物でも、この組み合わせで緊急度がまったく変わるんだ。
医学生医学生
小児の誤飲は多くが便に出てくると聞いたので、様子を見てもいい気がしてしまいます。
ドクタードクター
その感覚は、胃より先に進んだ小さな異物なら一部当てはまる。でもボタン型電池が食道にある場合は話が別だ。なぜ電池だと危険なのか、考えてみよう。
医学生医学生
電池の中身が漏れて、薬品でやけどするからでしょうか。
ドクタードクター
それも機序の一つだけれど、主役は放電なんだ。湿った食道粘膜に電池が接すると粘膜を介して電流が流れ、陰極側で水酸化物イオンが生じて局所が強アルカリになる。アルカリは組織を溶かすように壊す液化壊死を起こすから、深くまで損傷が進みやすい。
医学生医学生
病理の講義で、酸は凝固壊死、アルカリは液化壊死と習いました。アルカリのほうが深く進むんでしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。特にリチウムコイン電池は電圧が高く径も大きいので食道に止まりやすく、接触後わずか2時間程度で粘膜障害が始まるとされる。放置すれば食道潰瘍、穿孔、縦隔炎、気管食道瘻、さらには大動脈食道瘻による致死的な大出血にまで進みうる。そこに圧迫壊死も加わる。
医学生医学生
だから「見つけたらすぐ取る」異物なんですね。取り方は内視鏡ですか。
ドクタードクター
正解。内視鏡下摘出が第一選択だ。直視下に鉗子や回収ネットで電池をつかんで安全に取り出せるうえ、同時に粘膜損傷の程度も評価できる。小児では体動による損傷や誤嚥を防ぐため、全身麻酔下で気管挿管して気道を守ってから行うのが一般的だよ。
医学生医学生
頸部切開手術で確実に取る、という選択肢はどうでしょう。食道入口部なら首からアプローチできそうですが。
ドクタードクター
確実そうに見えるけれど、侵襲が大きすぎる。頸部食道切開は、内視鏡でどうしても取れない場合や、すでに穿孔や膿瘍を作っている場合に限って考える手段だ。まずは低侵襲で確実な内視鏡が先。
医学生医学生
気管切開は、食道入口部が気管のすぐ後ろなので気道が圧迫されるかもしれない、という発想ですか。
ドクタードクター
解剖を意識しているのはいいね。ただ気管切開は上気道閉塞に対する気道確保の手段で、この症例では呼吸困難や喘鳴のような気道閉塞を示す所見は示されていない。内視鏡のために気道確保が必要でも、通常は気管挿管で対応する。
医学生医学生
経鼻栄養チューブは、食べられなくなったときの栄養確保ですよね。
ドクタードクター
そう、電池を取り除く処置ではないから治療にならない。電池があるところに盲目的にチューブを入れると、電池をずらしたり損傷部を傷つけたりするおそれもある。摘出後に高度の粘膜損傷がわかって経口摂取を控える必要があるときに、補助的に検討するものだ。そして経過観察は、食道内の電池では行ってはならない対応だね。
医学生医学生
整理すると、ボタン電池で食道内なら、全身麻酔下で緊急に内視鏡で取る。ほかの選択肢は、取らないか、侵襲が過大か、適応がないか、ということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として画像も押さえておこう。食道異物は生理的狭窄部、つまり食道入口部、大動脈弓と左主気管支の交差部、食道裂孔部に引っかかりやすく、なかでも入口部が最多だ。ボタン電池は正面像で辺縁が二重に見えるダブルリングサイン、側面像で段差のある輪郭を示すのが、硬貨との見分け方になる。
医学生医学生
小児科の実習で、硬貨誤飲の子のX線を見せてもらいました。電池と取り違えると危ないですね。
ドクタードクター
だからこそ「硬貨だろう」で済ませず、縁をよく見ることが大切なんだ。もう一つ臨床で注意したいのは、摘出して終わりではないこと。気管食道瘻や大動脈食道瘻、食道狭窄、反回神経麻痺は、摘出後数日から数週して現れることがある。損傷の程度に応じて絶食や経過観察を行い、遅れて出る合併症を見逃さないフォローが必要だ。
医学生医学生
胃まで落ちていた場合は、どう対応するんですか。
ドクタードクター
無症状なら経過観察とすることもあるけれど、年少児、大きな電池、症状がある場合などは摘出を考慮する。腸まで進んでいれば通常は自然排出を待つ。それから、磁石の複数個誤飲や針・PTPシートのような鋭利な異物も、積極的な摘出を要する異物として覚えておこう。

まとめ

ボタン型電池は食道異物の中で最も緊急性が高く、湿った粘膜を介した放電で陰極側に水酸化物イオンが生じ、アルカリによる液化壊死が数時間単位で進行します。食道に停留している場合は、小児では全身麻酔下での緊急内視鏡下摘出が第一選択で、経過観察は危険であり、頸部切開は内視鏡で摘出できない例や穿孔例に限られ、気管切開や経鼻栄養チューブは電池の除去にならないため適応ではありません。X線ではダブルリングサインで硬貨と見分け、摘出後も気管食道瘻・大動脈食道瘻・狭窄など遅発性合併症に注意してフォローします。異物の種類と停留部位の組み合わせで緊急度を判断する考え方は、小児救急の現場で迷わず動くための基本となります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

