拍動する眼球と「ザーザー」という耳鳴り―内頸動脈海綿静脈洞瘻の症候を解剖から理解する
第100回医師国家試験 B問題 第49問
国試問題にチャレンジ
内頸動脈海綿静脈洞瘻でみられるのはどれか。
- a.縮瞳
- b.眼球突出
- c.視力低下
- d.角膜潰瘍
- e.視野障害
対話形式の解説
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ドクターまとめ
内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)は、海綿静脈洞内の内頸動脈またはその硬膜枝と静脈洞との間に短絡ができ、高圧の動脈血が流れ込む病態です。静脈洞圧の上昇で上・下眼静脈の血流が逆流・うっ滞するため、拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫、眼窩部の血管雑音(拍動性耳鳴)が三主徴となり、本問では眼球突出が答えになります。洞の内部や壁を走る動眼・滑車・外転神経の障害による複視も多く、視力低下や視野障害は眼圧上昇などによる二次的な合併症として生じうる一方、縮瞳や角膜潰瘍は特徴的な所見ではありません。外傷後の若年者に多い直接型と、中高年女性に多い間接型(硬膜動静脈瘻)があり、診断は脳血管造影、治療は血管内治療が第一選択です。海綿静脈洞の解剖と血行動態から症候を導く考え方は、海綿静脈洞症候群など周辺疾患の理解にもつながります。
解答・解説
正解はbです
内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)は、海綿静脈洞の中を走る内頸動脈(またはその硬膜枝)と海綿静脈洞との間に異常な短絡(瘻孔)ができ、動脈血が高い圧のまま静脈洞に流れ込む病態である。 海綿静脈洞には、眼の静脈血を運ぶ上眼静脈・下眼静脈が注いでいる。瘻孔ができると静脈洞の圧が上がり、眼静脈の血液が逆流・うっ滞する。その結果、眼窩内の組織がむくんで眼球が前に押し出され(眼球突出)、結膜の血管が拡張・浮腫を起こす。動脈血が狭い瘻孔を勢いよく流れるため、心拍に一致した雑音(血管雑音)が生じ、患者自身も「ザーザー」という拍動性の耳鳴りとして自覚する。 このため、拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫、眼窩部の血管雑音が三主徴とされる。そのほか、海綿静脈洞の中や壁を走る動眼神経(III)・滑車神経(IV)・外転神経(VI)が障害されて眼球運動障害や複視が起こる。 選択肢のうち視力低下や視野障害も、重症例や長く続く例で二次的に起こることがある。しかし、本症に必ずといってよいほどみられ、病態に直結する代表的な症候は眼球突出である。単一の正解を選ぶ本問では、特徴的な主徴である眼球突出を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 縮瞳
縮瞳は、瞳孔を広げる交感神経の障害(ホルネル症候群など)や、副交感神経を刺激する薬物、橋出血などでみられる所見であり、CCFの特徴ではない。海綿静脈洞内の内頸動脈周囲には交感神経線維も走っているため理論上は障害されうるが、典型的な所見ではない。むしろ瞳孔を収縮させる副交感神経線維を含む動眼神経が障害されると、散瞳を起こしうる。
- ○b. 眼球突出
瘻孔から流れ込んだ動脈血によって海綿静脈洞の圧が上がり、そこへ注ぐ眼静脈の血流が逆流・うっ滞する。眼窩内の静脈がふくらみ、組織がむくむため、眼球が前方に押し出される。心拍に合わせて拍動する「拍動性眼球突出」となるのが特徴で、結膜の充血・浮腫、血管雑音とともに三主徴を構成する。
- ×c. 視力低下
眼静脈のうっ滞により眼圧が上がる(二次性緑内障)ことや、網膜の静脈うっ滞・視神経の循環障害によって、視力低下が起こることはある。重症例では失明に至ることもあり、治療を急ぐ理由の一つとなる。ただし、これは二次的な合併症であり、本症の主徴として問われる代表的な所見は眼球突出である。
- ×d. 角膜潰瘍
角膜潰瘍は、顔面神経麻痺で瞼が閉じられず角膜が乾く場合(兎眼性角膜炎)や、三叉神経第1枝(眼神経)の障害で角膜の知覚が失われる場合(神経麻痺性角膜炎)、感染性角膜炎などで起こる。CCFの特徴的な所見ではない。高度の眼球突出で瞼が閉じにくくなれば角膜が露出して傷むこともありうるが、あくまでまれな二次的変化である。
- ×e. 視野障害
眼圧上昇や視神経の循環障害が続けば、視野障害を起こすことはある。しかし、これも二次的な合併症であり、特徴的な主徴ではない。なお、下垂体腺腫などによる視交叉の圧迫で生じる両耳側半盲とは機序が異なる。
海綿静脈洞の解剖
海綿静脈洞はトルコ鞍の両側にある静脈の通り道で、上眼静脈・下眼静脈から血液を受け、上錐体静脈洞・下錐体静脈洞などを通じて排出する。洞の中を内頸動脈と外転神経(VI)が走り、外側の壁の中を上から動眼神経(III)、滑車神経(IV)、三叉神経第1枝(V1)・第2枝(V2)が走る。このため、海綿静脈洞の病変では複数の眼球運動神経の麻痺や顔面上部の感覚障害が起こりうる。なかでも洞の中を走る外転神経は障害されやすい。
CCFの分類
1. 直接型(高流量型):内頸動脈そのものと海綿静脈洞が直接つながる。多くは頭部外傷(頭蓋底骨折)が原因で、ほかに海綿静脈洞部の内頸動脈瘤の破裂などで起こる。若年男性に多く、症状が急速に進み強い。 2. 間接型(硬膜動静脈瘻、低流量型):内頸動脈や外頸動脈の硬膜枝と海綿静脈洞がつながる。中高年女性に多く、自然に発生する。症状は比較的軽く、ゆっくり進行し、結膜充血が「結膜炎」と誤診されることもある。
症候
・三主徴:拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫、眼窩部の血管雑音(拍動性耳鳴) ・眼球運動障害・複視(III・IV・VI神経障害、特に外転神経麻痺) ・眼圧上昇、視力低下、視野障害(重症例・二次的) ・流出路が皮質静脈へ向かう場合は、脳出血や静脈性梗塞の危険がある。
診断・治療
確定診断には脳血管造影(カテーテルによる血管撮影)を行う。CTやMRIで上眼静脈の拡張、海綿静脈洞の拡大がみられる。治療は、カテーテルを用いた血管内治療(コイルなどによる瘻孔や静脈洞の閉塞)が第一選択である。低流量型では、頸部の用手圧迫で自然閉鎖を促すこともある。
POINT
・CCFの三主徴は、拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫、血管雑音(拍動性耳鳴)である。 ・機序は、海綿静脈洞の圧上昇による眼静脈のうっ滞である。 ・III・IV・VI神経障害で眼球運動障害・複視を伴う(特に外転神経麻痺)。 ・視力低下・視野障害は眼圧上昇などによる二次的な合併症である。 ・直接型は外傷後の若年者、間接型(硬膜動静脈瘻)は中高年女性に多い。 ・治療は血管内治療が第一選択である。