2歳児がボタン型電池を誤飲し、頸胸部エックス線単純写真で電池が食道入口部に停留していることが確認されている。呼吸困難や喘鳴など気道閉塞を示す記載はなく、問題は「食道に引っかかった電池をどう扱うか」に絞られる。

なぜ緊急性が高いのか

食道異物の多くは硬貨や玩具の部品などで、状態が安定していれば数時間〜半日程度で待機的に摘出を計画することもある。しかしボタン型電池は例外である。食道粘膜に接触した電池は、湿った粘膜を介して電流が流れ、陰極側で水酸化物イオンが生じて局所が強アルカリになる。その結果、液化壊死(アルカリによって組織が溶けるように壊れる変化)が起こり、特にリチウムコイン電池(直径20mm前後、電圧3V)では接触後わずか2時間程度で粘膜障害が始まるとされる。放置すると食道潰瘍、食道穿孔、縦隔炎、気管食道瘻、さらには大動脈食道瘻による致死的大出血に進展しうる。電池内容物の漏出による化学損傷や圧迫壊死も加わる。

設問への考え方

したがって食道内に停留したボタン型電池は「見つけ次第、できるだけ早く(目安として数時間以内に)取り出す」べき異物であり、第一選択は内視鏡による摘出である。小児では体動による損傷や誤嚥を防ぐため、全身麻酔下(気管挿管で気道を確保したうえ)で行うのが一般的である。摘出後は内視鏡で粘膜損傷の程度を評価し、損傷の程度に応じて絶食・経過観察や、晩期合併症(瘻孔形成・狭窄)の監視を行う。

選択肢考察

  1. ×a.  経鼻栄養チューブ挿入

    電池を取り除く処置ではなく、治療にならない。電池が食道入口部にある状態でチューブを盲目的に挿入すると、電池をずらしたり損傷部を傷つけたりするおそれもある。経鼻栄養チューブは、摘出後に高度の粘膜損傷が判明し、経口摂取を一定期間控える必要がある場合などに検討される補助的手段である。

  2. ○b.  内視鏡下摘出

    食道に停留したボタン型電池は、放電によるアルカリ性化学損傷が短時間で進行するため、緊急での除去が必要である。内視鏡を用いれば直視下に電池を把持(鉗子やバスケット鉗子、回収ネットなど)して安全に取り出せ、同時に粘膜損傷の程度も観察できる。小児では全身麻酔下で行うのが安全かつ確実であり、本症例で最も適切な処置である。

  3. ×c.  頸部切開手術

    頸部切開による食道切開・異物摘出は侵襲が大きく、第一選択ではない。内視鏡で摘出できない場合や、すでに食道穿孔・膿瘍形成などの合併症を来している場合に限って考慮される手技である。まずは低侵襲で確実な内視鏡下摘出を行う。

  4. ×d.  気管切開術

    気管切開は上気道閉塞に対する気道確保の手段である。本症例では呼吸困難など気道閉塞を示す所見は示されておらず、適応はない。仮に内視鏡時に気道確保が必要でも、通常は気管挿管で対応する。

  5. ×e.  経過観察

    食道に停留したボタン型電池を放置すると、数時間単位で粘膜の壊死が進み、食道穿孔、縦隔炎、気管食道瘻、大動脈食道瘻などの重篤な合併症を招く。自然に胃へ落ちるのを待つ対応は危険であり、行ってはならない。なお、胃より先に進んだ電池では症状がなければ経過観察を選ぶこともあるが、食道内停留では適用されない。

小児の消化管異物の考え方

誤飲は生後6か月〜3歳頃に多い。異物が食道の生理的狭窄部(食道入口部、大動脈弓・左主気管支交差部、食道裂孔部)に引っかかりやすく、なかでも食道入口部が最多である。

ボタン型電池の特徴

・画像:正面像で辺縁が二重に見える「ダブルリング(ハロー)サイン」、側面像で段差のある輪郭を示し、硬貨との鑑別点となる。 ・障害機序:①放電による陰極側の水酸化物イオン産生(アルカリ性化学損傷)が主体、②内容物の漏出、③圧迫壊死。 ・危険度:リチウムコイン電池は電圧が高く大型で、食道に停留しやすく最も危険である。 ・合併症:食道潰瘍・穿孔、縦隔炎、気管食道瘻、大動脈食道瘻(遅れて大出血を来すことがある)、食道狭窄、反回神経麻痺など。摘出後数日〜数週して生じることもあるため、摘出後のフォローが必要である。

部位別の対応の目安

・食道内:緊急で内視鏡下摘出。 ・胃内:無症状であれば経過観察とすることもあるが、年少児、大きな電池、症状がある場合などは摘出を考慮する。 ・腸管へ移動:通常は自然排出を待ち、腹部症状が出れば精査する。

他の注意すべき異物

磁石の複数個誤飲(腸管を挟んで穿孔・瘻孔を作る)、鋭利な異物(針・PTPシート)なども積極的な摘出を要する。

POINT

・ボタン型電池は食道異物の中で最も緊急性が高く、放電によるアルカリ性化学損傷が数時間で進行する。 ・食道内に停留していれば、全身麻酔下での緊急内視鏡的摘出が第一選択。 ・経過観察は禁忌的対応。外科的手術は内視鏡で摘出不能・穿孔例に限る。 ・エックス線でのダブルリングサインで硬貨と区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。